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第81話 仲間を犠牲にしたくなければお互いを守り合う美女二人組



『オレの名前はジレゴ=テレット。しがない傭兵だ』


『お前さんは心のどっかで、誰かに助けて欲しかったんじゃねえのか?』


『……いい顔だ。メリカのこと頼んだぞ、ヒューサ』



「そんな……」



『…………んぁ? 何だお嬢ちゃん、どっから来た? 迷子か?』


『そうさな……クムン。お前さんの名前は、クムン=ハレープだ! どうだい?』


「たーんと食って飲んで、体力つけろ! ジレゴ様のマンツーマン超集中講習は厳しいぜ?」



「嘘です……こんな……」



 目の前に現れたのは、他でもない。


 ワタシとクムンさんにとって、大切な存在。


 ずっとずっと会いたかった、大好きな人。



「ジレゴッ!!」



 隣にいたクムンさんが、何もかもを投げ捨てて走っていく。


 武器も。


 靴も。


 警戒心すらも。



「え…………?」



 華奢な身体から赤黒い液体が流れ落ち、冷たい地面にじんわりと広がっていく。


 己の腹に刺さった矢を数秒間見つめた後、クムンさんは糸を切られた操り人形のように、どさりとその場に倒れた。


「クムンさんっ!!」


 ワタシはすぐさまクムンさんに駆け寄り、魔法を使って治癒を行う。


「おやおや、もう一人脱落か。つまらないな……まったく」


「アタラポルト……これは、どういうことですか……!?」


「落ち着きたまえヒューサ=テレット。あのアルラウネや無能魔法使いはボク達を裏切って勇者側についた。ならばその逆……『キミ達を裏切って魔王軍に入る者』がいても、何ら不思議ではないだろう?」


「そんな……有り得ません!! ジレゴさんがワタシ達を裏切るなんて……」



「ゴチャゴチャうるせえぞ、ヒューサ」



 聞き慣れたはずの声……なのに、聞いたこともないほど冷たい声が、ワタシの台詞を容赦なく遮る。


「ジレゴ、さん…………?」


「あんだよ、オレが生きてんのがそんなに不思議か? しっかし、久々の再会に涙ひとつ流さねえたぁ、お前さんも相変わらずだな! ガハハッ!」


 ワタシだって、そうしたかった。


 その逞しい腕の中で、子どものように泣きじゃくりながら。


 アナタに会えた幸せを、これでもかと噛み締めたかった。


 それだけを夢見て、今日まで生きてきたんですから。


…………ですが、おかしいじゃないですか。


 どうしてアナタが今、クムンさんに矢を放ったんですか?


 どうしてアナタが今、ワタシに弓を向けてるんですか?



 どうしてアナタが今、そんな女の隣にいるんですか?



「そんなに呆けていていいのかい? クムンくんが苦しそうだが」


 アタラポルトの言葉で、ワタシはクムンさんに視線を戻した。


「ジレゴ……どう……して……」


 クムンさんは肩で息をしている。


 目に涙が滲んでいるのは、きっと痛みのせいではない。


「アタラポルト…………!!」


「クハハッ! いい顔だ、ヒューサ=テレット! キミのそんな顔を見るのはいつぶりだろうか? ああ、そうだそうだ……ボクがキミのご両親を殺した、あの時以来かな」


「っ…………!!」


 ワタシは怒りのまま、走り出していた。


 声にならないような叫び声をあげながら。


 ああ、ヨシハルくん……メリカちゃん……ごめんなさい。



 やはりワタシは、復讐のこと以外、考えられません。






✳✳✳✳✳✳✳






 ピアリを失い、失意のドン底にいる俺達に、巨大な緑のゴリラ型の魔物……グリゴリは歯を見せて笑みを浮かべている。


「グヒヒヒヒ、久シブリダナァ勇者!! 前ハアノ女ニヤラレタガ、ソイツガ居ナケレバ怖クナイ!」


 そっか、そういやコイツは喋れるんだったな。


 ヒューサさんに燃やされた傷は癒えている。万全の状態でリベンジってワケか。


「こちとら傷心中だってのにギャアギャア喚くんじゃねえよ……空気読めやデカブツ」


「グヒッ、アノ魔法使イガ死ンダノガ、ソンナニ悲シイカ!? アンナ役立タズノ雑魚、居テモ居ナクテモ同ジダロ!」


「さっすが、あの根暗科学者に造られただけあって、テメエには仲間意識ってのが皆無みてえだな。確かにピアリは最期までポンコツだったが……自分を犠牲にしてでも仲間を助ける魔法を迷うことなく発動できる、そんな立派な魔法使いだったよ」


