序
ハロウィンも近いので、短めのホラーを書いてみました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ふらふらと、足元も思考も定まらない。
悪酔したみたいに、最悪なコンディション。
手は冗談みたいにブルブル震えているし、ひどい吐き気と頭痛がした。
鼻から滴る生臭い液体は拭っても拭っても、しつこく流れ出してくる。
「あ、あ、あ……」
言葉にならない声と、歯の根が、カチカチカチ、と忙しなくなる音がどこか遠くで聞こえた。
目の前で”ナニカ”が大きな口を開く。
人の口を伸ばして叩いて、無理やり広げたような、巨大な口にはたくさんの小さな歯が生えていた。
吐き気をもよおす生温い息が全身を包み、ぬめった口内から伸びてきた肉厚の舌が、味を確かめるように、わたしの顔をベロリ舐めあげる。
「ひぃ……」
涙がボロボロと流れて、喉がひっくひっくとしゃくり上げる。
逃げなければ、と頭では分かっていても、ガクガク震えるばかりで、わたしの足は何の役にも立たない。
寒気と、吐き気、ひどい目眩で混濁した思考の中、分かったのは一つだけ。
わたし、食べられちゃうんだ。
このまま、バリバリと、頭から。
「──こんにちは、エサバちゃん。真昼間から、こんなところで、なんしようと?」
恐怖に耐えきれず、ぎゅっと目を閉じたわたしに、散歩途中の挨拶のような気軽さで、話しかけてきた男。
「おー。これはまた、一段と凄いのを連れとるね」
彼の『挨拶』で、わたしを食べようとしていた口が──ぞぶり、と消えた。




