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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
二章 人魔王編

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28話 魔王ゼドラ


『あの者は危険です。最初から全力で倒すのです……』


 突然僕の心の中で誰かがそう言った気がした。


 ゼズは魔剣を肩に担ぎ、僕達を見て笑っている。


 ……こいつ、強い。


 僕達では一対一では負けると思う。

 正直、バトスさんでも勝てると思えない。


 ……でも。


「よいやみ、二対一が卑怯だとか言っていられないよ。二人で戦わなきゃ勝ち目がない」

「わかってるっす。みつき、行くっすよ」


 よいやみもゼズの強さを感じたようだ。

 もしかしたら、グレンさんやじいちゃんくらいの強さか?

 いや、グレンさんやじいちゃんの本気を感じた事が無いから何とも言えないけど……。


「よいやみ、僕は剣を持っている方から攻撃する」

「あしは左から行くっす。同時に行くっすよ」

「うん」


 僕とよいやみは、目で合図して攻撃を仕掛ける。

 同時攻撃だから、少しだけでも動揺でもしてくれるかと思ったが、ゼズは表情一つ変えない。

 それどころか僕達を見る事も無く攻撃を捌いている。


 全く当たる気がしない。


 何度か攻撃して僕達はいったん下がる。


「くはははは!! なかなかの速さの攻撃だな。お前達ほどの速さの者は我が滅ぼした世界にはいなかったぞ。しかし、当たらなければどうという事は無い!!」


 こいつ、僕達を馬鹿にしている。

 しかし、今気になる事を言っていた。

 世界を滅ぼした?

 何を言って……?


 やっぱり、こいつだけはここで倒しておかないと。

 ゼズ(こいつ)相手には全員でかからないと勝ち目がないかもしれない


 僕はいつきさんに視線を向けた後、ゼズの足元を見る。再びいつきさんに視線を移すと、いつきさんは小さく頷いてくれる。

 僕の考えを読み取ってくれたか?


 いつきさんは、チラッとゼズの足元を見る。

 どうやら、僕の考えている事を読み取ってくれたみたいだ。


「アースハンド!!」


 いつきさんが魔法を唱えると、ゼズの足元にいくつかの腕が現れる。

 アレはいつきさんの《アースハンド》の魔法で作られた土の腕だろう。

 あれでゼズの足を掴むのか?

 気付かれていなければ可能性もあると思うけど……。


「ふむ? こんなモノで我の動きを止める事が出来るとでも思っているのか?」


 気付かれている!!

 ゼズは魔力を放出させて土の腕を破壊する。

 しかし、腕は次から次へと補充されていく。


「ぬ!? これは鬱陶しい!!」


 ゼズは足元の土の腕を踏みつぶす事に気を取られているので、今しかない。


 よいやみが、大声をあげてゼズを蹴りに行く。

 流石に声で気付かれたが、これは囮として注意を引き付けようとしてくれたのだろう。それをゼズが捌こうとする。その瞬間土の腕がゼズの足を掴む。


「くはは!? やるではないか!!」


 ゼズが剣を振り上げる。

 

 今だ!!


 ゼズが振り上げた腕を僕が全力で斬りつける。

 流石に龍鱗程の強度はないみたいで、腕は魔剣ごと斬り落とせた。


「ぬっ!!?」


 僕は斬り落とした腕を、遠くに蹴り飛ばす。

 これで魔剣は使えない!!


「よいやみ!! 今だよ!!」

「わ、分かったっす!!」

 

 こいつは、ここで殺しておかなきゃいけない気がする。

 僕もよいやみに合わせて心臓を狙って剣を構える。


「これで終わりだよ!!」

「ぐぅっ!!」


 よいやみが顔面を蹴った事で、ゼズは体勢を崩す。


 これでとどめだ!!


 僕はゼズの心臓部分に剣を突き刺す。


「が……は……」


 よし、人間ならばこれで倒せるはずだ!!


「く、くそ……わ、我が、貴様ら如きに……」


 ゼズは、僕を睨みその場に崩れ落ちる。

 そして、そのまま倒れた。


 か、勝った……のかな……。

 でも嫌な予感が消えない。


「いつきさん、嫌な予感がするから《拘束魔法》をかけておいてくれないかな」

「でも、ゼズは死んでいますよね」

「うん。念のため……」


 いつきさんはちょっと不思議そうにゼズの死体に拘束魔法をかけてくれる。

 これで、もしもの時(・・・・・)に少しだけでも時間稼ぎが出来る……。


 僕は、ゼズの死体を睨みながら、何かを見落としていないかを確認する。

 あまりにも、僕が用心深く行動しているのを不思議に思ったのかよいやみが声をかけてきた。


「みつき、どうしたんすか? いつもののほほんとした余裕が無いっす」

「うん。何故か分からないけど、こいつは危険だと頭の中で誰かが言った気がするんだ」

「え? 何を言っているんすか?」


 うん。

 僕も何を言っているか、良く分かっていないよ。

 大体、その声が本当に聞こえたとも……『油断してはいけません!!』


 え?


