17話 聖女いつき
金髪のツインテールを靡かせて、Vサインを出して「私がセリティアだよ!! 敬え!!」と胸を張っている。
いや、胸は無いんだけどさ。
しかし、目の前の女の子がセリティア様とは……あの肖像画は何だったんだろうか。
この部屋に飾ってあるセリティア様の肖像画に似てると言えば似ているけど、体形と年齢層が全く違う。と、言うよりも、セリティア様のお子様じゃないの?
神様に子供がいるのかどうかは知らないけど、そう思ってしまう。
「みつきさん、そろそろ現実を見てください。この子がセリティア様ですよ」
「この子って何だ!!」
どうやら、セリティア様はお子様扱いが嫌いみたいだ。
「体形の事で怒るのを見ていると、みつきを思い浮かべるっす」
「いや、どういう意味だよ!? しかも思い浮かべるって!!」
「そのまんまの意味っす。みつきは体形の事を言われたらすぐキレるっす」
ぐぬぬ……。
確かに体形の事を言われると、ムカついて怒るけどさ。
で、でも、セリティア様よりは成長しているよ!?
えりかさんはセリティア様を見て苦笑いを浮かべている。
ここで空気を読めないよいやみが余計な一言を吐く。
「しかし、セリティア様の肖像画は肖像画詐欺っすよね。良く、貴族同士のお見合いで使われる手段っすよ。あ、似ているところと言えば髪の毛の色だけっすか?」
「な、なんだとー!!」
セリティア様がよいやみを睨む。
流石に言い過ぎだと思う。
「いつき! あの子が新しい巫女!? ダメ!! 私を馬鹿にした!!」
セリティア様はよいやみに文句を言いに行こうとするが、いつきさんに腕を掴まれてこっちに来れないみたいだ。
「いつき!! 離して!! アイツに文句を言うの!!」
しかし、いつきさんはこれを無視。
何か言うのかと見ているけど、何も言わない。
「いつきー!! 聞こえてるでしょ!!」
しかし、いつきさんはえりかさんとシスタークリスが帰ってきた時の事を打合せしているようだ。
「シスタークリスが帰ってくるのが明日の夜。早くても夕方位以降になるから、陛下には事前に兵を配置してもらいましょう」
「じゃあ、私は出迎えたくもないけど、シスタークリスの出迎えの為に明日は教会の一般の人の礼拝はお断りしておきます。巫女と信頼できる神官を配置しておきます」
「いえ、それには及びません。シスタークリスの捕縛は一般信徒の前で行います」
「え? でも、夜に騒ぎを起こすと逆に問題が起こりませんか?」
「そうですね。でも、シスタークリスが今までどこかに行っていても出迎えなどした事が無いでしょう? だから、怪しむと思うんですよね。あのババアがそこまで思慮深いとは思いませんけど、私ならば普段と違う出迎えがあると聞けば警戒をして帰りません。ババアには帰ってきてもらわないと困るんです」
「確かに……思慮が足りませんでした」
二人は大事な話をしているが、その間もセリティア様がずっと「離して!」と叫んでいた。
そのうちセリティア様の声が小さくなっていき、次第に鼻をすするような音が聞こえてくる。
ジッとセリティア様の顔を見てみると、目に涙を浮かべていた。
「うぅ……」
あ、泣き始めた。
「む、無視するなぁ……グスッ」
そんなセリティア様を見ていつきさんが呆れている。
「はいはい。セリティア様もお話しましょうね」
「うぅ……子供扱いするなぁ……」
いや、今までの行動を見たら子供扱いされてもおかしくないと思う。
この後、全員で話し合うには祈り子の部屋では手狭だった為、えりかさんの自室へと場所を移動した。
「さて、話を始める前にセリティア様に聞いても良いですか?」
「何?」
「セリティア様は見た目はこんなのですが、仮にも神様です。それにもかかわらず体からあふれ出していたはずの神気が半分以下になっています。何がありましたか?」
神気?
