過去の日々② って奴です
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ありがとうございます(*´∀`*)
side エルシア
転生して4年と11ヶ月 敷地内、森にて
魔術というのは非常に便利である。
ちょっとした事に役立つものから、かなり大掛かりな事にまで効果を発揮する魔術
書斎からは様々な魔術についての本が出てきた。
私はそれを片っ端から読破し、その知識を身につけるべく裏庭で簡単な魔術を習得。
大掛かりなものはこっそり裏庭から森に入って練習していた。
森といってもその森はラーグ家の敷地内にある。
使用人さん達は滅多に入らない様だけど、父曰く父様と母様の魔力に怯えて野生の動物は近づかないらしい。
凶暴な熊とかトラとかライオンとか、そーいう感じのも出ないとの事。
なーんだ、それなら何の心配もいらずに魔術練習が出来るじゃないか!
そう思っていた時期が私にもありました。
少女の前に、鎮座する動物が一匹。
熊?トラ?ライオン? いやいや、御冗談を。
これ、どー見ても”キリン”ですやん。
たかがキリンと侮るなかれ。
このびっしりと本体を覆う鱗!キリンは草食動物なのに何故か付いてる長く鋭い牙!
筋肉ムキムキの四肢、あと首!筋肉付きすぎてキモイ!
そして目!なんで8つもあるの!?馬鹿なの?阿呆なの?死ぬの?
「うっわぁー・・・・」
なんか遭遇しちゃいけない奴と遭遇しちゃった感をバリバリ感じた。
ー ヒヒィィィン!
鳴き声は馬っぽいのだ、馬じゃないけど。
あ、いや、下だけ見れば馬っぽい。下だけ見ればだけど。
私は冷や汗を流す。
「・・・安全じゃなかったのか」
この日私の中で『敷地内の不敗神話』が崩れ去った。
まぁこの時は気付いていなかったが、この日は単に両親が屋敷内に居なかったのが原因だった。
そりゃこうなるわ。
「果たしてこのキリンもどきは安全なのか・・・否か」
この世界の動物は実にメルヘンチックである。外見的な意味で。
私的には”魔物”と呼びたい気分だが、それだと同種にたいする侮辱になるらしい。
故に「知性ある魔物」を魔族、持たないものを魔物と呼ぶ。
なので最初は会話から始めようと思う。仲良くなるための第一歩だ、何事も友達から。
「あの、すみません、ここラーグ家の敷「ヒヒヒィィーーーーン!!」」
会話失敗。
やっぱり魔物だったんですね、ええ。知性の欠片も感じませんもの。もうやだ帰る!
私は周れ右して屋敷へと駆け出した。
「ヒヒィィーーーン!!」
案の定追って来ましたよ!しかもめっちゃ速い、キリンの速さ知らんけど速すぎる!
「ええっと、こう言うときに役立つ魔術・・・・」
元々大掛かりな魔術を会得する為に森に来ていたので、どうせならと演唱を開始した。
『大地よ我の名にて其の形を変えよ! 大地之創造』
だんっ!と地面に手を叩きつける
同時に背後で地面が蠢き、小さな段差が地面から生えるように出来上がった。
あ、ヤバ、ちょっとショボかった!?
「ヒィン!?」
キリンが私に向かって突進中、足をその段差に引っ掛けた。
「あっ」
キリンの体が空中に放り投げられる、空中でぐるんぐるん廻る。その様子はまるで大車輪。
物凄い回転数を誇るキリンはそのまま小さな私の頭上を通過し、大木へと突っ込んだ。
その様子は芸術の様に美しい。
飛び散りる木の破片、顔面から木に埋まるキリン、海老反りになった体。
そして1秒もしないうちに地面に叩きつけられる首から下。
「・・・・首が長いってのも、難儀なんですね」
魔物(?)初討伐の記念は実に呆気なかった。
✖✖✖
「お嬢様、ピクニックに行きませんか?」
キリン討伐の翌日、ミラさんが唐突に切り出した。
因みにあのキリンは、別に悪い奴では無く私と友達になりたかったんだってー。
世の中外見じゃないんだね! 今ではちゃんと友達です。
「ピクニックですか?」
「ええ、実は旦那様と奥様が今日の公務は無いからエル様とピクニックに行こうと」
ピクニックか~
正直言うと、前世でも今世でもピクニック何ていうのは一度も行った事が無い
前世じゃ行く理由も相手も居なかったし、って言わせないで恥ずかしい。
でもこの周辺にピクニックに行けるような場所が有っただろうか?
