22話 ソーパー教会のこれから
いつも誤字報告ありがとうございます。
大司教に裁きを宣言して串焼きを振り回すセリティア様。
その姿からは威厳というモノはまるで感じられない。
しかし、セリティア様はそんな事は気にせず、えりかさんに指示を出す。
「えりか、アイツを捕まえろ!!」
「はぁ……クレイザー君。頼めるかい?」
「任せてよ!!」
クレイザーからすればセリティア様は只の態度の大きな子供でしかないだろう。
だが、幼馴染のえりかさんに頼まれては断れないようだ。それどころか、心なしか嬉しそうに見えた。
クレイザーは走って大司教を拘束しに行く。
僕達からすればクレイザーの動きは早く感じられなかったが、お坊ちゃんの大司教クリストファーには反応できなかったらしく、アッサリと捕まっていた。
大司教は、クレイザーに取り押さえられた後も「無礼な! 私は大司教ですよ、放しなさい!!」と叫んでいた。しかし、正義の心を持っているクレイザーは手を放さない。
まぁ、役に立ってはいるんだけど、正義を想う心が強いのかは知らないけど、いちいち光り輝くのは止めて欲しい。目が痛いよ。
無事、大司教を捕らえた後、えりかさんがセリティア様の手を引いて、いつきさんの前へとやってくる。
「いつき様。この男をどうするのですか?」
「もちろん教会の法典に則りに裁きます。と、いうよりもソーパー王国に引き渡しますよ。その前に神罰を加えたいのですが……セリティア様には無理でしょう?」
「うん。あのババアに神罰を使ったから、神罰を使えるほどの神気はないよ。もし、女神長に封印されてなかったら恐怖を植え付けていたんだけどね」
「そうですか……」
いつきさんはセリティア様の頭を一撫でした後、僕に視線を移す。
「みつきさん。アルテミスさんと入れ替わってくれますか?」
「うん。神罰を使うの自体は反対はしないけど、もっといい方法あるんじゃない?」
「どういう事ですか?」
「ここで神罰を与えて苦しめるよりも、この国の人達の前で罰を与えた方がえりかさんを受け入れ易いんじゃないかな?」
「ん? みつきちゃん。話しが見えないのだが私がなんだって?」
あ、いつきさんはまだえりかさんに話していなかったのかな?
ここは僕が説明するよりもいつきさんが説明した方が良いだろう。
「僕が説明するよりも、いつきさんが説明した方が理解を得られるんじゃないかな?」
「そうですね。えりかさん。貴女にはこのままソーパーに残ってもらい、大巫女として教会を仕切って欲しいんです」
「私がですか!? 確かにアロン教会では巫女長を務めておりますが、私になんかできるかどうか……」
「いえ、貴女は私が最も信頼している巫女です。貴女ならばきっと大巫女として立派に教会を導いてくれると信じています。引き受けてくれますか?」
いつきさん。
今の言葉はずるいよ。今のを聞いて断れる人はいないと思うよ。
普通に考えれば、故郷を離れてこんな問題のある教会に残ってくれと言われたら、拒否するのが当たり前だろうけど、えりかさんはいつきさんを敬っているみたいだから困っているのかな?
でも、えりかさんはどこか楽しそうな顔をしている。
「分かりました。護衛としてクレイザー君を、この教会に常駐させましょう」
「えぇ、えりかさんにはクレイザーさんが良いと思っていたのですよ。えりかさんをソーパーに派遣させるときにギルドに話しクレイザーさんを一緒に派遣する予定だったんです」
「ははは。最近は意味不明に光って迷惑でしたが、私の周りにいる男性の中では最も信頼できる男ですからね」
「まぁ、妬ける事ですね」
いつきさんとえりかさんが盛り上がっているのをクレイザーは茫然と聞いている。
そんなクレイザーをよいやみが哀れな目で見ていた。
「良かったっすね。えりかさんに好かれているみたいっすよ。まぁ、お前の意見は誰も聞いていないっすけどね」
「ははは。いつもの事さ……。まぁ、えりかとは幼馴染だし、アイツが困っていたら助けてやりたくなるのも事実だからね。暫くはソーパー暮らしか……まぁ、いいけどね」
うーん。
かっこいい事を言っているんだけど、ドヤ顔で言うもんだから発光が強くなるんだよね。だから目が痛いよ。
僕がクレイザーから目を反らすと、いつきさんが僕の前に立っていた。
「で、みつきさん。さっきの話の続きを聞かせてくれませんか?」
「続きと言っても、さっき言ったことが全てだよ。ようはクリストファーだっけ? アイツに全責任を負ってもらったうえで、ソーパー王国に裁いて貰うだけだよ。で、ソーパー王の要請でアロン王国から力のある巫女さん、えりかさんを紹介して貰ったら、受け入れられるかな? と思ってね」
いつきさんは少しだけ考えてから、手をポンっと叩き「成る程。それは良い案ですね」と笑顔を向けてくれた。
うん?
