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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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3話 オデット大陸

誤字報告、いつもありがとうございます。


 船旅三日目に、クラーケンに襲われるというハプニングがあったが、その後は何も起きずにオデット大陸に到着した。

 大きな港に到着した僕達は船から降りる。

 ここから見るかぎり、かなり大きな港町だ。


 故郷に帰ってきて懐かしい気分になったのか、よいやみは思いっきり両手をあげて背伸びしている。


「うーん。ようやく到着したっす。懐かしい空気っす」

「よいやみの故郷のガストに到着したんだね」

「みつき、ここはオデット大陸っすけど、この港町はガストでは無いっす。この港町キャションはどの国にも属していない中立の町っす」

「そうなの? だったらここからはさらに移動するの?」

「迎えを頼んであるっすから、そいつが来るまではこの町でゆっくりするっす」


 よいやみはそう言って、僕と腕を組んで歩き出す。


「ちょっ!? よいやみ、どこに行くの!?」

「いいところっす」


 よいやみにしっかりつかまれているので動けない僕は、歩かせられながら周りを見る。

 中立の町だけあって、色々な種族の人達が歩いている。

 あ、アレは豚人だ。それにあっちはリザードマン。鬼族もいる。

 人間と豚人が仲良くしていたり、鬼族と牛人が怒鳴り合っている。

 やっぱり色々な種族の人達がいれば、いろいろと問題ができるみたいだ。

 よく考えれば、ここがガストだったら、停戦中のレギーナ帝国の将軍さんが、ガストに到着する船の護衛をするわけがないよね。


「ねぇねぇ、よいやみ」

「なんすかー?」

「この町では色々な種族の人達が仲良くやっているみたいだね。まるで、ヴァイス魔国みたいだ」

「それは甘いっす。あしがヴァイス魔国を見た時に驚いたのを忘れたっすか? この町がどこの国にも所属していないという事は、町を守る国が無いという事っす。例えば、この町で殺しがあったとしても、どの国も動かないっす。いや、動けないっす」

「え? それなら、この町は犯罪者が多いの?」

「違うっす。この町には自警団と呼ばれるミスリル以上の冒険者達で作られた組織があるっす。彼等が町の治安維持に努めているっす。この港を使う各国は、その自警団に融資をしているっす。当然ガストからも補助金が出ているっす」


 自警団?

 そう言えば村にもあったね。


「ガストはどうなの? 亜人とは上手くやっているの?」

「そうっすね。そもそも、今どき人間至上主義なんてやっている国はもう古いっす。アロン王国も人間至上主義が根付いているっぽいっすけど、レオン陛下はその辺りが分かっている人なので、これからは大丈夫だと思うっす。ちなみにガストの王族はあしの家族っすから人間なんすけど、親父が最も信頼している宰相にはエルフのおじさんが就いているっす」

「え? エルフと人間って仲が悪いんじゃないの?」


 エルフが人間を嫌っているのは周知の事実だ。

 

 僕が読んだ本には、仲が悪い理由は、はっきりしていないと書かれていたけど、最も有力な説として、千年前にあったといわれている聖魔戦争で、人間がエルフを裏切ったのが原因と言われている。

