第087話 見知らぬ人物
午後の授業が終わり、放課後になったので、私は私自身の近況報告とアレン皇子の素行の相談、そして実家に転移魔法陣を設置するアープ家について報告するため、ディーバ先生の事務所へと向かっている。
私自身、何も問題がないし、怒られる事をしたような覚えもない。なのに先生の事務室へ向かう足取りが重い。やはり、マルティナやミーシャの推し発言や、ディーバ先生自体がアープ家に興味を持っておられる事だ。
ディーバ先生がアープ家に婿入りとか考えていたらどうしよう? 私の中のディーバ先生像が大きく崩れてしまう。そんな先生にこれからの『アイツ』の存在や、私が魔力視認できないように瞳を封印されている事も、なんだか相談しづらくなってしまう。
とはいえ、先生も当主が代替わりすれば貴族の地位を失ってしまうので、その前にどこかに婿入りしなければいけない。つくづく面倒な貴族制度だと思う。
そんな事を考えていると、すでに先生の事務室の前まで辿り着いてしまう。先生がどうあるべきなのかは私の考える問題ではないので、私は一息ついてから扉をノックする。
「先生、レイチェルです」
扉の向こうに声を掛ける。
「入り給え」
すぐに返事が返って来たので、私は扉を開けて中に入ると少し戸惑う。
いつもはディーバ先生一人が、窓際の事務机の所で座っている事が多いが、今日は、応接セットのソファーにディーバ先生が腰を降ろしており、その前の私がいつも座るソファーには見知らぬ人物が腰を降ろしている。
「よく来たな、レイチェル君」
先生が私に声を掛けると、先生の前に座っていた人物が私に振り返る。
「誰だ?」
振り返った人物の姿は、先生と同じ歳ぐらいの片目が前髪にかかった黒髪の男性で、なんだか先生と似ていて、先生をもう少し武人寄りにした感じの人物だ。服装も学者の装いではなく、平素の軍人の装いである。
『どう見ても軍人よね…どうして、先生の事務室に軍人なんかがいるのかしら?』
私が見知らぬ人物の存在に戸惑っていると、先生がその男性へ口を開く。
「あぁ、彼女は私の教え子で、今回の情報提供者でもあるレイチェル・ラル・ステーブ嬢だ」
「あぁ、彼女がディーバの言っていた人物か」
その人物は、私の事をディーバ先生から教えられているようだが、特に実物の私を見ても態度を変える訳でもなく、ただの一般市民でも見るような目で私を見ている。
「レイチェル君、こちらに来て腰を掛けなさい。イニミーク、彼女の為に席を詰めてくれないか」
「あぁ、ディーバ、分かった」
二人は名前で呼び合う仲のようだ。イニミークと呼ばれた男性はディーバ先生の言う通りにソファーを詰めると、私はその空いた場所に腰を降ろす。
「レイチェル君、彼は私の甥でイニミーク・コレ・レグリアスだ。軍で務めている」
「イニミークだ。よろしく」
イニミーク氏は特に軍人らしい威厳を出す事もなく、ただただ普通に自己紹介をする。
「私はこの学園の生徒で、レイチェル・ラル・ステーブと申します。イニミーク・コレ・レグリアス様」
腰を降ろしてから自己紹介されたので、私は座ったまま一礼して自己紹介をする。
「ディーバ」
「なんだ? イニミーク」
イニミーク氏はディーバ先生に向き直る。
「彼女は、武人か何かか? なんだかピリピリとした気配を感じるのであるが…」
イニミーク氏は私の顔をまるで猛獣でも見るような目つきで見定める。
「あぁ、イニミークは霊的実態の視認が不得意だったな、これを使うと良い」
ディーバ先生はそう言うと、懐から先生がいつも使うモノクルを取り出し、イニミーク氏に手渡す。
「すまんな、借りるぞ」
イニミーク氏は先生からモノクルを受け取ると、前髪に隠れていない方の目に付けて私に向き直る。
「ほほぅ…これは凄い禍々しいオーラだな… 肉眼で視認していれば、剣を抜いていたかも知れないな」
最近、先生は普通に接してくれているので忘れていたが、先生の目には私からイニミーク氏が言うように禍々しいオーラが吹き出ているのだ。先生は我慢しているだけなのであろうか、それとも慣れてきたのであろうか…
「禍々しいオーラが吹き出しているが、うなじの部分に瑞々しい緑の輝きがあるな、それはなんだ?」
イニミーク氏が私の後髪を凝視する。
「あぁ、それは私の友人の精霊のリーフです。リーフちょっと出て来てくれる?」
私がリーフに呼びかけると、リーフは私の髪の毛の中からぬるりと姿を現す。
「なるほど、精霊はこの様に見えるのだな」
リーフの生の姿を見て、イニミークは納得する。
「レイチェル、おはよ~最近、眠くてしょうがないよ、あれ? この人は誰?」
「えっと、この方はディーバ先生の知人でイニミーク・コレ・レグリアス様よ」
「ディーバのお友達の人? よろしくねイニミーク、私はリーフだよ」
精霊に人間の上下の身分や立場など関係ないのは分かるのだが、ディーバ先生や、初見のイニミーク氏を呼び捨てにするのはどうかと思う。
「やぁ、はじめましてリーフ、私はイニミークだ」
「そういえば、リーフにも用事があったのだ」
ディーバ先生がリーフに声を掛ける。
「なーに?ディーバ」
「以前話していた、中間考査中にリーフに待機してもらう鳥籠なのだが、注文通りの状態にしておいた、確認してもらえるか?」
ディーバ先生はそういうと、事務机の所に戻り、以前、リーフに中に入ってもらった鳥籠を取り出す。
「わぁ! ちゃんと絨毯も敷いてあるし、ベッドやテーブル、椅子もある!」
リーフは私の所から離れてディーバ先生の鳥籠の所へと向かう。
「これなら三日間、この中でも我慢してもらえるかな?」
「うん、いいよ~ 後は食べ物も準備しておいてね」
「食べ物…だと?」
「前にサナーにもらったの、あれを食べるとなんだか力が付くような気がするの」
あぁ、あの肥料の事か…
「わかった、そのサナーという生徒に貰っておこう」
「所で、ディーバ先生、よくそんな小さな家具を準備する事ができましたね、どれも凄い良い出来じゃないですか」
リーフ入り鳥籠を持って先生が応接セットのソファーに戻ってきたので、鳥籠の中のミニチュア家具を見て驚く。どれも子供がままごとで使う様な幼稚な作りではなく、本格的に作られた品々だ。所々の装飾品まで丁寧に作り込んである。
「あぁ、これを作るのは苦労したよ、部品なんてものはどこにも売っていないので、全て私の手作りだ」
「えっ!? これディーバ先生の手作りなんですか!?」
私はディーバ先生の手作りと聞いて驚きながら、鳥籠の中でリーフが使っている家具類を二度見する。
「やはり、ディーバが作ったのか、昔からこういう物を作るのは好きだったからな」
イニミーク氏が昔からディーバ先生がミニチュア工作をしていたと発言をする。
「あぁ、精霊に入っていただくのだからな、気合を入れて作ったのだ」
ディーバ先生がチマチマとミニチュア家具を作っている所を想像すると、私の中のディーバ先生像が崩れ始める。
「まぁ、私の個人的な趣味の事は置いといて、今日の本来の目的について話し合おうか」
あっけにとられる私と違い、ディーバ先生は表情を真剣なものに変えて、私に向き直り、イニミーク氏もそれに答える様に小さく頷く。
「では、君の実家で転移魔法陣を設置するアープ家について詳しく話してもらおうか」
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
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