第093話 どうして貴方まで?
診療所の仕事が終わり、寄宿舎に戻った私は、かなり空腹の状態であるが、食堂には立ち寄らず、一時自室へと向かう。それというのも、以前、食事をしてから自室に戻ったら、勝手に私の部屋で待っていたマルティナが怒りだした為である。
それ以来、多少の理不尽さは感じながらも、空腹を我慢して先ず自室に戻る様にしている。
自室の前まで辿り着き、取っ手を握る。やはり鍵は掛かっていない。中にマルティナがいるようだ。
「マルティナ、帰ったわよ」
そう言って部屋の中に入ると、ソファーに腰を降ろしていた人物がこちらに向き直る。
「えっ!?」
この部屋で見慣れたマルティナの姿もあるのだが、もう一人見慣れぬ人物の姿があった。
「オ、オードリー様!?」
「やぁ、お帰り、レイチェル嬢」
オードリー嬢が申し訳なさそうな顔をしながら答える。
「ど、どうしてオードリー様が私の部屋に!?」
「レイチェル、ごめんなさい… 私に付いてきてもらったのよ」
マルティナもなんだか疲れたような申し訳なさそうな顔をしている。
私はとりあえず、上着を脱ぎ、二人の前に腰を降ろす。
「マルティナ、何かあったみたいだけど、話してもらえる?」
「それは私から話した方がいいかな」
マルティナではなくオードリー嬢が声をあがる。
「では、お願いします」
「うん、今日、私はマルティナの寄宿舎に泊めてもらおうと思って、マルティナを捜していたんだけど、マルティナが変な男たちに絡まれていたんだよ」
私はその言葉を聞いて、すぐにマルティナに向き直る。
「マルティナ、大丈夫なの!?」
「大丈夫、オードリー様が追い払ってくれたし、ナンパされていたようなものだったから…かなりしつこかったけど」
「あぁ、あの連中はかなりしつこい奴らだったね」
「それって、学園の中で起きたのですか? もし、そうだったら学園側に報告して取り締まってもらわないと」
私はそう二人に告げる。
「うん、そうだね、それがいいね。でも、変なんだよ」
「何が変なのですか?」
オードリー嬢の釈然としない様に尋ねる。
「そのマルティナに絡んでいた連中は、学生服を着ているけど、普段、見かけない連中だったんだ」
「あぁ、この学園は広いですし、生徒の数も多いですからね」
国中の貴族や好成績の人物が集まる学園である。中学や高校レベルではなく、大学レベルの人が在籍している。なので、普段とは違う場所へ行くと見知らぬ人物ばかりという事はある。なので、学科が異なるとか、学年が違うとかそんな話だろうか。
「でもね、この学園はこの帝国の最高学府で、学問の成績だけではなく、一般常識や社会常識にも精通していないと入学することができない」
「確かにそうですね」
私もその辺りをいっぱい勉強した記憶がある。特に貴族関係の事を覚えておかないと大変な事になるからだ。
「それなのに、どこの馬の骨か分からない連中は、他の令嬢ならいざ知らず、公爵家の婚約者のマルティナに言い寄るなんて、馬鹿な事をしでかしたんだよ」
「確かに馬鹿な事というか、よくそんな恐ろしい事ができますね。カイレル様のカルナス公爵家とマルティナのジュノー侯爵家を敵に回すようなものじゃないですか」
「だから、そう言う問題が起きないように、社会常識のない馬鹿は入学できないようになっているのに、いたから変だと思うんだよ」
「あっ確かに変ですね…」
入学したてなら、受験勉強の開放感から、羽目を外す人間も多少はいるが、入学からかなり経っているので、そんな人物はもういない。
「では、学園外から潜り込んできた人物でしょうか…」
「そうなると、かなりの大問題になるね…」
オードリー嬢の顔が険しくなる。
「私が学園内で見知らぬ連中に声を掛けられたのが、そんなに大事なんですか?」
当事者のマルティナが、事が大きくなりそうなのであっけに取られている。
「あぁ、学園内の学生同士は、一応校則で学生同士は平等をうたっているから、多少の衝突があっても多めに見られることが多い、しかし、部外者の場合には、学園内の免責条項が適用されないから、そのまま一般の貴族法が適用されることになる」
オードリー嬢の説明にマルティナはピンと来ていない。おそらく、元々のマルティナも、転生後のスズキ・マリコもあまり勉強は好きではないのだろう。
「マルティナ、貴族法によると、一般人の貴族に対する無礼は最高で死罪もありうるのよ」
「えぇっ! そうなの!?」
やはり、知らなかったようだ。
「まぁ、死罪はよほどの事がない限りはおきないけど、とりあえず、帝都に住んでいて学園の生徒にちょっかいを掛けようなんて思う一般人はいないという事だよ。誰も死にたくないからね」
「そうなると、誰かが手引きして敢えてやらせているかも知れないという事ですか?」
「確証は持てないがその可能性があるかも知れないね…」
オードリー嬢は眉を顰める。
「という事は私は誰かに狙われているという事なの!?」
マルティナがようやく事態の大きさに気が付いて騒ぎ始める。
「いや、まだマルティナが狙われていると決まった訳ではない」
「とりあえず、貴族令嬢なら誰でも良いという犯行ですか?」
「そうだ、その可能性もあるという事だね」
やはり、帝都と言えど、この治安の悪さは異世界ならではである。
「この様な犯罪はよくあるのものなのですか?」
「いや、通常、貴族を狙った犯罪、特に誘拐などは起きにくい」
「それはどうしてですか?」
マルティナがオードリー嬢に質問していく。
「通常、貴族は状態異常などの対抗魔法を常時展開している。だから、眠らせたり操ったりするのが難しいんだよ」
その言葉で私は顔が青くなる。私はこの魔法が苦手で常時展開出来ていない。マルティナの顔を見るとマルティナも青くなっているので、彼女も苦手なのだろう。
「話を聞く限り、私たちに手に負える話ではありませんね… 早急に学園側に連絡しましょうか」
「そうだね、今から寮の管理人に話をして、学園側に連絡してもらおうか」
「そうしましょう!そうしましょう! それでその後、ご飯食べに行きましょう!」
マルティナは不安を我慢していたようだが、やはり空腹には勝てない様であった。
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