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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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26話 臭い消しポーション


「絶対嫌っす。あしは行かないっす。お留守番しているっす」


 晩御飯の後、一日の報告会をしてから、ソーパー教会からの指名依頼があった事を皆に話す。

 その時に内容と詳細も話したのだが、よいやみの顔がどんどん険しくなっていく。どことなく、ゆーちゃんも嫌そうだ。


「ゆーちゃん。嫌なの?」

「あんでっどは〈しね〉も〈ひーる〉もきかないからきらい」


 確かに死霊系の魔物に即死魔法は効かないよね。でも、〈ひーる〉は効きそうな気がするけど……。


「〈ひーる〉は〈しね〉と〈いきかえれ〉をまぜてつくっているからきかない」


 そうか。

 元が即死魔法を含んでいるから効かないのか……。

 

 僕がゆーちゃんの頭を撫でていると、よいやみが僕をジッと見ている。


「なに?」

「あしには聞かないんすか?」

「いや、よいやみが嫌がるのは分かっていたから……」


 よいやみは死霊系魔物、特にゾンビやグール系統が大の苦手なので、この依頼の事を聞けば拒否するのは目に見えていた。

 まぁ、僕もゾンビやグールは嫌いだから、気持ちは分かるけどね。

 しかし、苦手だからといって断らせないのがいつきさんだ。


「ダメです。よいやみさんにもゆづきちゃんにも一緒に来てもらいます」

「やだ」

「嫌っす」

「却下です。ゆづきちゃんはみつきさんとのお仕事が嫌ですか? 嬉しくないですか?」

「いやじゃない。うれしい」

「じゃあ、みつきさんと一緒に行きますよね」

「……うん」


 ゆーちゃんは少し納得のいっていない顔をしていたけど、僕の腕をぎゅっと握って頷いていた。


「魔法の実験場として使えばいいんですよ」


 魔法の実験場と聞いて、ゆーちゃんは「なるほど」と言って手を叩いていた。

 これで、ゆーちゃんは説得完了だ。

 次はよいやみだ。


「よいやみさんは死霊系魔物のどこが嫌いなんですか?」

「すべてっす」

「具体的に教えてください」

「見た目も臭いも存在自体が大嫌いっす。それと、あしは素手で戦うっすから、直接触ってしまう事になるっす。あんなもんお金を積まれても触りたくないっす」


 よいやみのこの回答には、僕もいつきさんも納得だ。

 僕は剣で戦うから直接触る事は無いけど、それでも本当は嫌だ。

 死霊系魔物が本物の人間の死体じゃないとは聞いたけど、それでも嫌なものは嫌だ。


「そうですね。でも、死霊系の魔物を相手にする仕事……特に王種以上の魔物が現れた時の事を考えて、よいやみさん専用の小手と具足を作った方が良いかもしれませんね」

「あしの?」

「はい。装備があれば、直接魔物に触れる事もないでしょうし、よいやみさんの強化にもつながると思います。動きが鈍ったり感覚が鈍るからといった拘りはありますか?」

「いや、それは無いっす。今まで装備を使わなかったのは、そのお金を食料に回していたからっす。いつきが支給してくれるのならありがたく使うっす」

「はい。支給しますから大事に使ってくださいね。これで攻撃の問題は解決です。見た目については今後の事を考えて魔法具でも開発するとして、臭いに関しては臭い消しポーションの試作があります。一度飲んでみますか?」

「臭い消しポーション? 臭いに関しては臭抗薬というモノがあるっすけど、アレを使っても臭いを完全に防ぐ事は不可能っす。いつきのポーションはどの程度、臭いを抑えられるんすか?」


 ゾンビや魔物の臭いというのは、完全に消さないとあまり意味がない。嫌な臭いは少しでも臭ってしまうと気になってしまうからね。


「完璧に臭いを消せるはずです。欠点として、良い匂いも消してしまうので食事前に効果を消すポーションを飲まなきゃいけません。そうでなければ、美味しいモノも美味しくなくなりますからね。つまりは臭い消しと効果消しの二セットを購入しなきゃいけないという事です……。まぁ、販売元である黒女神(うち)には関係ない事ですけどね」

