第081話 ミーシャの悩み事
「私、私は…」
ミーシャは言葉の途中で項垂れてる。
「ミーシャ、貴方の悩み事は彼の事なのでしょ?皆、分かっているわよ」
コロン嬢が優しくミーシャに声を掛ける。
「そうよ、それにみんな、貴方の味方だし、力になりたいのよ」
マルティナもミーシャに声を掛ける。
「私も人の事を言えた状態ではないが、ミーシャ、君と君の婚約者の関係は普通ではない」
オードリーもミーシャに言葉を掛ける。
「全部…全部…私が悪いんです…」
ミーシャが声を震わせる。
「何が悪いというの? 私にとってミーシャはいい子よ」
「そうよ、今日のクッキーだって美味しかったし」
コロン嬢とマルティナがミーシャに励ましの言葉を送るが、ミーシャに心に届いたようには見えない。
「私が…私がこんな子供っぽい身体や容姿でなければ、もっとエリシオは私の事を見てくれると思うの」
前世の日本なら、ミーシャの様な姿の方が好む大きなお友達は多いと思うが、好みは人それぞれなので、何とも言えない。
「ミーシャ、確認しておきたいことがあるんだけど」
「オードリー様、なあに?」
オードリーは真剣な目でミーシャを見つめる。
「噂…噂だよ、その…君のラビタート家が財力にものを言わせて、公爵家との繋がりが欲しいから、その…エリシオとの婚約を…」
聞きづらい内容であるので、オードリーは言葉に詰まりながら、ミーシャに尋ねる。
「わ、私のお父さんの話では、公爵家の方から私との婚約話を持ってきたと言っていたの、でも… もしかしたら、お父さんが公爵家との繋がりが欲しいから、実は裏で…」
そこまでミーシャが言いかけた所で、コロン嬢の声がミーシャの言葉を遮る。
「それは違うわ!ミーシャ!」
「コロン様…」
コロン嬢の声に驚いて、ミーシャは目を丸くしてコロン嬢に視線を向ける。
「私は貴方の父上と私の父が話している所を盗み聞きしたことがあるのよ。その話では貴方の父上のラビタート卿は、本当は貴方とエリシオを婚約させたくはなかったの」
「えっ? お父さんが私の婚約に反対だったんですか?」
コロン嬢の話で、ミーシャは更に大きく目を見開く。
「えぇ、そうよ、貴方の父上はそれは大層、貴方の事を可愛がっているから、自分の手元から放したくはなかったの。貴方、エリシオと会うまでは、弟のミハイル君ぐらいしか男性とほとんど会ったことがなかったでしょ?」
「うん、確かにそう… 執事もおじいさんばかりだったし」
大層な箱の入れようである。娘離れできない父親は恐ろしい。
「でも、貴方が初めて同じ年の男性と出会って、その貴方が好きになったから、貴方の父上は承諾をしたのよ、歯ぎしりをしながらね」
「そうだったんだ…お父様が… 私、知らなかったわ」
ミーシャは胸に手をやり、父親から愛されていることを感慨耽る。
「そうよ、その時に私はエリシオのベルクード家の話も聞いているの、エリシオは妾腹で正妻から産まれた弟に当主の座を奪われない為にも、ラビタート家の後ろ盾が欲しいから、ベルクード家のエリシオから…正確にはその母親からラビタート家に婚約を申し出たのよ」
「コロン様、でもどうして、エリシオはミーシャに対してあんな態度をとるのかな? 自分から言い出しておいておかしいじゃないか」
コロン嬢の説明に、現状との乖離にオードリーが問いかける。
「そのあたりは、エリシオが選んだのではなく、エリシオの母親が選んだからという事みたいね…それとエリシオ自身にもちょっとした問題があって…」
「エリシオに問題?」
オードリーがそう尋ねるが、コロン嬢はチラリと俯くミーシャを見てから、はぁっとため息をつく。
「彼はね、自分が公爵家の繋がりを欲しがるラビタート家の陰謀で無理矢理に婚約させられたと嘯いて、頭の軽い令嬢たちから同情を誘って女漁りをしているのよ…」
「でも、エリシオ様も先程の話では母上に無理矢理に私との婚約を決められて被害者である事には変わりないと思います。ただ、私にエリシオ様を繋ぎ止める魅力がないから…」
エリシオにここまで酷い扱いをされておきながら、ミーシャはコロン嬢にエリシオの弁明を行う。しかし、最後に自分が悪いとの内罰的な結論に至って項垂れる。
