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第78話 殺意を向けられたら悦びを隠せなくなるクサレ女


「おっと、ボクとしたことが自己紹介がまだだったね。まあ、名前を大声で呼ばれた直後に紹介というのも変な話だけれど」


 相変わらずくだらないことをベラベラと喋り続けるその女がいつ攻撃を仕掛けてきてもいいように、俺達は構えを崩さず様子を伺う。


「クク、そんなに警戒しなくたっていいのに。さてと……はじめまして勇者パーティー。ボクの名前はアタラポルト=ケミミダル。魔王軍幹部の一人で、科学者として……」


「待てよ……『はじめまして』ってのはどういうことだ」


 コイツとは二周目でも一度会っている。

 

 魔王と二人でシルベラ国に来て、緑色のでけえゴリラを召喚して俺とメリカを苦しめたはず。


「ああ、あれはボクじゃない。そこにいる裏切り者が魔法で変装していた姿だよ」


「…………は?」


 アタラポルトの言葉を聞いて、俺達はアタラポルトの指差す方に一斉に振り向く。


 人差し指同士をチョンチョンとつけたり離したりしながらバツが悪そうな表情を浮かべるピアリが。


「え、えへへ……ごめんね言い出せなくて……アタラポルトに頼まれたの。魔王と一緒に勇者パーティーの様子を見に行ってこいって」


「ボクは野暮用でちょっと手が離せなかったからさ……ピアリにボクの姿に変身させて、キミ達の所に向かわせたんだけど……気付かなかったのかな?」


 道理でアタラポルトにしちゃポンコツな言動が目立つと思ったら……。


 アタラポルトは魔物を破壊したぐらいで叫んだりしねえもんな……あれピアリだったのかよ……。


「てめえピアリこの野郎!! なんでもっと早く言わなかったんだよこのスーパーポンコツ魔法使い!!」


「いたたたたたすぅぱぁ最強魔法使いですっ!! だ、だって怒られるかと思ったんだもん! アタラポルトになり切ってたとはいえ、緑のゴリラを使ってお前達を倒そうとしたんだし!」


「酷いよピアリ!! さっきのあたしとの友情のブレイクダンスもウソだったっていうの!?」


 友情のブレイクダンスってなんだよ。


「どうやら完全には気付かれなかったみたいだね……馬鹿でノロマな魔法使いも、魔王軍を離れる前に少しは役に立ってくれたようで助かったよ」


「ア、アタラポルト……お前、まさかピアリちゃんが裏切ることを知って……」


「さてどうだろうね。まあ、どうせキミは足手まといだったから、他所に行ってくれたのはボクにとっても都合が良かったけれど」


「ムキイイイイ!! どこまでもムカちゅくぅ~!! ふんっ、ピアリちゃんが裏切ったのは主にお前が原因なんだからね!」


「幹部四人で四天王なんて呼ばれているけど……魔王様を溺愛しているだけの脳筋無能、ロクに戦闘経験のない一般人と王女に二度も負けたナルシスト無能、そして役に立たない魔法ばかり使うやかましいバカ無能…………まったく、今までボク以外にまともな奴がいなかったから、本当に苦労したよ」


 アタラポルトはピアリの話をガン無視し、溜め息混じりに話している。


「アタラポルト、お前……クムンとヒューサさんとは会わなかったのか?」



「ああ……あの二人ならもう脱落したよ」



 アタラポルトは俺の質問に、表情を全く変えずに答えた。


「ジギーヴァから何を聞かされたのか知らないけど、頭に血がのぼって周りが見えていなかったのだろうね。ボクが城内に仕掛けておいた魔方陣をまんまと踏んでくれちゃってさ。とっくに別の場所に転移したよ」


「なんだと……!?」


「落ち着きたまえ。転移と言ってもそう離れちゃいない。そうだな……キミ達が突入した正門とちょうど反対の位置にある、この城の裏門あたりかな。まぁ、そこにはもともと城内に配置していた魔物達を全て向かわせたから、なんにせよ無事ではないと思うけれど」


 城の中に魔物が一匹もいなかったのはそういう事か……。


「ああ、あのヒューサ=テレットの死体をもうじき見られるのか……今から楽しみで仕方ないよ……」


「お前はどうしてそこまでヒューサさんを……」


「おや? その言い方……彼女から昔話でもされたのかい?」


「だったら何だ。テメエが殺したんだろうが……ヒューサさんの両親も、ジレゴさんも」


 それを聞いたアタラポルトは、アゴに手を当てて小首を傾げた。


「……ふむ。仮にそうだとして、彼女もジレゴくんと同じところに行かせてあげようとすることの、何が問題なのかな? 天国で感動の再会を果たせるじゃないか」


「科学者様が死後の世界を信じてんのかよ。意外とロマンチストだな」


「科学というのはロマンに満ち溢れているものだよ。それまで不可能に思われていたことをいくつも可能にしてきた」


「だったら天国での再会も不可能ではねえってか? ダラダラ寝言ほざいてる割には目がクマだらけだぜ」


「クハハッ! そうだね、じゃあ今から言うこともただの寝言だけれど……もしクムンくんとヒューサ=テレットがボクの想像以上の強運の持ち主であれば、わざわざ天国なんかに行かなくたって感動の再会は果たせるかもしれないね」


