玉座で待つ者
「今日も人が来たんだなー」
今日も部屋を掃除した後、暇つぶしに作った玉座に座る。
私が死ななくなって何年が経っただろう。
私はこの研究所で実験されて、死なない体を手に入れた。だけど、それは私にとっては許し難いことだった。だから、この研究所を滅ぼしたのだ。
もちろん、実験体になっていた人達は逃がした。
アレから何百年経っただろう?
そういえば、最近はよくこの研究所に人が来る。
もう何百年と誰も来なかったんだけど、最近は毎週誰かしらが研究所に入ってきていた。でも、ほとんどの人達が一階層で引き返していく。
「死霊系の魔物がまた湧いたんだろうなー。なんだかんだ言って、この研究所は死霊系の魔物の巣になっているからね」
この研究所は私という成功例ができるまで、何百人、いや、何千人もの人を殺してきた。そのせいで、この研究所は呪われてしまっている。そうでなくても、この研究所は死霊系の魔物が湧きやすかった。
「正直な話、唯一の成功例である私もこんな姿だからなー。結局、あの国の人達が望んだ結果ではなかったんだよね」
私は自分の手のひらを見ながらため息を吐く。
研究所を作った国の王は、若いまま死なないってのを望んだんだろうけど、そうはいかなかったみたいだ。
現に私は老化していったからね。
しかし、どうして最近になって、人の出入りが激しくなったんだろう?
そもそも、何百年も全く人が来なかったのに、なんで今頃?
私は滅多なことがない限りは研究所の外には出ない。一番の理由は私の姿だ。
私の姿を見たら人間は怖がるだろうし、冒険者は殺しにかかってくるだろうね。
そう考えたら、怖くて外には出れない。
「怪我とかしちゃっても、治らないのは、不便だよね。崩れちゃったら、まあ歩けなくなるし……。最悪再生できなくなっちゃう」
ただでさえ、私の体は脆くなっているからね。
定着魔法ってのを慌てて覚えたから、なんとかこの姿で保っているけど、これがなかったらどうなってたのか、考えるだけで恐ろしいよ。
さて、今日は暇つぶしに何を作ろうかな?
その前に木を調達に行かなきゃ。
うん?
今回の訪問者は一階層をクリアしたぞ?
ま、まさか、ここまで来るってことは無いよね?
私は木の調達を中止して、不安な気持ちを隠せないまま、訪問者が帰ってくれることを祈った。
「結構長い階段っすねー」
僕達はゆーちゃんが発見した階段を下りていく。
しばらく下りると重厚な扉がある小部屋にたどり着いた。
僕はそこで違和感を感じた。
「この先、少し変だな…」
「変? 何か気になることでもありましたか?」
「うん。この先からも確かに死の気配を感じるんだけど、もっとキツい死の気配を、さらに下から感じるんだ」
よいやみやいつきさんの言っていた洞窟の奥にある研究所は、おそらくこの扉の向こうだろう。
もしかして、このさらに地下に死体を隠していた?
どちらにせよ、下から今までに感じたことのない強烈な死の気配が流れてくる。
よいやみもそれを感じているようで、警戒し始めている。
「この先にさらに下に続く階段でもあるのでしょうか? もしそうならば、この扉の先で休憩を取りましょう。
死の気配が強くなったということは、より強力な死霊系の魔物がいるかもしれません」
いつきさんの言葉に、全員が頷く。
僕は扉を押してみる。
錆び付いていらと思っていたけど、割とアッサリと開く。
扉が簡単に開いたことにいつきさんは、首を傾げた。
「もう何百年も放置されてたというのに、錆びていないのですね。いえ、それどころか手入れされているかもしれませんね」
手入れ?
そう聞いて扉を見てみると、確かにこの扉は綺麗だ。まるで、最近作られたように。
グレイザーの話だと、ほとんどの冒険者が地下1階で引き返していたそうだし、さっきの資料があったところにも、人が入った形跡はなかった。
ということは、間違いなくこの先に何かがいるってことだ。
扉を開けると、綺麗に片付けられた広い部屋に玉座が置いてあった。部屋の隅には加工された木や道具が整頓されている。
大工さんでも住んでいたのかな? と、ありえない考えもしたけど、玉座に座っている物を見てその考えは捨てる。
「まるで、死霊系の魔物の王様みたいじゃないっすか。なんで偉そうに玉座に座ってるんすかね?」
玉座に座っていたのは、白骨死体だった。
「どうして、こんな部屋で玉座に座ってるんだろうね。もしかして、王様だったのかな?」
この骨は、僕達が視界に入っても襲っては来ない。おそらくは、ただの死体だろう。
でも、少し疑問も残る。
「この研究施設を作った国の王が座る予定だったんじゃないですかね?
もしかしたら、ここで不老不死の結果を見るために、日々殺戮行為が行われてたかもしれませんね。
こんなところに玉座があるのも気になりますが、500年の月日が流れているのに、風化してない方が気になりますね」
そう言われればそうだ。
死の気配を感じるんだから、ここは魔大陸の結界の中じゃない。それなのに、この骨は形を保っている。そんなことがあり得るんだろうか?
そんなことを考えていると、誰かの声が聞こえてきた。
「まず最初の質問だけど、残念だけど、私にはそんな趣味はないよ。この玉座は僕の趣味で作ったものなんだよ」
「……え?」
今の声って、誰?
私って言ったからいつきさん? 僕はいつきさんの方を見るが、いつきさんは首を横に振る。
ってことは?
「もう、生きている人を見るのは何百年ぶりかな?
あ、はじめまして。もう一つの質問の答えだけど、私が、この研究所の唯一の成功例だよ」




