19話 宰相と騎士団長の今後
アロン王国でシスタークリスを捕らえた後、僕達は報告と今後の事を話し合う為にソーパー王国へと向かった。
今回はカレンとアディさんの今後の事も話し合いたいので二人も一緒に来て貰っている。
セリティア様はシスタークリスの神罰で疲れたと言って、神界に帰ってしまった。
今回は正式な訪問という事でソーパー王都の入り口前に転移する。
町の待合馬車に乗りソーパー王城へとゆっくりと向かう。
ソーパー王城の大門前に到着すると、事前に僕達の訪問を伝えておいた宰相のアストロさんが僕達を出迎えてくれた。
「無事シスタークリスを捕らえる事が出来たようですね。後はこの国の教会ですか……」
「そうです。ソーパーの教会の事で話し合いたいのでソーパー王の謁見を申し込みたいのですが」
「それは勿論です。陛下の今日の予定は全てキャンセルしてあります。応接間にて陛下がお待ちです」
僕達はアストロさんに連れられ応接間へと通される。
応接間にはソーパー王と騎士団長のフラーブさんが待っていてた。
「陛下。黒女神の皆さんをお連れしました」
「あぁ、適当に座ってくれ」
僕達は、ソファーに座る。
僕たち全員が座った事を確認すると、ソーパー王が話を始める。
「さて、まずは私用を済ませておくとしよう。カイト……いや、カレン。お前を守るためとはいえ、平民である兵士長の所に養子に出し、勇者に任命した後も我が娘を含むあの三人が迷惑をかけた。今まで済まなかったな」
そう言って、ソーパー王、アストロさん、フラーブさんの三人は頭を下げる。
よくよく考えたら、カレンはこの三人の子供の為に必死に頭を下げて回っていたんだ。
普通であれば怒ると思うのだが、カレンは「そ、そんな、頭を上げてください!」と慌てていた。
「それに、義父さんと義母さんは私を大事に育ててくれましたし、ここにいるアディという大事な親友にも出会えました。確かに勇者になってからは少し大変でしたけど、そのおかげでみつきちゃん達、黒女神の皆に出会えたので謝られる必要はありません」
うん。
カレンは良い娘だなぁ……。
僕はついつい目頭が熱くなる。
僕が演技っぽく目頭を押さえていると「こんな場面でふざけちゃダメっす」とよいやみに頭を叩かれた。
「そうか、もしお前が望むのなら、私の娘として王族に戻す事も出来るが……」
「いえ、私はアディと一緒に黒女神で魔物の解体の仕事をしようと思っています」
「そ、そうか……」
ソーパー王の声が少しだけ沈んだ。出来れば自分の娘になって欲しかったのかな?
しかしソーパー王はめげなかった。
いつきさんに視線を移し「黒女神の職場環境はどうなのだろうか……」と聞いてきた。
今までは政争に巻き込まれない為にカレンの存在を隠してきたみたいだが、今はもう隠す必要が無くなったのをいい事に、急にカレンに対して過保護になっているみたいだ。
いや、亡き弟の忘れ形見を心配するのは当然かな?
「一緒に解体職をするアディさんに聞いて貰えば分かりますよ」
いつきさんとしても自分が言うよりも、一緒に仕事をするアディさんに聞いた方が良いと判断したんだろう。
「そうか、アディといったな。聞かせてくれないか?」
「はい。陛下は解体職の仕事場を見た事はありますか?」
アディの問いにソーパー王は首を横に振る。
「いや、冒険者の持ってきた魔物を解体している仕事がある事は知っているが、実際に見た事は無い。ただ、劣悪な環境というのは報告に上がっている。私達としてもそういう報告が上がっている以上、環境改善に取り組もうとしていたんだが、浄化の灰を押している教会の邪魔が入っていたんだ。今現在も何とか補助できるように、宰相や財務大臣とは話し合っていた最中なのだ」
「そうですか。俺達としても同業者の環境が良くなるのはありがたい事ですし、今後の話し合いの参考になればと思い話させてもらいます。確かに解体職の工房は魔物の血の臭い、腐敗臭といった普通の人間であれば吐き気を催すような環境です。しかも場所も狭く、衛生面も心配です。そのせいで、解体職のいない国もあるくらいです。ソーパー王国も劣悪な環境とは言わざるをえません。しかし、黒女神のいつきが用意してくれた解体作業部屋は、ソーパー王国の解体場の負の環境をすべてクリアしています」
これにはカレンも頷いている。
空間魔法で広さの事はクリアしているのは知っているけど、臭いに関してはどうしているのだろう?
