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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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2話 海の王種 クラーケン

一部おかしい所があると指摘があったので直しました。

報告してくれた方ありがとうございます。


 よいやみとゴロクさんは睨み合う。

 暫く睨み合ったみたいだけど、先に動いたのはゴロクさんで、今にも腰に差した剣を抜こうとしている。

 それを見たよいやみも、いつでも攻撃できるように構える。

 張り詰めた空気に甲板にいた他の乗船客が騒ぎ始めた。


 そんな二人をレギーナ帝国の冒険者も見ていたらしく、慌ててゴロクさんを止めに来る。


「ゴロク様、魔物ですか!?」

「いや、魔物じゃない!? お、女の子!?」

「し、しかし、あの子どこかで……」


 冒険者達は、二人を見てそんな感想を言っている。

 そんな事を言っていないで、ゴロクさんを止めてよ。

 僕は震える足でよいやみに近付き、止めるために後ろから抱きついた。

 するとよいやみは「いきなり何すか? もう、みつきは甘えたさんっすねぇ」と馬鹿な事を言い出す。

 顔を見るとニヤニヤしている。

 え?

 さっきまで殺気を出して本気だったじゃない!?

 そんな僕達を見てゴロクさんが笑い始めた。


「ははは。何もこんな所で戦いはせぬよ。勇者殿は心配性だな」

「そうっすよ。あしはこう見えても思慮深い王女っすよ。そもそも、ガストとレギーナは停戦中なのに、こんな所で勝手にレギーナの将軍とガストの王女という立場の人間が戦えば、それこそ戦争になるじゃないっすか。少し考えたらわかるはずっす」


 えぇ~。

 どうやら二人は戦うつもりは無かったらしい。

 しかし、あの時の二人の表情、本気にしか見えなかったよ


「しかし、こんな所でよいやみ姫に会うとは思わなかったぞ。ガストから家出したと聞いていたが、やはりグレン殿に唆されてか?」

「あの熊はそこまで考えていないっすよ。ガストを出たのは武者修行の旅っす」

「ははは。武者修行か。今はグレン殿は何処いずこへ?」

「熊は魔大陸にいるっす」

「魔大陸か!? アロン王国が魔大陸の絶望の村と同盟を組んだと聞いたが、どういう意味だ? もともと絶望の村はアロン王国の領土だろう?」


 ん?

 アロン王国が絶望の村と同盟?

 ヴァイス魔国じゃなくて?

 よいやみに視線を移すと、首を横に振っている。

 もしかして意図的に隠している?

 そうなら、話すわけにはいかないね。


「ふむ。どうやら話せぬようだな。まぁいい。それで、よいやみ姫は今から里帰りですかな?」

「そんなところっす」

「ねぇ、よいやみ」

「なんすか?」

「ゴロクさんってグレンさんの事を知っているんだね」

「そうっすよ。熊とゴロクさんの師匠は何度か戦っているっす。あしは見た事が無いんすけど、ゴロクさん曰く、熊とその師匠は互角らしくて、次元が違う戦いだったらしいっすよ。ゴロクさんは見た事があるんすよね」

「あぁ。あの戦いは異常だった。どう考えても拙者が生きている間には追い付けないと思ってしまった」


 えぇ!?

 グレンさんってじいちゃんみたいに強くて、全開魔力のよいやみでも手も足も出ないくらいなんだよ。そんな人と互角って……。

 ゴロクさんの師匠ってそんなに強いんだ。


「しかし、よいやみ姫がヒヒイロカネの勇者と一緒にいるとはな」

「ちょっ!?」

「ゴロクさん。みつきがヒヒイロカネって大声で言っちゃダメっすよ。秘匿なんすから」

「その事なのだがな、レギーナ帝国にいる冒険者達はヒヒイロカネの事を知っている。だが、あくまでおとぎ話としてだ。正直な話、拙者達の様なオリハルコンですら滅多に現れないというのに、その上のヒヒイロカネはあまり信じている者がいないのだよ。今まででランク・ヒヒイロカネになったのは伝説の勇者《覇王》だけだからな。拙者も正直な話、あまり信じてはいなかった」


 おとぎ話か。

 確かにそうかもしれないね。


「アロン王国でヒヒイロカネの勇者が現れたと噂が出た時は驚いた」


 え?

 噂って何?


