第027話 告白
ディーバ先生は私が答えるまで、目をそらさないように見据えている。
私は、その状況にぐっと息を飲む。
「わ、私は…」
膝の上で拳を握りしめる。
「人間です…悪霊なんかじゃありません…」
精一杯の言葉を紡ぎだし、ディーバ先生からの視線を外して、頭を項垂れる。
私のこんな言葉で、ディーバ先生が納得するとは思えないが、私にはこれぐらいの事しか言えなかった。私自身も私の事と『アイツ』の事が分からないのだ。
「レイチェルは悪霊なんかじゃないよっ!!」
項垂れる私の代わりに、リーフが先生に声を上げる。
「ほぅ、何故、そんな事が言えるのかね?リーフ」
ディーバ先生はリーフに視線を向ける。
「それは…私とレイチェルが繋がっているから…」
「繋がっている? 繋がっているとはどういう事か、説明してもらえるかね?」
先生は視線だけではなく、顔もリーフに向ける。
「………」
リーフは言葉を選んでいるのか、それとも悩んでいるのか、俯いて黙り込む。
「何を悩んでいるのか知らないが、レイチェル嬢の無実を証明したいのであれば、割り切って話しなさい」
「…レイチェルは…」
リーフはぽつりと喋り出す。
「…レイチェルは、二年前、私の本体の樹木をつかって首吊りをして自殺しようとしたんだ…」
リーフの言葉にディーバ先生が眉間に深い皺を作る。
「その時、私はレイチェルの身体の中に入って、レイチェルの身体を使って止めさせようとしたんだよ…」
ファミレスでの爆発事故に巻き込まれ、この世界に転生して来た時の話だ。
「その時、どういう訳か、精霊である私は、レイチェルの魂と癒着してしまって、今でも繋がったままなの…」
私は胸に何かが込み上げる。
『そうか…そうなのか…いつもリーフが私に気遣ってくれたり、優しくしてくれて、無二の親友になってくれているのは、私たちは魂で繋がっているから…』
「だから、魂に繋がっている私だからよく分かるの、レイチェルはあんな悪霊なんかじゃない!」
リーフは顔を上げて、ディーバ先生に必死に訴えかける。
「では、何故、あの様な悍ましいものが彼女に憑りついているかね?」
「それは…私にも分からない...レイチェルの魂と繋がった時から、彼女の魂には黒い靄の様なものがこべりついていた。でも、それは自殺した時の悪感情の様なものだと思っていた。あの後、彼女は以前の記憶を失っていたし、もう自殺の心配はないけど、自分が自殺しようとしたことに対する罪悪感みたいなものだと思ってた…」
リーフがそんな事を考えているとは思わなかった。きっとリーフは私の事を気遣って、胸の内に秘めて、黙っていてくれたのだ。
「でも、一昨日、レイチェルがあの令嬢に魔法で眠らされて、その後殺されそうになった時に、靄だと思っていたあれが、一気にレイチェルの中から吹き出して、恐ろしい悪霊みたいな姿になったんだよ」
「ふむ…リーフ、もっと詳しいことは分からないのかい? 君は繋がっているのだろ?」
ディーバ先生は少し表情を和らげて尋ねる。
「分からない…繋がっていると言っても、今、レイチェルがどんな気持ちなのか分かるぐらいだから… でも、以前より黒い靄が大きくなっている気がする…」
「それは、レイチェルの魂に浸食していないのかい?同化している様な動きはないのか?」
ディーバ先生は私が『アイツ』に乗り変わられる可能性を聞いているのか。
「それは黒い靄がレイチェルの魂に入り込もうとしているって事? それはないよ、逆にレイチェルの魂から何か吸い上げて成長している感じがする…」
私はリーフの言葉に玲子時代のクラスメイトの言葉を思い出す。
『冬虫夏草』
そう、『アイツ』は私を宿主にして寄生して、成長し続ける存在なのだ。それはこの世界でも変わらないのか…
「そうか…では、そやつとレイチェルとは全く別の存在であるのだな?…」
「そうだよっ!」
「あの令嬢を昏睡状態に至らしめたのは、その黒い靄で、レイチェル嬢ではないのだな?」
「だから、最初からいってるじゃないのっ!」
ディーバ先生は再びリーフに確認を摂ると、眉間に指を当てて暫く考え込み、ふぅっとため息をしてから、椅子に深く座り込む。
「マルティナ嬢の昏睡事件に関して、レイチェル君は関係者ではあるが、加害者ではないという事だな…分かった、了解した」
「ある意味、レイチェルも被害者だよ」
「そこは謝罪しよう。では、これからは目撃者として事件の真相を伺いたい」
「えっ?」
部屋の張り詰めた空気が緩み、状況が一変したことで、私は思わず声を漏らす。
「あの…」
「なんだ?質問でもあるのか?」
私の言葉にディーバ先生が椅子に深々と座って答える。
「リーフの言葉を全てそのまま信用して、判断されたように見えたのですが…」
「それがどうしたのかね?」
「いや、リーフが私の為に嘘をいっているとか思わないのですか?」
ディーバ先生がリーフの証言を何の疑いも持たずに判断しているので、思わずその事について尋ねてしまう。
「なんだ、知らないのか? あぁ、そうだ君は二年前に記憶を失っているのだったな」
「はい?」
リーフの言葉を信じるという事と、私の記憶がどう関係するのか?
