12話 保管パック
誤字報告、いつもありがとうございます。
「ん……」
僕は朝日で目が覚める。
昨夜は遅くまでよいやみのお姉さん達にもみくちゃにされて、疲れてよいやみの部屋で寝たんだ。
今日もよいやみは僕の隣で寝ている……。いや、思いっきり抱きつかれているね。
体が痛いし、動けない……。
僕はよいやみを引き剥がし、ベッドから出る。
「うーん。今日はアロン王国に帰る日だったね。ゆーちゃんと十日も会っていないから寂しいけど、ゆーちゃんも同じ気持ちなのかなぁ……」
僕がそう呟くと「あしと二人は嫌っすか~?」と後ろから抱きつかれる。
「よいやみ、起きてたの?」
「あれだけ強く引き剥がされたら起きるっすよ」
「それだけ強く抱きついているんだよ」
「そんな事は覚えてないっす」
そりゃ、寝てたら覚えてないでしょ。
いや、ニヤケついてるって事は覚えているのかもしれない。
「そうっす。帰る前に親父に挨拶していくっす。それとキャションまでの転移魔法陣の使用許可も貰うっす」
「え? 自由に使えないの?」
「同じ国内なら問題ないっすけど、中立の町に転移っすからね。流石に自由という訳にはいかないっすよ」
「そうなんだ」
僕達は朝食を食べた後、ガスト王の執務室へと挨拶に向かった。
執務室にはやと様だけがいて、僕達を待っていてくれた。
ガスト王は謁見の予定があるらしく、挨拶はできないそうだ。
やと様はガスト王からの手紙をよいやみに渡す。
「じゃあ、責任をもってレオン陛下に届けるっす」
「頼むよ。それとよいやみ達の道具袋にはたくさん物が入るんだよね」
「え? 入るっすけど?」
「じゃあ……」
やと様が手を叩くと護衛兵士さんがいくつかの大型の魔法具を運び入れてきた。
「こ、これは何すか?」
「よいやみ、保存用パックだけじゃなく、これらも売り込んで欲しいんだ」
「はい?」
「保存用パックだけでは輸出コストを考えるとあまり利益にならなくてね。できれば利益を出したいから大型の魔法具も売り込みたいんだよ。だからよいやみ……」
「い、いや……あ、あの……」
「あ、アロン王国から買うモノは、魔大陸の魔物の素材かな? まぁ、ガストだけが売りつけるだけじゃ取引にならないからね。何があるのかリスト化もして欲しい」
「あ……はいっす」
よいやみは渋々魔法具を道具袋に入れる。
僕は今の魔法具を見てもどういった物かが分からないからよいやみに魔法具の説明を聞く。
大型のものは食品を冷やす冷蔵魔法庫、洗濯ができる洗濯魔法具らしい。それから、掃除に使える吸引魔法具の三つをメインに売り込みたいらしい。
どうやらガストでは軍事用の魔法具よりも、生活用の魔法具の開発に力を入れているらしい。
しかし……洗濯用の魔法具か……。
「洗濯ができるのはいいね。いつもは手で洗っているから便利になるのは良いけど、これは魔力が無くても使えるの?」
「使えるっすよ。確か魔石に魔力充電できて魔力が無い人にも使えるっす。これは結構な魔力を使うっすから、一般人でも使えるようにしてあるっす」
「そうなの?」
「人間は魔力がある人が殆どっすけど、亜人は魔力が無い人もたまにいるっす。その人達の為というのもあるんすよね」
「そうなんだね。安心したよ」
「それをいつきに話したら、いつきも洗濯魔法具を知っていたらしく、拠点用に三つほど買ってきてくれとお金を持たされているっす」
いつきさんは僕の事もちゃんと考えていてくれるんだね。
「それなら後で買いに行かないといけないね」
「そうっすね」
僕とよいやみが買う物を確認していると、やと様がわざわざ買う必要が無いと言って来た。
「開発部から最新型の洗濯魔法具の試作品を三つ用意するよ」
「本当っすか!?」
「あぁ。ブルット公爵家の取り潰しに協力してくれた報酬だと考えてくれればいいよ。ただ、使い心地などは聞きたいなぁ。それはよいやみに伝えてくれればそれでいいよ。よいやみには月に一度帰ってきてもらうからね」
「あれ? あしが苦労する未来が見えるっす」
「あはは……。その時はみつきさんも一緒に来ると良い」
「え? あ、はい」
やと様と別れの挨拶をした後、僕達は港町キャションに転移する転移魔法陣に乗りキャションに戻って来た。
キャションに戻った僕達は、時間の限り料理屋さんを回り、持ち帰りで料理を頼む。
これをカレンに食べて貰って料理を覚えて貰うんだ。
僕とよいやみは調子に乗って物凄い量を買ってしまった。
約束の時間になり僕達は港にやってくると、いつきさんがすでに待っていてくれた。
「遅くなったっす」
