第076話 ぶらり書店へ
今日は診療所の仕事は休みの日であるが、私は診療所からの帰りである。というのも、先日、マルティナの提案で決まった『悪役令嬢』が一堂に会するお茶会の案内をテレジアに知らせるためである。
悪役令嬢お茶会に何故、私も名を連ねているのかと思うが、これだけ首を突っ込んだ以上、今さら後には戻れない。
オードリー嬢の事も、皆で知恵を出したり、力を合わせたりはしなくてはならないと思うが、オードリー嬢の事だけではなく、他の令嬢たちの事も合わせて話し合わなければならないだろう。というのも、私がゲームの物語通りに介入していないにも関わらず、『攻略対象』たちと『悪役令嬢』達との関係は険悪になりつつある。
コロン嬢、マルティナ、ミーシャは言うまでもなく、オードリー嬢も先日の話では、関係は良くないようだ。まぁ、そもそも、オードリー嬢の婚約者のオリオスが普段からもクソガキの様な言動をしているので推して知るべしである。
逆に全く情報が出てこないのが、テレジア嬢とウルグのペアである。ウルグ自身はアレン皇子たちと共に行動していることが多いが、ゲームの中では本来イキリキャラであるウルグが妙に大人しい。なんだか借りてきた猫のようである。
ゲームの物語通りに進行している事も多いが、逆に物語とは異なった事象も起きているので、ウルグの性格については後者の方であろうか。特に後者の事象について、一番大きのが、シス王女の事である。
彼女が、主人公であるレイチェルの役割に入れ替わる様に、イベントに介入している為、私が介入しない事で今まで止めていたイベントが一気に進行している。それぞれの『攻略対象』や『悪役令嬢』に対応するイベントが進行してしまうと、彼女たちの死亡フラグが立ってしまう。今、特に進行しているのがコロン嬢である。これ以上進行してしまうと取り返しのつかない事になってしまう。
「今まで受け身の姿勢でいたけど、もっと前向きに向き合わないとダメかしら…」
そんな事を考えながら歩いていると、駅馬車の停留所をとっくに超えて歩いていた。
「行き過ぎたわ、戻らないと」
そう考え、踵を返そうとした瞬間、ある物が目に飛び込んでくる。それは書店である。マルティナのお陰で、色々なコミックを読むことが出来たが、マルティナの好みなので、私の読みたいものが足りなかった。
「もしかして…あれもあるのかしら…」
私は、存在しているかどうか確認をする為に、書店へと足を向ける。両開きの扉を推し開くと、店内はかなり広く、その店内に所狭しと本が並べられている。本に関しては図書館などの学術本がメインの所しか行ったことがなかったので、一般紙も取り扱っているこの様な書店は私にとってかなり新鮮な環境である。
「さて、本当に少女漫画のコーナーはあるのかしら?」
私は店内を見回しながら進んでいく。しかし、店内は親切な事に、天井から本の分類の看板がぶら下がっているので、すぐさま目的のコーナーを見つけ出すことができた。
「本当にあったわ…しかも大型中古書店並みに揃っている」
コーナーに並べられた本を見ていくと、古い作品から比較的新しい作品まで取り揃えている。異世界だからといって、著作権侵害も甚だしい状況である。しかし、その著作権侵害をしている日本人転生者のお陰で、異世界に於いても日本の作品が読める事は複雑なきぶんである。
そんな事を考えながら、少女漫画のコーナーで目的のタイトルを捜し続ける。
「嘘…あったわ…」
私はそのタイトルの書籍を手に取り、表紙を確認する。絵柄は異なるが、その表紙からして私の探し求めていた物に間違いないだろう。
「本当に『魔物のお医者さん』があるなんて…」
取り出した一冊以外に本棚を見てみると、12巻まであるようだ。私は本を裏返し、価格を確認する。
「やはり、マルティナが言っていたように、かなり高価ね…」
先日のオペル座で自分の分とコロン嬢の半分のお金を出したので、今はあまり余裕がない。もともと、学園でのお小遣いもあまりもらってはいないので、マルティナの様な大人買いをすることは不可能である。
