大国ジュネルバ1
シュネルバの正門に辿り着いたコウヤ達を出迎えたのは大量の武装した警備兵達であった。
戦闘を覚悟する一行の前に警備兵を掻き分けで身なりの整った小太りの男が姿を現した。警備兵達が男に敬礼をする。
テレパスを使いコウヤが一気に襲い掛かろうと考えた時だった。
「コウヤさん、先ずは冷静に」と念話魔法を通してランタンの声がコウヤの頭の中に響いた。
目付きが鋭くなるのを目にしたランタンがコウヤを止めたのだ。頭の中に響いた声はコウヤに冷静さを取り戻させた。
一瞬の出来事であったが先に仕掛けていたならば、大義名分は失われ即戦闘になっていただろう。
コウヤが此処まで冷静さを欠く姿を見た事のなかったランタンはコウヤの心中を察した。
「もし、戦闘が始まったなら止めはしません、今は冷静になりなさい。コウヤ、貴方が皆を危険に晒すなど王として有るまじき事です」
諭すように優しくも厳しい言葉を口にするランタン。
「ありがとう……ランタン、僕が……その……ううん、頑張ってアイリを見つける。そして、皆でバライムに帰ろう」
コウヤの言葉に皆が頷いた。
その間にゆっくりと馬車へ向けて歩み寄る小太りの男。
先頭の馬車から後方の馬車に待機の指示をした後、コウヤとヴァルハーレン、ランタンの三名が馬車から降り男と話す事になった。
男は自分をジュネルバの大臣だと語る。
名前は、ロサ=マドック。
ジュネルバの王の命令で案内を任されたと口にするマドック。
「済まぬが! マドック殿、長居する気は儂等にはないのだ、コウヤの妹君、一人を捜しに来たのでな、寧ろ協力してもらえると助かるのだが」
不気味に笑みを作るヴァルハーレン。
マドックの服をグィッと引き寄せながらそう中腰で語るヴァルハーレンの眼は笑っていなかった。
「わかりました……一旦、王に確認し、コウヤ殿の妹君の行方を直ぐに捜しますので……しばしお待ちを!」
マドックは慌てふためき、その場を後にしようとした。
そんな、マドックを後ろから首元を掴み上げたヴァルハーレン。
「その前に入国は出来るのだろうな? どうなんだ!」
ヴァルハーレンはマドックの重たそうな肉体を軽々と持ち上げると自分と向き合うように顔を後ろに向かせ、真っ直ぐに顔を見ながらそう口にした。
その光景に慌てて助けに走しろうとする。警備兵達、その前方にテレパスで移動したランタンは大鎌を地面に滑らせるように線を描くと笑いながら鎌を肩にかけた。
「今、二人の王が貴方達の大切な大臣殿と話をしております、それに水を指すと言う事が何を意味する良くお考え下さい……其れを理解した上で線を越えるのならば構いません。此方もそのつもりで行動いたしますので……ヨホホホ」
警備兵が悔しそうな表情を浮かべる最中、兵士の後ろから「はいはい、ちょいとゴメンね」軍服姿に派手な上着を肩にかけた、20代前半くらいの男が緩やかな足取りでランタンの描いた線を越えたのだ。
「此れで話し合いに参加できる訳ですかね?」
そう口にした男は、いきなりその場で敬礼をすると耳を塞ぎたくなるような大声で喋りだした。
「此度のジュネルバ訪問! 誠に嬉しく思う。皆様の入国を心から喜び申し上げる。と王からの言伝てであります」
そう語ると男は線の外に下がっていく。
入国の許可が与えられた事を聞き、マドックをゆっくりと下に降ろすヴァルハーレン。マドックは慌てて男の方に走っていった。
警備兵が道をあける中、軍服の男はニッコリと笑いながらコウヤの顔を見ていた。
「やっとだ、このチャンスを逃す手はない」
人知れずそう語る軍服の男は誰よりもコウヤ達の訪問を嬉しそうにみていた。
15台の馬車から合わせて20名が入国を許される事になった。
それに異議を唱えるヴァルハーレンであったがジュネルバ側から国民への配慮だと説明された。
ヴァルハーレンは其れを部下達に伝えると中から選りすぐりの戦士を11名選出した。
20名の異国人が正門から入ってくる姿にジュネルバの国民は怯えていた。
大国ジュネルバ国内に初めて客人として亜人種が足を踏み入れた瞬間であった。




