8話 夜の女子会
50000PV超えていました。ありがとうございます。
ガストにあるよいやみの部屋は、そこまで広いわけじゃないけど置いてある家具は綺麗で絵本に出てくるお姫様の部屋そのものだった。
特にベッドはふかふかでとても寝心地が良い。これ欲しいなぁ……。
部屋にはお風呂も併設されており、二人でも入れるくらいの広さがあった。
よいやみが先に入っていいと言ったのでお風呂に入っていると、よいやみが乱入して来た。
別に乱入してくるのはいつもの事だから良いけど、よいやみは意外と胸が大きいので僕は自分の胸を見比べて、いつもショックを受けている。
お風呂から上がった僕達は部屋で寛いでいた。
僕がソファーで魔物図鑑を見ていると、よいやみが後ろから抱きついてくる。
「なに?」
「みつき~。一緒に寝るっす」
「は? 嫌だよ。僕はソファーで寝るよ。よいやみに抱きつかれると体中が痛くなるんだよ」
よいやみには抱きつき癖があり、更に寝ている時はパワーセーブもしないので、抱きつかれている方はかなり痛い目を見る。
寝ていて意識が無く魔力を使っていないから良いモノの、もし無意識で魔力を使われていたら体が壊れてしまう。
ゆーちゃんは僕とは一緒に寝るけど、よいやみと一緒に寝るのは避けている。
僕がよいやみから逃げ回っていると、扉がノックされた。
もしかして……公爵?
あ、確かレイチェル様も夜に来ると言っていたし……。
「よいやみ……」
「みつき、そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫っすよ。今のガストにあし等二人に勝てる強さの奴はいないっす。もし公爵だったとしても、あしが守ってやるっすよ」
そう言ってよいやみが扉を開けに行く。
「誰っすか?」
「私よ。レイチェルよ」
公爵じゃなくてレイチェル様だったんだ。
僕はホッと胸を撫で下ろす。
「今開けるっす」
扉を開けると、寝巻を着たレイチェル様と二人の女性が立っていた。
二人共よいやみと同じ金髪だ。もしかして……。
「やよい姉様、せいな姉様!」
「久しぶりね、よいやみちゃん」
「久しぶり」
金髪だったからもしかしてとは思ったけど、やっぱりよいやみのお姉さんだった。
「その子が勇者ちゃんね?」
「は、初めまして。みつきと言います」
長い髪の毛のお姉さんが僕を抱きしめてくる。
「初めまして。私はよいやみちゃんの姉のやよいよ」
今度はボブカットのお姉さんが挨拶をしてくれる。
「せいなという。よろしく勇者殿」
「よろしくお願いします」
「こんな入り口でなんすから、部屋に入るっすよ」
中に入ったレイチェルさんは僕達の分の紅茶を入れてくれた。
レイチェルさんも公爵令嬢なのだから、様を付けなきゃいけないと思ったんだけど、三人からさん付けでいいと言われ、言葉使いもよいやみの様に普通に喋って欲しいと頼まれた。僕もそれに甘えさせてもらう事にした。
よいやみのお姉さん達は身長が高く、やよいさんは身長の低い僕を気に入ってくれたみたいで、膝の上にのせたり、頭を撫でたりしてくれる。
子供じゃないから複雑だけど、好かれているのなら悪い気はしない。
せいなさんは部屋に来た時から無表情で嫌われているのかな? と思っていたんだけど、よいやみが言うには、せいなさんは表情を表に出すのが苦手らしいのだが、今はとても楽しんでいるとの事だった。
暫くは紅茶を飲みながら近況等の話をしていたのだが、せいなさんが突然「人魔王を倒したのはどっちだ?」と聞いてきた。
せいなさんはガスト魔導兵団の隊長だそうで、兄弟の中でよいやみを除いて一番強いそうだ。
だからか、アロン王国の人魔王の事が気になると言っていた。
「よいやみ、これって話して良いのかな」
「問題ないんじゃないっすか? ガストの上層部ならある程度調べていると思うし、ゼドラの事を話しても信じて貰えないっすよ」
「ゼドラ? 人魔王はティタンでは無かったのか?」
「うーん。姉様、他言しないでくれっす」
「分かった」
せいなさんはそう頷き、やよいさんとレイチェルさんも同じく頷く。
僕達は魔大陸での修行や人魔王との戦い、ゼドラの事、アルテミスの事を話す。
魔大陸の事にせいなさんとやよいさんは驚き興味津々だった。
レイチェルさんが「女神様に会ってみたいわ」と言ったので、アルテミスと交代してもらった。
三人ともアルテミスに変わった僕を物珍しそうに見ていたが、アルテミスと話していくうちに特にレイチェルさんがアルテミスと意気投合して長く話し込んでいた。
僕はアルテミスの目を通じて暫く話を聞いていたんだけど、徐々に視界が揺らいでいき意識を失った……。
そして、目が覚めたらよいやみが僕に抱きついて寝ていた。
「あ、あれ?」
僕は部屋を見回したけど部屋は既に暗く、僕とよいやみ以外誰もいなかった。
そうか……。
アルテミスとレイチェルさんが話しているのを聞いているうちに寝ちゃったんだ。
どうでも良いけど動けない。
相変わらずパワーセーブができていない力で抱きしめられると痛い。
僕はよいやみから闘気を使って無理矢理脱出して、フラフラの体で窓の外を見る。
どうやらこの部屋は城の中でも結構高い場所にあるらしい。
って、アレ?