「精霊というのは、元々精神体の存在だ。そんな精神体の存在が、見聞きしたことや思った事に嘘をつくというのは、自己の存在を否定することに繋がる。だから、精霊が嘘をつく行為は自殺と同義なんだよ」
「でも、リーフの場合は本体の樹木がありますよね?」
「あぁ、しかし、嘘をついた場合、精霊であるリーフの存在は消え、その樹木はただの樹木に戻ることになる。そして、その樹木もやがて枯れるであろう」
人間の場合は一日に嘘をつかない日はないそうだが、精霊にとってはそんなに重い状況になるのか。
リーフの素直な性格も嘘が付けない所から来ているのだろう。では、今まで、皆の人目につかないように行動していた事は、自身の存在を偽るような行為で、リーフにとっては非常に不快な思いをさせていたはずだ。後ほど謝っておこう。
「それで、リーフの言葉を信じて判断されたのですね」
「あぁ、そうだ。精霊の証言はもっとも信用できる証言として取り扱われる。なので、先程、君の言った精霊の宿る樹木を切り倒すような行為は、隠し事や後ろめたさがあるものとして扱われ、他人から信用されなくなる行為だ。まぁ、君の家の場合は、知らなかった事もあるが、再び自殺させないための行為なのであろう…」
その言葉に自責の念がぐっと伸し掛かる。
「さて、話題を元に戻そう」
ディーバ先生は椅子の背もたれから身体を起こす。
「何時からその悪霊がレイチェルに憑りついているのかは、レイチェル自身が以前の記憶を失っているので、探る事は不可能であろう、もしかすれば、その事が原因で自殺を考えたのかも知れぬ…」
ディーバ先生は最後の方の言葉を語気を弱めて話す。
「その事はまぁよい…それよりも事件の状況を考察していくと、マルティナ嬢の教科書切り裂きの現場にレイチェル嬢が居合わせて、犯行がバレたマルティナ嬢がレイチェル君に魔法をかけて眠らせた。ここまではいいか?」
その言葉に私とリーフは頷く。
「その後、悪霊はどうしたのだ?リーフ答えてくれるか?」
ディーバ先生はリーフに目を向ける。
「うん…レイチェルの中から悪霊が出てきたんだけど…」
「出てくる? 出てくるとはなんだ? 実体化でもしたのか?」
リーフの言葉に先生の目が開く。
「いや、霊体か精神体だったと思う…令嬢は見えていないようだったし、ただ、巨大な『人型』のようなモノが出て来て…」
「こう見ているだけでも悍ましいのに、それが巨大な『人型』になってでてくるだと? それで、その『人型』はマルティナ嬢をどうしたのだ!?」
ディーバ先生は語気を荒くして声を出す。
「何もしなかった。ただ、その令嬢を息が掛かりそうな距離で見ていた。そしたら、その令嬢の中から、幽霊みたいなものが飛び出して、叫んで消えちゃったんだよ」
「なるほど…それでマルティナ嬢が何故あのような事になっているのか理由が分かった…」
先生は再び、背もたれに背中を預ける。
「で、その後はどうなったのだ?」
「その後、レイチェルが目覚めて、事情を説明したら、その令嬢を礼拝堂に連れて行こうって…」
「そうか、レイチェル君がそう言ったのか…」
そう言うと先生は私に向き直る。
「では、何故、礼拝堂に連れて来たのか説明してもらえるかね?」
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