13話 王様との謁見
誤字報告、いつもありがとうございます。
ガストから帰って来た次の日の朝、僕達は報告の為にアロン王城の謁見待合室で順番を待っていた。
今はまだ朝が早いのだが、すでに何組もの謁見希望者が待合室で待っている。
僕が予想外だったのは、貴族の人もちゃんと順番を守っている事だった。
「こういう場では、貴族の人もちゃんと順番を守るんだね。勝手な思い込みだけど、「私は貴族だぞ!! 待たすなんてどういう事だ!!」と怒鳴り散らすような人ばかりだと思っていたよ」
「みつきは貴族をどう見ているんすか。順番を守って当たり前っす。謁見に来ているという事は自分の国ではないんすから、下手に他国の王を怒らせて心証が悪くなれば、その貴族の失態になるんすよ」
「普通であれば自制するのが当たり前です。しかし、アロン王国は小国ですから、大国の使者の中にはたまにそういう貴族がいますよ」
「あしはそんなの見た事が無いっすよ?」
「ガストは大国ですからね。大国相手にそんな態度の人はいないでしょう。下手をすれば国が滅ぼされますからね」
「そういうもんっすか」
「そういう場合は王様はどうするの?」
「それは謁見する王次第じゃないですか? 王がその行為を良しとするならば、これからも大国の貴族に見下されたままですし、もしその貴族に対し怒りを覚えるのならば、それ相応の結果になりますよ」
「それ相応の結果って?」
「一番軽くて交渉決裂……断交。……最悪は戦争と言ったところですか」
「戦争まで行っちゃうの!?」
「そうですね。国王を侮辱するのですから……」
王族との会話って怖いんだね……。
僕達が待合室で話をしていると、他国の貴族と思われる人が僕達に話しかけてくる。
「君達もレオン陛下に謁見かい?」
「そうですが、貴方は?」
「私はジルキン王国の第二王子のフランツだ。 君達に聞きたい事があるんだが、いいかい?」
「ジルキンっていえば、冒険者ギルドの総本部がある場所っすよね」
「そうだよ。君達も冒険者なんだね」
「そうっすよ」
アレ?
このフランツって人、よいやみの事を知らないんだ。
「冒険者という事はこの国の獣人……いや、亜人事情も知っているかい?」
「知っていますよ」
「なら、君達の目から見て、この国は獣人に対して偏見が無いように見えるかい?」
いつきさんは僕に視線を移す。
ん?
僕が話すの?
「アロン王国は比較的獣人には優しい国だと思いますよ。いや、違うな……。アロン王国の王様は亜人に偏見は持っていないけど、ただ、国としてはまだ受け入れられていないのかな?」
これが僕の率直な感想だ。
アロン王国は人間が治める国だから、亜人の数が少ないのは仕方が無い。
最近は町の中やギルドでも亜人を見かけるようになったけど、そのすべてが町の外から来ているみたいで、まだ亜人達が王都内に住んでいるとは聞いていない。
この事についてオルテガさんに聞いてみると、ティタンが統治していた時の亜人迫害が酷すぎて、一緒の町に住むのは抵抗があるんじゃないかと言っていた。
王様が色々と亜人が住みやすい環境を作ってはいるらしいのだが、まだまだ時間はかかりそうだ。
こう説明するとフランツ殿下はメモを取っていた。
「なるほど……。ありがとう」
フランツ殿下はそう言って、自分の従者の所に戻る。
あれ?
あの従者の人……獣人だ。
「みつき、どうしたっすか?」
「ん、何でもないよ」
フードをして顔を隠しているみたいだから、わざわざバラす必要はないね。
王様とは亜人の事を話すのだろう……。
僕達は大人しく謁見の時間が来るのを待つ。
僕は僕の太ももで眠るゆーちゃんの頭を撫でながら、ゆーちゃんを愛でる。
いつきさんが言っていた、ゆーちゃん成分というのを最近実感して来た。
ゆーちゃんが傍にいると心が癒される。これがそうなのだろう。
今日は、カレンとアディさんは解体のお仕事が詰まっているからと、いつも通り解体をするといいお店に残った。最近は他の冒険者からも解体の依頼がきているみたいなので、余計に忙しいみたいだ。
解体する魔物も魔大陸の魔物がメインになってきているらしい。アロン王国の冒険者もバトスさん達の指導のおかげで実力がメキメキ伸びていき、魔大陸の魔物を狩ってくる冒険者も増えているようだ。
僕とよいやみも一度冒険者の指導に行った事があるのだが、三日で解任された。
なんでも冒険者が泣きながら僕達の指導は受けられないと言ったらしい。なんでだろうね……。
そう言えば昨日の夕食の後、カレンがいつきさんに何かを相談していたなぁ……。
「いつきさん。カレンは何を相談していたの? 僕でも力になれる事があるのなら協力するよ」
「昨日のカレンさんの相談ですか? カレンさんは食堂を開きたいそうですよ」
「食堂? いいんじゃないかな。カレンの料理はとても美味しいからきっと人気店になるよ。お店を作っても損にならないと思うけど、何か心配事でもあるの?」
「カレンさんの料理がおいしいのは私も知っています。私も料理に自信がありましたけど、正直、負けたと思いましたから……。それは良いのですが、食材の事で少し気になる事がありまして……」
「え? なに?」
いつきさんが言うには、カレンの扱う食材が一般の人に受け入れられるかどうかが分からないらしい。
僕達や冒険者はあまり気にしないのだが、カレンの料理は基本魔物を食材にしている事が多い。
冒険者は魔物を狩るし、場合によってはその場で魔物を調理する事もある。だから魔物を食べるのに抵抗は無いのだが、これが一般人だったらどうだろう?
