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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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時の番人

今回もよいやみ視点です。


「ところで、不老不死の研究の資料は、どう処理したんだ?」

「なんすか? 興味でもあるんすか?」


 まぁ、親父が不老不死の研究なんぞに興味がないのは知ってるっすけど、魔導大国と呼ばれるだけあって、月に一度は、不老不死について聞いてくる者がいるとも、やと兄様は言っていたっす。

 だからこそ、親父ややと兄様からすれば、そんな資料なんてこの世に残っていてもらっては困るんだろうな。

 しかし、アシも内容は見たっすけど、あんなもんこの世に残しておいたらダメってのは同意っす。だからこそ、いつきが空間魔法の中に放り込んだっすよ。

 

「燃やして捨てたっす」


 まずは、軽く嘘をついてみるっす。

 普通であれば、燃えてしまったということであれば諦めてしまうんすけど、魔道大国ガストに住むもの、しかも王族ならば燃えたくらいで問題が無くなるなんて思えないはずっす。

 あまり普通の人には知られていないんすけど、復元魔法という魔法があるっす。

 欠片の一つでもあれば、元の形に復元できるらしいっすけど、アシも実際に見たことがあるわけじゃないっす。

 それを知っている以上、燃やして捨てたはなんの意味もまたないっす。

 アシの予想通り、やと兄様は神妙な顔で、アシに問いかけてくるっす。


「よいやみ。本当のことを話してくれないかい? 私たちは、復元魔法のことを知っている。当然、教会のトップであり、商人としても有能である聖女殿も知っていると思っている」


 やと兄様がそう言うと、姉様たちも頷く。

 まぁ、バレるっすよね。


「本当は、いつきが管理してるっす。とはいえ、空間魔法に放り込んであるんで、いつきにしか取り出させるしかないっすよ」

「亜空間か……。聖女殿は、空間魔法が得意なのかい?」


 むむっ!?

 本当はこれは言ってはいけないっすけど、これを口実に見せてみるっす。あとで、いつきには、兄様たちを納得させるために仕方なかったとでも言っておくっすかね。


「これを見るっす。本来は、黒女神のメンバーしか持っていない物っす。見せたら、いつきに怒られるかもしれない物っす」


 アシは道具袋をやと兄様に渡す。手に取ったやと兄様は、道具袋を見て首を傾げる。


「これは一般的な道具袋だね。これがどうしたんだい?」


 まぁ、見た目が普通に見えるのは、いつきの拘りみたいみたいっすけど、中身はエゲツないもんっす。


「これは、いつきが作った黒女神専用の道具袋っす」

「へぇ、聖女殿の自作か……。見た目は一般販売されている道具袋と変わらないね。容量はどのくらいなんだい?」

「限界値まで試したことはないっすけど……、王種が30匹以上入っても全然容量不足にはならんと思うっすから、無制限だと思うっす」

「な!?」


 これには、ここにいる全員が驚いたっすね。

 まぁ、熟練の空間魔法使いでも、容量というものは有限っす。まして、王種のような大型の魔物が30匹も入る時点で異常っす。

 いつきが言うには、特殊な技術を使って何重にも空間魔法を使うことにより、無制限に近い容量を作り上げているって言っていたっす。

 もちろん、方法も聞いてはいるっすけど、内緒にしておくっす。まぁ、アシは、やり方を聞いても意味がわからんかったっす。


「しかも、驚くのはそれだけじゃないっす。この道具袋は、時間の凍結までできるっす」

「なっ!?」


 これもいつきの技術以外ではできんことっす。

 同じ空間魔法使いである、魔大陸のクラウディアさんでも出来ないって言ってたっす。

 この技術に関しては、いつきも口を割らんかったっすから、企業秘密ってやつっすかね?

