マトン=ホゲット
次の日の朝、コウヤはマトンより先に起きると井戸のある広場で一人テレパスの特訓をしていた。
ディアロッテから借りたビー玉を無造作に散らばらせ、そして、体外魔力を使い魔力を高めると次は魔眼を使いビー玉の位置を確実に把握する。そして、コウヤはテレパスを発動した。
次々に場所を入れ替えながら次のビー玉の状態を認識し、再度もそれを繰り返す。
コウヤは自分が眼に頼りすぎていると確信すると久々に自分の意思で目隠しをつける。
そして耳を研ぎ澄ましながら目隠しをした状態から目を瞑る。
コウヤの耳に微かに移動してから動くビー玉の音が確りと聞こえていた。そこからは感覚が慣れるまで延々とテレパスを使い続けた。
マトンが来るのを察知するとコウヤは目隠しを取りマトンに挨拶をする。
「マトンさん御早う御座います」
「早いな、コウヤ」
「はい、全力でやらないと追い付けないので!」
「俺が言ってるのはコウヤの覚える速度だ。俺の使うアシストも、そうだが、いきなり見て扱えるような魔法ではないんだ」
「そうなんですか? でも最近わかったんですが、どうやら僕、人間の扱う魔法が使えないみたいなんです?」
マトンが首を傾げる。
「使えない? どういう事だ、詳しく話せコウヤ」
「はい、実はミーナから教わった獣人の言葉にかえた魔法は使えるんですが人語の魔法は発動すらしないんです」
「いつからだ?」
「魔界に来てから気づきました。勿論、人語の魔法も獣語の魔法も発音だけの問題なので同じ様には使えるんですが、人語だけで発動する事は出来ませんでした」
「だが、テレパスは人間も使う魔法だ、どうやって発動している?」
「なのでテレパスも無詠唱にするために獣語と人語の両方で試しました。上手く発動するように何回か言葉を入れ換えたりして何とか形にしました」
マトンの驚きは計り知れなかった。コウヤが簡単に説明している事を冷静に聞けば、テレパスを獣人用にアレンジして使いこなしていると言っていたからである。
「つまり、アシストも同じ様にアレンジしているのか?」
「最初、アシストを発動しようとしても使えなかったので直ぐにアレンジして使いました。マトンさんの猛攻で中々上手く出来ませんでした、でもマトンさんが確りとアシストの事を教えてくれたので助かりました」
「そうか、只の天才じゃないと言うことは気づいていたが此処まで凄いとなると頭が下がる思いだ。ランタンもとんでもない逸材に巡りあったものだ」
そう言いとマトンが立ち上がり広い草むらに移動した。
「少し離れていろコウヤ」
そう言うとマトンは自身の大剣を左右に二振りする。
凄まじい速度で放たれた二振りの剣が風を起こしたかの様に草が揺れる。次の瞬間には地面が見えていた。
風に切り落とされた草が飛ばされていくと其処は円上のリングになっていた。
「コウヤ、相手をしよう。本気で来なさい」
コウヤはリングの中に入ると刀を構える。マトンが大剣を手にゆっくりと歩み寄る。
「スタートの合図がほしいか?」
「いえ! スタートの合図は既に出てますよね? いきます!」
コウヤは一気に走りだしマトンに仕掛ける。前回同様に刀を打ち出す瞬間にアシストを使いマトンの大剣に押し負けないように、そしてマトンと力比べをすれば負けるのを理解しているが故に一撃後の素早い切り返しを徹底して繰り返す。
「考えたな! だが、まだまだ経験が浅い、いくぞコウヤァァァ!」
コウヤの一撃をあえて受け流したマトン。
その手がコウヤの腕を掴むと一気にコウヤの体ごとマトンが引っ張り頭突きを入れた。更にマトンは大剣をまるで盾の様に使用してコウヤを地面に向けて押し込んだ。
両方が刃であるマトンの剣に押さえられ刀をマトンに向けることすら出来なくなったのだ。
「どうしたコウヤ? 腕が無くなるのが恐ろしいだろう、だが! 戦場では生きることがすべてだ、お前は命と腕、どちらを守りたい!」
「マトンさん、両方がいいです」
その瞬間コウヤはテレパスを発動した。マトンもテレパスを使用する事は予想していたがマトンの予想だにしない事が起きたのである。
次の瞬間コウヤが消えたと思うとマトンの肩にいきなりずっしりと重みが掛かる振り向こうとした瞬間、マトンの体に巨大な岩が現れたのだ。
「な、なんだ!これは」
マトンが即座にアシストを使い大剣を放し両手で岩を退かそうとする。
マトンが岩を退かすと大剣は側から消えていた。
「マトンさん! 大剣は此処です!」
そう言うとコウヤが大剣を地面に突き立てていた。
「よくわかった、ならば俺も少し本気を出そうじゃないか!」
マトンの真っ赤な眼が更に赤くなりマトンの頭に角が出現する。
「マトンさん? それって」
「驚いたか? 俺は人間じゃないんでな。レッドシープと言う魔族だ。普段は邪魔になるんで角は小さくしているんだ」
マトンの角が生え終わると肌が段々と赤くなる。 眼鏡を外し準備が整ったのか地面を踏み鳴らしている。
「コウヤ何でもありだ、ただし死ぬなよ! グオウゥゥゥ!」
マトンの叫び声と共に勝負が再開される。攻撃は大剣を使わない分遥かにスピードが上がっている。更にマトンの只の拳を握っただけの突きは繰り出す度に速度が上がっていっていた。
コウヤはマトンより早く動こうとするがマトンが更にその先を行く。
コウヤはマトンに向かいテレパスを使うと互いの場所を入れ替える。
更に振り向き様に魔導銃を発射する。
魔導銃の弾丸には風魔法が入っておりマトンの体を一瞬で吹き飛ばし巨大な木にマトンが激突する。更にコウヤは体外魔力を全力にして魔弾が壊れるまで一気に魔力を込めたのだ。
「それまで! 遣りすぎだコウヤ、たく、大丈夫かい? マトン」
「大丈夫です、キャスカ様」
二人を止めたのはキャスカであった。そしてキャスカの口から予想だにしない言葉が飛び出してきた。
「二人共、すまないが人間と小競り合いになりそうなんだ、協力してくれない?」
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