6話 驚愕
随分と遅れてしまいました。
誤字報告、いつもありがとうございます。
よいやみが僕の事をヒヒイロカネの勇者というと、ガスト王とやと様は驚愕していた。
大国の王がここまで驚くのだから、余程の事なのかな?
アロン王国の王様も何百年ぶりのヒヒイロカネと言っていたし、珍しいんだろうね。
「あしもオリハルコンの上というのは知っているっすけど、そんなに凄い事なんすか? あしからすれば、いつも横にいるから何が凄いのか良く分からんっす」
うん。そうだね。
当の本人も何が凄いのかさっぱりだしね。
あまり気にしていない僕達二人とは対照に、ガスト王とやと様は少し落ち着かないみたいだ。
「生きてヒヒイロカネの者と会えるとは思わなかった。しかし……」
「そうだね。父上が言いたい事は分かるよ。よいやみ、可愛い妹が嘘を吐く子じゃないのは分かっているが、もう数百年はヒヒイロカネの存在は確認されていないんだ。だからこそ証拠が欲しい。みつきさん、女神の魔宝玉で確認をとらせてもらってもいいかな?」
僕はよいやみと目で確認し合い、了承する事に決めた。
「分かりました」
断る理由も無いからね。
やと様がエスタさんに女神の魔宝玉を用意してもらい、僕の前に置いた。
僕は手を出すが、少し不安がある。
勿論、僕がヒヒイロカネなのは変わりないと思うが、問題は称号だ。
僕の称号は僕に対する悪口だ。
実際今まで、ごねるだの、悪あがきだの、そろそろ諦めろだの、散々悪口を言われたからなぁ……。
しかも質が悪いのが誰が言っているか分からない事だ……。
僕が女神の魔宝玉に手を置くと淡い光と共に文字が浮かび上がる。
【みつき】
ランク :ヒヒイロカネ
クラス :女神に選ばれた勇者
称号 :黒女神黒姫
悪口なんて言っていませんよ。私はみつきが可愛いだけです。
女神を宿し勇者
ほらね。
今回も訳の分からない称号があるよ。
しかし、今回は言い訳みたいに見えるなぁ……。
僕の称号にガスト王も、やと様も再び驚愕した顔になる。
「みつきの称号はいつも訳が分からんっすよね。まるで誰かが声をかけているような……」
何それ、怖い!?
でも、僕もそう思っているんだよね。
アルテミスは違うと言っていたし……一体、誰なんだろう?
「確かに称号には驚かされたが、ヒヒイロカネで間違いない。疑って悪かったな」
「僕も謝るよ。しかし、生きてヒヒイロカネを見ると思わなかったよ。あ、鉱石のヒヒイロカネは見た事はあるよ。そもそもこの国にあるからね」
「そうなんすか?」
「うん。誰も加工できないから扱いに困っているんだ」
伝説の鉱石であっても誰も加工できなかったら宝の持ち腐れだよね。
「しかし、伝説とまで言われ最強と言われるヒヒイロカネか……。アロン王国のレオン殿と会談を申し込む必要があるな」
「そうですね。みつきさんの事を知られれば、みつきさんを引き抜こうとする者も現れるでしょうね」
「そこまで何すか?」
「そりゃそうだよ。ヒヒイロカネの勇者を従えている、もしくは妻に迎えるというだけで箔がつくからね。みつきさんの価値はかなり高いよ」
うーん。
僕本人よりもランクか……。
「ダメっすよ。みつきは黒女神のマスコットっす。みつきはあし等黒女神のモノっす」
誰がモノだ。
「そもそも、みつきにはあしの嫁になってもらうっす」
こいつ……何言ってんだ。
「はは。仲が良いね。しかしヒヒイロカネが現れたのがアロン王国で良かった」
「あぁ。少なくともアロン王国には魔大陸を押し付けているという後ろめたさもあるが、あの国のレオン殿は誠実で良い王だ。前王のティタンとは格が違う」
王様の評価高いなぁ……。
しかし、魔大陸を押し付けるか……。
やっぱり、他の国では魔大陸は厄介な扱いなんだね。
「よいやみ。ガストでは魔大陸の事はどう教わっているの?」
「アロン王国と同じような教わり方っすよ。ただ、アロン王国よりは結界についての研究が進められているってくらいっす。まぁ、今となっては無意味っすけどね」
確かに移動手段があるとなると、結界の事を解明するのは無意味になるよね。
しかし、ガスト王はこのよいやみの言葉を無視できなかったようだ。
「どういう事だ? 魔大陸の結界の研究が無意味だと?」
「魔大陸に行く手段ができている以上、結界を無理に何とかする必要が無くなっているっす」
そうだね。
下手に結界を消したりしたら、魔大陸の魔物が解き放たれちゃうからね。
「ま、魔大陸に行ったのか?」
「行ったっす。今はアロン王国の転移魔法陣で魔大陸の魔王が治めるヴァイス魔国と直接行き来できるっす」
「まさか、あの未開の地に行く手段ができるとは……」
未開の地ではないんだけどなぁ……。
そもそも未開の地なら絶望の村の存在が矛盾しているじゃないか。
「親父、驚くのはそこじゃないっす。みつきは絶望の村出身っすよ」
「なにっ!? 魔大陸は強力な魔物、王種の巣窟と聞いたぞ!?」
そこまで王種の巣窟じゃないよ。
