5話 一階層
竹林にそびえ立つ塔、確かにおかしい。
僕が思うおかしい所はこの塔の高さだ。こんなに高い塔なのに村の人々は気付かなかった。 それにこの塔からは強力な魔力を発している。
僕は魔力がないけど、魔力を感知する事は出来る。
どちらにしても、建造物自体が魔力を発しているなんて、聞いた事もない。
この異様な雰囲気を考えると、いつきさんの言っている事も分かる。けど、逆に一つの疑問も生まれる。
こんなに大きな建造物を、果たして人が作り出す事が可能なのかどうかという事だ。
僕がその事を聞こうとすると、一足先によいやみが疑問に思った事を、いつきさんに聞いていた。
「魔法で作られたモノ? どういう事っすか?」
「そうですね、これだけの高さがあるのにカーム村の人は見えなかった。それ自体もおかしいのですが、この周辺に魔物はいないんですよ」
魔物か。確かにそこも変だよね。
オルテガさんは、この竹林には強力な魔物はいないと言っていた。でも、魔物がいないとは一言も言っていないのだ。となると、低級魔物くらいはいそうなのだが、ここに来るまで一匹も見ていない。
「それが、何か関係があるんすか?」
「大ありです。ギルドマスターの話でもそうでしたが、この辺りにはケダマやウルフ等の弱い魔物はいるはずなんです。それが全くいないという事は、どういう事か分かりますよね、みつきさん」
「ふぁい!?」
急に話を振られてビックリした……。
「あ、弱い魔物が一斉にいなくなる理由だよね。いくつか原因があると思うけど、例えば強力な魔物が近くに出現した場合、弱い魔物は逃げていく、その場合も魔物はいなくなる」
「そうです。今回の場合は、強力な魔物とではなく、この塔が発する魔力で弱い魔物が逃げていると感じます」
「僕もそう思うよ。この塔からは、在り得ないほどの魔力を感じる」
僕達は、塔の周りを探索する。
外周をぐるりと回ってみたが、それほどの大きさの塔ではなさそうだ。これなら、簡単に攻略できそうだが、いつきさんの表情は曇っている。どうしたんだろうか?
「とにかく入るっす。ここでボーっとしてても仕方ないっすからね」
よいやみが空気を読まないで、塔の奥へと入っていく。
もぅ、勝手な事をして!!
僕達もよいやみを追いかける様に塔に入った。
塔の通路はとても綺麗で、壁が崩れていたり、コケが生えていたりしているわけではない。
僕自身も古代の遺跡というのにはあまり縁がないのだが、この塔は遺跡という感じがしない。
魔大陸にも、小さいけど遺跡はある。そこは、はるか昔に盗掘された遺跡らしく、何も残っていない代わりに、誰も入らなくなったと聞いた。
一度、村を襲いに来た魔族の馬鹿がいたのだが、そいつを撃退した時に、その遺跡に逃げ込まれたので、じいちゃんと遺跡に入った。
その時の遺跡は、何と言うのだろうか……、とても嫌な雰囲気がしたのだ。
カビの臭いのと、長年放置されていたせいか、経年劣化のせいかは分からないが、壁も床もボロボロだった。
しかし、この塔にはそんな雰囲気をまるで感じない。いつきさんが言った、人工物とはこういう意味で言ったのだろう。
しかしだ。
「こんな大きな建物を作る奴……この塔の持ち主は物凄い魔導士なのかな?」
「確かに、一から作ろうとした場合は桁外れの魔力が必要でしょう。でも、この塔は違います。この塔は空間魔法と幻惑魔法で出来ています」
「どういう事?」
「実際、魔力だけでこの塔を作ろうとすると、ゆづきちゃんの様に無限の魔力が必要になってきます」
「ゆーちゃんえらい」
ゆーちゃんがドヤ顔をしているので、僕はゆーちゃんの頭を撫でる。可愛い……。
「ゆっきーは『無限の魔力』持ちなんすか?」
「はい」
無限の魔力? 聞いた事のない単語だ。
