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第66話 全員揃わなかったら何往復もするビヨンビヨンハル



「魔法陣の近くまで来たのはいいけどよ……どうすんだあれ?」


「そうだねおにーさん」


「そうねヨシハル」


 シルベラ国の人々のおかげで、俺たちはなんとか草原地帯まで辿り着くことができた。


 敵に気付かれないよう、魔物たちの降下地点から遠く離れたところで体を伏せ、天高く浮かぶ魔法陣を見上げる。


「ヒノ様の話じゃあ、あの魔法陣に飛び込みゃあ魔王の野郎の所まで行けるらしいが……」


「そうだねおにーさん」


「そうねヨシハル」


 問題はどうやってあそこまで辿り着くか、だ。


 こうして話している間にも魔物はバンバン降ってきやがるし、そもそもあんな高くまで飛んでいく術がない。


「急がねえとな……けど、アレに入れねえことには話が進まん……うーむ…………」


「そうだねおにーさん」


「そうねヨシハル」



 …………………ん?



 なんか、返事の数がいつもより少なくない?



 隣を確認。


 俺と同じように体勢を低くしているのは、メリカちゃんとセクリちゃん。


 だけ。


「おい、他の奴らはどうした?」



「え? クムンもメノージャさんも、さっきのところで爆睡してたから放置してき」



「なにしとんじゃアイツらあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」



 メリカの返答を受け、俺は惚れ惚れするようなビブラート絶叫と共に、シルベラの街へと全力疾走で向かった。


 そして、シルベラ陣営と魔物陣営との激しい戦いの場で穏やかにグッスリ眠っている阿呆二匹の首根っこを掴んで、再びメリカとセクリのいる草原地帯に戻ってくる。


「いや往復はっや…………ごくまれに抜群の運動能力を発揮するよねおにーさん」


 街に戻ったら急に知らねえ人めっちゃ増えててすげえ気まずかったわ。


 ヴァッシャル王が他の国にも救援を要請したのだろうか。魔王軍の侵攻を言い渡されたの昨晩なのにすげえなあの人。


「おいセクリ……このボケナスバカネギハゲトマト共はいつから寝てたか分かるか?」


「クムンもメノージャも、オタクーズが出てきた時には既に夢の中だったわよ」


 それを聞いて、俺は未だにぽやぽやと寝ぼけている二人の頭を豪快に引っぱたいた。



「いって…………何しやがんですかヨシハル…………」


「貴方、性懲りもなくまたわたくしに触っ…………ふわあああ…………」



「今のお前らへの突っ込みどころを箇条書きしようと思ったら、トイレットペーパー1ロールあっても足りねえよ」


 なーんか長いこと喋ってねえと思ったら、まさか寝てやがったとは。


 なんなのこの人たちは?


 どういう神経をしておりゃるの?


「えーと……まず、何で寝てたん? 戦地のドドドドドドドドド真ん中で」


「いや、だって頼もしい援軍が次から次へと来てましたし……ウチが戦う意味なくなったんですからそりゃ寝るでしょ。この先の強敵との戦いに備えて体力を温存しとかねえとと思って」


「わたくしは再三ご説明しています通り、昨晩は官能的な本を読み漁っておりましたので、寝不足なのですわ」


「うんわかった、百歩譲ってクムンはいいわ。お前はもう、そういう性格だって知ってるから」


 そう、問題はこっちのアホラウネだ。


「メノージャちゃんはさ、仮にもフメルタくんに思いっきり燃やされて、死にかけた直後なんだよ? どうしてあんな、大の字の姿勢で眠れるの?」


「はい? いや、ですから官能的な本のせいですわってば」


「『ですわってば』じゃねえよ!! それだけじゃ何の説明にもなってねえんだよ!! どんなに寝不足の野郎でも、あんな強烈な炎を浴びたら普通は眼球カッピカピになって恐怖で眠れなくなるの!! ましてや炎を弱点とする植物のお前が何でそんなに切り替え早いんだよおかしいだろ!!」


