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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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骨の名前


 ズゥウウウウン。

 島に轟音が鳴り響いた。僕とよいやみで、研究所の入り口を破壊したからだ。一応言っておくが、僕もよいやみも、何も考えずにこんな暴挙に出たわけじゃない。破壊を指示したのは、今はもう死界に帰ったゼオンさんだ。

 崩れ落ちた入り口を見て、いつきさんがため息を吐く。


「入口だけでなく、遺跡の中も破壊し尽くしたので、これで死界の門に接触できる者は居なくなるはずです。

 仮に遺跡を掘り起こしたとしても、ゆづきちゃんの結界の効果で、半永久的に死界の門が開かれることはないでしょう」


 いつきさんの言う通り、物理的に開かないというのもあるだろうけど、開いたところで、死界の王であるゼオンさんが黙っているわけないから、その点は心配はしていない。

 それよりも、この遺跡の調査って国から依頼だったけど、大丈夫なんだろうか?

 この遺跡で起こっていたこと、まず一番の問題である、不老不死の研究。しかも、唯一の成功例である骨の存在。

 そして、僕たちはおろか、誰にもどうしようもできない死界の門。思っている以上に厄介な話だ。

 まぁ、骨については、実のところはそこまで心配していない。

 王様は、骨を見ても、面白がってくれるような気がする。むしろ、何か小言を言いそうなのは、オルテガさんかな?

 冒険者たちは、不死系の魔物に見慣れているだろうから、そこまで騒ぎにはならないと思ってる。大丈夫だよね?


「みつきさん。何を心配しているかは、わかりませんが、遺跡についての説明であれば、問題ありませんよ。

 骨さんの加入についても、ゴリ押しする予定なので、こちらも問題ありません」


 いつきさんは、笑顔でそう話す。なんとも頼りになる人だ。


「いつき。もう骨が仲間になるのには、反対はしないっすけど、この依頼の報告後、骨をガストに持って行きたいんすけど、良いっすか?」

「それは構いませんが、骨さんを持っていくという表現は、どうかと思うのですが……」


 確かにそうだ。

 骨も仲間になるんだから、骨って呼び方も、どうかと思う。

 

「それには、アシも同意っす。

 骨という言葉に引っ張られてるから、持って行くという表現になってしまってたっすね。

 骨、名前はなんていうっすか?

 あ、もちろん、生前の名前っすよ」

「随分急だね。

 しかし、私の生前の名か……。

 正直な話、殆ど覚えていないんだよね。

 確か……、そうだ。クオンだ。クオンという名だったはずだ」

「じゃあ、クオンさん。改めてよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、こんな姿だが、お世話になるよ」


 そう言って、いつきさんとクオンは握手を交わす。そして、僕たちは、アラン王国の冒険者ギルドに戻ったのだが……。


「ぎゃぁああああああ!」

「黒女神がまた奇行を起こしたぞー。今度は、魔物を連れ帰ったぞぉおおおお!!」


 あーあ。

 やっぱり、騒ぎになっちゃったね。そんなことより、また奇行ってなんだよ。

 武器を構える冒険者や、詠唱を始める魔道士もいる。

 そりゃ、そうだよね……。クオンは、見た目が骨なんだし。不死系の魔物と言われても、おかしくはない。

 当のクオンも、仕方ないといった顔をしている。

 しかし、いつきさんが前に出て、舌打ちをした上で、冒険者たちを一睨みした。


「冒険者ともあろう者が、骨の姿であるクオンさんを見ただけで、ごちゃごちゃと騒がないでください。耳障りです」


 いつきさんは、冒険者を見回して、ため息を吐く。その顔は、呆れというより、侮蔑を表情だ。

 そんないつきさんを見て、よいやみも呆れた表情になる。

 あ、よいやみは、いつきさんに向かってだよ。


「いつきー。

 ここにいる冒険者たちが、情けないのは、しょうがないとしても、説明もなしに押し切ろうとするのは、どうかと思うっすよ?」


 いやいやいやいや、よいやみも、結局暴言吐いてるんだけどー!?