「でもこの辺りって全部森ですよね?」
「はい、ですから奥様が”私の魔術でこの辺りを更地にして”」
「却下です」
冗談じゃない。母様、何しようとしてんですか。
母様の魔術で焦土と化した場所で呑気にピクニックなんて出来る訳ないでしょう。
「ちょっとした冗談です」
ミラさんの冗談は冗談に聞こえないからタチが悪い。
「敷地内の森の中に花の綺麗な場所があるんです」
はぇ~、知らなかった。
「誰も手を加えていませんから、自然のままの美しさがある所なんですよ」
「そんな場所があったんですねぇ・・・」
「はい、裏庭から少し行ったところにあります」
そう言ってミラさんは両手に持ったピクニックバスケットを見せた。
おお、もう準備は出来ていると言う事ですか。
これはもう”行きません”なんて言えないでしょう。
私は満面の笑みで言った。
「行きます!」
「ケイズ? 少々強く引っ張りすぎでは無くて?」
右側で手を引く母様が言った。
「そ、そんな事は無いぞ?テルエ」
左側で手を引く父様が返事を返した。
「いいからその手を離して下さらない?」
右側の母様
「独り占める気なのテルエ!?」
左側の父様
「だってエルが可愛いんですもの、さぁ早く手を離して」
右
「ひどいテルエ!そんなの横暴だ!」
左
「まぁまぁ、旦那様も奥様も落ち着いて」
只今私こと”エルシア”は・・・両親に両手を繋がれ、所謂家族遊園地スタイルになっていた。
あれですよ、両側に両親が居て真ん中の子供がわーいって宙ぶらりんの奴。
ちゃんと地に足着いてますけども。
「父様も母様も、喧嘩はしないで下さい」
私が一言言うと、ぴたりと2人は喧嘩を止めた
その代わりぎゅっと手を握ってくれる。えへへ、しょ~がないな~も~。
「お嬢様、嬉しそうですね」
ミラさんは私の顔を見てそう言った。
あ、バレてます?実を言うと私は2人と一緒にピクニックと言うだけで行く気マンマンだった。
それにミラさんも付いて来てくれると言うのだ。
コレは行かなければならないというもの!
「家族水いらず」って事で最初は遠慮したミラさんだったが、私が無理言って付いてきて貰った。
それに関しては2人とも賛成だったらしい。日頃のお礼です。
「やっぱり、皆でピクニックって凄く嬉しいですから」
微笑みながら2人の手を引っ張って歩いた。
木漏れ日の差す森の中をどんどん進む。
そんな私の背中を、とても優しい瞳で見つめていた3人が居る事を。
結局最後まで私が気付く事は無かった。
「うわぁ~・・・・・」
結論から言うと、正に秘密の花園に相応しい程の美しさでした。
えっちぃ意味じゃないよ!!
森の奥にあるというピクニック場所、勝手に「ちょっと花が綺麗な程度の森」みたいな認識をしていたが・・・
此処は森なのにこの辺りだけ木が全然無い。
周辺200m程度に渡って綺麗な花で埋め尽くされていた。
中央が少しだけ盛り上がった地形をしていて、其処から360度見渡すことが出来る。
私達4人はそこにシートを敷いた。
「凄く綺麗な場所・・・」
花の色は様々、赤、青、黄、紫、緑、茜、茶、黒、白....目を埋め尽くすのはこの世の全ての色と言っても過言じゃない。
触れれば壊れてしまいそうな程繊細に見える花びらが、地面を遠くまで覆っている。
時偶通る雲が花々に陰りを生み、その光景もまた酷く幻想的なものであった。
「ここに来たのはもう数十年も前だからなぁ・・・・とても久しい」
父様が懐かしそうに目を細めた。屈んで、足元の花を小さく撫でる。
母様も同じく懐かしい目で花園を見ていた。
「・・・母様と父様はここに来たことがあったんですか?」
ふと不思議になって聞いてみた。
2人はふっと優しい笑みを浮かべる。
「えぇ、もう遠い昔の事だけど」
「・・・エルシアが生まれる前、懐かしき時よ」
2人の間にどこか優しい雰囲気が漂った。
横からぬっと、腕が現れる。ミラさんだ。その手にはサンドイッチ。
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取った。
