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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
三章 異国の教会編

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5話 カイトの受難


 僕は勇者カイト。出身地のソーパー王国では幼馴染と解体業をやっていた。

 ソーパーでは、何の不満も無く、毎日平和に暮らしていた。

 僕と両親は血がつながっていない。赤子の時に今の両親に引き取られたらしい。だけど、ソーパー王国の兵士長である父と優しい母は、僕にとっては大事な両親だ。


 そんな僕が勇者に選ばれたのはソーパー王から突然呼び出され、任命されたからだ。

 ソーパー王が何を考えて僕を勇者にしたかは分からないけど、僕には両親と幼馴染しか知らない誰にも言えない秘密がある。陛下はそんな事を知らない。そのおかげで、聖女であり、この国の第一王女であるローレル姫と婚約させられた。

 これには教会が絡んでいるらしいが、僕には良く分からない。


 本来であれば二人でアロン王国に来る予定だったのだが、勇者だけど平民の僕とローレル姫の二人旅は危険だと、陛下は宰相の息子と騎士団長の息子がパーティに加えた。


 だけど、この二人……いや、ローレル姫を含めて三人が厄介だった。

 この三人は行く町行く町で問題を起こしてくれた。その尻拭いをするのがいつも僕だった。


 アロン王国に入ってからは、大人しくしているみたいだけど、ソーパー国内の時は酷かった……。


 オーソンは権力を笠に着て各地で女性を手籠めにしていたし、アシャは自分の強さを見せつける為に冒険者を痛めつけていた。ローレル姫はスリルを楽しむために妻子のある男性を狙って権力を使い関係を持っては、夫婦生活を破綻させて楽しんでいた。


 こんな行為は勇者パーティの行為じゃない。何度、僕が言っても三人は話を聞く事は無かった。

 僕はあくまで平民だ。彼等からすれば平民である僕から意見されるのは嫌だったのだろう。

 いう事を聞かないだけならともかく、いつも僕を罵り、酷い時は僕を殴ろうとした事もあった。しかし、それ以上の事はされなかった。

 陛下から『仲間同士で傷つけあった場合は、宰相の息子だろうと騎士団長の息子だろうと、わしの娘だろうと処罰する』と言われているようで、感情の赴くままに殴ろうとした事はあっても、魔法を使う事は無かった。陛下は平民である僕を気遣ってくれたのだろう。


 僕は、三人が問題を起こした後、謝って歩く事しかできなかった。

 中には僕に暴言を吐いてくる人もいた。当然だ……幸せな夫婦生活を壊された者、理不尽に親や子供を殺された者、恋人がいるのに穢された者……僕が謝ったところで許せるはずもない。


 それでも、僕は謝るしかできなかった。



 アロン王国に来て宿屋の確保をした後、冒険者ギルドに顔を出す事にした。

 冒険者ギルドのギルマスに彼等の話をしておいた方が良いし、早いうちに、道具屋の場所も聞いておきたい。

 本当は異国に来たのだからゆっくり観光したいのだが、恐らくあの三人がまた問題を起こすだろう。そうなれば僕達はこの国から出ていかなければいけない。もしかしたら、道具屋で問題を起こし、食料すら変えなくなるかもしれない。そうなる前に買い物だけ済ませておかないと……。


 いつまでこんな事が続くんだろう……。

 それ以前に、僕達の旅の終わりはどこなんだろう……。


 冒険者ギルドに着くと、何故か騒がしい。

 この国はクジ引きで勇者を決めているらしく、勇者専用の受付まであると聞いた。僕は勇者専用の受付で何があったのかを聞く事にした。


「えっと、何かあったんですか?」

「はいはい。アレ? 新人さんですか? こちらは勇者専用の受付ですよ?」

「あ、いや……」


 僕は自分の立場を話さずに、騒ぎの原因を聞いた。

 受付のラビさんが言うには、この国には英雄とまで呼ばれている勇者が二人いるそうだ。一人は黒姫という背の低い女の子、僕よりも年下だそうだ。

 そしてもう一人の勇者さんがギルドでの騒ぎの原因だそうだ。

 その勇者は、この国の英雄だそうで、名をバトスといい、その人に異国から来た戦士が喧嘩を売ったそうだ。

 その話を聞いた時、僕は溜息を吐いた。


 ……アシャか……。


 間違いなく、アイツだ……。

 どうせ、そのバトスさんに向かって田舎者だの雑魚だの言っていたのだろう。


「じゃあ、彼はバトスさんに?」

「いえ、バトスさんのお仲間である僧侶の女性にボコボコにされたそうです」


 えぇ!?

 アシャは騎士団長の息子でソーパー騎士団にいた人間だ。それを僧侶の女性にボコボコされた?

 い、いや、なにかの聞き間違いだろう……。


「あ、あの、その戦士はどこに?」

「バトスさんの仲間である戦士さんが……その、ゴミ捨て場に捨てに行きました」


 ご、ゴミ捨て場!?

