第67話 一番に乗りたかったらマジカルする欲求三姉妹
「なっ……どういうことっすかヒューサさん!!」
ヒューサさんがさも当然のように魔物のハーピーをここに呼び出したことに、俺たちは驚きを隠せずにいた。
「ワタシが魔物を連れ従えていることがそんなに不思議ですか? キミだってメノージャさんを仲間にしているではないですか」
「いや、だって……一体いつソイツを手懐けたんですか……!?」
「キミたちがこの娘に勝利した後、メノージャさんを仲間にするために森へ向かった後ですよ。『ドエロいことをする』とちゃんと伝えておいたでしょう?」
ああ、そういやスライムの体液でネバネバになったハーピーに、ヒューサさんが発情したんだっけ。
「あっははぁ……ヒューサ様の華麗なるテクニックに、わたしはもう骨抜きになっちゃったなの~! あんなプレイを味わってしまったら、もう服従せざるを得ないなの~!」
水色髪の童顔少女は、そのプレイとやらを思い出しているのか、顔を紅潮させながら吐息混じりに言った。
「って、どうしてここにアルラウネがいるなの~? まさかあなたもヒューサ様の惚れ惚れするような技の数々の虜になって、裏切りを選択したなの~? いい趣味してるなの……あっははぁ……」
「いえ、わたくしは半ば強制的にと言いますか……ですが貴女をそこまで蕩けさせるテクニックとやらを、是非わたくしも味わってみたいものですわね……うふふふ……」
「もちろん、今度はお二人同時にお相手して差し上げるのも大歓迎ですよ…………うへへへ……」
こんなところで痴女の井戸端会議みてえなことすんのやめてくれねえかな。
「とにかく、彼女にあの魔法陣まで運んでもらいましょう、ヨシハルくん」
「そっすね、他に方法もないですし」
「でも、さすがのわたしでも運ぶのは一人ずつしかムリなの~。順番を決めてほしいなの~」
「はいはーーい!! だったらあたしが一番ね!!」
ハーピーの言葉にピョンピョン飛び跳ねながら挙手をしたのはメリカだった。
「あたし、一度でいいから大空を自由に飛び回るのが夢だったんだよ! いやぁ楽しみだなぁ!」
「お前は空飛んだことあるだろ。それこそ、このハーピー倒すときに」
「あれぶん投げられただけだから!! 弾丸としてじゃなく、一人の人間として夢を叶えたいんだよあたしは!! あとお腹減ったから空の上でおにぎり食べたいな」
いっつも腹減ってんなこいつ。
「だったらウチに一番に乗らせてくださいよ。空飛びながらグースカ眠るとかぜってえ気持ちいいでしょ」
「わたくしも地上での生活ばかりでしたので、大空からの景色を一度見てみたいというのは建前で、本音はその可愛らしいハーピーさんにしがみついて一刻も早く匂いを嗅ぎ倒したいので一番を希望しますわ」
ここで続々とトップバッターの立候補者が。
いや……どうせ全員乗ることになるんだから、一番とか二番とか、関係ないと思うんだよね。
そもそも空飛びてえとか寝てえとか匂い嗅ぎ倒してえとか、お前ら目的分かってんのか? あの魔法陣まで行くためのハーピーちゃんなんだぞ?
「邪魔しないでよ二人とも! あたしが一番に乗っておにぎりを貪り食うんだから!! もうお腹ペコペコなの!!」
「うっせえ!! 早くウチに最高の眠りを提供しやがれ! もう眠気が限界なんですよ!!」
「ハーピーさんの匂いを最初に堪能するのはわたくしですわ! クンカクンカですわ!!」
なんか三大欲求のバトルロイヤル始まったんだけど。
「また面倒なことになったわね……順番なんかどうでもいいから早く行きましょうよ」
まったくだわセクリちゃん。
『クンカクンカですわ!!』とか言ってる暇あったらジャンケンでもしてとっとと決めてくれって感じだよなセクリちゃん。
「誰が一番にハーピーさんに跨がるのか、なかなか決まりませんね…………まあ、ワタシが既にネバネバハーピーさんの上に跨がってあんなことやこんなことをしてしまったので、正確には今から乗る人は二番目という扱いになるのですが」
黙っとけ淫乱。
「あーもう!! このままじゃラチが明かないや! こうなったら手っ取り早く、三人でマジカルバナナで勝負だよ!!」
何でだよ。全然手っ取り早くねえだろ。
ジャンケンでいいじゃん。ただ遊びたいだけだろお前。
「望むところじゃねえですか……ここでウチが勝って、テメエらよりウチの方が胸が大きいことを証明してやらぁ!!」
『マジカルバナナ強い=胸デカい』という謎理論。
「まじ、ばな…………ええ、望むところですわ!!」
ぜってえ知らねえだろお前。クムンの理論だとお前が一番強いはずなのに。
「ここで私たちが突っ込むと面倒なことになるから、大人しく行く末を見守りましょう」
「お前は本当に常識人だなセクリ。どうやったらあの変態バカ兄貴や門番14人衆に囲まれてそんなに真っ直ぐ育てるんだよ」
こうして、メリカとクムンとメノージャによる、三つ巴のマジカルバナナ対決が始まった。
「じゃあとりあえずメノージャさんから始めよっか!!」
ルール知らねえアルラウネに一番手を任せるメリカ選手の流れるようなダーティープレーが炸裂。
「それじゃあゲームスターーーート!! マッジッキャッルッヴァッヌァッヌァ!! バナナと言ったら?」
「え、えっと…………バナナと言ったら卑猥ですわ!!」
俺は強く指笛を鳴らして即座にゲームをストップさせた。
「なにさおにーさん!! 乙女の真剣勝負に口出しは野暮だよ!!」
「そりゃ口出すわ乙女から最も遠いワードが出たんだから!! いやまあちょっと予想はしてたけど!! メノージャが最初だったらこうなるかなって!!」
「はぁい、卑猥と言ったらヨッシハッル」
「続けてんじゃねえよクソアーチャー!! こんなに怒ってる奴のこと軽快なリズムに乗せてディスれるの普通にヤバイぞお前!!」
ほらもう1ターン目でメチャクチャになっちゃったじゃん!!