僕は神気というモノは良く分からないけど、確かにセリティア様は強そうに思えない。
これは見た目だけじゃなく、感じる魔力? いや、神気かな? をあまり感じない。
「聞いてよ。リュウトを覚えている? いつきは覚えていると思うけど、えりかは知らないよね」
「はい。私とみつきさん、よいやみさんの三人は覚えています。あの場にいなかった人達の記憶からは完全に消えていますよ」
「いつき様の話が本当ならば、私が知らないのは無理もないな。ただ、巫女の一人が正体不明の男に襲われたと記録があるから、そいつの事かもしれないね」
そうか。
リュウトがいなくなっても、被害者はいなくならないから、矛盾ができてしまうんだ。
そう考えれば、被害者は正体のわからない何かに襲われた事になる。
そっちの方がある意味怖いよね。
確かに神罰だけど、本当の被害者はリュウトに襲われた人だよね。
「あの神罰は神界でもタブー視されている神罰で、普段から女神長に使っちゃダメって言われているんだ。でもリュウトがムカついて使っちゃったんだよね。それで凄く怒られて神気を封印されちゃった」
ムカついたからって、ダメって言われているっ事をしちゃダメだよ。
あ、いつきさんの顔が……。
「セリティア様。どうしてそんな危険な神罰を使ったんですか? 別に彼に罰を与えるのならば色々方法があったでしょう?」
「そうだね。魂だけを消し去るだけなら女神長に怒られなかっただろうね。でもね、これには凄い事情があるんだよ」
「凄い事情ですか?」
いつきさんは、明らかに面倒くさそうな顔をしている。何かに気付いたのかな?
「みつきちゃん、離れておいた方が良い。セリティア様は間違いなくいつき様に怒られる」
「え!? 怒られるって!?」
僕はえりかさんに連れられ部屋を出る。
よいやみとゆーちゃんも静かに部屋を出ている。
いつきさんも部屋を出ていく僕達を見て笑っている。
そして、部屋を出た瞬間、いつきさんの怒声が聞こえた。
どういった理由かは知らないけど、いつきさんが怒っているのならよっぽどの事なのだろう。そう思っていたのだが、えりかさんは「そこまで考えのある理由じゃないと思うよ」と言っていた。
しかし、いつきさんは聖女なのに女神様にあの態度はどうなんだろう?
気になったのでえりかさんに聞いてみた。
「えりかさん。いつきさんって聖女なのに女神のセリティア様にあんな態度で大丈夫なの? いくらいつきさんでも女神様には勝てないと思うんだけど……」
「それを言うなら、君ら二人なら、いつき様に勝てると思うが、いつき様に逆らえるかい?」
僕とよいやみは少し考える。
そして、二人で頷き合う。
「うん。逆らえないね」
「そうっすね」
僕はいつきさんの徹夜説教を思い出して顔を体を震えさせる。よいやみも同じように震えている。
暫くすると、静かになったので説教が終わったのだろう。
いつきさんが部屋から顔を出して部屋に入ってくるように言ったので、部屋に入ると、セリティア様が号泣していた。
それから、明日の夜の事を話し合い、えりかさんに教会の事を任せて僕達はセリティア様を連れてお店へと帰った。
お店にはアディさんが店番をしてくれていたらしく、僕達を出迎えてくれた。
「カレンが晩御飯の用意をしてくれているよ。その子が例の女神様かい?」
「その子言うな!!」
「いや、自分より小さい子には優しくしないといけないと親に言われていてね」
そう言って、アディさんは爽やかな顔で、セリティア様を抱き上げる。
その爽やかな顔を見て、セリティア様は顔が真っ赤になる。
「そ、それなら仕方が無い!!」
というか、アディさんは自分より小さい子と言ったけど、それを言うなら、アディさんは背が高いからカレンを含む黒女神の皆は小さい子になってしまうよ?




