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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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ガストとガスティアの歴史


 エスタさんに、不老不死について聖典に書かれているかを聞かれただけで、なぜか不機嫌になるいつきさん。

 その場の雰囲気が少し重く感じる。いつきさんが怒っているのがよくわかる。エスタさんもそれに気づいたのか、頬に汗が流れている。


「エスタさん。なぜ聖典に、不老不死の研究について書かれていると思ったのですか?」


 そう聞くいつきさんの声は、いつもより低い。


「失礼なことと知ったうえで聞かせてもらっています。勿論、不老不死の研究に教会が絡んでいるとは思っていません。しかし、不老不死の研究は、禁忌となるのではないのですか? だからこそ、女神様の天罰があったとしたら、聖典に書かれているのではないか? と思い、聞いてみたいと思ったのです」


 確かに、不老不死になったかどうかを確認するためには、一度殺さなきゃいけないんだから、犠牲者はつきものとなってくる。

 エスタさんの意図に気付いたいつきさんはそれに納得したのか、いつもの様子に戻る。


「そうですね。まず、聖典には不老不死のことは書かれていません。実はあの後、セリティア様にも不老不死のことを聞いてみました。セリティア様は、不老不死など成功するわけがないと言い、神罰の対象にはならないとおっしゃっていました」

「成功するわけがないとはいえ、罪もない人々が理不尽に殺されているのです。それでは神罰の対象にならないのですか?」

「なりません。あぁ、仮に教会の関係者が不老不死の研究をしたということであれば、勿論セリティア様の怒りを買い、神罰の対象となりますよ」


 うーん。

 エスタさんの言い分もわかる。でも、それを言ってしまうと、戦争かなんかでも犠牲者は出るから、それにも神罰が下ることになるんじゃないのかな? というか、その場合、誰に神罰が下るのかな? もっと言ってしまえば、それで神罰が下るのなら、殺人なんかでも犠牲者は出るだろうね。

 まぁ、この場合、状況が違うとは思うけど……。


「神というのは、人に対して平等ではないのですかね? 今のお話ですと、教会に属するというだけで、女神さまに特別視されているということですか?」


 うーん。特別視されるのが、そんなにおかしいことなのかな? セリティア様は教会の女神だから、巫女さんや聖女は特別なのは当たり前だと思うけど。

 それにしても、エスタさんの人に対して平等?

 これってよく耳にするけど、その平等に、亜人や動物は入るのかな? 入らないんであれば、それは逆に平等じゃない気がする。


「エスタさん、まず間違えているのは、仮に神が平等だとしても、人間だけが特別平等というわけではありませんよ。仮に本物の平等となると、魔物を討伐する人間にも神罰が下りますよ? まぁ、極論ですが」

「し、しかし……」

「では聞きますが、神に平等を求めるのであれば、国というのは平等ですか?」


 なるほど……。

 国の頂点には王様がいるし、国のほとんどを占めているのは平民だ。それに王族じゃなくとも、平民と比べ身分の高い貴族もいる。当たり前だけど、平等じゃないね。


「それに、一般には知られていませんが、セリティア様はワガママな女神様です。身内に甘いのは仕方ありません。それに、王族とて身内はやはり特別でしょう?」

「なるほど、確かにその通りです。貴重な話を聞けました。ありがとうございます」


 エスタさんは女神様が立派な人だと思っていたんだろうけど、セリティア様は、残念な思考の持ち主だからね。まぁ、教会に飾られている肖像画は、見ため詐欺だったからね……。

 

「では、話を戻します。ガスティアがガストと名乗っていた理由なのですが、一言で言えば、ガストに対する嫌がらせです」

「嫌がらせ?」


 略称とか、意味があってのことだと思っていたけど、まさかの嫌がらせとは。よいやみとクオン婆ちゃんもこんな理由に、驚いた顔をしている。


「はい。当時からガスト一族は、最強の魔導士集団として名を馳せていました。ガスティアからすれば、別の国に所属する一集団が、自分の国よりも名声を持っているのが気に入らなかったのでしょう。そして、不老不死の研究をしていると周辺国に知られれば、ガストの名は地に落ちると考えたのですよ。勿論効果は絶大でした」


 ルシェラさんは、外交のために名前を略しているみたいなことを言っていたけど、実際はくだらない理由だったみたいだね。ガストからすれば迷惑もいいところだったろうけど。


「そのことに対して、うちのご先祖様は、抗議とかをしなかったんすか?」

「はい。当時のガスティアなど、ガストからすれば、力のない小国でしかありませんでしたし、噂は聞けど、なかなか実態を掴めなかったのでしょう。そして、気づいた時にはもう遅かったようです」

「確かに不老不死の研究の詳細が知られれば、人々は非人道的な研究ということに気づくでしょう。それを行っていると知られれば、魔導士集団というだけで簡単に疑われます。評判が地に落ちるのは当たりまえの話でしょう」


 あ、もしかして、ガスティアはそれも狙って、不老不死の研究内容を各国に広めるとかしたのかな?


「そこで、当時のガストの族長、後の初代ガスト王が事態を重く見て、ガスティアを滅ぼすことを決めたのです」


 うん? 国に属している一族の一存で、小国とはいえ滅ぼすことは可能なのかな? 


「よいやみ。国に所属している集団が、一国を滅ぼすなんてできるの?」

「普通はありえないっすね。たとえ力を持っていたとしても、国に所属している以上、勝手な真似はできんはずっす」

「よいやみ様の言う通りです。ですが、当時ガスト一族が所属していた国は、今はもうなくなってしまったのですが……」


 え? もしかして、国としてガストができたときに、ついでに滅ぼされたのかな?


「あぁ、その話は、アシも知ってるっす。みつき、ガストは、その国を滅ぼしていないから、安心するっすよ」

「え? なんで、僕の考えてることがわかったの?」

「みつきの考えていることくらい、簡単にわかるっす。なんといっても、アシの嫁っすからね」

「だから、嫁ってなんだよ……」


 僕とよいやみのやり取りを見ていたエスタさんが、苦笑いを浮かべながら、教えてくれた。


「ガスト一族が所属していた国は、不老不死の研究の噂が流れたとき、ガストを切ったのですよ。そのため、ガスティアを討った時のガストは、いわばはぐれ魔導士集団だったのです。あの国が滅ぼされたのは、自業自得ですよ。ガストを切るまでは、最強の魔導士集団の威光で傲慢だったために、守りの要であるガストがいなくなった結果、周辺国により滅ぼされたというわけです」

「あぁ、あの国でしたか……」


 いつきさんには、ガストの一族が所属していた国を知っているみたいだ。聞いてみると、その国には教会も迷惑を受けていたらしく、魔導士集団を切ったと噂になった時、教会を撤退させた。と、聖典に書かれているらしい。


「まさか、魔導士集団がガストとは、思わなかったですけどね」


 だから、いつきさんは、ガストの歴史を知らなかったのか……。


「ガストとガスティアの関係は、こんなところです。では、本日は、黒女神の皆様は客間にてお休みください。よいやみ様は、夜に集まっていただきたいのですが、時間まで、自室に戻りますか?」

「いや、ここでみつきたちといるっす」

「では、よいやみ様。時間になりましたら、護衛兵が呼びに来ると思います」

「わかったっす」


 よいやみが頷いたのを見て、エスタさんは部屋を出ていった。

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