 もうやだ……緊張感なさすぎるってこの人たち…….。


「おっ、おにーさん……あんまりおっきな声出すと魔物に気付かれちゃうよ…………気持ちは分かるけど落ち着いて!!!!!!!!!!」


「いや断トツでお前が一番うるせえんだけど!! 鼓膜が憤死(ふんし)するかと思ったわ!!」


 耳がキンキンした状態で仕切り直し。


「とにかくお前ら、あの空に浮かぶ巨大な魔法陣までどうやって行くか、ちゃんと考えてくれ」


 あの魔法陣が浮かんでんのは大体…………上空100メートルくらいだろうか。


 ここにいる全員の知恵を振り絞らねえと……。


「ヨシハルをハシゴにしていけばいいんじゃねえですか?」


「ヨシハルの身長が100メートル前後ないと成立しねえだろその作戦」


「ノビハルさんを両側から思い切り引っ張ってみたら、ゴムみたいに100メートルほど伸びたりしませんの?」


「伸びたりしねえしノビハルじゃねえよ。俺の伸縮性に信頼を置きすぎだろ」



「じゃあゴムギリ ビヨンビヨンハルを球状に丸めてあたし達みんなで楽しい楽しいキャッチボールを……」



「誰がゴムギリ ビヨンビヨンハルじゃい!! てかお前に至ってはただ遊びの内容考えてるだけじゃねえか!!」



 最初から分かってたよ。


 コイツらと話をしてもロクな案が出ねえってことくらい。


 もう答えとか出さなくていいから、なんとかこの状況を打開するヒントになるようなこと、言ってくれねえかな。


 どんな些細なことでもいいからさ。


「セクリ、こうなりゃお前だけが頼りだ。何か気になることがあったら何でもビシッと…………」


「わかった。今関係ないことかもしれないけれど、ずっと気になってるから言わせてもらうわね」


 セクリは俺たちを一通り見回したあと、少々困り顔で言った。



「ヒューサ先生、いなくない?」



 あ、そういえば。



 完全にクムンとメノージャ連れてきて全員揃ったみたいな空気になったけど。


 めちゃくちゃ大事な人、忘れてたわ。


 正直、普段あんまり視線を向けないようにしてんだよな。目が合ったら(もちろんいやらしい意味で)襲われそうだから……。


「そういやあの人の声もずっと聞いてねえな……メリカ、なんか知らねえか?」



「ふぇ……? 母さんなら『せっかく国民の皆さんが勢揃いしたことですし、シルベラで一番パイオツが大きい方は誰なのだ選手権を行いたいので、キミたちはどうぞ先に行ってください』とかなんとか言ってさっきの場所に残」



「ババアゴラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 俺は再び地面を強く蹴って、街に残っている赤毛変態女を光よりも速く迎えに行く。


 そして、戦地の中心で血眼になって女性の胸部を目で追っかけまくっている赤毛変態女の頭を鷲掴みにし、再びメリカたちの場所に戻ってくる。


 体力の消費が凄まじいんだけど。


 せっかく街をカッコよく出て行ったのに何回も戻らせるのやめろよ。


 ヒノ様含むシルベラ国の皆様に『お前ホントに魔王のとこまで行く気あんの?』みたいな顔でめっちゃ睨まれたじゃねえか。


 他の国の方々にも『なにあの勇者っぽい服のやつ? シャトルランでもしてるの?』みたいな視線をぶつけられるし。


 あんなに色んな人に会釈したの初めてだぞ俺。間違えて何回か魔物にも頭下げちまったじゃねえか。


「さっきクムンとメノージャさんを連れてきた時より12秒早いっ……このままタイムを縮めれば世界を狙えるよおにーさん!」


「おだまりぃっ!! 今からお前の母さんに激しく質問責めしようとしてんだよ邪魔すんな!!」


「いたた……邪魔するなはこちらの台詞ですよヨシハルくん。せっかくトップとアンダーの差が凄まじい、今大会の優勝候補筆頭となりそうな女性を見付けて心がカーニバルでしたのに」


「思い返せばあんた、最初に出会ったときからすげえ強く突っ込みたいポイント満載だったけど……俺ここまでよく我慢した方だぞ分かってんのか!!」


 これから魔王のとこ行くっつってんのに、唐突にバストナンバーワン決定戦とか開催されたらさぁ。


「心がカーニバルになってる場合じゃねえだろ今!! ちょっとは!! 危機感を!! 抱けや!!」


「耳元で大声出さないでください。性感帯なので立っていられなくなります」


 いくらヒューサさんとはいえ、さすがに語気も荒げちゃうって。


 さすがに頭も鷲掴みにするって。


 もうみんな揃ってんのにさ。


 いやまあ二人はあんたと同じようにさっき連れてきたんだけどさ。


 てか、自分で言うのもなんだけど、俺が一番まともなコミュニティなんか存在していいワケないんだから。


 あんまり俺に真っ当なことばっかり言わせないでくれお前ら、マジで。



 ひたすらボケてたいんだよ、俺は。



「激しく責めるとか強く突っ込むとか抱くとか、先程からドエロい言葉を連発してますねヨシハルくん…………えっち」


「はいはいどうもありがとう。とにかく、シルベラで一番パイオツが大きい方は誰なのだ選手権は、魔王を倒して世界が平和になったら俺が一緒に付き合いますから。今は真面目にやりましょうよヒューサさん……!」


「ほほう、キミはそういった、パイ……なんとか選手権というイベントに興味があるのですか。性欲がマキシマムですね」


 この人って葬り去っても良かったっけ?


「おいそろそろ真面目に考えようぜ!! どうやったらあの魔法陣に行けるのか……」


「あら、キミたちはそのような些細なことで悩んでいたのですか?」


 ヒューサさんがキョトンとした様子で俺たち全員に尋ねる。


「なっ、なんかいい案があるんですかヒューサさん!?」


「簡単ですよ。乗り物を使えば良いのです」


 のり……もの?


「実は最近、とても強力かつ便利な魔物を手懐けたところでしてね。まあ、キミたちもよく知っている方ですけれど」


 そう言ってヒューサさんが手を二回叩くと、遠くの方から猛スピードで何かが飛んでくる。


 あれは……。



「あっははぁ……まだ生きてたなんてビックリなの~! あなたたちみたいなおバカなパーティー、とっくに全滅してると思ってたなの~!」



 ほげー!! ハーピーちゃん来ちゃった!!



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