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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
二章 人魔王編

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15話 みつきの里帰り


 ハインさんは、リリアンさんの淹れた紅茶を優雅に飲んでいる。

 こう言っては何だが、メイド服でなければさぞ絵になった事だろうと思う。

 そのくらい、ハインさんは美人さんだ。

 しかし、ハインさんの服装は本来給仕をしているはずのメイド服だ。ヴァイス魔国ではよく見る光景なので、僕はそこまで気にしないのだが、よいやみは違和感を感じたらしい。


「みつき、あの人はメイドさんなんすか?」

「違うよ。あの服装はあくまで趣味だよ。ハインさんはアリ姉の側近だけど、ヴァイス魔国で唯一役職を持たない人なんだ」

「そうなんすか? で? あの人なんで来たっすか?」

「うーん。それは、わかんない……」


 僕とよいやみがヒソヒソ話をする中、王様がハインさんに自己紹介を始めた。


「俺はアロン王国国王、レオン=アロンだ。貴女の名を聞かせて貰おうか?」

「私はハイン=ブラッド。そこにいるみつきちゃんの剣の師匠であり、魔王アリス=ヴァイスの侍女を趣味(・・)でやっているわ。本日、ここにお邪魔したのは、みつきちゃんの事で話があったのよ」


 僕の事?

 僕の事と聞き、よいやみが少しだけ動こうとする。が、僕がそれを止める。


「よいやみ、下手な考えはしない方が良いよ。ハインさんがその気になれば、ここにいる全員で戦っても勝てないから。しかも無傷でね」

「そ、そこまでの強さなんすか!!?」


 よいやみが、驚愕の顔でハインさんを凝視していると、ハインさんは「あらあら、いくら何でも、聖剣を持つみつきちゃんとその横にいるよいやみちゃん? だったかな? その子が本気になれば、無傷は難しいわよ」と笑う。でも、負けるとは言わないのがハインさんだ。


 この人はアリ姉相手にも勝てると言う。負けるとは絶対に言わないのだ。

 実際はアリ姉には負けるけど、それ以外の人には勝っているのが凄い。


 それと、この人は人の力を瞬時に見破る特技がある。そう言えば、魔法の眼もこれと同じことが出来るはず。もしかして魔法の眼を持っている?


 今の話を聞いていた王様は険しい顔をしてハインさんに視線を移す。


「みつきを連れ戻しに来たのか?」


 王様の声が少しだけ低くなる。

 ハインさんのが来る前の会話で、魔大陸出身の僕を利用する事に罪悪感を感じると言っていた。でも、ティタンとの戦いに僕達がいる方が良いというのもあるのだろう。

 どちらにしても、王様からすればタイミングが悪いという事だろうか。


「そうね。みつきちゃんの里帰り(・・・)が目的ですわ」


 ハインさんはハッキリとそう言った。

 でも、里帰りなら永続的ではないという事かな?


「そうか……元は、俺達が勝手に領土権を主張しているだけだ。魔大陸出身のみつきを取り戻そうとするのが必然か……」


 王様は、ハインさんの言葉で意気消沈してしまう。

 さすがの王様も、魔大陸が相手となるとこれ以上は言い返せないのかな? でも、ハインさんは里帰りって言っているような気が……。


「何か勘違いしているんじゃない? もう一度言うけど、私が求めているのは、みつきちゃんの里帰りですわ?」

「里帰り?」

「えぇ。みつきちゃんのお爺様とつき……いえ、お母様、それに私の友であるアリスが久しぶりに顔を見たいと言い出してね、だから、少しすればこちらに返しますわ。実際、みつきちゃんもこちらで楽しんでいるようだし。あ、アリスからレオン陛下に手紙を預かっているわ」


 ハインさんは、どこかから手紙を取り出す。


 これを見た瞬間、いつきさんが「空間魔法ですか……」と呟くと、「そうよ、空間魔法だけはアリスを超える事が出来ているの」とハインさんが肯定する。ハインさんも空間魔法が使えたんだ。

 というか、アリ姉が空間魔法を使っているところを見た事が無いんだけど……。


 ハインさんは手紙を王様に渡し、王様が中身を確認する。


 手紙を読んだ王様の顔がどんどん明るくなっていく。


「こ、ここに書いてある事は本当か!? これが本当ならば我々としても願ったりかなったりだ。是非ともみつきを連れて帰ってくれ!!」


 ん?

