16話 沼の王種 ゲゴゴドン
誤字報告ありがとうございます。
グレンさんからの依頼が来た次の日の朝、僕達は逃げられないのを悟っているので、冒険者ギルドの前で大人しく待っていた。
よいやみの顔は心底面倒くさそうだ。その気持ちが僕も良く分かる。
今回はどんな修行をやらされるんだろう……。
「はぁ……。熊に急用でもできると、あし等は解放されるんすけどね」
「よいやみ……聞くだけ無駄かもしれないけど、そんな事が今までに一度でもあったの?」
「それは……」
「無いな」
「「え?」」
いつの間にか、目の前にグレンさんが立っていて、腕を組み僕達を見下ろしていた。
本当にいつ来たのか気付かなかった。
う、うわぁ……。
グレンさん。更に強くなってる気がする……。
「久しいな。よいやみ、みつき。お前達の活躍は聞いているぞ」
「あー、うん。久しぶりっす」
「お久しぶりです。グレンさん」
ゼドラと戦い、色々な魔物とも戦って来たけど、この人の強さだけは底が見えない。
いや、この先どんな修行してもこの人に追いつく事ができない気がする。
この人を前にしていると、僕達が手も足も出なかったゼドラですら弱く感じてしまう。
じいちゃんはこの人以上の強さなのだと思うと、よくじいちゃん相手に喧嘩をしていたな、と今更ながら思う。
グレンさんは僕達をジッと見ている。
「ふむ。二人共随分と強くなったみたいだな。実際はどこまで強くなっているかが楽しみだ。では、魔大陸に行くぞ」
そう言って、ヴァイス魔国への転移魔法陣へと歩き出す。
やっぱり魔大陸に行くのか……。
今回の特訓も魔物に襲われながらグレンさんと戦う……かな?
「ししょー。聞いて貰えないと思っているっすけど、一応言っておくっす。あしはガストとの橋渡しで結構忙しいんすから、こんな風に呼び出されるのは迷惑っす」
「ぼ、僕も、アロン王国の勇者だから、できるだけ自由の身じゃないと何かあった時に対処できないよ」
「そうかそうか」
うん。
絶対分かってない……、いや理解しようともしていないね。
「そもそもお前ら二人の代わりなどいくらでもいるだろう? バトスもそうだし、よしおも今ではかなり強くなっている」
「へ? そうなんすか?」
「なんだ、知らないのか? バトスは何度か拳神殿の特訓を受けているし、よしおは俺の特訓を受けている。お前等に追いつくレベルで強くなっている。だから、お前等がいなくても問題はない」
うっ……そう言われると少し悔しいな。
「それで? 今回はどんな特訓であし等を虐めるつもりなんすか?」
「特訓? 今回はお前等の強さを見たいだけだと言っているだろう? 特訓はない」
「マジっすか?」
「あぁ。しかし、俺が気になるところがあったらそのまま一週間特訓だ。俺が納得すれば今回は終わりだ」
うん。
僕は理解したよ。
間違いなく一週間みっちり特訓コースだ。
ヴァイス魔国に到着した僕達は、走って目的地まで行く事になった。
グレンさんが本気で走ったら、僕達は追いつけないので僕達に合わせてくれている。
僕とよいやみは身体強化を使っているのに、グレンさんは使っている様子もない。やっぱり化け物だ……。
今回の目的地は絶望の村の南にある沼地だ。
ここは蛙の王種、ゲゴゴドンがいる。
「ここって前に言っていたゲゴゴドンの巣っすか?」
「うん。そうだね。ゲゴゴドンは王種でも珍しい発生型だからね。どこに現れるか分からないんだ」
「ふへっ。王種で発生型って怖いっすね」
「発生型か。その言葉は良いな。アイツ等は倒しても倒しても復活するから、お前等の力を頼雌に丁度いいと思っていたんだ」
という事は今回の特訓は協力して王種の撃破かな?
ゲゴゴドンなら今回は楽かもしれない。
ゲゴゴドンは王種の中でも弱い部類の魔物だ。
「今回お前等にやってもらうのは、王種の単独撃破だ。俺の見立てでは単独撃破も可能だろう」
王種の単独撃破。
確かにゴブリンキングやグランドゴブリンの場合は行動を読みやすいから撃破できるけど、獣や魔獣系統の王種はそう簡単にはいかない。
ゲゴゴドンも弱い部類とはいえ王種だ。
一歩間違えれば簡単に殺されてしまう。
「今回はゲゴゴドンだけっすか?」
「いや、もう一匹倒してもらう予定だ。ゲゴゴドンはお前達ならば楽勝だろう。これはウォーミングアップのようなモノだ」
「王種を相手にするのがウォーミングアップって。そんな無茶な」
「ちなみにもう一匹って何なんすか?」
「北の山の主、ゲガガドンだ」
ゲガガドン!?