「いえ、よいやみさん。よく、考えてください。

 私たち、黒女神や、バトスさん率いる、パリオットが所属する、アロ

ン王国、首都ナイトハルト所属の冒険者たちが、脅威ではない魔力しか感じられないクオンさんに対し、怯えすぎなのですよ。全くもって、情けない」

「いや、そうは言うっすけど、紹介もなしに、いきなりの暴言は、聖女としてはどうなんすか?」


 あれ?

 今日は、よいやみのほうが常識人っぽいぞ?

 よいやみは、いつきさんを少し下がらせて、クオンを前に出す。


「ってなわけで、この骨はクオン。アシらの新しい仲間っす。

 文句があるのなら、アシか、いつきに言うっす」

「「「えぇえええええええ!?」」」


 いや、例え文句があったとしても、よいやみはともかく、ポーションや、魔法具を購入しなきゃいけない冒険者たちには、いつきさんに文句は言えないだろう。

 相変わらず、いつきさんは冒険者たちを睨んでいるし、これ、どうやって事態を収拾させるんだ?

 そう思っていると、ギルマスの部屋から、オルテガさんが顔を出し、手招きしている。

 それを見たいつきさんは、ラビさんを呼ぶ。


「ラビさん。オルテガさんが呼んでいるみたいなので、奥の部屋に案内してください」

「え? あ、はい」


 ラビさんは、クオンのことが気になるのか、チラチラと見ている。まぁ、気になるのは、仕方ないよね。ラビさんは何にも、悪くないよ。


 ギルマスの部屋に入ると、そこにはオルテガさんにバトスさん、それから嫌な笑みを浮かべたシドさんが座っていた。

 バトスさんは、呆れたような顔をしているが、オルテガさんは明らかに不機嫌だ。


「座れ」


 オルテガさんの普段とは違う低い声に、僕は少しだけ怯んでしまう。しかし、いつきさんはシドさんを睨みつけ、よいやみも気にした様子はない。


「まぁ、お前たちを怒鳴りつけるかどうかは、依頼の報告を聞いてから判断する。いつき、リーダーとしてお前の口から頼む」


 あぁ、僕はもうツッコまないぞ。と思っていたのだが、いつきさんが、テーブルを思いっきり叩く。いつもと違う様子に、オルテガさんも少し驚いていた。

 そんなオルテガさんを睨み、いつきさんは低い声で呟く。


「うちは黒女神です。うちのリーダーはみつきさんです。

 次にそんな失礼なことを口にするのであれば、私たちはこの国を捨てます」

「ふふふ。いつも感情をあまり表に出さない貴女が、そこまで怒りをあらわにするとは珍しいですね」


 なぜか、機嫌の悪いいつきさん相手に、これまで、見たことのない笑顔で煽ってくるのは、やはりシドさんだ。

 そんなシドさんを見て、いつきさんは睨みを効かせつつ、ため息を吐く。


「そうですね。この世で一番嫌いな、貴方がいるからではないですかね?」


 いつきさんは、自分と同じくらいお腹の中が真っ黒なシドさんを、苦手としているというか、同族嫌悪というか、思いっきり嫌っている。

 おっ!? いつきさんに睨まれた。心が読まれたのか!?


「そんな能力は持っていません」


 い、いや、なんで心で思ったことに反応してくるんだ?

 僕が不思議そうにしていると、よいやみが呆れた顔でこう答える。


「みつきは顔に出やすいんすよ」


 そんなにわかりやすいのか? 僕は自分の顔を触ってみる。すると、ゆーちゃんも、僕のほほを触ってきた。


「何をしているのですか?」


 いつきさんは、僕とゆーちゃんを呆れた目で見ていた。


「話を戻しましょう。

 さて、黒女神の皆さんは、今回も何かをやらかして帰ってきたということですかね?」


 シドさんは、クオンを見て苦笑する。

 まぁ、遺跡の調査に向かわせたら、なぜか骨を連れて帰ってくれば、そう思うのも仕方ないか……。

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