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第72話 仲間が捕まってたら遊びまくるカス勇者


 魔王城に突入した俺達四人は、メリカの悲鳴が聞こえた方向へ脇目も振らずに走り続ける。


 城の中は気持ち悪い程の静寂に包まれていた。


 幹部はおろか、雑魚魔物の姿すら見当たらない。


「静かすぎてなんだか不気味ね。魔王の城に魔物が一匹も配置されていない……なんて、普通に考えて有り得ないわよ」


「確かにな。なに考えてやがるんだ魔王の奴……」


「先ほどわたくし達より先にお城に入ったクムンさんとヒューサさんによって、一匹残らず殲滅されたのではありませんの? 羨ましいことこの上ありませんわね」


 この変態ガチ百合アルラウネの言いたいことも分かる。


 今あの二人は、ジギーヴァから『ジレゴさんが死んだ』という話を聞かされ、怒りで我を失っている状態だ。


 とあるポンコツと遊んでいた俺達を置いて、さっさと城に入っていったが……行く手を阻む雑魚魔物なんて、あのブチギレ状態の二人にとっちゃ足止めにもならないだろう。


 だが。


「魔物の死体も、戦った痕跡もねえ。そりゃ考えにくいだろうよ、メノージャ」


 そういや魔王は、二周目はお互いに全力で戦いたい……とか言ってたっけか。


 城内に魔物を配置してないのもそれが原因だってのか? ナメた真似しやがって……。


「ゼハー……ゼハー……ちょっ、ちょっと待ちなさいよおまえらぁっ……!! ピ、ピアリちゃん走るの苦手なのよぉぉ……」


 そしてコイツがさっき言ったポンコツなワケだが。


 さっき門の前で拾った……もとい、新しく仲間になった出来損ない魔法使いのピアリが、早くも肩で息をしながら最後尾を走っている。


「お前ポンコツな上に体力もねえのかよ。いったい何ができるんだよ」


「おだまりになることを切に願うばかりっ!! あ、あのねえ……すぅぱぁ最強魔法使いピアリちゃんは魔法とか使ってスマートに戦うヒ・ト・な・の! 走るのとか向いてないんだもーん!」


「スマートさのカケラもねえだろ。魔法も役に立たないのばっかりだし。もう定時だから帰っていいよお前」


「プリーズ静粛ッッ!! 魔王討伐に定時も残業もないわよ!! ちくしょんしょんしょしょん、今に見てなさいよ!! 幹部も魔王もピアリちゃんが全員ぶっ倒しあばばばばばピアリ選手ここで20秒ぶり30回目となる華麗な転倒!!」


 うるっせえなどんだけ転ぶんだよコイツ。まだ戦ってもねえのにボロボロじゃねえか。


「お前は靴の裏にサラダ油でも塗ってんのか?」


「塗ってるわけないでしょ!! 料理に使った方がおいしいじゃない!!」


 メリカみてえなこと言うな。


……つーかよ、メリカと言えば、アイツ全然見付からねえんだけど。


 さっきどんだけデカい声で叫んだんだよ。怪鳥かよ。


 アイツ、俺らに何も言わずに単独行動でクムンとヒューサさんを追い掛けたくらいだ。よっぽど思い詰めてるのだろうか。


 そうこうしているうちに、一番奥の部屋が見えてきてしまった。ここまででエンカウントした魔物はゼロだ。


 走る勢いはそのままに扉を開けると、やけにだだっ広い部屋が俺達を出迎えた。


 ここは、一周目にも来た場所だ。


 俺らに向けたトラップも、身を隠す場所もない、闘技場のような部屋。


『小細工抜きで存分に戦え』と言わんばかりの、真剣勝負にはおあつらえ向きな舞台だ。


 奥の方には二階へと通じる階段が見える。



「おっ……おにーさん、みんな!!」



 やや上擦った不安そうな声が天井の方から聞こえた。


 軽く首を痛めそうなほどに顔を上に向けなければ確認できないような、そんな高い場所に、涙目のメリカがへたり込んでいた。


 天井からぶら下がる一本の太い鎖に吊るされた、見るからに頑丈そうな鋼鉄製の檻の中に入れられ、宙ぶらりんになっている状態だ。


 ずいぶん高いな。地上から10……いや、20メートルはありそうだ。


「わーん!! おにーさん早く助けて!! あたし高いところ苦手なんだよ~!」


 自身が置かれた恐怖と俺らが助けに来た事への安堵が入り交じったような複雑な表情で、メリカは俺に大声で言葉を投げ掛けてくる。


「メ、メリカ……お前……」


「良かった、まさかおにーさんの顔を見てホッとする日が来るとは……ねえねえ早くここから出し」



「いい年して小鳥さんごっことか恥ずかしくねえのか!!」



「捕まってるんだよ!! どう考えてもあたしが自分の意思で立ち入れるロケーションじゃないでしょこんな高さ!!」



 なんだ、思ったよりいつも通りだな。

 