 手紙にはなんて書いてあったんだろう。

 さっきまで、僕が帰る事に危機感を持っていた王様が、連れて帰れって言うなんて。


 しかし、これにはいつきさんが口をはさんできた。


「陛下、私達にも説明をお願いします。私達はみつきさんの仲間です。陛下の判断で勝手に決められても困ります」


 いつきさんが、軽く怒っている。


「あぁ、みつきちゃんのお友達も一緒にご招待するように言われているから、問題はないわよ」

「いえ、そういう問題じゃないんですが……」


 いつきさんが怒っているのを見て、王様は少し困った顔をして、いつきさんに手紙を渡す。


 見せていいの? 割と重要な手紙じゃないの?


「確かに、黒姫一行のリーダー(・・・・)である、いつき(・・・)にもちゃんと説明する必要はあるよな」


 あれ、おかしいなぁ。

 黒姫(・・)一行という名前なのに、いつから僕がリーダーじゃなくなったんだろう?


 よいやみが哀れんだ目で見てくる。


 ……泣きたくなるから止めてよ。


「あー。こほん。陛下、一応言っておきますけど、黒姫一行(うち)のリーダーはみつきさんなのですが……」

「な!!?」


 なんで、そんなにビックリするのかな?

 大体、パーティ名が僕の二つ名なんだから、推測できると思うんだけど?


「ふふふ……みつきちゃんも、こちらで楽しくやっているみたいね」


 ハインさんが、僕達のやり取りを見て微笑んでいる。

 あれ? いつの間にか、僕の隣にいたゆーちゃんがハインさんの膝の上で寝てる!?


「は、ハインさん。ゆーちゃんを取らないでよ……」

「ふふふ。可愛い子ねぇ。取らないから安心しなさい。本当に貴女はそういう所もアリスに似てきたんだから……」

 

 確かに、妹をかわいがるというところはアリ姉に似てきたとは思うけど……。


「みつきのゆっきー病は魔王アリスさんから引き継いだものなんすね」


 おい、ゆっきー病って何だよ。


「成る程、みつきさんを使者としてヴァイス魔国に行かせるという事ですね。その途中で里帰りさせようという事ですか。この魔王アリスさんという人はみつきさんの事を本当に大事にしているのですね」

「あぁ、という訳で、黒姫一行は魔大陸へと行って欲しい。出来れば早めに帰ってきてくれ」


 確かに、今の現状ではバトスさんよりも強い敵がいるとなると、僕達も王都にいた方が良いんだろう。だから早く帰ってきてくれ……か。

 僕達が了承しようとしたら、ハインさんが「みつきちゃん達が里帰りしている間は、私がこの国の防衛に当たるわ。アリスもその為に私にアロン王国に来させたのだから、ゆっくりしてきなさいな」とゆーちゃんの頭を撫でる。


「し、しかし……」

「それに、私の予想ではそちらの御仁も魔大陸に行くと良いと思うわ」


 ハインさんは、バトスさんを指差す。

 しかし、それでは二大勇者の二人共いなくなってしまう。流石に不味いと思ったのか、王様がそれには反対した。

 しかし、僕としては、僕達二人が残るよりもハインさん一人の方が遥かに強い事を知っている。


「王様、ハインさんなら一人でも問題ないよ。この人、見た目と違って、かなり好戦的だから」

「そこまで強いのならば、ティタンを倒してもらったら「嫌よ」……あ、はいっす」


 それは無理な相談だろう。

 ハインさんは、基本アリ姉の言う事しか聞かないし、面倒だと思った事は絶対しない。

 だからこそ、ヴァイス魔国で役職に就いていないのだ。ハインさん曰く、ヴァイス魔国に仕えているんじゃなくて、親友のアリ姉を手助けしているだけだそうだから……。あ、きっちりお給料は貰っているらしいけど……。

