23話 新人研修 ケダマ
誤字報告いつもありがとうございます。
新人研修の説明が終わった後、バトスさんにケダマを三匹捕まえて来るように言われたので、林に入って三匹捕まえてきた。
王種に強化するなら一匹でいいと思ったんだけど、どうして三匹なんだろう?
ミカル達がいきなりゴールドランクの期待の新人とはいえ、単独で王種を倒せというのは酷だと思う。
バトスさんは何を考えているんだろう?
ケダマ達は僕に触角を持たれて「キーキー」鳴いている。
ケダマという魔物は、全身毛に覆われていて二本の触覚を持つ可愛らしい姿なのだが、性格は凶暴で得物を見つけると、本能のままに襲いかかっていく。
でも、最弱の魔物なので、ゴブリンに襲いかかったとしても返り討ちに遭い殺されてしまうようだ。
魔物図鑑に書いていた内容を見てみると、王種だろうと襲いかかるらしい。
捕まえ方はとても簡単で、二本の触覚を掴むと動けなくなるみたいで「キーキー」鳴くだけになる。今も僕に触角を掴まれたケダマは「キーキー」鳴いている。
この姿だけ見ると、可愛いんだけどね。
「これでいい?」
「あぁ。じゃあ一匹ずつ俺に渡してくれ」
一匹ずつ?
もしかして王種戦を三回もさせるの?
バトスさんが何を考えているのかは分からないけど、とりあえず一匹渡す。
バトスさんは毛玉を一匹ゆーちゃんの前に置いて「ゆづき、まずはファイヤーケダマに進化させる事ができるか?」と聞いた。
ファイヤーケダマといえばシルバーランクの魔物だ。
ゆーちゃんの【ひーる】ってそんな微調整までできるの?
僕が疑問に思っていると、ゆーちゃんがケダマの触覚を掴んで「うん。やってみる」とニターっと笑う。
ゆーちゃんは「キーキー」と威嚇するケダマに【ひーる】をかける。
「お、おい。どうしてケダマに【ヒール】をかけてるんだ?」
ラルスさんが僕にそう聞いてくる。
そうだね。
普通は【ひーる】と聞けば、回復魔法だと思うよね。僕も最初はそう思ったよ。
でも、魔法の効果が目で見える形で出てくると、そうも言ってられないからね。
僕は「すぐにわかるよ」と答えておいた。
【ひーる】を受けたケダマはどんどん大きくなり、普通のケダマの三倍ほどの大きさになった後、燃え始めた。
「キー!!」
僕は実物を見た事は無いけど、図鑑に載っていた通りのファイヤーケダマだ。
ファイヤーケダマは燃える毛を持つ魔物で性格は凶暴。滅多に現れないレアな魔物と書いてあった。弱点は氷魔法で、武器で戦う場合は本体を斬ったり潰したりする事で簡単に倒せるそうだ。
ただ、最初っから燃えているうえに絶命すると燃え尽きてしまうので、浄化の灰をかける事も解体する事もできないそうだ。
そういえば、ファイヤーケダマの項目で一つ気になる事が書いてあったな。
備考の所に最強のケダマって書いてあった。
……あれ?
もしかしてケダマには王種がいないの?
