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第十一話

入学から三ヶ月が経つ頃、慣れた様子でアントンを含む第三小隊の候補生たちは、木の椅子に静かに腰を下ろしていた。

講壇には戦史担当の少佐が立ち、講義を行っている。


黒板にはアウステルリッツ会戦の戦況図が描かれている。

中央の後退、敵の誘引、両翼からの包囲。

すでにその戦術構造の解説を終えようとしていた。


少佐は一度手を止め、教室を見渡して問いを投げた。


「この作戦をとったナポレオンは後に英雄と称される。では英雄とは一体何か。それは勝利の果実を得た者か。命令を忠実に遂行した者か。それとも別の何かであるのか」


静かな問いかけが、講義室の空気を少しだけ揺らした。


やがて前列の候補生が声を上げた。


「勝利によって任務を全うした者かと存じます、少佐閣下」


「損害を抑えて作戦目的を果たした者でしょう」


「信頼を保った指揮官が英雄かと思われます」


いずれも模範的な答えだった。

少佐はうなずきながら聞いていたが、その視線が後列に向いたとき、別の声が静かに発せられた。


「命令に従いながら敗れた者より、命令を越えて判断し、結果を引き受けた者が、後の歴史に残ることがあります」


アロイス・クレンナー候補生だった。

語調に感情はなかったが、その言葉には妙に引っかかるなにかがあった。


「たとえば1805年、アウステルリッツの開戦前に、ムラ元帥の部隊を再配置した将校がそうでした。本来は退避命令の対象だったにもかかわらず、独断でその場を守り、敵の騎兵突入を防いだ」


「正式には命令違反でしたが、結果的には戦局を安定させたとして称賛され、後年まで語られました。私は、そうした選択の責任を自ら引き受けた者こそが、語られる英雄なのではないかと、そう考えます」


数秒の沈黙。候補生たちは顔を上げず、静かに息をつめていた。


アントンは自然と手を挙げ、少佐のうなずきに応じて立ち上がった。


「たしかに、そういった例も多くあります」


「ですが、命令の中で戦い、与えられた任務と責任を忠実に全うした者もまた、英雄と呼ばれるべきだと私は思います」


声は落ち着いていた。しかしそこには命令を与える皇族としての信念があった。

誰の目も見ず、言葉を終えて腰を下ろす。


アロイスは間を置いて応じた。


「大公殿下のご意見はとても誠実なものであると感じます。ただ私は、命令よりも選択の責任が重んじられるべきだと、そう思っているだけです」


それ以上は語られなかった。

だがその言葉の中にある何かが、確かに場に残った。


講義はすでに次の内容に入っているというのに、真面目に聞けているものは少なかった。


ガリツィア出身の候補生は、指先で机の縁を静かに叩いていた。

マジャール語訛りの候補生は、図上の一点を見つめ、眉間に皺を寄せていた。

南部の山岳地帯から来た候補生は、ペンを止めたまま固まっていた。


誰も何も言わなかった。

しかし、「選択の責任を自ら引き受けた者こそが英雄である」という言葉は、それぞれの胸の奥に、確かに残っていた。


そして、それが本来であれば、この場で考えてはならない種類の問いであることも、全員がどこかで理解していた。


最後列の席で、アントン・ハプスブルク大公候補生は静かに視線を下ろしていた。

その存在が、何も語らずに、すでに語っていた。

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