7話 脳筋姫とビッチ姫
ソーパー王国第一王女であり、本物かどうかは分からないっすけど聖女ローレル。
金髪でウエーブのかかった長い髪、ボンキュッボンという言葉をそのまま体現したような体つき、顔はキツめの顔だけど、美人の部類に入る顔、見た目だけならば完璧と言っていいんすけど、中身が腐りきっているからいまだに婚約者がいないと聞いたっす。
まぁ、相手がいなくても身体を使って快楽を得ているんすから良いのかもしれないっすけどね。
しかし……。
「ソーパー王国と聞いて、お前が聖女をしているかもしれないとは思ったっすけど、本当だったとは驚きっす。どんな汚い手を使ってその地位を手に入れたんすか?」
身体を使っているのは間違いないと思うっすけど、それだけで、セリティア様の教会が動くと思えないんすよね。そもそも、教会で地位が高いのは女性っす。色仕掛けは通じないとなると……王族の誰かが聖女として祀り上げたんすかね。
実際、教会側に王族がいれば、政治介入の阻止もしやすいっすからね。
もし、そうだとしたら相当厄介っす。
「うるさいわね!! なんであんたがここにいるのよ!! あんたはガストの箱入り娘のはずでしょ!?」
「黙れっす。お前には関係ないっす」
そもそも、箱入り娘って何すか。
親父に溺愛されていた自覚はあるっすけど、別に家から出れなかったわけじゃないっすよ?
「関係ない事は無いわよ!! そもそも、あんたのせいで第一王子のやと様と関係を持つ事が出来なかったのよ!! そのせいで、ソーパー王国はガストに頭が上がらなくなったのよ!!」
「お前は何を言ってるんすか、アホなんすか? あしのせいも何も、やと兄様にはレイチェル姉様がいるっす。お前に最初っから入り込む余地はないんすよ。そもそも、あしに喧嘩を売ってきたのはお前っす。お前の自業自得でソーパー王にまで迷惑を受けたんす。全部お前のせいっす。人のせいにするなっす」
「お黙り!!」
ローレルの奴、大分ヒートアップしてきたっす。あしは事実を言っているだけなんすけど、ちょっと不味いかもしれないっす。
ラビさんやリリアンさんはあしの素性を知っているっすけど、冒険者や他のギルド職員はあしの素性はおろか、出身地すら知らないはずっす。
あ、冒険者達が騒ぎ出したっす。
もし王族だとバレたら、今ですらいつきの店での店番の時は変な客が多いというのに、さらに変なのが増えてしまうっす。
「そもそも、ガスト第六王女のあんたがなんでこんな所にいるのよ!!」
こいつ、あしが元王女という事をバラしやがったっす!!
口を塞いでおけばよかったっす。
「え? よいやみちゃん、可愛いとは思っていたけど、お姫様だったの?」「嘘でしょ?」「ガストと言えば、魔法で有名な国よね」「マジかー。黙っていればお姫様みたいだと思っていたけど、本物のお姫様だったかー」
あぁー。
バレてしまったっす。
冒険者やギルド職員にバレた事を焦っていると、ローレルがあしに向かってきたっす。
「そういえば、あの頃のお返しがまだだったわね」
「あ?」
あの頃の仕返し?
こいつは何を言っているんすか?
そもそも、あの時はこいつが喧嘩を売って来たし、あしもかなり殴られたっすから、お互い様のはずっす。
「アレは喧嘩両成敗で話は終わったはずっす。それをいつまでねちっこく言っているんすか?」
「ソーパーの姫である私の可憐な顔を殴り腫れさせた恨みは忘れてないわ!!」
「いや、あしもお前に殴られて頬が腫れてたんすけど?」
そもそも、あしもお前も同じくらい殴っていたじゃないっすか。そもそも自分を可憐とか言うなっす。お前の場合は可憐じゃなくて、ケバイの間違いっす。
もしかして、性交渉のし過ぎで脳味噌が溶けすぎて記憶が無いんすか?
「うるさい!! 私は今でもあんたを許してないのよ!!」
「ふーん、別に許してもらう必要も無いっす」
正直面倒くさいっすね。
そもそも、もしかしてあしに勝てるとでも思っているんすか?
馬鹿なんすか?
いや、下半身に脳でもついているんじゃないんすかね。
「あ、性交渉でしかモノが言えないビッチだったっすね。ごめんっす」
「いきなりなによ! 失礼な事を言わないで頂戴!!」
いや、事実じゃないっすかね。
頭の弱いこいつに体を使う以外の交渉術があるとは思えないっす。
「で? あしと殴り合いでもするんすか? あの頃と違ってあしはかなり強くなっているっすよ」
「ふふ。あの頃は頭だけが脳筋姫だったけど、本当に脳筋姫になった様ね。でも、私も聖女として成長しているのよ。ただの乱暴者のあんたとは違うわ。それに私は勇者パーティの聖女なのよ!!」
「そうっすか……」
ふむ。
こいつはあしが黒女神……勇者パーティの一人だという事を知らないんすね。
まぁ、その辺はどうでも良いんすけど、ここでこいつを捕らえておけば、陛下のソーパーへの交渉の道具に出来るっすかね?