よく考えたら、あの魔物図鑑は王種の記述は少なかった。
グランドゴブリンやゴブリンキングについては書かれていたけど、ゲゴゴドンやゲガガドンの事は書いてなかったからね。
だから、居ないと考えるのも危険かもね……。
三人は突然の事に驚愕の顔になっている。
バトスさんはミカルの頬を叩き正気に戻す。
「よし、ミカル。ファイヤーケダマを倒してみろ」
「……! 分かったわ」
返事をしたミカルは、腰に差した剣を抜き一瞬でファイヤーケダマを真っ二つにする。
やっぱり、最初の一歩目が速いから、一瞬だったね。
「これくらいの魔物なら簡単に倒せるわ」
「やはり、ミカルは一歩目が速いな。後は攻撃の重さか……。次はアーネだ」
「は、はい」
アーネさんの前にもファイヤーケダマが現れる。
でも、アーネさんは詠唱破棄の水魔法【アクアクリエイト】でファイヤーケダマの炎を蒸発させたうえで、氷魔法の【アイシクルランス】でとどめを刺した。
思ってたよりも、アーネさんは凄腕の魔導士のようだ。そう思っていたのだが、ルルさんが「初級と中級くらいなら詠唱をしてもさほど威力は変わらないのよ。だから詠唱破棄できて当たり前なの」と言っていた。
僕は魔法の知識はあるけど、細かいテクニックは分からないので、ルルさんの言葉は勉強になる。
次はラルスさんだ。
三人の中でラルスさんが一番ファイヤーケダマに手こずっていた。
ラルスさんは攻撃力は高いのだけど動きが少し遅く、攻撃を避けられていたのだ。
しかも、反撃で炎を受けているので結構苦戦していた。
そんなラルスさんを見て、ミカルがため息を吐く。
「アレは遅い以前の問題ね。ラルスはファイヤーケダマの動きを予測出来ていないのよ。目だけで追うから尚更でしょうね」
僕はミカルの顔をジッと見る。
「何よ」
「いや、ちゃんと見ているんだなぁと思って」
「そりゃあね。あんたからしたら弱く見えたかもしれないけど、うちの師匠はレギーナの中でも五本の指に入る強さなのよ。その弟子である私が不甲斐ないと師匠の名にも傷をつけるからね」
「え? 僕、ゴロクさんを弱いって感じてないよ?」
よいやみはどう感じたかは知らないけど、僕はゴロクさんは強いと思っているし、戦ったらいい戦いができると思っている。
「そうなの?」
「うん。どちらかというと強く感じたよ。あ、もう一個聞いていい?」
「なに?」
「ミカルって男の格好なのに、どうして女口調なの?」
「私は心は女なのよ。男が好きなの。本当は可愛い服を着たいけど、似合う顔じゃないし、戦闘になったら動きにくいでしょ? あんたもそうだから、そんな格好しているんでしょ? ……気持ち悪いかしら?」
いや……。
僕は単純に服装にあまりこだわりがないだけだよ。
……でも。
「気持ち悪いなんて思っていないよ。人の好みなんてそれぞれだし、他人にどうこう言われるいわれは無いんじゃない? 別に誰かに迷惑をかけているわけでもないだろうし……」
「あら? 思ってたよりも話が分かるじゃない」
「そう? 僕だってゆーちゃんが大好きだからね」
僕は胸を張ってそう言った。
けれどミカルは呆れた顔になる。
「それは私の好きとは違う感情じゃないかしら? まぁ、いいわ。バトスさん、ラルスにアドバイスをしていいかしら?」
「ダメだ」
「どうして?」
「今後もお前達がラルスとパーティを組むというのならアドバイスも許可するが、お前達は三人ともソロだろ? これから一人で依頼をこなしていくのに、これくらい一人で解決できないでどうする。一人での戦闘中に誰がアドバイスをしてくれる? そんな事を期待してたらすぐに死んでしまうぞ。まぁ、今は新人研修中だからな。危なくなったら俺が止める」
確かにその通りだ。
一人で戦っているとアドバイスも何もなく、対処できなきゃ死んじゃうからね。
