冒険者ランクの要望書
「グランドマスターに会いたい?」
オルテガさんが怪訝そうな僕たちを見る。
いつきさんは、狂気の王のことを含めてちゃんと説明したんだから、怪訝そうな顔で見るのはおかしいよね?
いつきさんも僕と同じ気持ちなのか、オルテガさんの反応に引っ掛かっているみたいで、不満げな顔をしている。
「オルテガさん。何か勘違いしているようですが、私たちは冒険者です。アロン王国の勇者パーティではありますが、それ以前に冒険者なので、どこに行こうと自由なはずですが、一応、義理として、報告しているんですよ?」
いつきさんの棘のある言葉に、オルテガさんがため息を吐く。
「別に悪気があって言ってるんじゃないぞ。お前らもそうだが、アロン王国の勇者は、良くも悪くも有名になっているからな。総本部の連中も、アロン王国で有名な勇者がいきなり現れたら、アロン王国で何かあったのか? と警戒するだろう? そこを心配してるんだよ」
悪気があって言ってるんじゃなくて、僕たちのことを思って言ってくれてたんだね。いつきさんも、不満げな顔から、普通の顔に戻っている。
「だからこそ、何の用事もなしでいきなり行くのではなく、依頼で行けばいいと思いまして……。ということで、なにかジルキンに行かなければいけない、都合の良い仕事はありませんか?」
「そうだな。ちょうど別の冒険者に行かせようと思っていた、ジルキンの総本部に行く仕事がある」
そう言ってオルテガさんが机から封筒を取り出し、いつきさんに渡す。
「これは?」
「グランドマスターへの要望書というやつだ」
「要望? 冒険者ギルド間には、連絡用の魔宝玉もあるはずです。なぜ、こういう形でグランドマスターに伝えるんですか?」
「あぁ……、これに関しては、お前たちも関係がないとは言えない。さっきも言ったが、アロン王国は、英雄バトス、勇者黒姫と、一般的な最高ランクである、オリハルコン級の勇者を二人も抱えている。しかもだ。あのクレイザーですら、今はソーパー所属となっているが、オリハルコンに近いミスリルランクだ」
へぇ……。
最近は、クレイザーに会っていないけど、たまにアロン王国に戻ってきて、バトスさんに鍛えてもらっていると聞いた。ちゃんと強くなっているんだね。
「なるほど……。急激に力をつけている、アロン王国のギルドを警戒している支部も存在しているということですか……。それで、盗聴防止というわけですか?」
「正解だ」
うーん。
魔宝玉は、盗聴みたいなことをされる危険性もあるのか……。
でも、逆に考えたら、盗聴されて困るようなものを、僕たちに運ばせるの?
「それで、中身は何の要望なんすか? それを聞かん限り、ジルキンに行くわけにはいかんっす」
ずっと黙っていたよいやみが、そう言う。
狂気の王の力について、一番知りたいはずのよいやみがジルキンに行きたいように見えない。なんでだろう?
「そうだな。お前たちも知るように、今の冒険者のランクを決めているのは、女神ランクだ」
「そうっすね。みつきとゆっきーがヒヒイロカネで、アシといつきはオリハルコンっすね。それがどうしたんすか?」
「あぁ、前から思っていたんだが、女神ランクで冒険者の地位が決まってしまうのはどうかと考えていてな。ギルドの貢献度や、依頼の達成度、依頼者からの評価などを考慮したランク、冒険者ランクというものを作りたいと思ってるんだ」
オルテガさんの話を要約すると、女神の魔宝玉で高ランクになってしまっだ場合、他の冒険者に対し横柄な態度にでる者がいるらしい。
そういえば、みんなは覚えていないけど、リュウトがそうだったね。
「冒険者ランクシステムが始まれば、例え女神のランクが低くても、コツコツと依頼をこなしていれば、高ランクになれる可能性も出てくる。ということは、その逆もありえるということだ」
「でも、女神ランクが高くても、元々街の人たちの信頼がないのなら、ランクが高かろうと関係ないんじゃないの?」
僕が依頼をする側なら、女神ランクが高かろうと、嫌な冒険者には依頼したくない。そのための指名制度なんじゃないの?
