冒険者ギルド総本部
ガストから戻ってきた僕たちは、狂気の王の力について聞くためにどうするかを話し合うことにした。
「よいやみさんの体調に影響が出る前に、シェリル様やアリスさんの話を聞いてみたいですね。まずはクロウディアさんに会いに行ってみましょうか?」
「アリ姉に話を聞きたいんであれば、直接ヴァイス城に行けばいいんじゃないの?」
「私とゆづきちゃんは、クロウディアさんにシェリルさんと会わせてもらいましたからね。まず最初にクロウディアさんにシェリル様に会えるようお願いしてから、アリスさんに話を聞きにヴァイス魔国に行ったほうが効率がいいでしょう?」
確かに、異世界の魔王さんに会いたいと言って、すぐに会えるわけがないから、お願いしておくってことか……。そのほうがいいかもしれないね。
「よいやみさんもそれでいいですか?」
「いいっすよ。しかし、みんな悪いっすね。アシの変な能力のせいで、手間をかけさせて……」
よいやみはそう言うけど、これでよいやみが怪我したり死んだりする方が嫌だ。いつきさん達も僕と同じ気持ちだから、首を横に振って「手間なんて思っていませんよ」とほほ笑む。
「よいやみさん。私たち黒女神は、冒険者の地位などよりも仲間の安全のほうが大事です。それに、能力について知ることにより、よいやみさんの強化にもつながるのですから、何も手間ではありませんよ。では、魔大陸に転移しましょう」
いつきさんはそう答えた後、転移魔法を発動させ、あぼくたちの足元が光る。光が止むと、絶望の村の魔法具屋さんの前に立っていた。
「クロウディアさん、いらっしゃいますか?」
いつきさんは慣れた感じで店へと入っていく。
「おや、いつきちゃんにゆづきちゃんじゃないか。それにみつきちゃんとよいやみちゃんもいるとは、珍しいね」
ゆーちゃんといつきさんは、魔法の練習や魔法具の研究のために月に数回来ているみたいだけど、僕とよいやみは、魔大陸にくる場合、どちらかというと狩りをメインとしているから、お店にはあんまり来ない。
「クロウディアさん。早速なのですが、狂気の王という能力のことを知っていますか?」
「あぁ、ガストの王妃が持っていた能力だね。いつきちゃんが聞いてくるってことは、王妃の娘であるよいやみちゃんが目覚めたのかい?」
おばちゃんもよいやみのお母さんのことは知っているんだ。ということは、ルシェラさんの言っていた通り、魔力増強だけの能力なのかな? でも、魔力の増強というだけで、魔力の暴走が起こるというのも変な気がするね……。
「クロウディアさん、いきなりこんなことを聞くのもなんなんすが、お母様がそうだったように、この力の本質は魔力増強なんすか?」
「いや、直近で狂気の王に目覚めた人がガストの王妃という話だけで、私も詳しい能力までは知らないね。あ、もしかして、その力について聞きたくて、シェリル様に会いたいとここに来たのかい?」
「はい。グレンさんでも狂気の王については、詳しいことはわからないというので、シェリル様ならと思いまして。グレンさんもシェリル様の知識ならば、わかるんじゃないかとおっしゃられていましたし」
「なるほどね……。でも、ごめんよ。シェリル様にはこちらから連絡できないんだよ。それに、前に聞いた話によると、この時期は自分の世界のことが忙しくて、連絡がほとんど来ないんだよ」
「そうなんですか? となると、シェリル様に聞くのはしばらくは不可能ということですね……。では……」
アリ姉のことなら僕が聞いたほうがいいだろうと、いつきさんが僕の背中に手を当てる。
「じゃあ、おばちゃん。アリ姉なら、狂気の王について知ってると思う?」
「アリス様かい? 確かにアリス様の知識も、シェリル様に匹敵するとは思うけど、アリス様も今は忙しいんじゃないかな? アロン王国やガストなどとの交流が始まって、この間、つきのが忙しいって、愚痴っていたからね」
そういえば、アロン王国の王様もヴァイス魔国、ガストにソーパーとの交流などで忙しいと言っていたな。今思えば、ガスト王もよいやみが娘じゃなかったら、普通は会えなかったと思う。
「あ、そうだ。アリス様やシェリル様ほどではないと思うけど、もし急ぎというなら、ジルキンに行くのも良いかもしれないよ?」
ジルキン?
聞いたことのないところだね。よいやみなら知ってるかな?
「よいやみ、ジルキンって何?」
「みつき、知らないんすか? ジルキン王国には、冒険者ギルドの総本部があるんすよ」
「そうなの? 僕は基本、アロン王国しか知らないから、アロン王国のギルドが本部だと思っていたよ」
「冒険者ギルドは、どんな国とも切り離されている組織っすからね。一応言っておくっすけど、ジルキン王国に本部があると言っても、ジルキンの所属ではないっす」
そういうことなんだ。だから冒険者は基本、どの国でも行けるってことなんだね。
あ、僕の場合はアロン王国の勇者だから、一応制限とかはあるらしいけど。
「しかし、ギルドの総本部があるからといって、狂気の王とはつながらない気がしますが……。冒険者にみつきさんやよいやみさんの強さに届く人がいるとは思えませんし……」
「あぁ、確かに、みつきちゃんたちの強さを考えたら、冒険者ギルドは頼りないと感じるかもしれないけど、それは大丈夫だよ。なんといっても、グランドマスターは時の番人の一人だからね」
時の番人? なんか、聞いたことのある名前だ。
僕は時の番人のことを思い出そうとしていると、よいやみが少し怪訝な顔をしておばちゃんに問いかける。
「それって間違いないんすか? 確かに、親父も存在するとは言ってたっすけど」
ガスト王がそう言っていたのなら、存在するのかな?
「あぁ、あまり大声で言っちゃいけないんだけどね。間違いなく存在するし、グランドマスターが時の番人というのも間違いないよ」
時の番人とかいうのはともかくとして、よいやみは別の心配があるのか、腕を組んで何かを考え込んでいる。
「しかし、ジルキンっすか……」
「よいやみ、どうしたの?」
「いや、ジルキンといえば、今はまだ荒れているんじゃないかって思ったっす」
よいやみはガスト王の娘で王族だ。
最近は、アロン王国との同盟のために結構な頻度でガストに戻っている。だからこそ、国同士のいざこざも知っているのかもしれない。
しかし、いつきさんがそれに反論する。
「そうなのですか? 私も取引の関係で、何度かジルキンには行っていますけど、ジルキン王は聡明な方なので政治手腕も高く、国そのものも比較的平和だと感じましたけど?」
確かに、いつきさんも他国とも取引をしているので、そういった情報にも詳しいかもしれない。
「ジルキン……王っすね。確かに表向きは平和だと思うっすよ。表向きはっすけど」
よいやみはそう呟いた後、俯いて何かを考えているようだった。
とはいえ、このまま考えていてもしょうがないので、一度アロン王国に戻ることにした。




