過保護なグレン
そろそろ寝ようかという時間になって、よいやみが部屋に帰ってきた。自分の家なんだから、自分の部屋で寝たらいいのに。と思ったが、いつも僕に言ってくるように、よいやみも寂しかったのかな? と思うことにした。
「それで、よいやみ君。事前に予想していた通りの話だったかい?」
クオン婆ちゃんがそう聞くと、よいやみは頷きはしたが、あんまりスッキリした顔ではなかった。
「そうっすね。ここで話していた通り、おそらくは、狂気の王の力の暴走が原因だったみたいっすね。特に、1人での行動中に暴走して魔法が使えなくなったのが決定打になったみたいっす」
「よいやみは大丈夫なの?」
よいやみだって、単独で王種を狩りに行ってるから、そのへんが心配だ。
「あぁ、アシはその辺は心配していないっす。もしもの時は、みつきがそばにいるっすから」
よいやみはそう言ってニカっと笑う。いつきさんも、しばらくは、よいやみの単独クエストや狩りを、僕とセットになるように調整すると言っていた。
「それで、狂気の王の力の秘密はわかったのかい? そのうえで、今後をどうするか、決めたのかい?」
「いや、正確な能力は分からなかったっすね。お母様の場合は、本人が魔法が使えなくなったって言ってたらしいっすから、直接的な原因も憶測でしかないっすからね」
結局、狂気の王の力については、何もわからなかったみたいだ。
「あと、熊にさっき声掛けをしたから、ガストに向かってるとは思うんすけど」
声掛けとは? と少し考えてしまったけど、グレンさんは僕たちが軽く話していたことも、聞こえている時がある。そう考えたら、空気とかの振動でどこにいても聞こえてる可能性がないとは言えない。
「あぁ、グレンさんなら、どこにいてもよいやみの声は聞こえそうだからね」
ある意味弟子として可愛がられてるとは思うけど、よいやみの顔は青ざめる。
「なにそれ、めっちゃ気持ち悪いんすけど?」
めっちゃ気持ち悪がっているように見えるけど、よいやみは、間違いなくグレンさんに伝わると思って、声掛けをしたんじゃないのかな?
「よいやみさん。その辺で控えておいた方がいいですよ。グレンさんはもう来ているのですから……」
へ!?
いつきさんにそう言われ、いつきさんの視線の先に目をやると、グレンさんが腕を組んで、壁にもたれかかっていた。
「熊。女の子しかいないんすから、せめてノックして入ってくるっす。相変わらずデリカシーがないっすね」
「む? それはすまんかったな。ところで、そこにいるのはアンデットか? 新手の魔物か?」
グレンさんは、少しだけ気まずそうな顔をしたけど、すぐに目線を細めて、クオン婆ちゃんを指差す。クオン婆ちゃんは確かに骨だけど、魔法で姿を変えている。だけど、グレンさんのような人には、魔法による変化なんて関係なく、本当の姿がわかるのかな?
「あれ? その辺は聞いてなかったんすか? 熊なら、アシらの会話を常に聞いていると、引いてたんすけど?」
「お前は本当に師匠にむかって、本当に失礼なやつだな。そんな、変質者みたいなことをするわけがないだろう? それで、そいつは何者だ?」
最初はグレンさんから威圧感を感じたんだけど、よいやみがクオン婆ちゃんを受け入れているのを知ってか、威圧感は消えた。
「私たちの新たな仲間ですよ」
いつきさんが代表して、クオン婆ちゃんのことを、グレンさんに説明する。
「なるほど。それで、魂が縛られているのか。しかし、不死を成功させるとはな。噂に聞いていたガスティアもなかなかに狂っていたんだな」
どうやら、グレンさんはガスティアのことを知っていたらしい。
「熊。ある程度話は聞いていたと思うっすけど、狂気の王って何か知ってるっすか?」
グレンさんが何歳かは聞いてないけど、僕たちとは次元の違う強さを持っているし、戦闘に関しての知識はすごく豊富だ。だからこそ答えを出してくれると期待したんだけど、グレンさんの答えは僕たちの予想と反していた。
「いや、俺も聞いたことはないな」
「熊でもわからんすか? うーん。困ったっすねー」
戦闘関連のことなら、グレンさんなら知っていると思ってたんだけど、よいやみのお母さんみたいに、魔力を増強するだけの能力なんだろうか?
「つぎはしぇりるせんせいにきく?」
「シェリル? あぁ、レヴァンテインの大魔王か。彼女は博識だ。何か知っているかもしれんな。それに、アリス嬢も何か知っているかもしれんぞ」
「アリ姉も知ってるのかな? アリ姉って直感で物事を決めているから、知識とかあるのかな?」
「あぁ、アリス嬢も俺たちと同類だ。それに、直感で動けるということは、その知識が頭に叩き込まれているからこそできることだ」
なるほど。
確かに知識がないと、国の運営なんてできないよね。
「しかし、お前が狂気の王の力とやらに目覚めた以上、他の王族たちも目覚めるかもしれんな。対策を考えねばならんな」
グレンさんが言う通り、狂気の王の力はよいやみのお母さんから受け継がれている以上、やとさんたちも目覚めてもおかしくはないね。
「対策っすか?」
「やとは勿論のこと、せいなややよいも魔物退治や盗賊退治に出るだろう? そうなった時のための保険は必要だろう。しかも、お前たちと違ってやとたちはまだ未熟だ。まぁ、その辺は俺に任せておけ。バトスとも相談して対策をとる」
グレンさんから、バトスさんの名前が出てくるとは意外だ。
いつきさんも気になったのか、グレンさんにバトスさんのことを聞いていた。
「バトスさんのことを随分と買っているんですね」
「まぁな。アイツはお前たちとは違い、本物の英雄となれる男だ。おそらくだが、数か月後にはお前たちを越えてくるだろうな」
確かに、バトスさんは急激に強くなっている。
同じ特訓を受けているよしおさんも強くはなっているけど、バトスさんほどの成長っぷりは感じない。
しかし……。
「うーん。それは複雑っす」
これは、僕も同じ気持ちだ。
「僕たちも、バトスさんに追い抜かれないように頑張らないとね」
僕がそう言うと、グレンさんの目が光ったような気がした。