「あぁ、どうしてそんな噂が遠く離れたレギーナまで広まるかと疑問に思っているといった顔だな。アロン王国には……いや、国同士には色々あってな。間者を送る事など日常茶飯事だ。レギーナにもアロン王国やガストの間者がいるのを知っている。だから、噂が流れたという事はそこは流すつもりで流したという事だろうな。勿論、君の名はおろか性別ですら流れていない。しかし、伝説上のヒヒイロカネの勇者なのだから、英雄バトス殿よりも巨大で、グレン殿や拙者の師匠の様な化け物と思っていたのだが、まさかこんなに可愛らしいお嬢さんとはな」


 面と向かって可愛いと言われると、少し恥ずかしいね。


「しかし、さっきの話を聞く限り、よいやみ姫もオリハルコンなのか?」

「そうっすよ」

「という事は、かなり強くなっているようだな」

「うん。ヒヒイロカネの僕よりもよいやみの方が強いんだ」

「そうなのか!?」


 ゴロクさんは驚愕し、よいやみをジッと見ている。

 しかし、すぐに顔を元に戻し笑った。


「もし、そうならば一度手合わせしたいものだ。拙者も最近は護衛ばかりで腕がなまっているからな」


 僕達が談笑を楽しんでいると、船が急に揺れ始めた。

 僕は、近くの手すりにしがみ付く。


「みつき、大丈夫っすか!?」

「落ちるー!! 助けてー!!」

「大丈夫っす。お姉さんが傍にいてやるっす」


 そういって、僕を抱きしめてくれる。

 怖いー。

 海に落ちたらどうするんだよぉ。

 僕は半泣きでよいやみにしがみ付く。


 パニくる僕と違いゴロクさんは落ち着いている。


「この海域でこんなに船が揺れる事は無いのだが、何が起きているのだ?」

 

 ゴロクさんが揺れる船の手すりを持って、海を見ると、海から大量に何かが飛び出してきた。

 アレは!?


「こいつ等はソードスクイッドだ!! 中級の魔物で刃物のように硬い皮膚で飛び込んで刺さりに来るんだ!! みんな、気を付けて!!」


 僕は冒険者さん達にソードスクイッドの事を教える。

 ゴロクさんが前に出て剣を抜いて飛び出してくるソードスクイッドを次々と斬り落としていく。

 十数匹飛び込んできて、海は穏やかになっていく。

 ゴロクさんがその隙に冒険者に指示して甲板にいた客を船室へと避難させた。


 僕も震える足で何とか立ち上がり、アルテミスを抜く。

 しかし、よいやみが僕を座らせる。


「みつきは大人しくしているっす。ここはあしに任せておくっす」


 よいやみは海を見ながら笑う。


「こいつ等はイカなんすから食えるんすよね?」

「うん。食用としても有名だけど、硬くて調理が難しいんだって」

「そうなんすか? まぁ、カレンとアディなら上手く捌いてくれるっすよ!!」


 よいやみは船の手すりに乗り、魔物を待つ。

 すると、そんなよいやみを狙いソードスクイッドが襲いかかって来た。

 しかし、よいやみはこれを軽々と叩き落としていく。

 後で食べる為に潰さないように的確に叩き落としている。

 しかも恐ろしい事に全て一撃で仕留めている。


「みつき、ゆっくりでいいっすから、そのイカを回収しておくっす」

「う、うん」


 僕はソードスクイッドを道具袋に詰めていく。

 よいやみが数百匹叩き落とすと、海が再び静かになる。

 これで終わりかな?


「し、しかし。これはどういう事だ? この船には魔物避けの紋章が描かれている。こいつ等が上級の魔物であれば紋章の効果が無かったのも理解できるが、こいつ等は中級だろう?」

「分からんっす。ガストの紋章師の腕は確かっす。だから効果が無いはずは無いっす。でもこの数は異常っすね。まだ、何か来そうっす」


 よいやみは勘が良い。

 僕には生体感知があるけど……!?