「いえいえ、私もいま来たところですよ。さて、帰りましょうか」
「うん」「そうっすね」
僕達はいつきさんの転移魔法でアロン王国へと帰った。
アロン王国に帰ってきた僕達は、冒険者ギルド経由で王様に報告にしに行こうとしたのだけど、僕達が長旅で疲れているだろうと、明日の朝に王様に報告に行くという事で面会申請をしてくれたそうだ。
「面会申請? 王様に会うのにそんな事をしなきゃいけないの?」
「普通は必要なんですよ。この国の陛下は一人で冒険者ギルドなどに現れますからよく勘違いされますが、一国の王に会うという事は、面倒な事をしなきゃいけないんです」
「そうなの?」
王族の事に詳しい、よいやみに聞いてみると「そうっすよ」と頷いていた。
「ガストで親父にあっさり会えたっすけど、それはあしが親父の娘だからという理由であって、普通であれば面会したくても、申請してから数週間後というのがざらっすよ。王と面会したい人はたくさんいたとしても、王は一人っすからね」
「そうですね。今回もよいやみさんとみつきさんだから明日会える事になったんですよ」
そうだったんだね。
今日はゆっくりできるというのであればゆっくりするとしよう。
その前にお土産を渡さないと。
僕はいつきさんに保存用パックを渡す。
「これは保存用パックですね。私もいくつか持っていますよ。今研究中ですしね」
「そ、それを作られると困るっす!!」
よいやみは必死になっていつきさんを止めようとしている。
そんなよいやみを見て何かを感じ取ったいつきさんは、僕に説明を求めてきた。
よいやみ、ごめん。
いつきさんに説明を求められたら断れないよ。
僕はガストで話した保存用パックを輸入する事をいつきさんに話す。
よいやみは簡単に口を割る僕を恨めしそうに見ている。
うぅ……。視線が痛いよ……。
いつきさんは僕達の様子を見てため息を吐く。
「よいやみさん、安心してください。量産なんてしませんよ。というか、一商人の私に国を相手に出来るほどの生産力があるわけないじゃないですか。保存用パックを研究している理由ですが、もう少し大きい物と小さい物など様々な大きさのものが欲しいのです。だけど、ガストは一種類しか保存用パックが無いので研究していたんですよ」
「じゃあ、研究しているのは大きさなんすか? 量産化じゃないんすか?」
「違いますよ。しかし研究は難航していますね……ガストの技術が凄いのはクロウディアさんも認めていますよ」
「そうっす。あの保存用パックは結構苦労して作られたっす。確か製作期間は研究含めて五年はかかっていると聞いた事があるっす」
五年はかなり長いね。
「よいやみさん。もしよかったら、ガストに大きさの違う保存パックの開発を打診してくれませんか?」
「もし、その話を親父に話せば研究をやめてくれるっすか?」
「そうですね。私としても、保存用パックの研究よりもポーションの研究をしたいんですよ。だから、話を通してくれれば研究をやめます」
「分かったっす。親父にはあしが責任をもって話しておくっす。あ、いつき、洗濯魔法具買ってきたっす」
「ありがとうございます」
「それは何だい?」
アディさんが洗濯魔法具を不思議そうに見ている。
「これで洗濯が楽になりますよ」
「そうなのか!? それはありがたいね。解体なんてしていると服も良く汚れるからね」
アディさんとカレンが洗濯魔法具を見てはしゃいでいるのを見て、ゆーちゃんは洗濯魔法具の中に入ろうとしたので僕が抱きかかえて止める。
「みーちゃん」
「ゆーちゃんダメだよ。これは試作品だからね」
「試作品?」
いつきさんの目つきが鋭くなる。
「よいやみさん?」
「な、何すか?」
「試作品ってどういう事ですか?」
「い、いや……そ、それは……」
「みつきさん」
「はい!!」
僕はいつきさんに、やと様から最新の洗濯魔法具の試作を貰った事を伝える。
よいやみは、洗濯魔法具を買った事にして、お金を僕と山分けにする予定だったらしい。
結局買ってきたのと変わらないからと僕とよいやみでお金を分けるように言われたけど、流石に騙すのは良くないと怒られていた。
その日の夕食は、僕達が買ってきた大量の料理を食べる事になった。
本当はカレン一人に食べてもらう予定だったけど「こんなに食べれないよ」と呆れた顔をされたので、皆で食べる事にした。
それでも量が多すぎて、結局、料理の殆どはよいやみのお腹の中に入る事になった。
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