「今、何か言った?」

「言ってないっすよ……!?」


 よいやみは、突然驚いた顔をした。

 も、もしかして……。

 僕は死んでいるはずのゼズに視線を移す。

 ゼズはゆっくりと立ち上がり、いつきさんの拘束魔法をかき消す。


「く、くはっははははは!!! まさか、ここまでやるとは驚きだぞ!!」


 ど、どうして生きているの!?

 え!? 確かに心臓を貫いたのに!?


「ふむ、我を殺したはずなのになぜ生きているか? という顔だな。この姿は偽りの姿なのでな。偽りの心臓を貫いても死にやしないさ……。さて、見せてやろう、我の真の姿をな!!」


 ゼズは、黒い靄に包まれる。


 こ、この圧倒的な魔力は!!?

 

 靄が晴れてくると、ゼズの姿が露わになる。

 頭に二本の角、背中には羽が生え、肌が黒く赤い髪と赤い目が特徴の魔族だった。僕が斬り落としたはずの腕も元に戻っている。

 でも魔剣は、放置されたままだ。


「我はこの世界とは別の世界の魔王ゼドラ。自分の世界を滅ぼしてしまったので、この世界を支配しに来たのだが、世界以外にこれ程の幸運があると思わなかったぞ!!」


 幸運?

 な、なにを言って……。


「貴様等、我の部下になれ。そしてこの世界を滅ぼして、我の世界を手に入れようではないか」


 こ、こいつ……何を。


「ふざけんなっす。お前みたいな小悪党の部下になんて死んでもごめんっすよ」

「そうですね、仮にも私はこの世界の女神セリティア様の聖女です。異世界の魔王の手下なんて興味もないですね」

「きもい、しね」


 三人は、即答でゼドラの誘いを蹴っている。

 ……僕の答えも決まっている。


「この世界を滅ぼす? 無理だよ。お前はここで僕達に負けるし、それに僕達を倒したとしてもお前じゃバトスさんには勝てないと思うからね」

「くはははははは!! バトスとはこの間の弱い勇者か!? 今も、どうにかセズ達を倒したようだが、あんな弱き者では我に傷一つ付けられぬわ!!」


 ゼドラはそう言って、魔力を解放する。


 桁違いの魔力だ……。これはどうやって勝てば……。


「さて、交渉は決裂だな。お前達の事は勿体ないと思うが、死んでもらうとしよう」

「そうはさせるかっす!!」

「遅い!!」

「ぐぶっ!!」


 殴りに行ったよいやみが、逆に殴られた。

 でも、その隙に攻撃を、「遅いわ!!」……!?


「がはッ!」


 今のは手を振っただけでこの衝撃!?

 くっ……。


「くはははは。魔王相手に戦いを挑んだ結果だ。その事だけでも栄誉と思い死ぬがいい!!」


 そのとき、ゆーちゃんがゼドラに駆け寄った。


「じ・が・ぐらびとん!!」


 さっきワズを倒したの重力魔法だ。

 でも、ゼドラは平然としている。


「ほぅ、その魔法を使うとはなかなかやるものだな。だが、まだ本来の威力は出ていないようだな。本来の威力を出せれば、我の足止めくらいは出来ただろうがな。お前はこの中でも特に生かしておくとこの先厄介だ、今死ね」


 ゆーちゃんがゼドラに蹴り飛ばされる。

 

「ゆーちゃん!!」


 ゆーちゃんは気絶しているのか、僕の声に反応をしない。生きているの!?

 どっちにしても、このままじゃ壁に激突する。


 僕は壁に向かって飛んでいくゆーちゃんを追いかけて、抱きしめる。

 しかし、勢いは止められない。

 僕とゆーちゃんは壁に激突する。


「うぐっ!?」


 背中に激痛が走る。でも、無事に庇えたおかげでゆーちゃんには怪我は無いようだ。

 僕はゆーちゃんの呼吸を確認する。

 ……良かった、死んでいない。


 でも、蹴られた事で気絶しているみたいだけど……。


 !!?


