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第77話 みんなが真面目モードだったら遅れてニョロニョロ出てくる生理的にムリカちゃん


「セクリ……」


 膝の上に横たわっている、傷だらけの仲間の名前を呼ぶ。


「ふふっ……見てたヨシハル……? カッコよかったでしょ……」


 涙を流し続ける俺の頬に、温かい手がそっと触れた。


「なに……泣いてんのよ……『いい作戦がある』って言ったじゃない……」


「何が『いい作戦』だ……ボロボロじゃねえか、バカ野郎が……!!」


「私ね……メノージャが燃えてる時……なにも出来なかったから……」


「ッ……セクリナータさん、まさかわたくしのために……!?」


 隣にいたメノージャも、目に涙を浮かべてセクリの手を握る。


「そんなんじゃないわよ……ただ気に食わなかっただけ……元々仲間だったメノージャを平気で始末しようとしたあのナルシスト野郎も……あの時、メノージャの一番近くにいたのに、助けられなかった無力な私自身のことも……」


 コイツ、それを気にしてフメルタに勝負を……。


 あの時俺たちは、無数の魔物の群れを相手するので精一杯だった。


 コイツが責任を感じる必要なんざ、何一つないってのによ。


 セクリの言葉を聞いたメノージャは涙を拭い、何も言わずセクリに深く頭を下げた。


「セクリナータさん、これを……傷に効く蜜ですわ」


 そして、自身の身体に咲いている花を一つ千切り、その蜜を神妙な面持ちでセクリの口に流し込んだ。


 それをゆっくり飲み込んだ後で、セクリは話を続ける。


「……フメルタを欺くには、この中じゃ私が一番適任だと思ったの……思い通りにやられてくれてスッキリしたわ……」


「俺らの体力を消耗させないためとはいえ、無茶しすぎだ……『全員で生きて帰る』って約束、危うくお前が破るところだったんだぞ」


「ふふっ……その約束をした時にあそこにいたのは、私じゃなくてソクリナーチョとかいうオッサンだったじゃないの……」


 ほんと、こんな時まで口の減らねえ女だ。


「まあ、私も最初から死ぬ気はなかったけどね……。はあ……メノージャからもらった蜜のおかげで身体もラクになったし、喋り疲れたから少し休むわ。私はここに置いて、先に行って」


「……んなワケにいくかよ」


 セクリの身体を背負い、俺はゆっくりと立ち上がった。


 軽いな。


 こんな華奢な身体で、お前はあんな無茶な戦い方をしたのか。


「ここまで大きな手柄を立てた王女様をこんな汚ぇ所に捨てていったらバチが当たる。俺の背中もお前にとっては居心地が悪くて仕方ねえだろうが、冷たい床で寝そべっとくよりマシだろ」


「……ヨシハル……」



「へへっ……ダンスのお誘いは何度も断られちまったけど、おんぶは成功して良かったぜ」



「ふふ……バー…………カ…………」



 長い緊張状態から解き放たれたセクリは、すぐにすぅすぅと弱々しい寝息を立て始めた。


 コイツが頑張ってくれたおかげで、体力を温存したまま、この先に進める。


 こんな状態になってまで、俺達に託してくれたんだ。


 絶対に無駄には出来ねえ。


 にしても、腹の立つ話だ。



 時間さえ巻き戻されなきゃ、コイツがこんなにボロボロになってる姿なんて、見なくて済んだのに。



「ヨシハル、さん……?」


「ちょ……ちょっと勇者、お前……」


 自分でも気付かないうちに、よほど怖い顔をしていたんだろう。


 気が付くと、隣にいたメノージャとピアリがギョッとした様子で俺を見つめていた。


「ああ、悪い……先に進むか」


 俺たちは2階に通じる階段に足を掛ける。


 再び、その場に緊張感が漂う。



 一体この先、どんな壮絶な戦いが待っ



「うぉいっっっっ!!!!」



 後ろから聞き覚えのある女の子の声。


「まさかそんなワケないと思うけど、今あたしのこと置いて二階に進もうとしてた!? 重苦しい顔つきで階段の一段目に足を乗せかけてたけど!!」


「いや、今のは階段の強度を確かめようとしてただけだぞムリカ」


「メ・リ・カ!! まさかあれだけド派手に落下したのにここまで空気になるとは思わなかったよあたし! すごいシリアスムードだったからなかなか喋り出せなかったけど!! おにーさんの顔めっちゃ怖かったし!!」


