姉
「ちょ、ちょっと待って」
クオンと一緒に街中を歩くのは良いんだけど、それって、僕一人が変な奴と思われる可能性がない?
僕がそんなことを考えていると、また顔に出ていたのか、オルテガさんがため息を吐く。
「みつき、別に街中を歩かなくていいように、俺が何とかしてやる。
いつき、2、3日中に、俺からの伝手で人を送る。そいつと、その骨……、クオンといったか。クオンと会わせてやってくれ」
オルテガさんの紹介ならば、変な人物じゃないんだろうけど、クオンの見た目は、文字通り骨だよ? いくら、オルテガさんの紹介とはいえ、いきなりこんなのを見せて大丈夫なんだろうか……。
「どういった人物なんですか?」
顔の広いいつきさんでも心当たりがないのか、首を傾げている。いつきさんなら、この王都、ナイトハルトにいる人物をすべて知っていそうな気がするんだけどな。
そして、驚いたことに、オルテガさんと長い付き合いの、シドさんや、バトスさんでも心当たりはないようだ。
「あぁ、その人物の身元なら、俺が証明できる。なんといっても、俺の……、姉だからな……。ただ、見た目がな……、お前らは信じられないと思う……」
オルテガさんのお姉さん?
お姉さんの見た目がどんなのかは知らないけど、見た目で人を判断するのは、あんまり良くないと、僕は思うな。というよりも、オルテガさん自身が、あまり見た目を気にしないタイプだと思ってたんだけど。
「オルテガの姉?
……。
あ、もしかして、アイツのことか!? アイツ、お前の妹じゃなかったのか!?」
バトスさんが、心当たりのある人物を思い出し、驚いている。そして、シドさんもバトスさんの言葉に、その存在を思い出したようだ。
「あぁ、ルシェラさんですか。
確かに、年齢と姿にはそぐわない考えと言動を持つ女性でしたね。
しかし、どう考えても、オルテガさんよりも、若々しかった気がするのですが……。
妹というより、むしろ娘と言っても過言ではないのですが……」
「あんなのが、娘なんて絶対嫌だぞ……」
娘のように見える見た目……。オルテガさんって、結構な歳のような気がするんだけど。
あ、もしかして。
そんなことを考えていると、オルテガさんが、決定的なことを言った。
「姉はな……。何十年も前から、見た目が全く変わんねぇんだ」
間違いないね。
よいやみも同じ答えにたどり着いたようだ。
「間違いなく、不老っすね」
そんな話をしていると、窓のほうが光り輝く。
これは、転移魔法の光?
光が止むと、そこには、ウェーブのかかった長い金髪で巨乳のお姉さんが立っていた。
「はーい。久しぶりねー」
お姉さんは、軽い感じでバトスさんたちに手を振る。
そんな姿に、いつきさんやゆーちゃん、クオンは首を傾げているけど、僕とよいやみは違った。
「な、何もんっすか……。あの姉ちゃん。熊ほどとは言わんっすけど、近いものを感じるっす」
よいやみの頬に、冷や汗が流れる。勿論、僕も同じような状態だ。
「あらあら。あんたたちみたいなおじさんが、こんなかわいい子たちを部屋に連れ込むなんて、お仕置きが必要かしら?」
そういって、女性はケラケラと笑う。
僕もよいやみは、さらに警戒心を強める。この人……、僕たちよりも、はるかに強い。
でも、おかしいな。僕たちと同等の強さを持つバトスさんは、まったく警戒をしていない? 僕たちよりも経験値が高いバトスさんが、この女の人の危険度に気付かないはずないのに。
そんな風に警戒する僕たちを見て、バトスさんは、軽く笑う。
「みつき、よいやみ。ふたりとも、そんなに警戒しなくても大丈夫だ。
しかし、本当に見た目が変わってねぇんだな」
そういって、バトスさんは女性に話しかける。も、もしかして……。
「あら? いつまでも若々しいって言ってくれるなんて、バトスちゃんも、少しはお世辞が言えるようになったのねー」
バトスちゃん!?
あのバトスさんを、『ちゃん』付け!?
これは、ほぼ間違いない。
「前から、年下のくせに、上から目線だと思ってたが、お前がオルテガの姉だったとはな」
「だからー。前からそうだと、言ってたでしょー」
オルテガさんのお姉さんは、そういって、オルテガさんの頭に手を置く。
「さて、自己紹介をしておきましょうか。
私が、オルテガの姉。ルシェラよ。
こう見えて、72歳なのよ」
ルシェラさんの、自己紹介に、僕たちはとても驚いた。
や、やっぱり、不老だったんだ。




