因縁×運命×ディノスの名を継ぐ者アルディオ
少し気分が悪くやるような内容が含まれています。
※ご飯前にオススメ出来ません。
互いの顔を見詰め合うコウヤとロナ、そして本陣への奇襲を目の当たりにしたアグラクト兵と奇襲を掛けた島人、紅眼、互いに言葉を語ることなく流れる沈黙。
風すらもその沈黙に晒されたかのように吹き止み、無音の静けさに包まれる。
そんな双方が緊張にも似た沈黙に身を委ねる中で其れを先に破ったのはアグラクトであった。
アグラクト兵には待機命令を出されており、自分達から攻撃を仕掛ける事を隊長騎士から禁止されていた。しかし、その命令を不服と感じる者も少なくなかった。
この命令に従わないとした者達が味方の兵を唆し独断でダルメリアへと進軍を開始したのだ。
しかし、その結果は全滅である。
地の利もなく、只闇雲に数で勝負をつけようとした結果が招いた当然の結末であった。もし彼等が隊長の騎士と共に来ていたならば全滅は避けられただろう。しかし、沈黙を破る一本のが皆の先頭にいたコウヤの頭蓋目掛けて射ち放たれた。
其れは、まさに一瞬の出来事であった。直ぐに源朴が横に駆け出し、コウヤ目掛け飛んでくる矢を捉え直ぐに叩き落とした。コンマ数秒の神業とも言える凄まじい一撃であった。
「アグラクトの若僧どもが、儂の義理に何してくれてんだ!」
憤怒した源朴の表情に殺気が滲み出るとアグラクト兵を睨み付け、刀を構えた。
一瞬の内に破られた沈黙はコウヤ達の感情を逆撫でした。
「誰だ! 勝手な事をした奴は今すぐ攻撃した者を俺の前に連れてこい!」
アグラクト兵達に緊張が走る。それと同時にアグラクト側から一騎、コウヤ達に向けてゆっくりと馬を歩かせる騎士の姿。
其れはロナをエレから連れ出した騎士であり、目の前に相対しているアグラクト軍の隊長でもあった。
そして騎士の前に一人の男が連れてこられた。
「た、頼む助けてくれ! 俺は本国の為にやったんだ! 俺は悪くない」
そう叫ぶ男、しかし騎士は其れを只聞き、ある程度終わったと判断すると男に対して口を開き喋り始めた。
「そうか、全てはアグラクト王国の為か立派だ。だがお前が放った一撃で此処にいる兵は全滅したやも知れないと考えなかったか?」
そう騎士に言われ男が下を向く。男の脳裏に全滅した際の光景が浮かび上がる。確かにその恐れがなかった訳ではなかった。
「俺は悪くない! アンタが直ぐに攻撃命令を出せば済んだ話だろ、 それにあの扉を開き本隊が本陣の異変に気付けば挟み撃ちに出来たんだ!」
男の訴えにアグラクト兵達が動揺する。
そんな中、隊長の騎士がコウヤにある頼みをしたのだ。
「すまないが獣人の指揮官殿、その扉を開いては貰えないだろうか、最後にこの男に現実を見せてやって欲しい」
落ち着いた物言いでそう口にするとコウヤは無言のまま頷き、それを確認して源朴達が扉を開いた。
一気に風が吹き抜けた瞬間、辺りに鉄臭い血の香りが広がりダルメリア側から微かに見える光に照らされる。
トンネルの中間から入り口側に残骸が微かに照らされた瞬間、隊長の騎士以外のアグラクト兵と男は全てを理解する。
「わかったか、既に我等に数で勝負をする事は叶わなかった」
「なら、ならなんで……なんでわざわざ来たんだ! 俺達に死ねってことか!」
「此処に来たのは死者の遺品を持ち帰るためだ。この者達にも帰りを待つ家族がいる。せめて立派に戦ったと嘘でもいい、戦った証を持ち帰ってやらねば報われまい」
そう言うと隊長の騎士は男に対して剣を向ける。
恐怖と絶望、そして目の前に広がる屍と生臭い鉄の香りが男に纏わり付く、そして人生の終焉。男の首が宙に舞うと騎士がコウヤに頭を下げる。
「我等に戦闘の意思はない、遺体を回収した後に直ぐに山を降りると約束する。どうか許していただきたい」
皆が動揺するがコウヤは其れを了承した。それと同時にラシャ達が姿を現す。
コウヤと騎士との会話を全て聞いていたラシャ達が獣人達のいるダルメリアに向けて歩きだし、皆がダルメリアに辿り着くとダルメリア側の扉を閉ざされた。
直ぐに死者の回収が開始される。余りに悲惨な光景に至る処に新兵と思われる者達が嘔吐を繰り返しトンネル内には更なる悪臭が充満する。
全ての回収を済ませると次々に袋に入れられた遺体が山を降っていく。
「指揮官殿、感謝する」
頭を下げる騎士。
「今後、ダルメリアと獣人に手を出せば只では済まさない。見逃すのは今回が最後だよ、次は無い!」
そう言うとその場から立ち去ろうとするコウヤ。
「待ちなさいよ! 獣人、此方はちゃんと礼を尽くしてるじゃない!」
「やめるんだ! ロナ、今回の事を考えれば寛大だとお前でも分かるだろ!」
騎士が声をあげたロナを必死に押さえつける。
「申し訳ない、妹は治療が終わったばかりで、まだ状況が理解できていないのです」
ーー妹?
「そうですか、別に僕は咎めるような真似もそれに対して斬りかかる気もありません。1つ聞かせてください、ロ……彼女は実の妹さんなのですか?」
「……いえ、身寄りがなく行き場のなかったこの子を我が父が娘として引き取りました。悪魔の様な男でした」
「でした?」
「前の戦いで敵の少年兵に討たれました。しかし、当然の報いと言えます。父のせいで数多くの未来ある新兵が命を落としました。我が妹、ロナもその被害者です。薬を与えられ心を壊されました。今はゆっくりと記憶と心の断片を繋ぎ合わせる事で昔のロナに戻ろうと苦しんでいる最中なのです」
「そうですか、ならば過去よりも素敵な未来がロナさんに待っているように願っています」
「ありがとうございます、指揮官殿」
そう言うとロナを連れ騎士は馬に跨がる。
「最後に俺はディノス=アルディオ、いつか戦場以外で会えるようよに願っています」
「僕は…… やめときます。次にあったなら自己紹介をさせて貰うことにします」
互いに笑みを浮かべながら背を向ける。
アルディオ達の下山の最中、ロナがアルディオに尋ねた。
「なんで戦わなかったの? 御兄ちゃんなら勝てたよ!」
「簡単に言うなよ? あれは強い只の獣じゃない、それに死体は回収できたんだ良しとしようじゃないか」
そう言うとアルディオは涼しいながらに不適な笑みを浮かべるのであった
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