 なんなんだ……さっきから引っ掛かる言い方ばかりしやがって……。


 徐々に心を蝕んでいく、とんでもなく嫌な予感を振り払い、俺は剣を構え直す。


「テメエとのくだらねえお喋りは一周目で飽き飽きしてんだよ……テメエが魔王軍幹部の中で一番の無能だってこと、思い知らせてやるぜ!!」


 その時、アタラポルトの微笑がフッと消えた。



「ボクが…………無能…………?」



 次の瞬間。


 俺達は全員、その場に膝をついていた。


 アタラポルトから放たれる、(おびただ)しい程の殺気に圧倒されて。


「ぐっ……クソが……」


「おにーさん……くる、し……」


「っ……なんですの……このプレッシャー……!?」


 息が詰まる。


 酸素が、入ってこない。


「クハハハハハ!! おかしいなあ、ボクはここから一歩も動いちゃいないというのに!! ボクが無能なら、それに(ひざまず)いているキミ達は、無能以下のゴミ虫かな!? クハハハハハハ!!」


 ピアリが化けてた時とは全然ちげえ……。


 これが、本物様の力ってわけかよ……。



 こりゃさすがに今回は、犠牲者なしで勝つのは厳しいかもしれねえな。



…………まあ。



 コイツらの中から犠牲者を出すつもりなんて、さらさら無いんですけどね。



「メノージャ……セクリのこと頼めるか?」


「よ、ヨシハルさん……何を……?」


 メノージャの返答を待たず、背中に乗せていたセクリを預ける。


 激しい重圧に抵抗しながら、ゆっくりと立ち上がる。



「お前らそこで休んでろ。ここは……俺がやる」



 セクリがあれだけ無理してくれたんだ。


 今度は、俺の番だ。


「ちょっとおにーさん……あんなバケモノみたいな人と一対一で戦うつもりなの!? 無茶だよ!!」


「バカ野郎。バケモノ相手にお前ら巻き込む方がよっぽど無茶だろうが。それにセクリにばっかりいい格好させられねえからよ。良いから黙って見てろ」


 メリカ達にそう告げた後、数歩前に進んだ俺を、アタラポルトは上気した顔で見つめてきた。


「クハハッ! イイねイイね……すごくイイよ、サカギリ ヨシハルくん。普段は怠惰で飄々としていて、だけどいざという時には勇敢で仲間思い……ああ、ボクの大ッッ嫌いなタイプだ!!」


「そうか、どうやら俺達は両想いみたいだな」


「クハハッ……でもね、サカギリ ヨシハルくん。キミにボクを斬れるのかい?」


「どういう意味だ」


「そのままの意味だよ。クムンくんとヒューサ=テレットはまだ死んだと決まったわけじゃない。仮に死んでいたとしても、ボクが直接二人を手に掛けたわけじゃない。ボクはまだキミのお仲間を誰も傷付けてはいない。そんな相手を本当に斬れるのかい? 自分が元の世界に帰りたいという理由で?」


「は? なに言ってやがる……お前はヒューサさんの両親やジレゴさんを……」


「キミはその人達と会ったこともないだろう? 顔も知らない人物を殺した相手のことを、心の底から憎めるのかなぁ?」


 落ち着け。


 こうやって言葉巧みに相手の怒りや動揺を誘うのは、奴の常套手段だ。


 落ち着け。


「クハハハハッ!! どうした急に大人しくなって! 剣が震えているじゃないか!」


「テメエ、ほんといい性格してやがるな……」


「褒め言葉として受け取っておくよ。この際だからハッキリ言おうか……キミのボクに対する憎悪は、ひどく薄っぺらい。だからそうして睨まれても、剣を構えられても全く怖くないんだ。」


「っ……!!」


「クハハッ!! キミからはボクに対する敵意も! 殺意も! 復讐心も! 全くと言っていいほど感じられない!! キミの攻撃がボクに届くことなんて、永遠に有り得ないんだよ!!」



「同感ですね」



 アタラポルトの背後……二階へと通じる階段の近くにある壁が、木っ端微塵に破壊された。


 凛とした大人の女性の声と共に、二つの人影が姿を現す。


「はあ……はあ……転移魔法なんて、随分とナメたマネしてくれやがるじゃねえですか……まぁあんな雑魚ども、ウチらの敵じゃありませんでしたけどね……」


「ふぅ……その女が言うことも一理ありますよ、ヨシハルくん。ですからここは、ワタシ達に任せてくださいませんか? その女の大好きな敵意も、殺意も、強い復讐心とやらも、胸が張り裂けそうな程に持ち合わせていているワタシ達の攻撃ならば、どうやら届くみたいですので」


「クムン……ヒューサさん……!!」


 二人は、全身に傷を負い、肩で息をしている状態だった。


 魔物達を全滅させて、真っ直ぐこっちに来たのか……だいぶ体力を消耗している。


 アタラポルトは丁寧に舌なめずりをした後、なんとも嬉しそうに後ろを振り向いた。


「さーてと、準備運動も済んだところで……ようやくテメエをぶっ飛ばせる時が来ましたね」


「本当に、この日をどれだけ待ち侘びたことか……ワタシ、今から少し汚い言葉を使いますので、ヨシハルくん達は耳を塞いでいて下さいね」


 クムンは弓を、ヒューサさんは炎を、それぞれ構えて。


 先程アタラポルトが俺達に向けたものと同等か、それ以上の殺気を放ちながら。



 同時に、口を開いた。




「「覚悟しやがれ、クサレ女」」




「クハハッ……いやはや、素敵なお客様だ」







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