狂気の王
「さて、詳しい話を聞こうじゃない。あ、バトスちゃん、お茶を頂戴」
ルシェラさんは、オルテガさんを立たせて、僕たちの前に座った。そして、バトスさんにお茶を入れさせる。
オルテガさんは、クオンのことを説明する。勿論、不死のこともだ。その話を聞いたルシェラさんは、黙り込んでしまう。やっぱり、不死の成功例というのは、聞いたことがないからだろうか……。
「クオンとかいったわね。あ、クオンさんのほうがいいかしら?」
「どちらでも構わないよ。君も似たようなものだからね」
「そうでもないわよ。貴女は、五百年前の、魔法王国ガスティアの唯一の生き残りなんですから」
「ガスティア?」
あれ?
クオンが言ってたのは、魔法王国ガストだった気がするんだけど。
僕と同じ疑問を感じたのか、よいやみも首を傾げている。
「ちょっと待つっす。
クオンが座っていた玉座には、確かに魔法王国ガストと書いてあったっすよ?」
あ、よいやみは、クオンの玉座を調べてから、スッキリした顔になっていたね。
「魔法王国ガストというのは、略名というか、正式名称ではないのよ。
当時の国には、国の名が二つあったの。一つは正式名称。もう一つが、外交に使う名前」
「外交に、偽名を名乗るのですか?」
ルシェラさんの言葉に、シドさんが怪訝な顔をする。
「今とは、時代が違うのよ。
昔は、今ほど人間同士に信頼などという言葉はなかった。と、文献には書かれているわ。
そう考えたら、国名を偽装することなんて、日常茶飯事だったみたいね。
クオン、貴女は、この話を聞いたことある?」
「いや、私はただの建築ギルドの見習いだったからね。国の名前も、ガスティアなんて、初めて知ったさ」
「じゃあ、魔道大国ガストとは、全く関係ないんすね?」
「そうとも言えないわよ」
「え?」
「実はね。これは、よいやみちゃんのお母さまの血筋に、かかわってくるんだけど……」
あれ?
よいやみのお母さんは、孤児だったんじゃ……。
「アシの母親は、孤児だったんすけど?」
「知っているわよ。でも、よいやみちゃんの母、あかつきさんは、ガスティアの血を持っていたのは確かよ。あかつきさんが、なぜ孤児になったかは知ってる?」
「え?」
よいやみは、いきなりお母さんのことを聞かれて、少し困っているようだ。いや、そもそも、お母さんが孤児になった理由って知ってるんだろうか?
「正直、知らんっす。
知っているのは、親父が孤児だったお母様に一目ぼれした、くらいっす」
「まぁ、私もあかつきさんと一度だけ会っただけだけど、やしゃ様が一目惚れするのもわかるわ。
よいやみちゃんに似て、とても美人だったからね。
さて、あかつきさんが盗賊程度にやられたって聞いたときは、耳を疑ったわ。
なにせ、あの力を持っていたのだから、盗賊風情に負けるなんて、思いもよらなかったわよ」
「あの力ってなんすか?」
「狂気の王の力」
狂気の王?
そんな力があるということは、よいやみにも受け継がれている?
「その狂気の王というのは、不老不死を求めた王の力ってことっすか?」
「ちょっと待って欲しい。
あの王は、確かに狂気に飲まれ、不老不死の研究に手を出したが、特別な力などなかったぞ?」
そんな力があれば、自力で不老になってたかもしれないもんね。
「あぁ、私もまだ生まれる前のことだから、詳しいことはわからないわよ。
狂気の王の力と言っても、どんな力かは、よくわかっていないのよ。
あかつきさんの場合は、魔法の最適化だったけど、それが狂気の王の力かは、わからなかったわ」
「なら、どうして狂気の王の力って言葉を知っているんすか?」
「あぁ、私は、鑑定スキルというのを持っているからね。
これは、女神の目、魔道の目、魔眼をすべて扱えるようなものでね。私にかかれば、誰のステータスも丸裸にされるってわけ。
例えば、みつきちゃんの称号だけど……。これは、アルテミスじゃなく、あ、これは禁足事項みたいね。そんな、何者かが付けているみたいね」
えぇー。
僕の称号をつけている奴って、予想以上にやばい奴なんじゃないの?
あ、ということは……。
「よいやみの???って称号も見えてるの? 覚醒がどうこうって話だったけど」
「えぇ、見えているわよ。それが『狂気の王』という称号よ。おそらくだけど、よいやみちゃんに『狂気の王』の名を知ってしまった以上、今後は、称号に『狂気の王』と書かれるはずよ」
そう言われて、よいやみは微妙な顔になる。
「えぇー。アシは、覚醒して、みつきよりも、もっと強くなる予定だったんすけど……」
「いや、それはそれで、僕が面白くないんだけど……」
「拗ねるなっす」
そういって、よいやみは僕に抱き着いてくる。いや、拗ねてないけどね。
そんな僕たちを、ルシェラさんは微笑んでじっと見ていた。
「あの、狂気の王の力は、よいやみさんの今後の成長次第なのはいいとして、オルテガさん。どうして、ルシェラさんをクオンさんに会わせようとしたのですか?」
確かに気になる。
いつきさんがそう言うと、オルテガさんはルシェラさんに目を移す。
「はいはい。
今問題なのは、クオンさんの姿よね。
一応、さっきオルテガに聞いたんだけど、定着魔法を使えるのよね?」
「あぁ。
定着魔法のおかげで、私は500年の間、風化せずに、この姿を維持し出来ていたのだからね」
そう考えたら、クオンも意外とすごいのかもしれない。
「まぁ、定着魔法を使えるのであれば、使えるはずよ。
クオンさん。今から、貴女に魔法を一つ教えます」
「魔法?」
「えぇ、私が作った魔法。その名も『変装魔法』を……」