「グヒヒヒヒッ! ソンナ顔ヲスルナ! オレサマガ再会サセテヤル……オマエラ全員ヲ地獄送リニシテナァ!!」


 コイツに構ってる時間はない。


 さっさと全員でぶっ潰して先に……。



「ヨシハルさん……この戦い、わたくしに任せていただけますか」



 さっきのセクリと同じような台詞。


 それを堂々と言い放ってみせたのは……メノージャだった。


「メノージャ、お前……バカか!? いくら幹部じゃねえとは言え、こんなバケモノ相手に一人で戦うだと!? んなもん、今の俺が許可すると思ってんのか!?」


「分かっていますわ。セクリナータさんがボロボロになって、ピアリさんも居なくなって……そんな状況で、ヨシハルさんがわたくしを置いて先に進めるわけがありませんわよね」


「だったら……!!」


「ですが、わたくしにも譲れないものがありますわ。これ以上、仲間が傷付くところは見たくありません。ならば、ここはわたくしが……」


 メノージャの手が震えている。


 コイツも、これ以上絶望を味わうのが怖くて仕方ないんだ。


 そのために自分が犠牲になるってのか。


「……この先も一緒に進んで仲間が傷付くところを見るくらいなら、ここに残って自分一人で戦う方がマシ、とでも言いてえのか」


「ふふ……わたくしは魔物ですから。メリカさんやセクリナータさん、クムンさんやヒューサさんより、命の価値は低いものでしょう。仮にここで死んだとしてもヨシハルさんにとって大したことでは……」


「寝言ほざいてんじゃねえ。人間だろうが魔物だろうが関係あるかよ……お前だって大事な仲間だ、メノージャ」


「うふふ……それが聞けただけでも満足ですわ。こんなわたくしを『二度も』パーティーに入れて下さり、ありがとうございました。さあ、どうぞ先へ」


 メノージャの考えは変わらない。


 きっと、俺が何を言っても無駄だろう。


 他のメンバーとは違い、魔物だからというだけの理由で自分の命を軽んじているコイツに、段々と怒りがこみ上げてくる。


「お前っ……いい加減に……」



「なら、私も残るわ」



 メノージャに声を張り上げようとした俺の身体が、突然軽くなった。


 背中から、セクリが降りたことによって。


「セクリ……お前、起きて……」


「私を乗せたあんたがあれだけ全力疾走してたら、そりゃ目も覚めるわよ。それに……大事な仲間が居なくなったって時に、すやすや寝てられないでしょ」


 地面に降り立ったセクリは、まだまだ本調子には程遠いが、顔色はさっきよりもずっと良くなっていた。


「私は足手まといになるのが大嫌いなの。これ以上ヨシハルの重荷になるのは耐えられないわ。途中まで眠ってたおかげで体力は回復したし、まだ私は戦える」


「お前まで、そんな……」


「違うわよ、ヨシハル。私は自分を犠牲にするために戦うんじゃないわ。自分を犠牲にしようとしているメノージャを、守るために戦うのよ」


「っ……セクリナータさん……」


 メノージャの手の震えが、ピタリと止まった。


「私がいる限り、メノージャは死なない。そしてメノージャがいる限り、私は死なない。二人とも、もう仲間が居なくなるのはコリゴリだもの。そうでしょう、メノージャ? 傷だらけの私を死なせないために、せいぜい身体張って戦いなさいよね」


「……はい、お任せくださいまし」


「そういうワケよ、ヨシハル。そんなに私やメノージャ……それにクムンやヒューサ先生が心配なら、さっさと魔王を倒して全部終わらせてから、ここまで戻ってきなさい」


 自暴自棄になった奴らの目なんかじゃない。


 二人は、覚悟を決めたんだ。


 俺に全てを託す覚悟。


 俺が魔王を倒すまで、何としてでも生き延びてみせる……そんな覚悟を。


「メリカ……行くぞ」


「う、うん……セクリナータ様、メノージャさん……気を付けてね」


「ふふっ……おーほっほっほっほ!! さあさあご注目あそばせ! わたくしとセクリナータさんによる華麗なる連携プレー、とくとご覧あそばせ! 相手が絶世の美女二人組だからといって侮らぬよう、お気を付けあそばせ!」


「何回あそばせるのよあんた」


 まったく、馬鹿野郎どもが。


 セクリとメノージャだけじゃねえ。


 クムンも、ヒューサさんも、シルベラ国の奴らも、救いようのねえ馬鹿しかいねえよ。


 こんな『出会ったばかりの』ロクデナシ野郎のことを、心の底から信じやがって。


 馬鹿は死んでも治らねえ。


 だったらせめて全員、生きた馬鹿のままで待ってろ。



 俺が、すぐに全部終わらせてやる。





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