 この話をすると、親父が神妙な顔をしてアシを見るっす。


「よいやみ。その技術は、時の番人に目を付けられるのではないか?」

「時の番人? あぁ、あのおとぎ話に出てくる怖い連中のことっすか?」


 時の番人というのは、魔法に憧れる子供が読む絵本などに出てくる、悪さをするとお仕置きしに来るという、恐ろしいやつらのことっす。

 白いコートを着て、悪魔のような姿をしているそうっす。まぁ、おとぎ話としか思えんっすけど。

 これに、やと兄様が反応した。


「父上、時の番人は実在するのですか?」


 やと兄様の問いに、親父は静かに頷く。


「わしも昔、一度だけ会ったとこがある。わしの若い頃の過ちなのだがな。昔、ネクロマンシーを極めようとしたことがある」

「それって、禁術ではないですか!?」


 親父の暴露に、やと兄様をはじめ、兄弟全員が驚く。もちろん、アシも驚いたっす。

 ネクロマンシーは、死体を死霊系の魔物に変えて使役させる魔法で、禁術に指定されているものっす。

 そんなのに手を染めようとしていたなんて、娘として恥ずかしいっす。

 アシ等の冷たい視線に気づいて、親父は慌てて取り繕うっす。


「若い頃の過ちだと言っているだろう? あの頃は、王太子になったばかりでな、ガストを強くすることだけを考えていてな。死なない兵を作り上げれば、どの国より強くできると思っていた」

「さすがにそれだと、時の番人もそうっすけど、あの幼女からも神罰を受けそうっすね」


 セリティア様は、あんな姿と性格っすけど、一応神様なんすよね。いくら緩い神様だとしても、私利私欲にネクロマンシーを使ってたら、神罰が下りそうっす。

 いや、あの性格だから、無視するかもしれんっすけど。

 あぁ、だから、時の番人が動いたんすかね?


「幼女?」


 アシが幼女と言ったことで親父たちは困惑しているようっす。

 そういえば、教会のステンドグラスに描かれたセリティア様は、ナイスバディの美女だったっすね。本体とは似ても似つかないっすけど。


「セリティア様のことっす。あのステンドグラスに書かれている姿は詐欺っす。実際に会ったら、幻滅するっすよ」

「はは……。よいやみは、私達では考えられないような体験をしているみたいだね」


 確かにそうっすね。

 普通に生きていたら、女神セリティア様に会えるなんて思わないっすよね。そう考えたら、変な体験をしているものっすね。

 少し話が脱線してしまったが、親父が咳払いをしたことにより話が元に戻ったっす。


「まぁ、わしも若かったってことだな。調子に乗って実験をしようとしたある日、彼が現れた。彼は白いコートを着た若い男でな。わしは彼に襲い掛かった。しかし、一方的に倒されたんだ」


 今のアシからすれば、親父はそこそこの強さということもあるっすけど、それでもお母様よりも強かったのは確かっす。そんな親父を一方的に倒したとなると……。


「熊レベルっすか?」

「いや、グレン殿ほどの強さは感じておらんよ。グレン殿は別格だ。そうだな……。今のよいやみとそう変わらん強さだったと思えるな」


 今のアシらクラスとなると、時の番人が現れても何とかはなりそうっすかね?

 しかし、時の番人っすか……。いつきはともかく、ゆっきーの魔法のほうが、ヤバいと思うのはアシだけっすかね?


「そうだ。よいやみ。グレン殿なら、狂気の王の力について、何か知っているかもしれんな」


 それは確かにそうっすね。

 熊はなんだかんだといって、アシらとは別次元の強さを持った生物っす。一回聞いてみるっすか。


「くーまー。何か知ってるっすかー!?」

「よ、よいやみ!? いきなりどうした!?」


 アシがいきなり熊に尋ねたことで、親父を含めたみんなが驚いている。


「いや、熊なら、ここの会話も聞いてるかな? って」

「グ、グレン殿は、耳までいいのか?」


 耳が良いというより、空気の振動で聞こえてそうと思ったんすよね。あの熊は、人外レベルの生物っすからね。


「さぁ? 熊は頭がおかしいから、耳くらい良いんじゃないっすか?」

「あはは……。よいやみ、いくらなんでも師匠のことを、悪く言うもんじゃないぞ……」


 あれ? アシはなにもおかしいことは言ってないんすけどねー?

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