 いくら問題を起こしたとはいえ、ゴミ捨て場に捨てるなんて酷くないか?


「あ、別に問題を起こしたからゴミ扱いという訳ではないんですよ。これには理由がありまして、さっき言ったもう一人の勇者黒姫さんが自分に喧嘩を売ってきた相手をゴミ捨て場に捨てて来いと冒険者に命令した事がありましてね、それからはギルド内で問題を起こした人間はゴミ捨て場に捨てられるようになりましてね……。あ、殺しはしていないですよ」


 いや……さっき黒姫って僕より年下の女の子だって言ってなかった? それなのにそんなに凶暴なの?  

 オーソンに関しては……いっそ殺してくれれば(・・・・・・・)よかったのに……。


 僕はラビさんに頭を下げる。


「申し訳ありません!!」

「えぇ!? どうしました?」

「彼は……その戦士は僕の仲間なんです」

「え? という事は?」

「僕がソーパーから来た勇者です」


 ラビさんは僕の話を聞いた後、道具屋の場所を教えてくれた。


「この道具屋に行けば、相談に乗ってくれますよ。私から紹介状も書いておきます」

「いいんですか?」

「えぇ、貴方と話をしていて、嫌な気分になる事はありませんでした。勇者(貴方)だけは悪い噂を聞きませんでした。きっと、この道具屋さんの店長さんは力になってくれるでしょう」


 店長さん?

 道具屋の主人が力に? 

 意味が分からなかったが、ラビさんに教えてもらった店長がいるという道具屋に向かった。



 道具屋は、思っているよりも大きかった。

 道具屋から小さい女の子が出て来た。

 まさか、この子が店長?


「おみせによう?」

「え? あ、うん。君はこのお店の関係者かい? 店長はいる?」

「てんちょー? あぁ、ごうよくならいる」

「ごうよく? その人が店長さん?」

「てんちょーかしらないけど、くろめがみのなかでいちばんえらい。みーちゃんがりーだーだけどごうよくのほうがえらそう」

「?」


 黒女神? 

 このお店の名前かな?

 話を聞こうとすると、女の子は一人でフラフラとどこかに歩いて行こうとする。

 あ、お礼を言わないと。


「あ、ありがとう」

「ん」


 女の子は手を挙げてどこかへ歩いて行ってしまった。


「ごうよくって人が店長なのか……。名前からして、凄い人なのかもしれない……」


 僕は恐る恐るお店へと入る。

 店に入ると、僕よりも少し年下と思われる少女がカウンター越しに座っていた。


「いらっしゃいませ」

「え、えっと、貴女がごうよくさんですか?」

「強欲? 初対面の人間にたいして随分といい度胸ですね」

「うっ……す、すいません」


 ごうよくさんは僕を睨む。

 なんて眼力……。少し怖い。


「そう言えば、さっきゆづきちゃんが出ていきましたね。あの子が普段、私をどう呼んでいるかが判明しましたね。後でじっくり話をしましょう。で? 何か御用ですか?」

「え?」

「何か用があって来たんじゃないですか?」

「あ、はい」


 僕はこの少女にラビさんからの紹介状を渡す。少女は黙って紹介状を読む。


「へぇ……()の方から、わざわざ私達(・・)の下へ来てくれましたか」


 ん? 今なんて?


「まぁ、いいでしょう。私は強欲ではなく、いつきです。ラビさんから悩みを聞くように言われてますので、どうぞ」

「あ、はい」


 僕は、勇者になる前の事から今までの事を相談した。

 解体業という言葉でいつきという少女の口角が吊り上がる。そしてしばらく考え込んだと思ったら、


「分かりました。悪い様にはしませんよ」

「え?」

「もしかしたら、近いうちにお店の前で出会った少女に何かを言われるかもしれませんが、その時は少女のお願いを聞いてあげてください」

「え、あ、はい」


 どう言う事だろう。

 悪いようにしない? 

 少女のお願い?


 僕は意味の分からないまま宿屋に向かった。

 宿屋に帰るとローレル姫の部屋からオーソンが出てくる。僕としては「またか……」としか思わないのだが、オーソンが下卑た顔で僕に絡んでくる。


「お前のローレルの味は良かったぜ」


 そうなんだ……よかったね。

 別に僕のではないし、正直興味もない。

 教会が勝手に僕の婚約者に仕立て上げているだけだ。そもそも、僕とローレル姫は結婚は出来ないし、子供は絶対(・・)出来ない。

 それ以前に、僕が好きなのは幼馴染のアディだけだ。


「そう、良かったね」


 それだけ言って、僕は部屋に戻る。オーソンが僕を睨んでいたけど知らないよ。

 今日はいろいろありすぎて疲れた。僕は鎧を脱ぎ、ベッドへと倒れ込んだ。


 毎日毎日、あの三人の尻拭い……本当に嫌になる。

 いつきさんが言っていた「悪い様にはしない」「少女のお願い」の意味は全く分からないけど、あの人と話していても嫌な気分にならなかった。


 はぁ……早くアディの下に帰りたい……。

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