30話 黒女神結成
僕は真っ白な場所で目を覚ました。
起き上がって周りを見ると、すぐ傍に銀髪の女性が座って僕を見つめていた。
この人……なんとなく見覚えがあるけど、誰なんだろう?
髪の毛の色なんかは、アリ姉みたいな銀髪。目は両目とも銀色。
あ、羽が生えている。という事は女神様?
うーん、顔は……なんとなくお母さんに似ているような……。
「え、えっと……貴女は?」
女性に尋ねると、女性は優しく微笑む。
そして……僕の右腕付近を指差す。
僕は指差された場所を見る。
そこには聖剣アルテミスが置いてあった。
「アルテミス……」
思い出してきた。
僕はゼドラに負けた後、この女の人に会ったんだ。
「女神アルテミス様……?」
『ふふふ……様なんてつけなくていいですよ。それに私は女神アルテミスの残滓です。本体は既に生まれ変わっていますからね』
生まれ変わってる?
銀髪で似ているとなると……アリ姉かな?
でも、違う気がする……誰だろう?
顔は似ているけど、お母さんじゃないと思う。だって髪の毛の色が黒だし……。
「で、でも……あ!! そんな事よりもゼドラは!?」
アイツに攻撃されて……僕は死んでしまったの?
で、でも、アルテミスは『私が代わりに戦う』と言っていたような……。
「ゼドラはどうなったの? みんなは?」
『ゼドラは倒しました。他の皆さんは元気ですよ』
良かった……。
ゼドラも倒せたんだ……。
あのゼドラに勝てたんだから、アルテミスは強い女神様だったんだね。
『みつき、貴女に二つの約束をしましたね』
「二つの約束?」
そんな約束したっけな?
あの時は、自分が死んだと思っていたし、アルテミスが何かを言っていたのかもあまり思い出せないし……。
『一つはゼドラを倒す事。もう一つは……貴女の魔力の使い方を教えるという事』
ぼ、僕の魔力?
僕には魔力がない。今でもそう思っているし、使おうとしても使えない。でも、よいやみもたまに僕から魔力を感じると言っていた……。
で、でも……魔力がないから普通の魔法具すら使えなかったし……。
『戸惑うのも仕方ありません。貴女の魔力は普通じゃない』
え?
普通の魔力じゃない?
どう言う事?
『魔法職の魔力の頂点として《無限の魔力》が存在するように、前衛職の魔力にも頂点が存在します。それが貴女の魔力《ゼロの魔力》です』
「ゼロの魔力?」
『そうです。人が使う魔法には魔力消費量があり、それには限界値があります。その限界値を超える為にゆづきちゃんの使った爆縮などの補助魔法が生み出されました。ゼロの魔力は常時魔力が無い代わりに、限界値を補助魔法無しで突破して使う事が可能なのです。しかし、例え限界値以上の魔力を使えたとしても、人間の体では魔力に耐えられませんけどねぇ……』
それって、たいして役に立たないんじゃ……。
で、でも……
「僕にも魔力があったんだ……」
この話を聞いた時、僕は嬉しかった。
幼い時から自分に魔力が無い事が悔しかった。
じいちゃんに闘気の使い方を教えてもらった時も結局魔力が使えないから、魔法具は使えないし周りの人に迷惑ばかりかけていた。
今の話だと、常時魔力が無いから今まで通り魔法具は使えないだろうけど、今後は皆みたいに魔力を使って戦えるんだ……。
それだけでも嬉しかった。
『みつき、感動しているところ悪いのですが、ゼロの魔力は扱いが難しいのでこれから少しずつ覚えていかなきゃいけません』
「え? でもどうやって……」
『貴女は聖剣を持っているでしょう? これから、心に語りかけ、少しずつ直接教えていきますよ』
「うん、よろしく……アルテミス」
『ふふふ、さて、そろそろ目覚めなさい。貴女を心配している人達がいるのですからね』
「うん」
僕は目を開けた……。
ここは……いつきさんのお店の僕達の部屋?
