見てはいけないもの
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「こんなところまでついてきてもらってごめんね」
ユキちゃんの彼氏さんのアパートは、入り組んだ路地の中頃にある、二階建てのちょっと古そうなアパートだった。
この辺りは駅が近いこともあって、アパートが乱立しているが、家賃の安さが魅力なのか、昔からある古いアパートもまだ残っているようだ。
「良いよ。それより、彼氏さん、まだ電話に出ないの?」
「うん。留守電になるから、電池は切れてないと思うっちゃけど……鍵持ってるから、ちょっと上がってみようかな」
少し錆びた階段を上がってすぐの202号室の扉の前へ来たところで、わたしは朝陽さんの忠告を思い出した。
「ユキちゃん、わたしは扉のところで待っているから、何かあったら呼んでね」
彼女ならともかく、見知らぬ他人であるわたしが勝手に部屋に入るのも良くないだろう。
「ありがとう、ミコトちゃん。……あれ。鍵、開いてる……?」
四隅が錆びて、デコボコになった扉が、音もなく開いた。
「なに、この臭い」
鼻にツンとくるような異臭が押し寄せ、暗闇の奥から、人の呻き声がする。
目に染みるくらい強烈な臭気に、せき込み、ハンカチで口と鼻を抑えながら、扉から顔をそむけた。
理由はわからないけど。
──これは、ヤバい。
”この先を”見ちゃダメだ。
背中に流れる冷や汗と、激しく拍動する心臓の音が、今すぐ逃げろと言っていた。
「ヒロくん!」
扉の中に飛び込んだユキちゃん。
転がるようにして、部屋の中へ駆け込んでゆく背中を目で追い、──わたしは”その先”にあるものを見て、しまった。