私が本を手に取って買うかどうか悩んでいると、私より年下の女の子たちが、数人でこのコーナーにやってくる。そして、皆で相談してお小遣いを出し合って、一冊の本を選んでいく。恐らく皆で読み合いを行うのであろう。だが、一般人の女の子でも買っているのだ。私も一冊ぐらいならいいだろう。
私はそう考え、『魔物のお医者さん』の一巻を持って、会計の方へ足を進める。
「ちょっと、お嬢さん、よろしいですか?」
ふいに男性の声に呼び止められる。
「はい?なんでしょう?」
私は声の主に振り返り、男性の姿を確認する。そこには壮年の細身のちょっとやつれた貴族の男性がいた。何故、壮年の貴族男性がこんなコーナーの手前にいるのかと戸惑う。
「そ、その…娘に本を買って帰りたいのだが…何分、場所が場所だけに入りづらくて…」
確かに書店には色々な本があるが、その種類によっては、男女で入りにくいコーナーがある。女性にとって男性のエッチな本のコーナーには行きづらい、というかそんな所に行けば恥ずかしくて死ねるだろう。男性にとっての少女漫画コーナーは同じ感覚だと思う。
「その、どのような物でしょうか? 私が捜してきますので、作品名などが分かれば教えて頂けますか?」
こういう事も善行を積むことになるだろう。いや、こんな考えはダメかな?とりあえず、断る理由もないので、お手伝いしよう。
「ありがとう、助かるよお嬢さん。えっと、タイトルは確か…ガラスのマスクだったけな?」
『ガラスのマスク』か…確か演劇を主題にした作品だったはず。あれって、向こうの世界でもまだ完結していなかったと思ったが、こちらの世界にもあるのだろうか…
そんな事を思いながら、本棚を見てみると、いとも簡単にあっさりと見つかる。それもそのはず、ずらっと45巻まで並んでいるのだ。
「あの見つかりましたが…」
「あぁ、見つかったのかい、ありがとう、お嬢さん」
「しかし、今第45巻まであるのですが…」
「えっ45巻!?そんなに出ているのか…」
壮年の貴族男性は1・2巻ほどだと考えていたのだろう、それが45巻である。金額的にも物理的にも予想外であるはずだ。
「どうされますか?」
一応、全巻揃えるとなれば、金額的にも物理的も大変な事になるので貴族男性に確認する。
「最近、娘の機嫌が悪くてね…それで機嫌を治してもらうためにプレゼントしようと思ったのだが…中途半端な渡し方では余計に機嫌を損ねてしまいそうだな…」
娘の機嫌をとるために、頑張っておられるのか、そう言う事であれば手助けしない訳にはいかない。
「では、書店の方に台車を借りてきましょうか?」
「いいのかい?助かるよ」
貴族男性は柔和な笑顔を作る。この男性の体型では、十数冊でも持ち運ぶのは厳しいはずだ。それが45冊となると不可能に近いと思う。私は一度、自分の選んだ本を置き、書店の店員を探し出して、要件を伝える。
「すみません、大量購入をしたいのですが、台車をかしていただけますか?」
「はい、こちらをお使いください」
店員は台車で運んでいた本を持ち上げ、その台車を私に貸してくれる。
「お仕事中ですのに申し訳ございません。お借りいたします」
「いえいえ、構いませんよ、すぐに並べるので」
私は店員の言葉に甘えて台車を借り、貴族男性の元へ戻る。
「台車をお借りしてきました。これで運べますね。でも、店外ではどうされるのですが?」
「あぁ、外に馬車を待たせているから、御者に手伝ってもらうよ」
流石に台車ごとお買い上げと言う訳ではないようだ。
私は、本棚にある『ガラスのマスク』の出ている分45巻を台車に積み込み、貴族男性と共に、会計へと進む。
「お嬢さん、ありがとう。ここまででいいよ。今日は大変助かったよ」
「いえいえ、それよりも娘さんの機嫌が治るとよろしいですね」
貴族男性は会計を済ませ、梱包をしてもらっている間に御者を呼び出す。
「では、お嬢さん、ありがとう!」
そう言うと貴族男性は去って行った。私は自分の買い物を済ませるために、少女漫画のコーナーに戻ろうとするが、その途中、本棚の陰から視線を感じる。チラリと見られている程度ではなく、じっと凝視されているのだ。
「誰?」
私は視線の主に声を掛けた。
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