まだ三日くらいだけど、あまり解体部屋には入らないからその辺りは良く分からない。
臭いの事をいつきさんに聞いてみると、風の魔法具を数カ所に設置しているらしく、それの傍に臭い消しの魔宝玉も置いてあるらしい。臭い消しの魔宝玉はタチアナさん製との事だ。
衛生面に関しても、洗浄の魔法具を設置しているとの事だ。
「という訳で、解体職の環境としてはこれ以上の環境はないでしょう」
「そ、そうか……」
きっと、カレンの叔父さんとしては、国から離れないように難癖付けようと思ったのだろうが、本職のアディさんがここまで褒めるような環境にケチをつけられないと思ったのだろう。
続いて防犯面でもいつきさんが説明する。
「続いて防犯面ですが、黒女神はアロン王国でも英雄扱いされている勇者一行です。何より、アロン王国最強のよいやみさんがいらっしゃいます。よいやみさんは短気で脳筋なので、うちの仲間に何かあった場合は真っ先に飛び出すでしょう。更に、うちの勇者は短気で単純なので、すぐに怒って人を襲う問題児なのです。今のアロン王国で黒女神の関係者を襲う馬鹿な人はいません」
「おかしいっす。何か馬鹿にされた気がするっす」
「奇遇だね。僕もだよ」
僕達はいつきさんに抗議しようとするが、「なんですか?」の一言で大人しくなってしまう。
い、いや、確かに僕達が暴れた結果、いつきさんに迷惑が掛かって入るけどさ……。
その笑顔は止めて欲しいよ……。
「そ、そうか……これ以上は反論のしようがないな」
「はい」
ソーパー王の敗北宣言にいつきさんは満面の笑顔で答える。
とここでよいやみがアストロさんとフラーブさんに視線を移す。
「そういえば、宰相さんと騎士団長さんは今後どうするんすか?」
「どうするとは?」
「今回の事でお二人のご子息は廃嫡になると聞くっす。で、元々養子を探しているとも聞いているっす」
よいやみがそう言うとソーパー王の視線が鋭くなる。
「その事をガスト王も知っているのか?」
「知っているっすよ。ガストの情報網を甘く見ない事っす。ただでさえ、やと兄様の事でソーパーは注視されているっすから」
「ローレルのしでかした事を言われると何も言い返せないな」
ソーパー王は溜息を深く吐く。
「まぁ、その事は今は良いんすけど、もし養子を探しているならガストが協力するっすよ」
「どういう事だ?」
「もしお二人が望めばっすけど、ガストの孤児を引き取らないっすか?」
「何?」
「まぁ、身分がどうとか言うのであれば、この話は無かった事にするっすけど」
よいやみの突然の提案に二人は少し困惑している。
僕は貴族の事は良く分からないけど、普通は血筋なんかを気にするんじゃないの?
「ねぇ、孤児じゃ貴族の血がどうこう言う問題は無いの?」
「他の国は知らんっすけど、ガストでは血筋はあまり気にしていないっす。あしの死んだお母様は元孤児っす。親父が孤児院で働いていたお母様に一目惚れしたっす。それにガストの中枢を担っている連中の中にも孤児や平民出身の者はいるっす。ガストは能力主義っす。むしろ、無能な貴族の方が必要ないと言われるのがガストっす」
そんな国で育ったから、よいやみは権力を力として使うローレル姫を嫌っているのか……。
二人は少し考え話し合った後。
「もし、可能ならばその話を受けたい」
「私もだ」
よいやみの提案を受けると言った。
するとよいやみの顔が少しだけ悪くなる。
「そうっすか。ならば、お二人には十数年更に頑張ってもらうっす。お二人は養子に全てを押し付けて引退するつもりだったろうっすけど、引退は凄く長引く事になるっす」
「「え?」」
よいやみの言葉に二人は少しだけ引きつった顔になった。
「あし等が用意する孤児は赤子っす。御二方の奥方は苦労するかもしれないっすけど、もう一度子育てをしてもらう事になるっす」
「「え?」」
「今度は育て方を間違えちゃダメっすよ。なんていったって、ガストとの未来も関わってくるっすからね」
「ど、どういう事だ?」
ガストとの未来と言われてソーパー王の顔に冷や汗が流れている。
「そのまんまの意味っす。ガストの孤児が間違った方向に進めば、今度こそ二国間の問題になるっす。戦争にはならんと思うっすけどね」
そう言ってよいやみは口角を釣り上げた。それとは逆にソーパー側の三人の顔が少しだけ青褪めていた。