確かに魔大陸の魔物は普通より強化されているみたいだけど……。
「一ついいかい? 絶望の村は魔物に滅ぼされていると聞いたけど、アレはでまかせだったのかい?」
「でまかせっす。そもそもあの村の人間が魔物如きに殺されると思えないっす。やと兄様は熊を覚えているっすか?」
「熊? あぁ、グレンさんか。とても強かった。僕達じゃ束になっても絶対勝てないと思わされたね」
「そうっす。熊の強さは次元が違うっす」
「それがどうかしたかい?」
「みつきのじいちゃんは熊よりも遥かに強いらしいっす。あしが見た限り村人全員がオリハルコンクラスに強いと思うっす」
やと様は声が出ない程に驚いているみたいだった。
「さらに言えばみつきの母ちゃんも今のあし等よりも強いと思うっす」
「え? よいやみから見ればお母さんてそう見えたの!?」
「見えたっすよ。みつきはお母さんの仕事がお総菜屋さんだと思い込んでいたっすから、きっと正確に力を判断できなかったんすね。あしはみつきの母ちゃんを初めて見た瞬間から、この人には勝てない。と思っていたっす」
そうだったのか……。
気付かなかったよ。
「そ、そうか……よいやみちゃん。みつき殿の話も聞きたいが、よいやみちゃんが見てきたモノを教えてくれないか?」
「いいっすよ」
よいやみは自分の見てきたモノ、感じた事を詳しくガスト王達に説明した。
よいやみがガスト王達に説明を終えると、ガスト王は深いため息を吐く。
「そうか……。わし等としてもヴァイス魔国とは国交を結びたいものだな。しかし、魔法具の性能もすべて上か……。ガストは魔法具の生産に誇りを持っているからな。正直少し落ち込むな……」
「え?」
国交を結びたい?
おかしいなぁ……。
僕が首を傾げていると、ガスト王が怪訝な顔をしてくる。
「ん? どうしたのだ?」
「あ、あの……。ガストは既にヴァイス魔国と交流しているんじゃないんですか?」
「なに? 魔大陸のヴァイス魔国だろう? 初めて聞く国なのだが、どうしてそう思ったのだ?」
「えっと……」
僕はゼクスさんがよいやみの事を知っていた事、ガスト王の愚痴を直接聞いた事を話す。
僕がゼクスさんの特徴を話すと「そ、そうか!? か、彼の事か!?」とさらに驚いていた。
「ゼクス殿か……確かに愚痴った記憶がある。確か世界会議に出席していたのだ。それで話が合い、一緒に飲んだのだよ。その時に話をした。そうか、彼がヴァイス魔国の王か……」
ん?
ゼクスさんが王?
「違うよ。ヴァイス魔国の魔王はアリ姉だよ。ゼクスさんはヴァイス魔国軍の総指揮官だよ」
「なに? アリ姉? ゼクス殿が総指揮官?」
「うん。魔王アリス=ヴァイス。僕を妹のようにかわいがってくれている人」
「女性なのか?」
「うん。でも、僕よりも遥かに強い女性」
「「な!?」」
「そうっすね。あしでも勝ち目が無いっす」
「いや、よいやみは理解できるが、ヒヒイロカネのみつきよりも強いだと? という事は彼女もヒヒイロカネなのか!?」
「え? ヒヒイロカネに強さは関係ないでしょ?」
「どういう事だ?」
「だって、僕よりもよいやみの方が強いよ?」
「「な!?」」
もしかして、二人ともよいやみの強さを知らないの?
よいやみが全開魔力を使うと、僕じゃまだ勝てないからね。
全開魔力無しでも、十回やって半分勝てるかどうかだよ。思い出しただけでも悔しいなぁ……。
「よいやみちゃんも魔宝玉に手を置いてみてくれないか?」
「いいっすよ」
よいやみも魔宝玉に手を置くと淡い光を放ち、文字が浮かぶ。
【よいやみ=ダスク=ガスト】
ランク :オリハルコン
クラス :拳王
魔導大国ガスト第六王女
称号 :黒女神
破壊姫
???
え?
この【???】って何?
「よ、よいやみの称号にも何か増えてない?」
「本当っす。何すかね、コレ」
僕とよいやみが魔宝玉をジッと見ていると、エスタさんがこの表示について教えてくれる。
「これはまだ発現していない称号ですよ。称号が追加されたり書き替えられる事は良くあるのですが、たまにまだ覚醒していない能力がこういう形で表示される事があるんです」
ただし、この能力がいつ覚醒するかは分かっていないらしい。
中には天寿を全うするまで覚醒しなかった者もいるとエスタさんは言っていた。
「はぁ……今日はいろいろと疲れたな。よいやみ、明日も話をしたい。今日はガスト王城に泊まるのだろう?」
「そうっすね。レイチェル姉様とも約束しているっすから今日は泊まっていくっす」
「そうか、みつき殿には客室を用意しよう」
「その必要は無いっす。みつきはあしと一緒に寝るっす」
「え? あ、あの……」
「大丈夫っす。ベッドは大きいから一緒に寝るっす」
「だ、ダメだ!! 嫁入り前の若い娘が……一緒に寝るとは!?」
いや、僕も嫁入り前の若い娘なんだけど……。
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