 ゼドラが、僕達に何かの魔法を撃ってきた。

 このままじゃ直撃してしまう。二人とも避けられない。


「いつきさん!!」

 

 僕は咄嗟にゆーちゃんをいつきさんに放り投げる。

 僕も逃げなきゃ……と思ったけど、痛みで動けない。これは……間に合わない。


「みつきさん!!」「みつき!!」


 二人が僕の名を叫んだ瞬間、すさまじい衝撃と体全体に激痛が走る。


「かはっ!!」


 ヤバい、血まではいちゃった……。

 だ、ダメだ……意識が……。

 

 ま、まだ……ゼドラが……。



 あ、あれ?

 ぼ、僕はどうなったの?


 も、もしかして死んじゃったの!? 


『ふぅ……。咄嗟に魔力で保護しましたから、命に別状はないようですね。しかし、危険である事に変わりはありません。私の魔力(・・・・)で最低限動けるくらいに治療だけしておきましょう』


 だ、だれ?


 銀色の髪の毛の巨乳……アリ姉?

 でも顔が違う……。それに目の色が両目とも銀色だ……。


『目覚めましたか。でも、貴女は大人しくしておいて下さい。貴女は、私が選んだ(・・・・・)勇者なのですよ。こんな所で死んで貰っては困ります』


 え?

 僕を選んだ?

 僕はクジ引きで選ばれただけの……アロン王国のクジ引きだから……勇者というのは肩書だけ……。


『違いますよ、女神の残滓(・・・・・)である私は貴女の中にある私の欠片(・・・・)に呼びかけて、私の勇者(・・・・)に選んだんです』


 じゃあ、貴女が女神セリティア様?


『ふふふ。セリティア(あの子)じゃありませんよ。私は貴女の傍にいつもいます』


 傍に?


『今も、離さず握ってくれているでしょう?』


 え?

 で、でも、元はアインの……。


『ふふふ……アインもいい勇者でしたが、あの子では私の力を全てを使えませんでした。それに比べて貴女は……』


 ぼ、僕は……?


『まぁ、その話は後日話すとしましょう。それよりも今の貴女達ではゼドラの相手は難しいでしょう。今回だけは私が代わりに戦います。そして……』


 本来の貴女の魔力の使い方(・・・・・・・・・)を教えましょう。




≪よいやみ視点≫


「みつき!!」


 い、今のは不味いっす。間違いなく直撃を受けているっす。

 いつきがみつきの下へ駆け寄ってくれたっすけど、あしは……。

 ゼドラが何をするのか分からない以上、いや、あしがゼドラを倒さないと……。


 さっきの一撃で足が震えるっす。

 クソっ、情けないっす。

 で、でも立ち上がらないと。


 しかし、重い一撃だったっす。

 熊に本気で殴られるよりも強力かもしれないっすね。いや、熊はあしに本気で殴りかかった事は無いんすけど……。


「ぺっ……」


 顔を殴られたときに口の中も切れたみたいっすね。

 血が混じってたっす。

 でも、みつきはもっといっぱい血を出しているっす。


 早くゼドラを倒さないと……早く治療しないとみつきが死ぬっす。あの血の量はそれくらいの量っす。


「負けるか……っす」

「ほぅ、まだ立つか? 見上げた根性だな」


 うるさいっす。

 勝てると信じて戦うっす。


 その時っす。

 危険な状態だったみつきが立ち上がったっす。


「だ、だめです!! 今は安静に!!」


 いつきも焦っているっす。

 しかし、いつものみつきとは雰囲気が違うような気がするっす。

 どういう事っすか?


『よいやみさん、いつきさん、下がっていてください。今の貴女達ではゼドラの相手は難しいでしょう』

「「え?」」


 い、今のは幻聴っすか?

 で、でも、間違いなくみつきの口から発せられた言葉っす。


「くははははは!! まるでキサマなら、我の相手を出来るような言葉だな!!」


 あしにもそう聞こえたっす。

 それにあしの事をさん付けしていたっす。しかも口調もいつもと違うっす。微妙に声も違う気がするっす。

 !!? 

 この圧倒的な魔力は何すか!!?


 今までも何度かみつきから魔力を感じた事があるっす。でも、自分に魔力が無いと思い込んでいる(・・・・・・・)みつきにはその魔力を自分の意志で引き出せないはずっす。

 それに……この魔力は、ゼドラよりも強大っす!!


『ふふふ……出来るか出来ないかは、貴方が決める事ではないですよ。()が決める事です』


 みつきの眼が完全な銀色になっているっす。髪の毛も虹色に光っている気がするっす。どう言う事っすか!?


 な、何すか!?

 せ、背中に、銀色の羽が生えているっす!!?


『私の名は《女神アルテミス》、異世界の魔王ゼドラ、貴方に滅びという名の神罰を与えましょう』


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