「ラルスはもう少し本能で戦っていると思ったんだがな……。思った以上に堅物らしい」
考えが柔軟な人ほど、目で頼らず本能で敵を倒したりするそうだ。
ラルスさんも疲れてきたようで、力なく振り下ろした斧がたまたまファイヤーケダマに直撃して倒す事ができた。
偶然の産物だけど、いい結果が出たね。
バトスさんは疲れ切ったラルスさんにアドバイスをしている。
「ラルス。お前は魔物を目で追い過ぎだ。もう少し予測を立てるなり感覚を掴む特訓を受けた方が良い。新人研修が終わった後も俺の所へ通え。その辺を徹底的に教えてやる」
「は、はい……」
ラルスさんはミカルと違って素直だ。
僕はミカルを見る。
「何よ」
「なんでもないよ」
ラルスさんのファイヤーケダマ退治が思っていたよりも時間がかかってしまった事もあり、日も沈みかけていたので今日はここまでになった。
「みつき。さっきも言った通り俺達はここで野宿をする。お前はゆづきと家に帰れ」
「うん。明日は何時ごろに来ればいい?」
「そうだな。昼食後に来てくれ」
「ずいぶん遅いね。ゆっくりするの?」
「いや、こいつ等には朝一でゴブリン退治をさせる」
「ゴブリン? そんな弱いのを倒しても意味がないんじゃないの? ミカルなんかは凄く嫌そうにすると思うんだけど」
「ガストの保存用パックのおかげで屑魔石が売れるようになったろ? 新人にはいい小遣い稼ぎになるからな。それを教えておこうと思ってな」
「了解。じゃあ、明日ね」
「あ、待て。みつき、明日来るときにケダマを一匹捕まえておいてくれ」
「それを王種にするんだね。了解」
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
「うん。じゃあね」
僕は既に寝ているゆーちゃんをおぶって転移魔宝玉を使う。これは、魔力の無い僕にでも使える便利な道具だ。
本当は転移場所を指定しなきゃいけないんだけど、いつきさんが予め僕の部屋を指定してくれているので安心して使える。あ、気を付ける必要なかったよ……。
……次の日のお昼。
僕はゆーちゃんをおぶってケダマのいる林まで走る。
馬車で半日なら闘気で身体強化した僕なら走れば一時間もかからない。
バトスさん達は昨日言っていた通りにゴブリン退治に出かけているようだ。
僕は適当に現れたケダマを捕まえておく。
「きー」
「きー」
威嚇するケダマをゆーちゃんが鳴き声を真似て挑発している。うん。ゆーちゃんは可愛いね。癒されるよ。
暫く待っているとバトスさん達が帰って来た。
「待たせたな」
「捕まえておいたよ。はい」
「ありがとうよ。さて、この一匹を王種に進化させる。いくらこいつ等でも王種を単独で相手をするのは難しい。だから協力して戦わせるために朝からゴブリン退治に行ったんだ」
「この大陸のゴブリン程度で意味あるの?」
「お前等はゴブリンを一撃必殺しているから気付きにくいが、ゴブリンは上位種が混じると統率を取り出すんだ。これが結構厄介でな。ベテランでも危険になる事もあるんだ。この近くに上位種が発生しやすい場所があってな。そこで三人で連携させてみた」
「それで、結果は?」
「まぁ、可もなく不可もなくってところだな」
王種相手にそれで大丈夫かな?
まぁ、もしもの時は僕達がいるから問題ないか……。
しかし、統率の取れたゴブリンか……。一度調査に行ってみよう。
「じゃあ、頼むぞ。ゆづき」
「あぃ」
ゆーちゃんは威嚇するケダマに【ひーる】をかける。
「キー……き?」
あれ?
ケダマの様子が……。
そんな事を考えていると、突然地面が激しく揺れ出す。
王種の出現にしては……。
「お、おい。何かおかしくねぇか?」
「う、うん。王種と思えない魔力を感じるんだけど……」
これは何と言うんだろう?