「う、……ん」
僕はゆっくりと上半身だけ起き上がる。
僕のお腹の辺りでゆーちゃんが寝ていた。どうやら看病をしてくれていたみたいだ。
僕は、ゆーちゃんの頭を撫でる。
「ごめんね。心配かけたね」
僕はゆーちゃんが起きないように頭を撫で続ける。すると、部屋によいやみが入ってきた。
「み、みつき?」
「おはよう、よいやみ」
よいやみは僕に抱きついてくる。
「本当に心配したんすよ。頭は大丈夫っすか!?」
「どういう意味だよ!!」
「もう女神に支配されてないっすか!?」
あぁ、そういう意味か……。
そう言えば、アルテミスはよいやみ達にどういう説明をしたんだろう?
「よいやみ、ゼドラとの戦いの後はどうなったの?」
「そうっすね。みつきがゼドラを倒した後、すぐにみつきが気を失ったっす。そして、いつきとあしで城を探索後、拠点に帰って来たという事っす。みつきは五日間意識不明だったっす。あ、いつきにもみつきが目を覚ました事を知らせてくるっす」
そう言って、よいやみは部屋を出て行ってしまった。
僕はすぐに意識を失ったか……という事は、アルテミスは事情を話していなかったという事だね。
(思ったよりも魔力を使い過ぎたようですね)
ん?
今頭の中で誰かがしゃべった? というよりも今のアルテミスだよね?
(そうですよ。私は今も聖剣にいますし、みつきの中にもいます)
それっておかしくない?
聖剣を握っているならともかく、どうして僕の中にアルテミスがいるの?
(それに関しては、今は話せません。でも、いつか必ず話します)
……うん。その時を待つよ。
「みつきさん!!」
「いつきさん、心配かけてごめんね」
「いえ、無事だったのならそれでいいんですよ」
僕達は、食堂で話をする事にした。
よいやみ達からはアルテミスとゼドラの戦い、僕はアルテミスの事を説明した。
無理をしなければ、いつでもアルテミスは表に出る事が出来るという事も判明した。
「よいやみさん、冒険者ギルドまでひとっ走り行って来てください」
「あいよっす。とりあえず、オルテガさんとバトスさんには話してくるっす。あの二人が一番みつきの事を心配してたっすからね」
「そ、そうなんだ」
あの二人が?
どうして?
「バトスさんとオルテガさんは、みつきさんがヒヒイロカネの勇者とはいえ、年下の後輩勇者にティタン討伐を引き受けさせた事を申し訳なく思っていたそうですよ。それでみつきさんが意識不明で帰って来た事で、更に罪悪感を感じたみたいですね」
確かに王様からの依頼という事もあったけど、アリ姉からの依頼という事も大きかったからそこまで気にする必要ないのに……。
「そう言えば、ティタン討伐の事は報告はしたんでしょ?」
「ザックリとは報告しましたが、詳しい話はまだですよ。オルテガさんとバトスさんがみつきさんが起きるまでは報告しなくていいと言ってくれたので、報告は保留となっています」
「そうなんだ。迷惑をかけたね」
「迷惑なんてそんな事ないですよ」
一時間ほどで、よいやみと一緒にリリアンさんとラビさんがお見舞いに来てくれた。
そして、次の日に冒険者ギルドで報告会を行う事になった。
次の日、冒険者ギルドにはオルテガさんにリリアンさん、それにパリオットの皆と王様達が待っていた。
皆、僕の体の事を心配してくれたのだが、アルテミスのおかげで生きていたんだけどね。
「そうか……ティタンは騙されていたんだな……でも、自業自得だし、アイツの野心もあったんだろうな……」
ゼドラに騙されていたとはいえ、ティタンは実の兄。思うところはあっただろう。
ゼドラの話になると、いまいち信じて貰えなかったのがアルテミスの事だ。
ゼドラの圧倒的な強さの事は信じて貰えたけど、どうやって倒した? となると、アルテミスが倒してくれたとしか言いようがなかった。
いつきさん達としても、実際アルテミスを目にしていなかったら信じなかっただろうと思う。だから、実際に見て貰おうと、アルテミスに表に出てもらう事にした。