何やら寒気がするぞ?
「そうと決まれば、早速ソーパー王に相談しましょう」と僕達を強制的に転移させる。
教会の人間で連れて行くのは大司教であるクリストファーだけだ。
残った神官達は、クレイザーといつきさんが潜入させていた神官達に見張ってもらう事になった。
僕達がお城に戻って騎士団長であるフラーブさんに報告して、兵を出してもう予定だ。
その間に逃げられても困るから、誰かが見張ってないとダメだからね。
ゆーちゃんの話では、あと数時間はひーりんぐの効果は続くと言っていたので、逃げる事は不可能だとおもうけど、万が一に備えてね。
とはいえ、そんな地獄絵図をあと数時間は見なきゃいけないクレイザーと名もなき神官さんには同情する。
精神が壊れない事を期待しよう。
突然転移してきた僕達をソーパー王は咎める事も無く部屋に迎えてくれた。
まずは騎士団長のフラーブさんに、神官やシスターの事を報告して、兵を向かわせてもらう。
そうじゃないとクレイザーと神官さんが可哀想だからね。
え?
ひーりんぐ被害者の神官やシスターはどうだって?
アレは自業自得でしょ。
「こいつが全ての元凶か。教会の関係者とは何度も会っているが、大司教とは会った事が無かったな。教会を牛耳る男がどんなものかと思ったが、どこにでもいるような男だったな」
大司教のクリストファーは元々気が弱いらしく、ソーパー王が一睨みしただけで涙を流し、失禁したみたいだ。
これにはソーパー王も呆れたらしく、兵を呼んで地下牢獄に連れていくよう命じた。
しかし、クリストファーも牢獄にいれられるのは嫌だと暴れ出す。
暴れるクリストファーをフラーブさんが殴りつけ、剣を突き付けて無理やり地下牢獄へと連れて行った。
その二時間後、教会内部で失神していた、ひーりんぐ被害者達もソーパー軍の兵士達が全員捕縛したとの連絡が入った。
一人一人の罪の重さが違うのは当たり前だが、元のソーパー教会は犯罪の温床だったので一番軽い罪の者でも国外退去になるとの事だ。
当然、神官達は重い罪が課せられる。
その中には処刑の者もいる。
シスター連中はあくまで娼婦だったらしく、国外退去で済むとの事だ。
ただ、今回の事件は教会にいた全ての人物が対象となる為に、全てが終わるには時間がかかるそうだ。
その日の夕食は、お城でソーパー王達と取る事になった。
王妃様や王太子のヨハン王子も一緒に食事をする事となった。
その場にはカレンやアディさんもいる。
「こうやって家族で食事をとるのも数ヵ月ぶりだな」
「そうですわね」
「うんうん。良い事だ」
ソーパー王達はそれぞれが忙しいらしく、滅多に家族で食事をとれないそうだ。
いや、ちょっと待って欲しい。
ソーパー王は家族でと言っているけど、ここにはローレル姫はいない。
その事をツッコもうかと思ったけど、流石の僕でも空気を呼んだ。
食事は他愛もない話で盛り上がった。
食事が終わるとソーパー王が真剣な顔になり、いつきさんに何かの書類を見せる。
「聖女殿。今後の教会への補助の事なのだが……先程聞かされた金額でいいのだろうか? 今見せた報告書にもあるように前年度は要求している補助金の数倍はあったのだ」
「はい。元々、この国の教会が貰っていた金額は多過ぎでした。どちらかと言うと国に返還しなければいけないところを不問にしてくださって感謝していますよ。そもそも、礼拝料を受け取る以上、それを教会の為に使うのは当たり前の事です」
「そ、そうか……ところで聖女殿。大司教の裁きの事なんだが」
「はい。それは先程渡した報告書にすべて書いてある通りに行います。彼には国民の前で神罰を受けて貰い、その後は国の手で処刑してもらいたいのです」
