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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第二部 魔界偏 新に掴むべきもの
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ジュレム大陸上陸目指すはジュネルバ3

 戦闘を終えたばかりの鉄の臭いが生々しく漂う草むら、雲が月に掛かり辺りが一瞬の闇に包まれた瞬間、目の前から姿を現したのは剣を片手に持ち、瀕死の傷を負った人間の兵士であった。


「ヨホホホ、まだ甘いですよ。ミーナさん囲うなら範囲を更に広くしないと取りこぼしが数名いましたからね」


 聞き覚えのある独特な笑い方とゆっくりとした喋り口調に皆は視線の正体が誰であるかを直ぐに理解した。


「皆様、お元気そうで何よりです。まさか、ジュレムの地で再会するとは思いませんでしたよ。コウヤさん、一国の王が軽はずみな行動を取るのは余り感心できかねます」


「パンプキン、ゴメン。でも僕の大切な家族なんだ……アイリの話を聞いたら、我慢できなかったんだ」


 ランタンに対して申し訳ない気持ちと譲れない思いがコウヤの中で葛藤する最中、異変に気付いきヴァルハーレン達が一行の元に向かってきていた。


「いけない! 皆がこの光景を見たら……きっとジュネルバに攻撃しちゃう!」


 アイリを捜す前に戦闘になる。其だけは避けねば為らないと焦るコウヤ。


「ハァ、仕方ありませんね……余り食べ物を与えると怠け癖がついてしまうのですが致し方ありません! 大食いのポケット(グラットンポケット)


 ランタンのポケットに次々に人間だった物が吸い込まれていった。辺りには戦闘で飛び散った血と残り香と言うには余りに確りとした血生臭さだけが残されていた。


 駆け付けたヴァルハーレン達はランタンを見て直ぐに手にしていた武器を構えた。


「キサマは何者か、ただならぬその雰囲気、敵で在るならば、相手になろうぞ!」


 いきなりのヴァルハーレンの言葉にランタンも即座にポケットから、大鎌(デスサイズ)を取りだし、肩に添える。


「ヨホホホ、どちら様ですかね、まあ、私は構いませんよ? 出来れば避けたいですがね、なんせ余り血の臭いが付き過ぎると目立ちますからね……」


 ランタンの言葉にヴァルハーレンの表情が更に殺気だった物に変わる。互いに得物を構える素振りをする。


「そこまで! パンプキンもヴァルハーレンもストップ!」


 二人の間に入り戦闘になる前にコウヤが止めに入る。互いに武器を持ったまま、コウヤを見詰めるその眼は、まるで豆鉄砲を食らった鳥のようであった。


 互いが敵でないとコウヤが説明すると先に武器を下ろしたのはヴァルハーレンであった。


「コウヤの友とは知らず失礼した。辺りに立ち込める血の臭いと、ただならぬ御主の雰囲気にコウヤの危機と勘違いをした。許されよ」


 深々と頭を下げるヴァルハーレン。


「頭を上げて下さい、私もまさか、ヴァイキングの王として名高いヴァルハーレン王がコウヤさんと同行してるとは夢にも思いませんでしたからね、失礼を御詫び致します」


「儂もだ、まさかバライムのジャック王がコウヤの友と聞いて驚きましたぞ。誠にコウヤには驚かされるばかりだ、どうかヴァルハーレンと呼んでくれ、コウヤもさっきみたいに此れからはヴァルハーレンで構わないからな」


 互いに気を使い会話をする姿は先程まで武器を手に殺気を放っていた事が全て嘘であったかのようにすら感じさせる光景であった。

 其処からはランタンも行動を共にする事になった。実際に隠れて捜すより堂々と正面から捜した方が見つかるだろうと言うヴァルハーレンの言葉によるものであり、一行にランタンと言う頼もしい戦力が加わる事になった。


 しかし、ランタンの同行を一番望んだのはコウヤであった。


ーー僕は、最低だ……ランタン(パンプキン)、ゴメン……でも……もう戻れないんだ……


 コウヤはアイリが生きているかが不安で耐えられなかった。

 アイリがもし……ジュネルバで死んでいたなら、コウヤ自身は怒りに駆られ自分を止めることが叶わないと考えていた。


 コウヤは最悪の事態を考えていた。ジュネルバに近付けば近付く程に膨れ上がる不安、その思いに押し潰されそうな心を必死に精神で縛り付け、平常心を装い自分を偽りながらの数日を過ごしていたのだ。


ーー僕は最低だ……今も皆に作った笑顔を向けているんだ……クッ……いつからだろう……ソウマ……母さん、お願いだからアイリを護って……お願いだから


「……ウヤ? コウヤってば!」


「え?」


 横からコウヤを呼ぶミーナの声に反応が遅れる姿を見て皆が心配そうにコウヤを見詰めていた。


「あ、ゴメン……考え事してた……」


 素直にそう口にすると皆が優しく微笑んだ。


「なぁに、仕方無かろう! 久しく会っていない妹を真に心配すれば、そうなるのは道理じゃ」


「そうやも知れませんね、実際にコウヤさんの抱える思いは辛い物であり、心から思えばこその苦悩です。謝る必要はありませんよ」


 ヴァルハーレンとランタンの言葉が馬車に乗る皆の耳に響いた時、ついにジュネルバが一行の前に姿を現したのだ。


 人間の大国を前にアイリの無事を祈りつつ、馬車はジュネルバの正門に向けて直走(ひたはし)るのであった。

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