「まぁ、いいっす。もし、あしに勝てると夢見てるんならかかってくると良いっす。あしもお前を捕まえるのが目的っす」
「私を捕まえて、誰かの慰み者にするつもりね。考えが意地汚いわ」
こいつは何を言っているんすか?
あしは女っすよ?
それに今はみつきにしか興味が無いっす。
あ、考えが変な方向に行ってしまったっす。
こいつの事は交渉の手土産にするつもりっすけど、そんな考えしかできないなんて流石ビッチっす。
ぶっちゃけた話、ローレルの節操の無さは各国の王侯貴族の中では結構有名っす。こんな股の緩い奴では慰み者にはならんと思うっす。
いや、なるんすか? あしには良く分からんっす。
「どうとでも思うっす。かかって来いっす」
「そうね。聖女の力を見せてあげましょう」
ローレルの体が光り出したっす。
これってどこかで見た事のあるような……。
あ、クレイザーっす。
クレイザーはゆっきーの魔法で光ってから、任意で発光できるようになったっす。
という事は、クレイザーも聖女っすか?
「ぶはっ!!」
いかんっす。笑いが堪え切れないっす。
「ぶはははははは!! クレイザーと一緒っす。光っているっす!! アイツと同じで発光生物っす!!」
ダメっす。笑い過ぎてお腹が痛いっす。
ドヤ顔のローレルが滑稽っす。腹がよじれるっす。
「な、何を笑っているのよ!! この光には誘惑の魔法がかかっているのよ、その余裕がいつまで続くか見ものね」
「ん?」
今の言葉は聞き捨てならんっす。
あしは周りを見てみるっす。
すると、男の冒険者達の目が虚ろになっているっす。
よく見てみると、ゴールドランク以上と思われる冒険者には効果が無さそうっす。
という事は、雑魚ばかりっすね。
「おい、何をしたっすか?」
「さっき言ったでしょ? この光は誘惑魔法なのよ。さて、貴方達!! よいやみに辱めを与えてやるのです」
ほぅ……。
そんな事を考えているんすね。
男どもが、ゾンビのようにあしに近付いてくるっす。
いい度胸っす。
あしは、誘惑にかかっていない冒険者達に合図を送るっす。力を持つ者なら、あしが何をするか気付くはずっす。
誘惑にかかっていない冒険者達や女性冒険者達は、物陰に隠れたり、ギルドから出たりするっす。
そうっす、巻き添えを喰らわない様に隠れたりしておくっす。
さて、準備が整ったっす。
あしは魔力を一気に解放させるっす。
すると、あしを中心に魔力による衝撃波が起こり、ゾンビ化している冒険者達が飛んでいくっす。
冒険者達は、壁や机に体を打ち付けてピクピクしているっす。ざまぁ無いっす。
受付の方には影響は出ないようにしたっすけど、ロビーは無茶苦茶っすね。
「受付の皆さん、済まんっす。片付けは、あしに襲いかかってきた、この冒険者共にやらせればいいっす。さて、ビッチ姫、覚悟するっす」
「あ、あんた……何をしたのよ……」
「黙るっす」
あしはローレルに近付くっす。
「さて、殴り合いの喧嘩をするっす。お前から殴りかかってきてもいいっすよ」
「あ、あ、あ……わぁああ!!」
ローレルは、顔を青褪めさせながら暴れ出すっす。
でも遅いので首の後ろを叩いて気絶させるっす。
何かで読んだっすけど、本来はここを叩いても気絶する事は無いそうっすね。そこで熊に教えてもらったのは、魔力を流し込む事で気を失わせるだったっすか?
初めて使ってみたっすけど、うまくいって良かったっす。
あしは気絶したローレルを担いでお店に帰るっす。
こいつを閉じ込めておくのは、あそこでいいっすね。
「よいやみさん、その簀巻きにした女性は誰ですか?」
「こいつっすか? ソーパーの勇者一行の一人で、聖女のローレルっす。ギルドで出会ったので捕まえてきたっす」
あしはいつきにこいつの素性とここに連れてきた経緯を話すっす。
あしの要望通り、ローレルは店の地下の呪い部屋に置いておく事になったっす。こいつは昔は怖がりだったっすから、この部屋にいれば泣き叫ぶはずっす。ざまぁみろっす。
そう思っていたんすけど、あしがこの部屋に入れるように言ったせいか、あしがローレルの食事を届ける事になったっす。
あしもこの部屋は嫌なんすけど……。