「それは構わないが……そちらの勇者殿が膨れているのは何故だ?」
「あぁ、自分で提案しておきながら、この期に及んで自分の役割から逃げようとしているのですよ」
「彼女の役割?」
「そうです。神罰を下すのは彼女です」
僕の役割。
僕はえりかさんが後腐れも無くこの国の教会に就任できるかな? と思って提案しただけだ。
でも、何をどう間違えたのか僕が女神セリティア様の代わりとなって、大司教に裁きを与える事になった。
いつきさんは、教会の裁きとしてアルテミスの神罰を使ってもらう事を決めていたみたいだし、それは良いんだよ。
でも、セリティア教会には肖像詐欺セリティア様像があるのに、僕みたいな小さいのがあの像の代わりはできないし、誤魔化すなんてもってのほかだ。
いつきさんはそこは気にする必要がないと言っていたけど、何をやらされるか不安だ。
何度聞いても教えてくれないから、こうして膨れているわけだ。
ソーパー王も、僕のアルテミス化を一度見ているので、役割については納得したみたいだ。
三日後。
ソーパー王城の前の大広場で、大司教の悪事についての説明とこれからの教会についてをソーパー王が演説する事になった。
全ての悪事と罪を大司教クリストファー一人に背負ってもらうのだ。
僕はえりかさんの事しか考えていなかったけど、国民の怒りを鎮めるにはいい方法だそうだ。
僕の出番はえりかさんを国民に紹介した後だと言われたけど、後でバタバタするのは駄目だと、早めに綺麗な衣装に着替えさせられる。
これは確か巫女さんの衣装だ。
「みつき、可愛いっすよ」
「みーちゃんかわいい」
「ありがとうね。二人共」
二人に褒められるのは嬉しいな。
いつきさんの計画では、どうやらセリティア様に見せかけるんじゃなく、僕という巫女の体にセリティア様が降りてきたという設定で神罰を加えるらしい。
しかし、本物のセリティア様は金髪。アルテミスに出て貰っても黒銀。誤魔化せるのかな? と思っていたんだけど、セリティア様も僕の体の中に入る事で金髪になるらしい。
いや、アルテミスは女神の残滓だからいいとしても、本物の女神様が体に入って僕に影響はないの?
僕が心配していると、セリティア様が「力を注ぐだけだから金髪になるだけだよ」と言ってくれた。まぁ、それなら安心かな。
いや、よくよく考えたら、巫女なんだから金髪になる必要はないよね。
でも、セリティア様もノリノリみたいだから、今更反対はできないよ。
お昼前からソーパー王による、今までの教会の不正や悪事に対する演説が始まる。
広場に集まった人たちの中にも教会に色々されてきた人もいたみたいで、広場は怒号に包まれる。
捕らえられたクリストファーが国王の横に連れてこられると、広場の怒気はさらにヒートアップする。
このままでは暴動でも起こるんじゃないのか? と思ったのだが、えりかさんがクリストファーの横に立ち「黙れ!!」と怒鳴った。
えりかさんの声で広場は静まり返る。
そして、えりかさんの大巫女としての就任挨拶が始まった。
いや、アレは挨拶だったのだろうか。
僕には怒れる国の人達に喧嘩を売ったようにしか見えなかった。
えりかさんは「これからは私が大巫女として教会を取り仕切っていく!! 文句のある奴は今すぐ前に出て来い!! 教会は悩みを持つ者に手を差し伸べる場所だ! 何かあるのなら私は教会にいるからいつでも会いにくればいい!!」と怒鳴った。
そんな言葉に怒りの声が爆発すると思っていたのだが、逆に大歓声と拍手が鳴り響いた。
何をどう受け止めたのかは分からないけど、えりかさんはこの国に受け入れらそうだ。
さて、ついに僕の出番だ……。
感想や気になる事があればぜひよろしくお願いします。