 これはあくまで一説だけど、他の説も、どちらかが裏切ったという話ばかりだ。

 どの本を見ても、そんな事ばかり書かれていたから、人間の国にエルフの宰相さんがいるというのを聞かされてとてもビックリした。


「みつきは魔大陸にいたから、情報が古いかもしれないっすね。そう言えば、ヴァイス魔国にはエルフはいなかったんすか? 交流は無かったんすか?」

「僕は見た事が無いかな? あ、でもダークエルフのお姉さんは見た事あるよ」


 ダークエルフがいると言った時点で、よいやみにはエルフがいない理由が分かったらしい。


「元々、魔大陸に行く手段が無かったのはあると思うっすけど、ダークエルフがいる町にはエルフは近付く事は無いっす。彼等は顔を合わせただけで争いに発展すると聞くっす」


 そうなんだ。

 見た目的に、エルフとの違いなんて肌の色くらいなのに、いがみ合っているんだね。



 僕達は食事をとるために、よいやみが美味しいと言っていたお店に入る。

 この町は海が近いだけあって魚介類が美味しいらしく、このお店の魚料理は絶品だそうだ。


 僕達のテーブルには料理が一杯に並べられた。

 僕一人ではこんなに食べられないけど、よいやみがいれば足りないかもしれない。

 ウエイトレスのお姉さんは、よいやみに気付いて握手を求めていた。


「よいやみ、やっぱりお姫様だから人気者だね」

「そうっすか? それよりご飯が冷めるっすから、食うっす」


 そう言ってご飯を食べ始めるよいやみを見て、僕もご飯を食べ始める。


「美味しい!」

「そうっしょ。ここの魚料理の味は絶品っす」


 いつきさんが作る料理の中にも魚料理はあったし、美味しかったけど、ここの料理は根本的に魚の美味しさが違う。

 アロン王国は海から結構離れているので、海魚は売られていなく、川魚がメインになるんだけど、独特の臭みがでてしまう。

 絶望の村では、海には出れなかったから海魚は食べた事は無いんだよね。

 こんなに海魚が美味しいとは思わなかった。


「カレンにも食べさせたいね」

「何故っすか?」

「だって、この料理を食べたらカレンのレパートリーが一つ増えるかもしれないでしょ?」


 今の僕達の食事担当はカレンがメインで、僕達は手伝うくらいになっている。

 カレンの料理も絶品だけど、基本魔物の食材が多い。


「そ、それは良い考えっす!! お姉さん! 追加注文っす!!」


 よいやみは、今食べている料理と同じものを注文する。持ち帰り用と言っていた。

 宿で食べるのかな?

 暫くすると半透明の入れ物に入った料理がよいやみに渡される。


「その半透明の入れ物は何?」

「これは保存用パックっす。透明の入れ物に保存魔法をかけた屑魔石を取り付けてあるんすよ。これで屑魔石が割れるまで保存できるという事っす。料理等を保存するのに重宝しているっすよ。ガスト開発の魔法具っす」

「え? という事は使い捨てなの?」


 この半透明の入れ物は結構便利そうなのに。


「違うっす。保存魔法をかけた屑魔石を取り換えればいいだけっす。ガストでは保存用パック専用の屑魔石が売られているんすよ」


 ガストは屑魔石も有効利用しているんだね。

 それに比べてアロン王国では役に立たないと屑魔石は買い取ってもらえない事が多い。

 だから、この魔法具を見た事が無いんだね。

 

「これをいつきさんのお土産にすれば喜ぶかな?」

「別にお土産にするなら止めはしないっすけど、複雑っす」

「なんで?」

「あしはガストを捨てた人間っすけど、それでもガストの魔法具には誇りを持っているっす。魔法具はガストの名産っすからね。しかし、いつきやクロウディアさんの魔法具を見て凄いと思ってしまったっす。もし、いつきに保存用パックをお土産にしたら恐ろしいモノを作りかねないっす」

「うーん。それは大丈夫じゃない?」

「なぜっすか?」

「だって保存には道具袋があるじゃないか。圧倒的に便利な物があるのにわざわざ保存用パックを作るかなぁ?」

「甘いっす。自分が使う為でなくて売る為っす。いつきは金になれば何でもやるっす。そもそもアロン王国には無いんすから作る可能性が高いっす。親父に言って先手を取っておくっす」