「そうでもないさ。指名依頼とはいえ確実じゃない。全ての依頼が黒女神への指名だったら受けることはできないだろ?」
あぁ、それは確かにそうだ。
「確かに、私もそのあたりが気にはなっていましたから、その依頼受けさせていただきます。ところで、グランドマスターはどのような人物なのですか?」
おばちゃんの話だと、時の番人ってことだけど、どんな人物かまでは聞いていない。
「悪い人ではない。いや、厳格ではあるな。あぁ、それと、うちの姉と同じで、おそらく不老という奴だろうな。見た目は20歳くらいの青年だ。ただし、圧倒的に強い」
「おとぎ話の時の番人だったら、弱いわけはないっすよね。熊や、みつきの爺ちゃんクラスなんすかね?」
実際に会っていないから、どこまで強いかわかんないけど、警戒はしておいたほうがよさそうだね。
次の日。僕たちは、ジルキンの玄関口であるアレンスという港町に到着していた。
本当は船で一週間かかるのだが、いつきさんが以前商談で訪れていたそうなので、転移魔法で来ることができた。
「久しぶりっすねー。相変わらず、港町は空気が悪いっす」
よいやみはアレンスの街を見てため息を吐く。
「よいやみは、ジルキンには、来たことがあるの?」
「あぁ、ちっちゃい頃っすけどね。この国のことは、みつきは嫌いだと思うっすよ」
「どうして僕だけ?」
いくら僕がどこにも行ったことのない田舎者でも、初めてきた国を嫌うことはないんだけど……。
「この国は亜人差別が酷い……、いや、異常なほどに酷いっすね。いまだに、亜人に対する奴隷制度が生きているかもしれんっすからね」
あぁ、それを聞かされると、確かに嫌いになりそうだ……。
しかし、気になる所もある。
「どうしてそんな国なのに、冒険者ギルドの総本部があるの?」
「むしろ、こんな国だからっすよ。もし、冒険者ギルドの総本部がなければ、もっと酷いかもしれんっすね」
僕たちは、ジルキン王国の滞在許可を得るために冒険者ギルドに向かう。
「そういえば、冒険者ギルドは国と独立されているのに、どうして滞在許可をとるのに、ギルドに行かなきゃいけないの?」
「あぁ、本当は入国管理局とギルドは別の建物である必要があるんですけど、ジルキンの場合は本部があるのでギルドの信頼度が高いので、入国管理業務もギルドに依頼されているみたいですね」
ふーん。
やっぱり本部がある国というのは、ギルドの信頼も高いんだね。
「あぁ、それは昔の話であって、今は別にしたほうが良いという意見も出ているっすよ。それはアインスのギルドに行けばわかるっす」
よいやみはそう吐き捨てると、アインスのギルドに向かってスタスタと歩く。やっぱり、よいやみはこの国にくるのが嫌だったのかな?
アインスのギルドは、入国管理の業務も含まれているからか、アロン王国のギルドよりも大きく立派だった。
だけど、賑わっている気配はない。
「相変わらず辛気臭いギルドっすね。いつき、アインスに来たのはいつ以来っすか?」
「そうですね。ここ一年は主だった取引はないので、一年ぶりといったところでしょうか? しかし、前に来たときは、もう少しマシだった気がするのですが……」
「あぁ、去年といえば、ギルマスが一時的に変わってた時っすね。あれで自浄効果があると思っていたんすけど、すぐに元のギルマスに戻ってしまったから、ギルドも元の辛気臭いギルドに戻ったすね」
「あぁ、そういう裏事情があったのですか。まぁ、どちらにしても入国手続きは必要ですから、ギルドに入りましょうか……」
うーん。
二人の話を聞いていると、何かトラブルに巻き込まれそうな気がするよね……。