 まあ元気なら良かった。ここいらで息抜きにちょっと遊んでいくか。


「あ~らメリカちゅわん! そんなところでピヨピヨさえずってちゃ、なにもきこえまちぇんよぉ~? おっきなこえ、だちぇまちゅかぁ~?」


「まっ……まさかおにーさん、こんな時にまであたしのことを馬鹿にして楽しむ気じゃ……」


「あ~ら、もしかしておなかがすいているんでちゅかね~? ミミズでよければいかがでちゅかぁ~?」


「こ、このっ……調子に乗るのもいい加減に…………いやそんなことより懐にミミズを常備している勇者のキモいことキモいこと!!」


 赤ちゃんをあやすようなナメ腐った言葉たちをぶつけられ、小鳥メリカは怒り心頭だ。



「そういえばミミズには目がないという特徴があって『目見えず』から『メメズ』……それが転じて『ミミズ』になったらしいな。でも一部の地域では今でも『メメズ』と呼んでいるところがあるみたいだ。まったく言語というのは非常に面白くて奥が深」



「クッソどうでもいいことゴチャゴチャほざいてねえでさっさと助けろや叩き潰すぞカスギリ ゴミハル!!」



 相変わらずクチ悪いなぁあの娘。


「助けに来た相手に向かって『叩き潰すぞ』はないだろ。てか俺の名前サカギリ ヨシハルだしなぁ」


「だっ、大丈夫だよ! 今の『叩き潰すぞ』は愛情の裏返しだから!」


『潰す』が入った文に裏も表もねえだろ。殺意の両面刷りじゃねえか。


「ま、まあ……さすがのおにーさんも、あたしの太陽みたいな笑顔を見ればメロメロになって助けてくれるでしょ! ほーらおにーさん、にっこり~!」


「……やべっ、そろそろ爪切らないとな」


「なに下向いてんだちゃんと太陽(あたし)の方見ろや!! アウトローなヒマワリかテメエは!!」


 まったくなんなんだね彼女は。捕まってる分際で偉そうに。


「ぐぎぎ……こんな檻さえなければ、今すぐにでも毒がたっぷり塗られたハサミでおにーさんのことをメッタ刺しにしてやるのに……」


 よく聞こえないけどなんか終身刑囚人のスベスベマンジュウガニみたいなこと言ってる気がする。


 さすがにそろそろ可哀想か。敵もいつ襲ってくるか分からんし。


「分かったよ。もう充分に楽しんだから助けてやるよ」


「やったぁ! さっきみたいにハーピーさんに運んでもらえばここまで来ることなんて簡た……あれ? ハーピーさんは?」


「……言われてみればいねえな。どこ行ったんだアイツ……あっ、そういやメリカ、ここにクムンとヒューサさんが来なかったかー?」


「ふぇ……? あたし、あの二人の後を追いかけてる時に捕まったんだもん! クムンにも母さんにも会わなかったよ!」


 二階に行くには必ずこの部屋を通らなければいけないはず。二人とも、どこ行ったんだ……?


 てか捕まった捕まったって、いったい誰がこんな……。



「その赤髪ちゃん、助けたいッスか?」



 何者かが階段をゆっくりと降りてくる。


「まったくオレとした事が……あんなお婆ちゃんにやられちまうなんて、幹部にあるまじき失態ッスよ」


 声の主は、全身に打撲や切り傷を負った状態で、紫色の髪の毛をガシガシと搔きながら、気だるそうに俺らの前に現れた。


「テメエは……」



「つーわけで、さっさとアンタら倒して汚名返上させていただくことにするッス……覚悟はいいッスか、勇者ご一行サマ?」



 それは、先ほどラーメン大好きババアの水鉄砲で豪快に吹っ飛ばされた、魔王軍幹部の一人……フメルタ=カガエスだった。





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