「先手?」

「そうっす。アロン王国に輸入させるっすよ。それならいつきも作る気を無くすかもしれないっす」


 よいやみも色々考えているんだなぁ……。


「それで、その料理をどうするの? 宿で食べるの?」


 よいやみは料理を道具袋に入れる。


「違うっすよ。いつき特製の道具袋は時間停止の効果があるっすから、カレンに料理を食わせるっす。もしかしたら、ここの味を再現してくれるかもしれないっすから」

「うん。それは良い考えだね」


 僕達が楽しく食事をしていると、お店の中が騒がしくなる。

 どうやら客同士で喧嘩が始まったみたいだ。


「まったく、うるさいっすねぇ。人が良い気分で飯を食っているのに興が冷めるっす。ちょっと行ってどついてくるっす」


 そう言って、よいやみが立ち上がる。


「よいやみ、別に首を突っ込まなくていいじゃない」

「それは駄目っすよ。あし等に絡んでくるのなら、火の粉を払うだけでいいっすけど、ここには他のお客さんがいるっす。誰かが止めないと、せっかくの食事が不味くなってしまうっすよ。じゃ、ちょっと行ってくるっす」


 そう言ってよいやみは暴れるお二人の所へと歩き出し、二人の間に入りパンチを止めて、二人を殴り始める。二人も殴り返そうとするが、よいやみが圧倒的な力でどつきまわしていた。

 そして、二人が静かになると、お客さん達から大歓声が起こる。


「よ、よいやみ姫だ!!」「よいやみ姫が帰って来た!!」

「綺麗だ!!」「男どもが一方的に倒されたぞ!!」「お帰りなさい。よいやみ様!!」


 どうやら、このお店にいるお客さん達はよいやみの事を知っていたらしい。

 やっぱり大国のお姫様だからかな?

 僕は近くのお客さんによいやみの事を聞く。


 お客さんが言うには、よいやみはグレンさんと共に、この町で悪者退治みたいな事をしていたらしい。

 その結果、見た目も良く、血筋も良いよいやみはこの港町の人気者になったらしい。今も、よいやみの周りには人だかりができている。

 そんな人の壁を掻き分けて、よいやみが僕の所へと帰ってくる。

 さっきまで話題になっていたよいやみが僕の所に来た事にお客さんは驚いていた。


「参ったっす。ちょっと、ゴロツキを痛めつけたらもみくちゃにされたっす」

「よいやみはこの町で人気者なんだね」

「この町では結構暴れたっすからねぇ。その時の影響じゃないっすか?」

「見ていて凄かったよ」

「そうっすか? あしはみつきだけいればいいっす」

「何言ってんの?」

「どっちにしても、これ以上この店でゆっくり食事はできないっす。出るっすよ」

「うん」


 僕とよいやみはお店から出る。

 食事の料金はよいやみが騒ぎを収めたからとタダになった。

 店を出る時、「よいやみ姫と一緒にいるのは誰かしら?」「あの子もかわいい」との声が聞こえた。

 

 僕はただの小娘ですよー。お姫様とは違いますよー。

 僕は振り返らずに店から出た。


 お店を出ると、豪華な馬車が停まっていた。

 誰か貴族でも来たのかな? と思ったのだけど、馬車から出てきた人は、よいやみに膝をついて「お迎えに上がりました」と頭を下げていた。

 ガストの人だったんだ。


「親父にはバレてないっすか?」

「はい。ガスト王は今日も公務に追われております。エスタ様が仕事を押し付けたと言っておりました。さぁ、お連れの方も一緒にどうぞ」

「え? ぼ、僕はここで待っているから、よいやみ一人で行けばいいよ」

「ダメっす。みつきの事をあしの恋人として紹介するっす」

「ちょっ!? 恋人って何だよ!?」


 よいやみの発言に馬車で迎えに来た男性が驚く。


「よいやみ姫の恋人は勇者様だったのでは……?」

「そうっすよ。みつきが勇者っす」

「え!?」


 男性の顔は更に驚愕する。

 何故驚いているのか聞いたところ、ガスト王から「男の勇者と恋仲になっているから、一緒に返ってきた場合、男だけは馬車に乗せるな」と言われていたらしい。

 どうやら、ガスト内では僕は男と認識されているようだ。

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