流石に羽をはやした僕を見て信じてくれたみたいだ。
話が一段落した時に、ラビさんが部屋に入ってきた。
「どうした?」
「いえ、陛下にお客様です」
「俺に? 俺に客なのに、城ではなくここに? まぁ、いい。入って貰ってくれ」
「はい」
ラビさんに案内されて部屋に入ってきたのは、アリ姉とゼクスさんだった。
「みつき、ティタン討伐ご苦労様」
「アリ姉!! それにゼクスさんも!!」
「みつき、この二人は?」
王様が僕に二人の事を聞こうとすると、ゼクスさんが前に出て「ヴァイス魔国、最高指揮官ゼクスと申す。そこの軽薄そうな小娘がヴァイス魔国、魔王アリス=ヴァイスだ。突然の訪問を謝罪する。しかし、双方の利益を考えると早めの方が良いと思いましてな」「軽薄ってゼクス酷い」「うるさいわ!!」と漫才を始める。
王様も、少し呆気にとられたみたいだが、すぐに冷静になって「俺がアロン王国国王レオン=アロンだ。双方に利益という事は、同盟や国交の話という事ですか? そういう話ならば是非とも話をしたいと思っていたところだ。いや、是非ともよろしくお願いしたい」と挨拶を交わしていた。
その後、王様はパリオットとアリ姉達を連れてお城で話し合いをする事になり、冒険者ギルドを出て行ってしまった。
アリ姉は行きたくなさそうだったが、魔王だから仕方ないね……。
僕もついて行った方が良いかな? と思ってそう言ったのだが、王様とゼクスさんから「まだ病み上がりなのでゆっくり休め」と言われた。
うーん。病み上がりではないんだけどなぁ……。
王様達がお城へと戻った後、オルテガさんがご飯を奢ってくれるというので、大人しく待っていた。
待っている最中、リリアンさんが女神の魔宝玉を持ってきて、称号に変化がないかを見てくれることになった。
三人は今のところ変化はなかったけど、ただ称号に一つ追加されていた。
「称号のとこに追加された《黒女神》って何すかね? あしだけじゃなく、いつきとゆっきーにもついているっす」
「そうですね。黒女神という名で想像できるのは、アルテミス様を体に宿したみつきさんでしょうか? 黒髪の女神と言われればその通りですからね」
「これ、ぱーてぃのなまえ?」
え?
ゆーちゃん、何を言っているの?
「それいいっすね。あしらのパーティ名を《黒女神》に変更するっす。リリアンさん、可能っすか?」
「うん? 出来るわよ。ちょっとした手続きで出来るから変更する?」
「だ、ダメだよ!! く、黒姫一行でも恥ずかしいのに!?」
「変更するっす」「変更します」「くろめがみがいい」
僕は必死に抵抗するが、誰も話を聞いてくれない。
よいやみは、僕の手を掴み女神の魔宝玉に乗せる。
「抵抗は無駄っす。みつきの称号を見るっす!!」
名前 :みつき
職業 :女神に選ばれし勇者
ランク:ヒヒイロカネ
称号 :女神を宿し勇者
黒女神 黒姫
そろそろ諦めなさい
「…………」
うーん。
僕の称号には何故いつも余計な言葉が入っているのだろう?
もしかして、アルテミスが付けているの? そうだとしたら、酷い……。
(私じゃありません、濡れ衣です!!)
あ、違うみたい……。
じゃあ、一体誰が?
女神セリティア様?
「良く分からないのが最後にあるっすけど、黒女神はみつきの事っす。これで決定っす」
「あ、はい……」
もう、何を言っても無駄な事くらい、僕は学習したよ。
この日、アロン王国でも長く伝えられる事になる勇者パーティ《黒女神》が結成された。
これで2章は終わりです。
次からは、一応旧クジ引きを参考にはしますが、旧クジ引きとは話が脱線していく予定です。
というよりも、プロット書く時は旧クジ引きを参考にしますが、話を書く時は一切旧クジ引きを見ません。まぁ、2章の途中から全く旧クジ引きを見ていませんが。
3章以降もよろしくお願いします。