「そ、それは無理だ!!」
「へ?」
ゲガガドンは北の山に生息する王種で魔物の中でも屈指の力を持つドラゴン系統の王種だ。
しかし、グレンさんは一つだけ勘違いをしている。
「それに、ゲガガドンは北の山の主じゃないよ」
「なに?」
「北の山の主はゲガガドンがごく稀に進化する進化系のジョフドレンだよ。僕は見た事が無いけど、じいちゃんが一度仕留めてきた事がある」
「そうなのか?」
心なしかグレンさんが笑っている気がする。
見つけたら自分が戦う気だな……。
「みつき、あしでもゲガガドンに勝つのは難しいっすか?」
「ゲガガドンの龍鱗は硬いんだ。全開魔力で砕ければ勝機はあるだろうけど、もし防がれたら勝ち目がないよ」
「そりゃ楽しみっす」
そうだった。
グレンさんの弟子なだけあって、よいやみは戦闘を楽しむタイプだ。
「そうだ。よいやみが更にやる気になる情報を一つ教えてやろう。ゲゴゴドンは肉が旨いらしいぞ」
「そうなんすか?」
よいやみが目を輝かせながら、僕を見る。
「え? う、うん。食用だし、美味しいよ。だけど、弱いと言えど王種だからヴァイス魔国でも高級食材なんだよ」
「そうっすか……。カレンへのお土産に良いっすね。ゲガガドンはどうなんすか?」
「ゲガガドンはお肉が硬くて食べられないんだ。素材としては龍鱗と牙がメインかな。お肉には浄化の灰をかけるといいんじゃないかな?」
「そうなんすか……」
あ、思いっきり凹んでいる。
「おい。無駄話はここまでだ。早速現れたぞ」
グレンさんが指差す先には、大きな蛙が出現していた。僕達の五、六倍の大きさがある。しかし、ゲゴゴドンは眠っている。
まぁ、起きていてもこちらが攻撃するまでは何もしてこないんだけど。
「ちょうど眠っているな。よいやみ、一撃で倒して来い」
「一撃っすか!?」
「そうだ。反撃させてもいいのだが、冒険者ならば倒せるものは一撃で倒すべきだ」
「まぁ、そうっすね」
よいやみは、魔力を解放させる。
魔力により沼地の水が波打ちだす。
【全開魔力】だ。
「行くっすよー!!」
よいやみがゲゴゴドンに突っ込み、お腹を打ち抜く。
ゲゴゴドンはお腹を打ち抜かれ、目を覚ます前に息絶えた。
「やったっす」
「見事な一撃だ」
グレンさんもよいやみを褒めている。
けど……顔は笑っていないよ?
「次はみつきだ。あそこを見てみろ」
グレンさんの指差す先には、のっそのっそと動くゲゴゴドンがいる。
今度は起きているけど、動きが遅いから負ける事は無い。
「みつき、お前も一撃で倒せ。あ、女神化は使うなよ」
「う、うん」
あれ?
グレンさんって女神化を知っていたっけ?
まぁ、いいや。
ゲゴゴドンを倒すなら……。
ゼロの魔力も必要ないね。
僕は闘気で身体強化をして、一気にゲゴゴドンの前に移動して首を落とす。
これが一番楽かな?
「見事。みつきは合格だ」
僕は合格?
よいやみは?
「え? あしは?」
「お前は駄目だ。もう一匹倒せ」
「お肉が手に入るから別にいんすけど、どうしてあしだけダメなんすか?」
「お前……。【全開魔力】を使わなくても倒せただろう?」
「ギクっす!」
「お前の事だから、面倒だからと楽に倒す方法を考えたんだろう?」
「う……。バレているっす」
「楽に倒せるのなら全開で戦ってもいいのだが、先ほども聞いたようにゲゴゴドンは発生型だ。発生型である以上余力を残すのが当たり前だ。みつきはきっちりと余力を残している」
よいやみは少し怒られた後、もう一匹ゲゴゴドンを倒させられていた。
今日は、このまま沼地でゲゴゴドンを狩る事になり、その日だけで十数匹狩る事ができた。
カレンとアディさんにお土産が沢山できたよ。
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