「完璧に消せるんであれば凄いっす。今回みたいなクエストが嫌われている理由の一つが臭いっすからね。冒険者であれば、喉から手が出るほど欲しいモノかもしれないっす。臭抗薬もものすごく売れていると聞いた事があるっすから、これは凄く売れそうっす。早速、飲んでみるっすよ」


 よいやみもよく試作を飲まされているからか、こういう実施実験には抵抗が無いようだ。

 まぁ、一度味に苦情を入れてからは、飲めないほど不味いモノは無いから良いんだけどね。

 いつきさんは薄い黄色の液体の入った小瓶を取り出す。これが臭い消しポーションか……。


「試作といいましたが、効果実験はお父さんで試したので効果に関してはクリアしてあります。後は最終確認くらいなんですよ。味もちゃんとつけているので飲みやすさは保証しますよ。ささ、飲んでみてください。あ、アディさん、臭いのキツそうな素材ってありますか?」

「あるけど、食堂(ここ)で試すよりも、解体倉庫に行った方が良いと思うぜ」

「そうですね。では行きましょうか」


 僕達は解体部屋の隣の素材倉庫へと移動した。

 臭い消しの実験に使うんだから、臭いのキツイ素材……、僕も知っている素材かな?


 素材倉庫にはいくつかの大きな箱が置いてある。これは、各箱ごとに温度設定がされておりここに素材が入っている。

 この温度調整箱は、いつきさんとタチアナさんが開発した魔法具で、ガストが生産している冷蔵用の魔法具の小型版で、温度調整できるという優れモノだ。

 黒女神にはいつきさん特製の容量無制限でなおかつ時間凍結効果のある道具袋があるのだが、素材の種類によっては道具袋よりもこの温度調整箱を使った方が良い場合がある。

 特に、カイト食堂で使う魔物の肉なんかはこの箱で保存した方が良いそうだ。臭いのキツイ素材も凍らせて臭いを押さえているらしい。


 アディが箱から取り出したのは、凍った赤黒い塊だった。


「アディ、それって何?」

「あぁ、ゲゴゴドンの肝だよ。料理に使うんだが、血生臭い匂いがきつくて冷凍保存しているんだ」


 へぇ……。

 ゲゴゴドンの肉が美味しいのは知っているけど、肝も食べられるんだ。

 カレンがゲゴゴドンの肝について教えてくれた。


「ゲゴゴドンの肝は珍味でね。そのままだと、臭いがキツイくて食べられないんだけど、ちゃんと調理をすればお酒のつまみになるんだよ」


 ちなみにバトスさんもゲゴゴドンの肝が好物らしく、酒の肴としてよく頼むそうだ。


 あれ?


「カイト食堂ってお酒を出してたっけ?」

「最近出し始めたんだ。あまりにも酔っ払いが増えるようなら中止にするけど、黒女神のメンバーのお店で暴れる馬鹿はいないけどね。夜はお店を営業していないから酔っ払いもそうは出ないけどね」


 そうだったんだ。

 この話を聞いて、よいやみはゲゴゴドンの肝を食べてみたいと言い出した。


「うーん。一度、晩御飯に出してみようか? 皆はお酒を飲むのかい?」


 僕とゆーちゃんはお酒を飲まないし、よいやみもあまり飲んでいるのを見た事は無い。いつきさんがたまに飲む程度かな?

 それに比べて、タチアナさんは毎日晩酌していて、アディとカレンも良く二人で飲むそうだ。

 アーネさんも嗜む程度には飲むらしい。


「お酒を飲める人は、一緒に食べると美味しいよ。私とアディもたまにそれをツマミに飲むからね」

「マジっすか? あしも一応は酒を飲めるっす。食ってみたいっす。っと、その前に臭い消しポーションを試すっす。みつき、飲んでみるっす」

「え!? 僕が飲むの!?」


 いつもはよいやみの役目なのに、今回は僕なの?

 こういうのは言い出しっぺが飲むモノだと思うんだけど……。


「あ、みつき。まずは肝を臭ってくれ。元の臭いが分からんと比較ができん」

「うん」


 僕はアディが持っている肝を臭ってみる。

 冷凍してあるから、そこまで酷い臭いではないけど、血生臭い……。

 確かに臭いと言えば臭いかな?