シートの真ん中に陣取って、腰を降ろす。もちろん女の子座りで。
「はむっ」
両手で持って、角を口に含む。
まだ小さい口で、ほんの齧った程度しか跡がつかなかった。
むぐむぐと咀嚼する。
「とっても美味しいです!」
私は素直に感想を口にした。
「それは良かった、頑張って作った甲斐がありました」
にっこりと微笑むミラさん。
「私も一つ貰っていいか?」
「勿論です、奥様もどうぞ」
「頂くわ」
母様と父様もサンドイッチを一口齧る。感想は言わずと表情に出ていた。
どちらも微笑みを浮かべている。
「腕を上げたな、ミラ」
「サンドイッチ一つで何を言っているんですか、旦那様」
ミラさんはあくまで表情を崩さない。
それでも何となく顔が笑っている気がするのは気のせいじゃないだろう。
「屋敷に来たばかりの時はサンドイッチどころか・・・」
「・・・・旦那様?」
「いや、なんでもない。 私は過去を振り返らない男だ」
お父様は慌てたようにサンドイッチを口に詰め込んだ。
額に冷や汗をかいている様に見えるのも気のせいじゃないだろう。
「ケイズは本当に無粋ね、空気の読めない男は嫌われるわよ?」
そういって母様はもうひとつサンドイッチを父様に手渡す
父様も「う、うむ」と言いながら受け取っていた。
「私はミラさんの作る料理、大好きですよ」
私は満面の笑みでそう言った。
「ほら見なさい、エルなんてこんなに純粋よ?」
母様が私の頭を抱き寄せた。ばふっと2つの膨らみが私を包み込む
とってもいい匂いがした。
「ああ、テルエずるい!」
「エル成分は貴重なのよケイズ?」
なんだかんだ言いながらも母様は私をすぐ離してくれた。
今日に限っては、ちょっと勿体無い気もしたけれど素直に身を引く。
そしたら今度は父様に抱きつかれた。
「おおぉ~・・・エル、父さんはお前を愛しているぞぉ~~」
「父様・・・」
熱く、強い抱擁を苦笑を浮かべて受ける。
そのまま一生離さないんじゃないかと思われたが、数秒もしないうちにミラさんが引き離してくれた。
「さあさあ旦那様、せっかく花園に来たんですから
ちゃんとピクニックを楽しまないと損ですよ?
「し、しかし、エル成分が・・・」
父様まで、エル成分てホント何なんですか。
「エル成分は只今枯渇中でございます」
「な、なんだってーーーー!?」
私が呆れ気味に言うと、父様は信じられないと言った風に地面へと伏せた。
「そんな・・・そんな馬鹿な、エル成分が枯渇・・・だと!?」
「残念ねケイズ」
対して勝者の笑みに似たものを浮かべる母様
悔しそうに呻く父様に高笑いをしてなんというか女王様だった。
それを視界の隅で見ながらサンドイッチを頬張る私。
目の前には色とりどりの花、これを楽しまない理由はないでしょう。
「あ、お嬢様・・・口元に」
「ぇぁ?」
ひょいっと取って、ぱくっと食べてしまうミラさん。口元に何か付いていたのだろうか。
しかし、なんとも躊躇いがない。
「ふふっ」
ペロリと舌舐りをするミラさん。ちょっと肉食獣を想像させられます。
しかし私は動じること無く返しました。
「ありがとうございましゅッ・・・」
噛みまみた。
わいわいと騒いでいた父様と母様が私へと雪崩込んでくる。
ミラさんはソレを唯唯、微笑みながら見ていた。
いや、助けてくださいよ。
結局、ラーグ家の者にとってピクニックする環境なんてモノは要らないのだろう。
花は少し愛でる程度が丁度良い。
じっと座って鑑賞するような人達では無いのだ。
そう言う意味では、今回の花園はミスチョイスだったのかもしれない。
しかし、母様と父様と、そしてミラさんの笑顔を見るとそうでも無いのかもしれないと思う。
”花”は人の心を豊かにするのだ。
暖かい日差しの中、私達は円の様に横になる。
私、父様、母様、ミラさん、皆が空を見上げて花に包まれた。
甘い匂いが鼻を突いて、何処からか小鳥の囀りが耳を優しく叩く。
私は目を閉じた。
ああ、なんて平穏で幸せな日々か。
願わくば。
この幸せが、何時までも続く様にと.........




