第63話 礼を言われたら涙を浮かべる無力な勇者
「さっきからずっと気になってたんスよ。なーんで勇者パーティーさんの中にオレらの同族…………魔物のアルラウネがいるのかって」
「くそっ……メノージャ!!」
俺は血相を変え、激しい炎に包まれているメノージャの救出に向かうが、魔物達に足止めを食らう。
「勇者さんの口車に乗せられて寝返ったんスか? メノージャなんて名前まで付けてもらっちゃって……アンタみたいな雑魚魔物に、名前なんかいらないんスよ」
「許さねえ…………テメエだけは絶対に許さねえ!!」
フメルタの言葉に激昂した俺は、行く手を阻む魔物達を切り捨て、どうにかメノージャの元へ辿り着いた。
「セクリ、ヒューサさん!! 早く水魔法か回復魔法を……!!」
大声で名前を呼ぶが、二人とも夥しい数の魔物に囲まれ、通路を妨害されている。
「あはっ……弱点の炎をモロに食らっただけあって、よーく燃えるッスねぇ……名もなき植物さん」
「テメエッ…………おいしっかりしろメノージャ!!」
「あ…………ぁ…………」
メノージャの声が小さく、か細くなっていく。
「あうっ…………も、もうダメ…………」
更に遠くでは、体力の限界を迎えたメリカが尻餅をつき、涙目で魔物たちを見上げている。
メリカだけじゃねえ。
圧倒的な敵の数を前にして、俺たちの体力と精神力は確実にすり減らされていた。
一刻も早くメノージャを助けなければという焦りが、全員の心の余裕を更に奪っていく。
それが……奴らの作戦だと分かっていても。
仲間達が肩で息をしている。
俺は、また何も出来ねえのか?
せっかくこうして、仲間になったってのに……。
「ボーッと考え事してていいんスか、勇者さん? そのアルラウネ…………死んじゃいますよ」
目の前でメノージャが、何かを言っている。
「ヨシ……ハル……さん」
二周目で初めて、メノージャが俺に対してその呼び方をしてくれた。
「メノージャ、しっかりしろ!! 今助けて……」
「あり……がとう……ございま…………わたくし……みた……な……ただの……まもの……に…………なまえ……つけ…………くだ…………」
轟々と燃える炎の隙間から、メノージャの潤んだ瞳が見えた。
「ふざけんな!! テメエは大の男嫌いだろうが!! 俺みてえなクソ野郎に……礼なんて言ってんじゃねえよ…………!!」
「わたく……には……いっしゅ……めの……きおく……ございませ…………けど…………きっと…………いっしゅ…………の……わたく……は…………あなたの…………を…………」
「聞こえねえ!! はっきり喋りやがれ!! お前……帰ってエロ本の続き読むんじゃねえのかよ……!? こんなところでくたばりやがったら……許さねえぞ……!!」
無力な自分への情けなさで涙が滲む。
今の俺にはコイツを…………メノージャを助ける手段はない。
俺はいっつもこうだ。
普段は大口ばかり叩いてるくせに、肝心な時には仲間の一人も助けられねえ。
ふと、一周目の記憶がよみがえる。
『なんだお前、名前がねえのか?』
『なら、そうさな……メノージャってのはどうだ?』
『メノージャ=ロエリー、これがお前の名前だ。俺が考えたにしてはまあまあ良くね?』
『なんだようるせえな……過去に敵だったとか、んなもん関係ねえだろ。魔物だろうが人間だろうが、知ったことじゃねえよ』
『俺の仲間になったからには…………俺が必ず守ってやる』
『行こうぜメノージャ。魔王軍の奴らをブッ倒しに…………お前のダチの、敵を討ちに』
なにが『必ず守ってやる』だ。
笑わせんな。
「おっとぉ……どうやら他のお仲間さんの方も、そろそろオシマイみたいッスねぇ」
「いやああああ!! あたしまだ死にたくないよ!! 助けておにーさんっ…………おにーさん!!」
「くっ……数が多すぎるわ…………ここままじゃ……」
「クソがっ…………ジレゴ…………!!」
メリカ。
セクリ。
クムン。
メノージャ。
すまねえな、俺みてえな奴に付き合わせちまったばかりに。
俺はとんでもない嘘つき野郎だ。
俺は…………。
「秘技…………ウォータートルネーーーッド!!」
よく通る女の声と、ゴオオオオという激しい音が、頭上から聞こえてきた。
「がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼん!!!!!」
見上げる間もなく、突如として降り注がれた滝のように膨大な量の水によって、俺たちの体は為す術なく押し潰された。
それから人間も魔物も構わず、巨大な洗濯機のように全員がグルグルとかき混ぜられる。
めっちゃ口の中入ってくるおぼれるおぼれるおぼれるおぼれる。
「がっはごっほ……なんで急に空から水が…………っ!! メノージャ!!」
ようやく水が収まったとき、俺は水浸しのまま、地に伏している魔物たちの群れをかき分け、血眼になってメノージャを探した。
「けほっけほっ…………なっ、なんですのいきなり……!?」
少し離れたところで、ずぶ濡れになったメノージャが状況を理解できない様子で目をまん丸くし、水溜まりの上にペタンと座り込んでいた。
全身に酷い熱傷が見られるが、紙一重で命は助かったようだ。
「メノージャ……心配させやがって…………!!」
「ちょっ、ヨシハ…………ぎいいいいいいいやああああああああああああああああ!!!!」
喜びにうち震えた俺が全力疾走で近付き、力一杯に抱き締めた途端、メノージャは先ほどの火だるま状態の時とは比べものにならないほどの断末魔をあげた。
「早く!! 早く離れてくださいまし!! わたくしが貴方のような汚らわしい男に抱擁されるなど……」
「誰が『ただの魔物』だってんだよ…………次そんな馬鹿なこと抜かしやがったら許さねえぞ、クソ変態女…………!!」
「っ…………貴方、どうして泣いて…………」
仲間が無事だったことに対する安堵から、俺の頬を涙が滑り落ちていった。
その様子を見たメノージャの全身から、徐々に力が抜けていく。
「…………あぁもうっ!! わかりました、もう二度と言いませんわよ! だからわたくしに抱きつくのは、これで最後にしてくださいまし! まあ、今回は特別に……貴方が泣き止むまで、大人しくしていて差し上げますわよ……クソ変態勇者さん……!!」
メノージャはそう言うと、俺の肩にゆっくりと顔を埋めた。
「…………ありがとうございました、ヨシハルさん」
そして、小さく震えた声で俺にそう告げた。
とにかく間一髪で助かった。
メノージャの命を救えただけでなく、雑魚魔物の全員に大ダメージを与えることもできたからな。俺らもすんげえ食らったけど。
だが一体、誰があの水魔法を……?
「ふぅ……なんとか間に合って良かったよぉ~! 新しい躍りに水芸が使えるかなぁと思って、舞台映えするド派手な水魔法を習得しておいて大正解だったぞ☆」
おいおい、ここでコイツが来るのかよ……。
このキャピキャピとあざとい、ウソの人格で塗り固められた喋り方。
腹の立つ語尾。
そして何より……戦場にはあまりにも不似合いな、奇抜すぎる衣装。
つかよく考えたら、ここまで敵味方を一切合切気にしない無茶苦茶な魔法を使いやがる奴は……一人しかいねえわな。
「じゃじゃーん!! みんなのアイドルにして宇宙一プリティな踊り子……レッカことミナレッカ=マフィーパちゃん、華麗にさ~んじょ…………ゲハッゴホッオエッ!! あー……ひっさびさにブリッ子ボイス出したらノドやられちまったわ、ウケる」