ヴァイス魔国のような国では魔物を食用として売られたりしているので、そこに住む人間も魔物を食べる事に何の抵抗もない。
一方、アロン王国では基本魔物の肉を食べない。
その理由はいくつかあるのだが、一番の理由と言えばやはり金額の問題だろう。
例えば、オーク肉と豚肉は似ているが、オーク肉の方が栄養価も味も格段に上だ。ただ売値は豚肉の十倍以上の値段になる。
何故ここまで高価になるかというと、この国では魔物の解体が行われていないからだ。
今は黒女神の解体職の二人に頼めば解体してもらえるが、それでも需要に追い付いていないから、やはり魔物の肉は高くなってしまう。
とはいえ、冒険者ギルドもこのような状況に胡坐をかいているわけではない。
最近では冒険者ギルドの職員がアディさんの所に勉強しに来ていると聞いた。
「そう考えたらこれはチャンスなのかもしれないよ?」
「そうは思いますよ……。いえ、そうですね。お金になるかもしれないのにリスクを考えて動かないのは商人失格ですね。ありがとうございます。決心しました」
どうやらいつきさんの背中を押したらしい。
こうなるといつきさんは行動が早い。
きっと近いうちにカレンの望みは叶えられるだろう。
そうこうしている間に僕達の謁見の順番が回って来た。
僕達が謁見の間に入ろうとすると、兵士さんがいつもの執務室に案内してくれる。
アレ?
執務室には、王様とシドさん、それにオルテガさんが待っていた。
「すまんな。本来は謁見の間で話をする予定だったんだが、あそこには他の貴族もいるからな。ここの方がお前等も話しやすいだろう?」
確かにこっちの方が使い慣れてない敬語を使わなくてもいいから楽と言えば楽だね。
「そうですね。お心遣い感謝します」
「ははは。さて、みつき、よいやみ報告してくれ」
よいやみはガストに行った一番の目的である、ソーパー王国のアストロさんとフラーブさんの養子候補が見つかった事を話す。
この事は王様も気にしていたらしく、無事養子が見つかりそうなので安堵したと言っていた。
次はガスト王から手紙を預かっている事を話し、シドさんに手紙を私王様に届けてもらう。
「ふむふむ。保存用パックか。使い勝手がいいからガストから仕入れて欲しいという要望が多かったのは事実だ。国でも同じモノを作れないかと魔法具研究所が研究はしていたが、まぁ、魔法具の技術はガストには遠く及ばん。もし、ガストから買えるのであれば俺達としてもありがたい。問題は俺達が何を売るかだな……」
「そこは魔大陸の魔物の素材でいいんじゃないんすか?」
「それも難しいんだ」
「何故っすか? 最近は冒険者の質も上がってきていて魔大陸で狩りをしている冒険者が増えたと聞いているっす。素材に関しては国が買い取ればいいんじゃないんすか?」
「そうなのだがな。この国には解体職がいない。いても、お前達の所のカレンとアディくらいだろう? 俺達も彼女達に仕事を頼んでいるが、二人しかいないからな。二人の腕がいいのは知っているが、流石に国同士の取引分を解体はできんだろう?」
「確かにそうですね。それなら私に良い案があるのですが」
「なんだ?」
いつきさんの案は、ソーパー王国から解体職を雇うという内容だった。
ソーパー王国には借りがあるので、優秀な解体職を数人雇う事ができるだろうと。
その職人に弟子を育ててもらい、アロン王国にも解体職を増やそうという事らしい。
「なるほど。それは良い案だな。すぐにソーパーと話をする事にする。それと、手紙には、他の魔法具も売り込みたいと書かれていたのだが?」
よいやみは、やと様に持たされた魔法具を次々に出していく。
ガストの魔法具はどれも優秀で、王様とシドさん、オルテガさんまで食いついていた。
そして近いうちにガスト王と会談をする事が決定して、両国が貿易をする事が決まった。
感想、気になる点などがあればぜひよろしくお願いします。
ブックマークの登録、評価もよろしくお願いします。