「無限の魔力って何?」
「無限の魔力とは、私達、魔法職の最高到達域の一つで、魔力が無限に湧き続け、枯渇がない人の事を言います。本来であれば、ゆづきちゃんの使う甦生魔法は千年魔力を溜めないと使えない程の魔力を使うのです。比較的魔力使用量の低い即死魔法も同じで、例えば私が即死魔法を使ってしまえば、たった一回で魔力は枯渇してしまうでしょう」
「それほどなの!?」
「はい。で、この塔に空間魔法が使われている根拠ですが、塔の構造を見ればわかると思います」
「塔の構造?」
「はい。私達は曲がり角も無く、ひたすらまっすぐ歩いてきましたが、こんな長い通路がある塔に見えましたか?」
「あ!?」
確かに、この塔は高さはあったけど見渡せるほどの外周しかなかった。それなのに僕達は一度も曲がっていない。それどころか、緩やかなカーブになっているといった訳でもない。こんなに広いはずがないんだ。
「分かってもらえたみたいですね」
僕といつきさんが話をしているとよいやみが、暗い通路を睨んでいる。
「よいやみ、どうしたの?」
「来たっすよ」
「え?」
生体感知には何もひっかからなかったけど、何が来たの? と思ったのだが、乾いた音が聞こえてくる。これは足音?
「スケルトンっすね。いつきとゆっきーは下がってるっす。みつき、行くっすよ」
「うん」
僕達が構えると、そこに現れたのは、通路を埋め尽くすほどのスケルトンだった。
だけど所詮はスケルトン。そこまで焦る事もない。
僕は剣で、よいやみは蹴りでスケルトンを倒していく。倒すといってもスケルトンは崩れるだけで、本来は倒しにくい魔物と図鑑には書いてあったが、ここのスケルトンは崩された瞬間に塵に変わっていく。
スケルトンの数は多いが、こんな雑魚に一撃を貰う事はない。こんなのに負けて、追い返されるって、流れ星の流星はどれだけ弱いんだ?
そう思っているうちに、スケルトンは全て塵となった。
塵になるのを確認した後、よいやみがボソッと不満を言う。
「しかし、報酬が無いというのもムカつくっすね。攻めて魔石でも落としゃいいんですけど」
「よいやみは、人骨を漁りたいの?」
「う……嫌っす」
僕とよいやみがふざけ合っていると、いつきさんが呆れ顔で衝撃の事実を教えてくれる。
「ここにいるスケルトンは人骨で出来てはいないですよ」
「は?」「え?」
僕達は素っ頓狂な声を上げてしまう。
だって、スケルトンってどう見ても人骨じゃん。人間じゃん。僕はそう思って図鑑を取り出して確認しても、人骨に似た魔物としか書かれていない。
ん? 似た?
「え? 似たって何?」
「基本的には、死霊系の魔物というのは、上位のスケルトンや、リッチが作り出したものと言われています。リッチが使う『屍者蘇生』の魔法は、土や木の枝などといった無機物を媒介にしている場合が多いのです」
「ちょっと待つっす。それなら、なぜ人の形をしているんすか?」
「上位の死霊系の魔物は、人間がべースになっている事が多く、そのせいでリッチの呼び出す死霊系の魔物が、人に近い形になると言われています」
僕はいつきさんが話した内容をノートに書いておく。こんな話は、魔物図鑑には書いていない内容だ。
いつきさんの話では、この塔にいるスケルトンはやはりおかしいそうだ。
普通のスケルトンは最低級の魔物でありながら、倒しても体が崩れるだけで、すぐに復活するのが特徴なのだが、この塔のスケルトンは塵になるので、恐らく普通のスケルトンとは違うとの事だ。
「ここのスケルトンは魔物変化症の末路に似ていますが、恐らく人工物でしょう。合成獣という奴ですかね……」
このスケルトンがキメラか……。思った以上にこの塔の主は、ヤバい奴かもしれない。