「ミーシャ…貴方が悪いわけではないのよ…」
「そうよ!ミーシャは私の側に置いて、ずっと愛でていたほど、可愛いのよ!」
コロン嬢とマルティナが内罰的なミーシャに慰めの言葉を送る。しかし、マルティナの慰め方はちょっと犯罪臭い。
「ちょっと…いいかしら…」
ここで、今までずっと沈黙を保っていたテレジア嬢が言葉を発する。
「ミーシャ、エリシオは貴方の思う様な人物でもなければ、貴族として…いや人としても決して褒められるような人物ではないわ」
「テレジア様、私がエリシオ様に好かれていないだけで、そこまで言わなくても…」
テレジア嬢はミーシャの言葉に、顔を横に振る。
「いいえ、褒められるべきではない人物どころか、人として許されない程の人物よ」
テレジア嬢は真剣な眼差しでそう断言する。
「人として許されないとは尋常ではないね…」
「一体、どういう事か説明していただけるかしら?テレジア様」
オードリー嬢とコロン嬢がテレジア嬢の言葉の真意を問う。
「私が、下町の診療所で治癒術師として働いている事は知っているわよね、そこに何かと、曰くつきの患者が訪れるのよ…」
「…曰くつきの患者とは?」
テレジア嬢は一度、ぎゅっと瞳を閉じた後、決意を決めて目を開く。
「女性の堕胎の案件よ…」
「ちょっと、テレジア様、貴方、そんな事までしていたの!?」
テレジア嬢の言葉にコロン嬢が声を上げる。確かに医者の代わりの治癒術師とは言え、若い未婚の女性にそこまでしなくてはいけないなんて…
「流石に施術は別の方にやってもらって、私は助手を行ったわ。でも、下町の診療所では、良くある話なのよ…身籠りはしたものの、育てられない場合や、意図しない場合とかね…」
「その話が、エリシオにどうつながるのかしら…」
コロン嬢は恐らく予想はついていたが、敢えてミーシャにその結末を聞かせるためにもテレジアに尋ねる。
「そのうちの一人が、エリシオに弄ばれた結果、意図せぬ妊娠をしてしまったのよ」
「嘘だぁぁ!!!」
テレジアの言葉が言い終わる前に、ミーシャが絶叫を上げる。
「いいえ、嘘じゃないわ。その患者は堕胎した事の証明書を求めていたの、なんでも後でベルクード家に提出する為だそうよ。彼女、泣きながら言っていたわ、エリシオに弄ばれて身籠って、でもエリシオは下町の女とちょっと遊んだだけで、そんな娘に自分の血は残せないって、だから堕せって言われたって、さもないと貴族の恐ろしさを分からせてやるって…」
テレジア嬢の話を聞いていた皆の顔が一瞬で憤激のものに代わり、血走りそうなぐらいに、瞳に憤怒の色を見せる。
「確かに女として、人として…いや、女だからこそ尚一層許せませんよね…」
私は拳を握りしめ、怒りで声と身体を震わせる。前世の玲子の時に、私の母は父の浮気というか本気で、まるで鼻をかんだ後のちり紙を捨てる様に、軽々と私ごと捨てられた。だから、私は父のように女性をぞんざいに扱う男を許す事は出来ない。
「ミーシャ、これでもエリシオを信じ続けるの?」
コロン嬢は怒りをいったん収めて、ミーシャに優しく諭す母親の様に尋ねる。
「わ、私は…エリシオ様を…信じたい…」
この状況を知っても一途なミーシャは、瞳に涙を浮かべ、拳を膝の上で握りしめて答える。
「そう…分かったわ…」
コロン嬢は残念そうに、悲しそうに瞳を細める。
「ちょっと、コロン様! いいんですか!?」
ミーシャの言葉を承諾したコロン嬢にマルティナが立ち上がって尋ねる。
「マルティナ、私たちはミーシャに説得を試みることはできるけど、その意思を無理矢理変える事はできないわ… 誰かを愛する気持ちは止められないものよ、それはミーシャも同じですから…」
「で、でも…」
マルティナは諦めきれない顔をする。
「だからと言って見捨てる訳じゃないわ。ミーシャ、私たちは貴方の友達ですから、困った事や、弱音を吐きたいときは私たちを呼んで、すぐに駆けつけるわ…」
「ありがとう…コロン様…」
コロン嬢の言葉にミーシャは涙を拭って答えたのであった。
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