壊された平穏
人間との小競り合い……コウヤは言われるがままに直ぐに館に移動した。
コウヤ達が館に着くと人間界に繋がるトンネルに向かおうと武装した獣人達が門の前に集まり声をあげていた。
「俺達はもう人間を赦す事など出来ない! 人間に獣人を怒らせるとどうなるかハッキリと行動で示す! 一緒に来るものは手を天に掲げよ!」
「「「ウオォォォッ!!」」」
既に話が戦闘へと傾き掛けている最中、キャスカが止めに入る。
「皆、落ち着け、頭を冷やすのだ!」
コウヤは訳も分からず困惑した。そんな時、ディアロッテが自分の方へ手招きをする。そして何があったのかを話した。
事の発端はアグラクト王国とクレアルバディア共和国との戦争開始から始まった。
大国クレアルバディアは、アグラクトの禁忌の森を領土とする事に対して撤回と再度の禁忌の森エレを三国中立地帯とする事を訴えたがアグラクトは其れを拒否した。
クレアルバディアは当初“デノモルグルド帝国”と共にアグラクトを討たんと計画するもデノモルグルド国内に“死人”が現れデノモルグルドは志し半ばで、同盟を維持できなくなっていた。
クレアルバディアはデノモルグルド帝国に対しアグラクトに加担しない事を条件に戦争終結後も互いに領地を侵さないと言う密約を非公式に交わしていた。
アグラクト王国は此の気にクレアルバディア共和国を我が物にしようと策略を練るが戦力差は火を見るより明らかであった。
アグラクトはクレアルバディアがエルフを奴隷にして戦わせている事を思いだし直ぐに国中にある文章を貼り出した。
『アグラクト王国における亜人の権利を全面廃止。
亜人のアグラクト王国からの移動を制限する。
アグラクト王国は亜人の奴隷化を罪としない。』
その文章が貼り出された途端に至る場所で亜人狩りが開始される。そして、獣人達もその対象にあげられていた。
いつものように町で働く獣人達を人間が囲み縄を首にかける。力では圧倒的な獣人も多勢に無勢の状況に次々と捕らえられていった。
命からがらダルメリアに逃げてきた獣人達からその話を聞き、獣人の我慢が限界を越えて怒りに変わり爆発したのだ。
そしてコウヤがディアロッテから話を聞いている際にも次々と獣人達がダルメリアに走り込んでくる。その中に一人の少女が泣きながら門を越えてきた。
「お母さんが、お母さんが」
幼い獣人の少女が泣き出すと誰よりも早くコウヤが動いた。
「お母さんがどうしたの!」
少女はダルメリアを目の前に母親が捕まったとコウヤに伝えた。少女自身も全身に擦り傷や切り傷だらけであった。
「師匠、僕はいきます! 此のままじゃ遅かれ早かれダルメリアに人間が押し寄せるのは時間の問題です」
「コウヤ! 本気で人間と獣人の戦争を引き起こすきかい、赦さないよ!」
キャスカが強い口調でコウヤを止めようとする。
「師匠…… 僕は大切な家族を人間に殺されました。大好きな母さんも、逢ったことのない父さんも、最初に僕に光をくれたもう一人の師匠も失いました。妹は連れ拐われ、幼馴染みは心を失い怨みだけで動く人形に成りました」
「それでもだ!」
コウヤの言葉に顔色を曇らせるキャスカ。
「僕にとってダルメリアは第2の故郷なんです、そして僕も人間を赦せません。師匠、短い間でしたがありがとうございました。馬鹿な弟子ですみません。でも止めないでください」
「はぁ、わかったわ勝手にしな! ただし、勝手に死ぬことは赦さないよ! 必死に生きて私の前に謝りにきな。師弟解消はそれからよ其れまで死んだら赦さないからね」
キャスカは直ぐにマトンにシアン宛の手紙を預けた。そして魔界への道を開くと戦えない者や怪我人を魔界へと移動させたのだ。その付き添いにマトンとディアロッテ、メイド達が同行する。
「師匠は行かないんですか?」
「コウヤ、アンタが帰ってきて誰も居ないんじゃ悲しいだろ? 獣人達も同じさ、全部の村から獣人が魔界に移動したんだ、誰かがお帰りくらい言ってやらなくてどうする、確りやってきな」
本来ならばキャスカも戦闘に参戦しコウヤと共に戦いたかったが剣星とまで呼ばれるキャスカが此の戦いに参戦すれば魔界と人間界の戦争に発展する恐れがあり、已む無くキャスカは参戦を諦めたのであった。
コウヤと共に獣人達がトンネルから人間界に向けて歩き出した。
ダルムを筆頭に獣人の戦士達は武器を掲げる。其れは決意の現れであり、人間と本気で争うと言う意思表示でもあった。
ダルメリアに進行する為、次々に人間が集まりだしている最中、突如テレパスを使いコウヤが人間達の集まる中央に姿を現した。
コウヤは直ぐに水魔法と土魔法を発動すると手間入り口に集まっていた人間達を鉄砲水で押し流し、コウヤがダルムの元に戻ると直ぐに人間界に獣人の大群が押し寄せたのである。
ダルメリアの入り口を中心に戦闘が開始され人間達は予想だにしていなかった獣人からの奇襲に晒されたのであった。
直ぐに辺りにアグラクト兵が居ないかを体外魔力を使い確かめるコウヤ。
アグラクト兵の伏兵などがない事を確認すると直ぐにコウヤは土魔法を使うすると凄まじい揺れが山を震えさせた。そしてコウヤがテレパスを使い人間の逃げ道を塞ぐ為に山道の中間に移動する。
「退きやがれ! ガキでも容赦しないぞ!」
数人の人間が我先に山道を真っ直ぐコウヤの方を目掛けて走っていく、その手には確りと武器が握られ幾つかの剣には真新しい血が付着しているのが直ぐにわかった。
「ごめん…… もう、逃がす気は無いんだ」
コウヤは刀を握ると走ってきた男達を容赦なく切り裂いた。
鮮やかな切り口はキャスカやマトンとの実戦並の特訓の成果である。次々に人間達が逃げてくるがコウヤは誰一人逃がさなかった。
其れを目の当たりにした者達は山の中を移動して逃げようとする。しかし山の形は変わり、コウヤのいる山道以外が全て崖に変わっていた。
コウヤは土魔法を使い山の地面を斜めに変えたのだ。その結果、全ての退路が断たれ崖になっていた。
「なんなんだ! 何で獣人の中にこんな魔法が使えるやつがいる!」
人間の一人が大声で叫び、其れを聞いたコウヤがその問いに返答した。
「人間が獣人を知らなすぎたんだよ! 獣人は人間より遥かに魔法の事を理解してる」
「ふざけんな! 獣人は人間のなり損ないなんだ! 人間より優れてる訳がない」
「悲しいよ、僕も少し前まで人間立ったんだと思うと虚しくなるよ」
コウヤは刀を手に男に歩み寄る。
「誰も逃がす気ないんだ、最後に言いたいことある?」
冷たくコウヤから放たれた言葉に男は震えながら答えた。
「くたばれ、家畜やろう…… グアァァァ」
「僕達は家畜じゃない、それに人間の物でもないんだよ」
其れから直ぐに戦闘は終了した。ダルメリアを襲おうとした人間の死をもって幕を引いたのだ。
コウヤは直ぐに山の形を元に戻し人間達の死体を見つからないように土砂の底深くに埋めたのであった。人間達に勝利はしたがダルメリアが既に安全でない事実が浮き彫りになった瞬間でもあった。
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