 今回だって、アリ姉が頼んだからこの国の防衛を引き受けているだけだろうからね。


 どちらにしても、ここからはハインさんと王様の話し合いだ。僕達は魔大陸に帰る為に準備をするために一度お店に帰る事にした。

 席を立とうとすると、ハインさんが「私は月見亭という宿屋にいるから、準備が出来たら尋ねて来なさい。私が転移魔法で送るから」と話す。

 転移魔法と言えば、いつきさんも使えるはずだ。もしかしたらゲンさんが魔大陸に入ってこられたのって……。


「魔大陸の中に転移できるのであれば、お願いします。私では、魔大陸の結界の外にしか転移できないので」

「大丈夫よ。訳あって村の近くの平原にしか転移させられないけど安心なさい」

「お願いします」


 あとで、いつきさんに聞くと、いつきさんの転移魔法では魔大陸の結界は超えられないそうだ。という事は、ゲンさんは自力で結界を越えていたんだ。



 僕達は、お店に戻り各自準備をした後、月見亭に行く前にゲンさんの家に寄った。

 ゲンさんは夫婦で隠居中なので僕達が訪ねていくとビックリしていた。


「お父さん、暫く魔大陸に行くから、お店に出て欲しいんだけど」

「ん? 店の事は大丈夫だが、魔大陸とは、どうしてだ?」


 僕は冒険者ギルドであった出来事をゲンさんに話す。


「ハイン? あの不愛想な子か? あの子がアリス嬢の近くを離れるなんて珍しいな」

「お父さんは、ハインさんを知っているの?」

「あぁ、アリス嬢には野菜の卸売りなどで世話になっているからな。その時に何度か武器を注文してもらった。いつき、俺が持って行った魔剣あったろ? あの呪われた魔剣だ。あの魔剣を買ったのがハインちゃんだ」


 呪いの魔剣!?

 確かに、ハインさんがゲンさんから魔剣を買ったのは知っているけど、アレって呪われていたの!?


「で、でも、アレって呪われてなかったよ?」

「吸血姫が持っているからだろうな。そもそも、吸血姫の聖剣と言われている呪われた魔剣だったから、吸血姫であるハインちゃんには最適な武器なんだろうな」

「そうだったんですか。あの売れ残りを買ってくれたのですか……それはありがたいですね」


 え? 売れ残り?

 いつきさんに詳しく聞くと、あの魔剣は吸血鬼以外の人が持つと、血を吸われていくらしく、誰も買ってくれなかったそうだ。それが突然売れたから、どういう事だ? とは思っていたらしい。


 僕達の用事も済んだので、月見亭に向かおうとすると、ゲンさんがよいやみに声をかける。


「よいやみちゃんの強さは知っているつもりだが、魔大陸に着いたら魔物には気を付けるんだよ」

「魔物っすか?」

「あぁ。多分、一番最初に出会う魔物はゴブリン(・・・・)だと思う。見た目に騙されちゃダメだ」


 ゴブリンごときで、よいやみに注意を促すのは変な話だ。


「ゴブリン程度なら、よいやみなら簡単に倒せるよ」

「みつきちゃんは、今は黙っておいてくれ」


 う……怒られた。

 

「魔大陸の最弱のゴブリンは、この大陸では最強の魔物レベルの強さだという事を忘れないでくれ。あの大陸は、一瞬の気の緩みが死につながる」


 いや、そこまでではないと思うんだけど……。

 僕でも狩れるくらいだから、何の問題も無いと思うんだけどな……。


 

 その後、ゲンさんと別れ、僕達は月見亭へと向かった。

 月見亭の一階の酒場では、バトスさん達『パリオット』の面々が待っていた。


「アレ? バトスさんも行くの?」

「あぁ、あの後、ハイン殿と戦わされてな。手も足も出なかった。それで、陛下が「強くなって来い」と無理を言い出してな。俺も、もう四十近いから、これ以上は成長しないと思うんだがな……」

「そうなんだ。もし、よかったら、僕のじいちゃんを紹介しようか?」

「爺さん?」

「うん。僕よりも遥かに強いし、人を鍛えるのが大好きだから、もしかしたら、今以上に強くなれるかも……」

「ははは。そうだな、もし強くなれるのなら、お前の爺さんを紹介してもらおうか」


 僕達は雑談をしながらハインさんの準備が整うのを待つ。

 ハインさんは、一人ならば転移魔法で転移させる事が可能と言っていたが、これだけの大人数になると、転移魔法陣を使った方が確実だと言い、準備をしてくれている。


「あれっすか? 転移魔法陣を使うのならば、いつきでも転移できそうなんすか?」

「そうですね。あの結界がなければ転移できますが、結界がある以上、私には不可能ですね」


 そうなんだ。

 暫く待つと、ハインさんが準備が出来たと僕達を呼びに来た。

 僕達は、魔大陸へと転移する魔法陣の上に乗る。

 すると、一瞬で、懐かしい空気を感じる平原へと転移して来た。

 

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