しりとりとまったく同じ事件が起こっちまったよ!!
「せっかくマジカルバナナやることは見逃してやったんだから、せめて真面目にやれ! ほらもう一回! 今度はメリカから!」
「わ、わかったよ…………それじゃあ気を取り直してゲームスタート! マッジッキャッルッヴァッヌァッヌァ!!」
あとその歌い方やめろムカつくから。
「バナナといったら長い!」
「長いといったらバーナーナ」
「バナナといったら卑猥ですわ!!」
「卑猥といったらおにーさん!」
「ヨシハルといったらヒーワーイ」
「卑猥といったらヨシハルさんですわ!!」
「おにーさんといったら卑猥!」
「卑猥と言ったらヨーシハル」
「ヨシハルさんと言ったら卑猥ですわ!!」
「卑猥と言ったらおにーさん!」
「ヨシハルと言ったらヒーワーイ」
「卑猥と言ったらヨシハルさんで」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルン!!!!」
俺は目にも止まらぬ速度で回転しながら、三人の頭を一秒間に何百回ものペースでひっぱたき続ける。
「いたいいたいいたい!! なにすんのプロペラおにーさん!!」
「ビークワイエット!! さっきから聞いてりゃ、卑猥とヨシハルの間で反復横飛びしてるだけじゃねえかテメエら!! いつまで経っても勝負がつかねえだろ!!」
「確かにこれだと、ハーピー野郎に最初に乗る奴を永遠に決められねえですね。仕方ねえ、それじゃもう一度……」
「あの……あなたたちが遊んでいる間に、もうヒューサ様とセクリナータって子を先に送ってきちゃったなの~……」
「「「んなアホなーーーーーー!!!」」」
ノスタルジックなコントしてねえで早く行けよマジカルバカ共。
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こうして俺たちは、ハーピーの力で天高く浮かぶ魔法陣をどうにか抜け、ついに魔界へと辿り着いた。
「うう……ここが魔界かぁ……なんかおどろおどろしいね……変な生き物もたくさんいるし……」
先ほどまで『おにーさんといったら卑猥!』とか元気よく言ってた野郎が、小刻みに震えながら俺にしがみつき、足を進める。
俺はここに来るのは二度目だが、どうにも慣れねえな。
真っ赤な月が辺りをどんよりと照らし、建物などは何もなく、いくら歩いても視界に映るのはただ枯れた植物や大きな岩、そして雑魚魔物の姿のみ。
なんとも殺風景で、気味の悪い世界だ。
魔王の城まではもうしばらく歩く必要があるらしい。
敵の陣地に乗り込んだ以上、こっからは今までよりも更に気を引き締めていかねえと。
今まで引き締まってたのかって言われると自信ねえけど。
「そろそろ向こうも仕掛けてくるだらうから、お前ら油断は……」
「なんだァ? バカルタの野郎はやられちまったのかよォ?」
ほれ、早速来た。
背後から金属をジャラジャラ引きずる音と、獲物を見付けて愉しげに弾む女の声が聞こえてくる。
振り向くと、月明かりに照らされて妖しく輝く身の丈ほどの巨大な鎖鎌を持った少女が、血のこびりついた黒いボサボサの長髪を揺らし、真っ赤な瞳をニンマリと細め、ゆっくりと俺たちに近付いてくる。
「よお、どうしたんだよそのバカでけえ鎌は? まるで死神じゃねえか……なかなか似合ってんぞ、ジギーヴァ」
「ギヒャヒャッ!! 敵地のド真ん中だってのにずいぶんと余裕じゃねェかよサカギリ!! さァて……どいつから真っ二つにしてやろうかなァ!? ギヒャヒャヒャヒャッ!!」