僕って階段を上がったっけ?
いや、階段はなかったはずだ。
今はよいやみも寝ているし、聞くのなら明日でいいや。
そう思って外をぼーっと見ていた。
窓の外はお城の中と思えないくらい夜景がきれいで、星も見えた。
そう言えば、ここはお城の中なのに星空が見える……?
どうしてだろう?
僕は空をぼーっと見ているうちに、眠たくなってきて、その場所でそのまま寝てしまったようだ。
「ん……。朝か……。あ、朝日が見える。本当に不思議だなぁ……」
僕は、朝の町をぼーっと見る。
すると後ろからよいやみが抱きついてきた。
今度は起きているからちゃんとパワーセーブできている。
「みーつーき。起きてたっすか?」
「よいやみ、おはよう。ねぇ、寝起きで悪いんだけど一つ聞いていい?」
「なんすか?」
「僕達っていつの間にこんなに高い所まで来たの? 階段を上がったっけ?」
「あぁ、この城の王城部分は廊下がゆるい傾斜になっていて、少しずつ上に行く構造になっているんす。だから、あし達王族の居住スペースに来るのに結構時間がかかったっしょ? それは、ここまで上がるのにゆっくり上がって来たからっす」
「遠回りするなぁ……と思っていたけど、そうじゃなかったんだね」
「そうっす」
よいやみと二人で窓の外を見ていると、護衛兵士さんが食事を持ってきてくれた。
本来は侍女という人が持ってくるそうだけど、よいやみは普段はアロン王国にいる為お付きの侍女さんがいないらしい。それで護衛兵士さんが食事を持ってきてくれたみたいだ。
朝食が終わった後、ガスト王の執務室へと向かう。
昨日の夜の出来事の事で、ガスト王から聞きたい事があるから来てくれと護衛兵士さんから聞いたからだ。
どうやら公爵が好き勝手言っているらしく、よいやみの判断で公爵の今後が決まるとの事だ。
「よいやみも大変だねぇ。公爵一家の未来を決めるなんて」
「あぁ、こんなの形式だけっす。親父の中ではブルット公爵家はもうないモノとして考えているっす」
「そうなの?」
「昨日の公爵の行動は思ったよりも大きいっす。レイチェル姉様の様にやと兄様と婚約していたり、やよい姉様、せいな姉様と一緒にいれば問題は無いっすけど、本来王族の居住区に何の許可も入る事は許されていないっす。そんな事をしたら一発で処刑っす」
「そんなに厳しいの?」
「厳しくないっすよ。単純な話っす。公爵が来たのが昨日はあしの部屋だったっすけど、アレが親父の部屋ならどうするっすか? もし、あしが戦えないひ弱な姫だったら? そう考えたら決して厳しくないっす」
そうか。
よいやみの傍にいるから良く忘れるけど、よいやみはお姫様なんだ。
お姫様だからこそ、その立場を欲しがる輩が現れるのか。
そう考えたら、昨日の公爵の行動はかなり危険だ。
もし、国王の部屋だったら、暗殺に来たと思われてもおかしくない。
「理解してくれたっすか?」
「うん」
ガスト王の執務室の前に着くと、中から公爵の罵声が聞こえる。
捕まっているはずなのに……はぁ、入りたくないなぁ。
「さて、ムカつくっすけど入るっすよ」
「う、うん」
よいやみは扉をノックする。
「お父様、よいやみです」
「入れ」
ガスト王が許可してくれたので僕達は執務室に入る。
中には、ガスト王、やと様、エスタさん。それに昨日よいやみが拘束したままの姿の公爵が座らされていた。
「今日の予定もあっただろうが、わざわざ来てもらって済まなかったな」
「そんなは事ないです。今日はお父様にも用事がありましたから、どちらにしてもここに来る予定でしたわ」
アレ?