 僕は急いで海を見る。

 すると海の一部が盛り上がり、大きなイカの魔物が現れた。

 

 そのイカの魔物を見て冒険者達は青褪めている。

 ゴロクさんも剣を構えたまま驚愕していた。


「ば、馬鹿な。王種クラーケンだと?」


 クラーケン。

 海の魔物の中でも巨大な部類のイカの魔物だ。

 王種らしく下級のイカの魔物を従えているイカの王様だ。だから、ソードスクイッドが紋章を無視して襲いかかってきたのだろう。


 こいつの厄介なところは海にいるという事だ。

 倒すにしても近づけずに船が沈められるケースが多く、冒険者の間でも出会ったら終わりと言われているらしい。

 僕達が戦おうとすると、ゴロクさんが前に出る。


「この船は拙者達が護衛している。ここは拙者達に任せてもらおう」


 ゴロクさんは冒険者達に指示を出す。

 冒険者達も怯えながらも、それぞれが配置につき王種に挑もうとしている。


 そして冒険者達は一斉に火属性魔法のファイヤーボールをを撃ちこんだ。

 しかし、クラーケンには効いていない様で、長い足を船に叩きつけようと振り上げた。

 ゴロクさんは、足が甲板に直撃する瞬間に足を斬り刻む。

 今の斬る速度は物凄く速かった。

 足を斬られたクラーケンは、別の足でゴロクさんを叩き潰そうとしてくる。が、ゴロクさんはその足も斬り刻んだ。

 

 するとクラーケンの本体が船へと急接近して来た。

 冒険者達も必死に槍などを投げて応戦している。

 クラーケンは冒険者達の攻撃に少し怯んだりしているが、それでも船を襲おうと接近しようとしている。

 その時、海から何本もの足が現れた。

 完全に不意打ちだったので、冒険者が数人叩きつけられた。

 ゴロクさんは足を斬っていくが、数が多く、その間も冒険者達は次々叩きつけられている。

 ゴロクさんは息を切らしながらも全ての足を斬り落とし、そして手すりに立った。


「これで終わりだ!!」


 ゴロクさんの剣に稲妻が走った。

 雷の魔法剣だ。

 ゴロクさんは高く飛び上がりクラーケンの本体に斬りかかる。


「雷神剣!!」


 ゴロクさんがクラーケンに剣を突き立てると、クラーケンの体が一瞬で焼け焦げる。

 そのままクラーケンは力を失い、海に浮かんでいた。

 ゴロクさんは疲れ切った顔でクラーケンの上に座った。

 生体反応がもうないので、倒したのだろう。


「ふぅ。クラーケンが現れるとは驚きだった。皆の協力があって何とか倒せたか……。怪我人の治療を優先しろ!!」


 ゴロクさんは船に上がってくると同時に冒険者に指示をする。

 その時、再び海が盛り上がった。

 しかも、今度は二か所同時にだ。

 クラーケンは一匹ではなかったみたいだ。


「ば、馬鹿な……」


 冒険者達もその場に崩れ落ち、ゴロクさんの顔も青褪める。


 ゴロクさんも再び立とうとするがとてもじゃないが戦えそうにない。

 海は怖いけど……戦うしかないよね。


「みつきー。一匹倒せるっすか?」

「う、うん。海が怖いけど大丈夫だと思う」

「ま、待て!? まさか戦うつもりか!?」

「そうっすよ。倒さないと海の藻屑になってしまうっす」


 そう言って、よいやみは魔力を解放させる。全開魔力だ。

 僕も試したかった事を試す事にする。

 アルテミスをイメージして……。

 僕は両手に闘気を纏わせ、弓を引くように両手を広げる。

 できた……。


「神技 月光衝!!」


 僕の放った闘気の矢は一筋の光になってクラーケンの体に大きな穴を開ける。

 この一撃でクラーケンは絶命したらしく、海に浮いていた。

 これで僕の方は片付いたよ。

 そう思った瞬間、よいやみの方でも大きな音がした。

 よいやみが海に飛び込みクラーケンの体を貫いていた。


「みつきー。終わったっすかー?」

「僕の方も終わったよ」


 よいやみは船の甲板に戻ってくる。

 手にはクラーケンの足が握られていた。


「よいやみ。それをどうするの?」

「それってクラーケンっすか?」

「うん」

「持って帰るっす。アディが喜ぶっすよ。道具袋に入れるっす。みつきの方も取って来るっす」


 そう言って、よいやみは僕が倒したクラーケンの足を持って甲板に戻って来た。


「これで道具袋に収納できるっす」

「そうだね。カレンがどう料理してくれるか楽しみだね」


 喜ぶ僕達をゴロクさんが呆然と見ていた。

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