まるで……ゼドラみたいだ。
ケダマの姿が十倍くらいに大きくなる。
そして白かった毛は黒紫に染まっていき、目は真っ赤に染まった。
「ギ……ガァアアアアアアアア!!」
ケダマの咆哮で地面が揺れる。
こ、これは……。
「あれ? おうしゅにしんかしたつもりだったのに。けだまんにはおうしゅがいないみたいだね」
「そ、それって……」
「おうしゅよりうえ?」
ゆーちゃんの言葉を聞いたバトスさんは、焦ってミカルさん達を下らせる。
「ルル!! ゆづきを含めた四人に結界を張っておけ。みつき、本気で戦うぞ!!」
「うん」
これは余程本気じゃないと勝てないかもしれない。
最悪、アルテミスに変わってもらうしか……。
『私でもかなりきついですよ。神獣種アビスケダマを相手するのは……』
神獣種アビスケダマ!?
フレースヴェルグが言っていた王種よりも上位の魔物……。
「みつき!!」
アビスケダマは口を大きく開けて魔力弾を吐き出す。
「まずい!!」
僕は全力で回避する。
ま、不味い。ゆーちゃんがいる方に余波が!?
「ゆ、ゆーちゃん!?」
僕は心配してゆーちゃんを見る。
ゆーちゃんとルルさん達の周りには薄い膜のようなモノが張られている。これは結界?
「だいじょうぶ。【しんしょうけっかい】をつかったから」
神晶結界?
ゆーちゃんの新しい魔法かな?
どちらにしても、今のを防げるのならゆーちゃん達は安心だ。
しかし、今の攻撃力はヤバい。
どうやって攻めようかと考えていると、僕の後ろから聞きなれた相棒の声が聞こえた。
「はぁ。心配になってきてみて良かったっす」
「え? よいやみ!?」
よいやみは、今日からガストだったはずだ。
どうしているの?
「みつき、説明っす」
僕はよいやみに今日までの事を説明する。ゆーちゃんの【ひーる】により、王種に進化するはずだったのが、神獣種に進化してしまった事を……。
「神獣種っすか。噂には聞いていたっすけど、ここまで強力な存在なんすか? みつき、本気で戦うっすよ」
「う、うん」
「バトスさん、指揮は任せていいっすか?」
「あぁ。お前等を頼りにしているぞ」
「任せるっす」「うん」
僕はアルテミスを取り出し、バトスさんは身の丈よりも大きな剣を取り出す。アレがバトスさんの聖剣【ティール】だそうだ。
よいやみも本気の構えをする。
「んじゃ、行くっすよ!!」
「うん」
僕とよいやみがアビスケダマに飛び込む。
アビスケダマは毛を伸ばして応戦してくる。
「この毛、鉄みたいっす。みつき、刺さると痛いっすよ」
「うん。剣でなら何とか斬れる」
僕はアビスケダマの毛を斬る。よいやみは打撃で毛の軌道をずらす。
僕達が前でアビスケダマの気を逸らし、バトスさんが後ろから斬りかかった。
だが、剣が弾かれる。
「ま、マジかよ!?」
あ、バトスさんが空中で動きが取れない。
これは不味い。
「行くっすよ!!」
よいやみは【全開魔力】を使いアビスケダマに突っ込む。
僕も【ゼロの魔力】を使って魔力の弓矢を作る。
「神技・月光衝!!」
僕の放った魔力の矢がケダマを襲う。それと同時によいやみが闘気の込めた拳をケダマに打ち込んだ。
「ど、どうっすか?」
「これで効いてないのなら、キツイかもしれないね」
しかし、アビスケダマは平然としている。
「マジっすか?」
「効いてないの?」
その時アビスケダマの毛がごっそりと落ちた。
「これは……ダメージを与えたと言っていいんすか?」
「でも、あの場所なら攻撃は通るはずだよ。もしかしたら勝てるかも……」
「違うっす。勝つんすよ」
「うん。そうだね」
しかし、神獣種とはいえケダマがここまで強いとは思わなかったよ……。
ケダマは王種じゃなくて神獣種でした。
いやぁ、感想に物凄い化け物王種と書かれていて、バレた(笑)と思っていました。
感想などあればぜひよろしくお願いします。