「だって生理的にムリカちゃんがさっさとそこから出てこねえから……」


「『生理的にムリカちゃん』ってなに!? 固有名詞に名詞以外が入ってますけど!!」


 フメルタの上に落下した衝撃で壊れた檻の中からメリカ? ムリカ? まあなんか良く分からんけどそいつがニョロニョロと這い出てきた。


「まったく死ぬかと思ったよ……またあたしを武器にしてくれてさ!」


「俺がやったんじゃないぞよ」


「うっさい!! そもそもあたしが高所恐怖症になったのはおにーさんにハーピー戦で弾丸にされたからであって」


「いやお前そのあとハーピーで空飛ぶの楽しみとか言ってただろ」


「自分が飛びたい時に飛ぶのはいいの!! 誰かにムリヤリ飛ばされたり、高いところに閉じ込められたりするのはイヤなの!!」


 なんだその乙女心みたいに複雑な恐怖症。


「もうイヤ!! もうこんな武器役はコリゴリだよあたし!! もうっ、なんであたしみたいな可憐な美少女がこんなに酷使されなきゃいけ」



「モーモーモーモーうるせえな!! セクリが起きるだろうが牛ウエポン!!」



「えええ……溜まりに溜まった不満を吐き出すことすら叶わず……挙げ句の果てには『牛ウエポン』などと呼ばれ……えええええ……….…」



 俺の大声ですっかり意気消沈したメリカは、トボトボと俺達に近付いてくる。


 それを見て、俺達三人は互いに顔を見合せ、階段から離れてメリカに歩み寄る。


「なんてな。助けに来るのが遅くなっちまって悪かった。怖い思いさせてごめんな、メリカ」


「今このパーティーがあるのはメリカさんのおかげですもの! 置いていくはずがありませんわ!」


「勇者がいて、王女がいて、アルラウネがいて、あの弓と魔法を使う怖い二人組がいて、ピアリちゃんがいて、そしてお前がいて…………七人揃って勇者パーティーじゃないの! 今さら恥ずかしいこと言わせんじゃないわよ!」


「み…………みんなあああああああああ!!!」


 メリカが号泣しながら走ってくる。何となく感動的な演出がかかってスローモーションに見える。


 俺達は笑顔で両手を広げて、それを迎え入れ



「いや何でピアリさんがパーティーに加わってんの!?」



 良かった、気付いてくれたか。ナイスツッコミ。


 コイツはピアリが仲間になった時はもういなかったもんな。違和感がハンパないだろう。


「捕まってる時からずっと気になったんだけど! さっき地味に一番いいこと言ってたし!!」


「いや、なんか優しくしてやったらここまでついてきた」


「ノラ猫のような説明っ!! いや、だってこのヒト魔王軍の幹部なんでしょ? 元だけど……」


「うっさいわね!! ピアリちゃんは魔王とか幹部の奴らとかが大嫌いなの!! だから裏切ったのよ! 文句ある!?」


 ピアリがズズイと身を乗り出してメリカにメンチを切る。ああ、うるせえ二人が出会っちまったよ。


「裏切った……そっか、じゃあ味方のフリとかじゃなくて正真正銘の仲間ってことだね! あたしメリカ! これからよろしく、ピアリさん!」


 メリカは喜びのブレイクダンスを披露しながらピアリに挨拶をする。情緒と運動神経どないなっとんねん。


「なっ……なによ、檻の中でガタガタしてたから、ただのお姫様気取りの生意気な小娘かと思ったら……意外と話がわかるじゃない! 気軽にピアリでいいわよ、相棒!」


 ピアリは初めて現れた自分の良き理解者に対して、アンサー・ブレイクダンスをお披露目しつつ挨拶を返す。何でお前も出来んの?


 しかし、フレンドリーでやかましい二人が出会うとこんなにも早く意気投合するのか……。もう『相棒』とか呼んでるし。


「ほれ、紹介も終わったとこで今度こそ行くぞ。モタモタしてたら新手が」



「なんだ、フメルタはやられてしまったのかい?」



 耳元で、ねっとりとした女の囁き声。



 それを聞いた俺は反射的に剣を引き抜き、声のする方向を薙ぎ払った。


 だが声の主はもうそこにはおらず、俺の剣先のほんの数メートルほど先でニタニタと笑っていた。


「酷いなぁ……ただ純粋に質問をしただけなのに、随分とご挨拶じゃないか」


「……すまねえな、気持ち悪い虫かと思って咄嗟に追っ払っちまった」


「大切なお仲間を乗せた背中をガラ空きにするなんて感心しないよ勇者様……危うくボロボロのお嬢様に『気持ち悪い虫』が止まってしまうところだったよ? ククク……」


 短く切り揃えられた桃色の髪が気分良さげに揺れている。


 ダボッとした白衣から僅かにハミ出た不健康そうな青白い手を口元に添え、その女は不敵な笑みを浮かべていた。


 左側にモノクルが装着された、どんよりとしたクマだらけの両目を三日月型に細め、舐めるように俺達一人一人を観察する小柄な女に、全員が一斉に殺意を向ける。

 

 生唾を飲み込んだ後、俺は憎しみを込めて叫んだ。



 目の前にいる、因縁の相手の名を。




「ついに来やがったか……アタラポルト!!」






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