用事なんてあったっけ?
「そうか。みつき殿も済まないな。本来であればガストの町を観光でもして貰いたかったのだが、こ奴が言いたい事があるというのでな」
「あ、はい。大丈夫です」
ガスト王がそう言うので僕は頭を下げる。
公爵はよいやみの方に顔を向け怒鳴り散らしてくる。
「よいやみ姫!! 公爵であり、未来の義父に対してこの仕打ちは何だ!! いくら王族とはいえ、許される事ではない!!」
「何を言ってるんすか? あんたと身内になる事は無いっす」
公爵は僕とよいやみを睨んでいる。
「よいやみちゃんに聞きたい事がある」
「何すか?」
「コレの息子と結婚したいか?」
「そ、そうだ。よいやみ姫がワシの息子を求め「もし親父が結婚しろというのなら、あしはガストを完全に捨てるっす。あしにはみつきがいるし、今は黒女神の一員っす」
「く、黒女神だと!? あんな田舎王国の田舎勇者パーティに所属している事態王族としての「黒女神の悪口を言ったら殺すっすよ?」……え?」
公爵はよいやみの殺気に当てられている。
昨日の話だと、公爵は戦闘もしない人なんだよね。そんな人に殺気をぶつけたら死んじゃうよ?
「黒女神は勇者黒姫に惹かれて皆パーティを組んでいるっす。あしにとって黒女神は、お前みたいな屑の数万倍大事っす」
アレ?
誰も僕に惹かれていないよね?
強いて言うなら、ゆーちゃんが僕と一緒のパーティに居たいと言ってくれただけで、よいやみは借金の末だし、いつきさんはお金の為、カレン、アディは解体職として雇われている形だよね?
「みつき、何を考えているか大体わかるっすけど、あし等は……少なくてもあしはみつきに惹かれて黒女神にいるんすよ。いつきやゆっきー、カレンにアディも好きっすけど、みつきがいるから黒女神にいるんす。もっと自分に自信を持つっす」
「う、うん……」
そ、そんな事言われたら泣いちゃうじゃないか。
「まぁ、今はあし等の惚気は良いっす。お父様、婚約とやらは解消されたっすか?」
殺気を当てられた公爵は青い顔で小刻みに震えている。
今更誰を怒らせたか気付いたのかな?
「元々、縁談が来ただけで婚約など許可はしとらんよ。そもそも、正式な婚約申込書でもなかったからな」
「それもそうっすね。全く迷惑な話っす。こいつの息子って気持ち悪いんすよ。いつもいやらしい目で見て来るっすからね。貴族令嬢の中でも嫌われ者ナンバーワンっす」
よいやみ、よっぽど嫌いなんだなぁ……。
しかし、これでよいやみの縁談話は終わったのだろう。
でも、終わっていない男が一人だけいたみたいだ。
「では、ブルット公爵家には……」
「ま、待ってください陛下!!」
ここで執務室にいない人の声がした。
ん?
どこ?
あ、壁際に放置されている男の人がいる。
アレって、よいやみの事を気持ち悪い目で見ていた人だ。
「セブッソ。お前に発言の許可を出してはいないが?」
「しかし、私はよいやみ姫を愛しているのです」
こ、この人、自国の国王と言葉が通じていない。
そもそも気持ち悪いと言われているのに何言っているの?
「止めてくれっす。気持ち悪くて背筋がゾクってするっす」
「いや、私と結婚すればよいやみ姫を満足させて見せる。心も身体もだ!!」
「うわぁ……ガチで気持ち悪いっす」
「よいやみ……もう一度聞く」
「なんすか? あしの気持ちっすか? 死ねと思っているっすよ。あしが愛しているのはみつきっす」
え?
よいやみ何を言ってるの?
あ、セブッソって人が僕を睨んでいる。
……もしかして、巻き込まれた?
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