 僕は臭い消しポーションを一気飲みする。リンゴ味で美味しい。


「味はどうっすか?」

「リンゴ味で美味しいよ。ジュースとしても飲めるね」


 でも、不思議だな。

 ポーションの効果で臭いが消えているはずなのに……。


「え? リンゴ味?」


 いつきさんが味の感想を聞いて何かに気付いたのか僕を止めようとする。

 なんでだろう?


 まぁ、たいした問題じゃないだろうね。

 僕はアディが持っていたゲゴゴドンの肝を臭ってみる。


「みつきさん!! ダメです!!」


 へ?


 ……。


 ぎ……。


「ぎゃあああああ!! 鼻がぁあああああああ!!」


 臭いぃいいいいいい!!

 臭いが消えるどころか、酷くなっているぅううううう!!


「ど、どういう事っすか!? どうしてみつきがのたうち回っているっすか!? 臭いは消えたんじゃないんすか!?」

「や、やっぱり間違っていましたか……」

「へ? 間違って?」

「みつきさんはリンゴ味と言っていたでしょう? 臭い消しポーションは桃味のはずなんです。リンゴ味は嗅覚倍増(・・・・)ポーションです」

「きゅ、嗅覚倍増って今回の実験で一番間違えたらダメな奴じゃないっすか。そもそも、嗅覚倍増ポーションなんて需要があるんすか?」


 い、いや、そんな事より僕を助けて……。

 鼻をつまんでいても血生臭い臭いが襲ってくる。た、助けて……。吐きそう……。


「嗅覚倍増ポーションは、特殊なお仕事をしている人達からの依頼なんですよ。これもまだ試作段階で、特定の臭いを嗅ぎ分ける事ができるようにする予定で研究しています」

「それが完成したら確かに便利っすよね」

「はい」


 ……だから、そんな話はいいから僕を助けて……。

 泣きながら床で転がっている僕とアディの目が合う。とても哀れんだ目をしている。


「二人で納得しているところ悪いが……、みつきをそのままにしていいのか?」

「「あっ」」


 あ……って、酷い……。


 いつきさんは僕にポーションの効果を消すポーションを飲ませてくれた。これは少し甘い。

 飲んで少ししたら、血生臭い臭いが消えた……というよりも、さっきまでが酷すぎて、今も少し臭っているけど気にもならなかった。


「今度はこっちを飲んでくださいね」


 いつきさんに渡されたのは、薄ピンクのポーションだった。

 こ、これは大丈夫だよね?


 僕は覚悟を決めて一気に飲む。

 今度は桃の味がして美味しい。


 ん?

 アレ?

 少しだけ臭っていた血生臭い臭いが完全に無くなった……。


「どうっすか?」


 僕はアディの持つ肝に顔を近付ける。


「うん。バッチリ臭いが消えているよ。問題ない」

「そうですか。これで商品として売り出せます。よいやみさん、これで臭いは解決しました」


 確かに臭いは解決したけど、僕達でも死霊系の魔物を簡単に倒すのは難しい。


「倒し方はどうする?」

「前みたいにいつきに吸い込んでもらいながら倒すっすか?」

「いや、今回は遺跡の調査だし、いつきさんにブラックホールで吸い込み続けて貰うわけにはいかないよ……」

「そうですね。現状は神聖魔法か炎魔法で燃やすしかないですからね」

「浄化の灰をかけただけで、倒せたらいいのにね」


 浄化の灰は倒した後じゃないと効果は出ないし、死霊系の魔物には効果がない。というか、燃やし尽くすか浄化させるくらいしか倒す方法が無いからね。

 何とかいい方法があればいいけど……。

 その時アルテミスが声をかけてきた。


『みつき、死霊系魔物を効率よく倒す、良い方法がありますよ』

「え? あるの?」

「どうしました? アルテミスさんですか?」

「うん。効率よく倒す良い方法があるって……」

「そうなんすか?」


 僕はアルテミスに良い方法(・・・・)とやらを聞いてみる。直接説明してくれるらしいので、入れ替わる。

 いつもは、入れ替わったら僕は寝るのだが、今回は寝ないで聞いておけと言われたので僕は僕の体の中でジッと話を聞く事にした。 

 

 しかし、どんな方法があるんだろう?


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