第62話 魔物に囲まれたら悪どい技ばかり使うヒロイン
「次のゲームッスかぁ……生憎ッスけど、これ以上遊んでたら魔王さんに叱られちまうッス。最低でも一つくらい命を奪っとかなきゃ幹部の面目が立たないッスから」
アタラポルトは俺たちの冷静さを奪うために、巨大な魔方陣で魔物を無数に召喚しやがった。
だが、ヒューサさんのおかげで大幅に数を減らすことができ、魔王軍に大きな打撃を与えられたというこの状況。
目の前にいるフメルタの顔色にも僅かだが焦りの色が見える。
てか俺、なんにもしてないね。
「現役勇者のおにーさんより魔導士を引退して数十年くらい経つ母さんの方がよっぽど活躍してるの巻」
「やめろ。巻くのやめろ。てかフメルタよぉ……お前は何で一人なんだ? 他のヤツはどうした?」
「さあ? キノコ狩りにでも行ったんじゃないッスか…………ねっ!!」
フメルタはいきなりこちらに銃口を向け、右手に握られた銃から強烈な炎を放射してきた。
頭をかすめて毛先がチリチリ。
「あっぶね!! てめえ……幹部の面目がどうたら抜かしてたやつが不意討ちなんて汚いマネしてんじゃねえぞ!!」
「いいじゃないッスか……そっちは数の有利があるんスから、大目に見てくださいッスよ」
ていうかアイツの銃、炎なんか出たっけ?
確か一周目では普通に銃弾をぶっ放すだけだったような……。
「なぁに不思議そうな顔してんスか……オレには記憶がないッスけど、一周目とやらでアンタが魔王さんの元まで辿り着いたってこたぁ、オレら全員アンタに負けたってことッスよね? 魔王さんがそん時と同じ武器でオレらを戦わせるなんてバカなこと、するわけないじゃねえッスか」
まさか、幹部どもの武器や技が一周目よりパワーアップしてるってのか……?
あのパッパラ魔王がそこまで頭の回る野郎だったとは……!!
右の銃からは炎……なら左からは何が出やがるんだ?
フメルタの左手に集中している俺のすぐ横を、鋭利な弓矢が通りすぎていった。
フメルタは顔色ひとつ変えず、首を僅かに傾けてそれを躱す。
「一対六の不利な状況だってのにベラベラ喋りやがって……ずいぶんナメられたモンですね。その眠たげなツラ……死に顔に変えてやりますよ」
俺たちの数歩後ろで弓を構えたクムンが、いつになく真剣な面持ちでフメルタに強い敵意を向けている。
それを受けたフメルタは、クムンの手元を見て、眉をピクリと動かした。
「その弓…………ははあ、アンタもしかして…………ジレゴさんのお弟子さんッスか?」
フメルタの一言に、クムンとヒューサさん、そして……メリカの表情が強張る。
「テメエ……ジレゴのこと、何か知ってやがるんですか!?」
「おー怖い怖い。そんなに瞳孔かっ開いてどうしたんッスか。目薬いるッスか?」
「答えろ!!」
クムンの迫力に気圧されたフメルタは、参ったと言わんばかりに頭を掻き、バツの悪そうな表情を浮かべている。
「これ、アタラポルトさんに口止めされてんスけどねぇ……ジレゴさんなら」
そう言いかけたフメルタは、ハッと何かに気付いたような顔で後ろを振り向いた。
「あーあ……すんませんが、どうやらタイムアップみたいッス」
遥か向こうから、なにかが近付いてくる。
いや……『なにか』なんて勿体ぶるのはやめだ。
アタラポルトが召喚し、先ほど草原エリア降り立った魔物たちが、群れをなして一歩、また一歩とこちらに向かってくる。
「こんなに早く……しかもヒューサさんの魔法で削りまくったってのに、あの数かよ……」
スライムにゴブリン、サイクロプスにガーゴイル……どれも見たこと、戦ったことのある魔物ばかりだ。
草原の強烈な地雷魔法を潜り抜けてきただけであんなに……元はどれだけだったのかと思うと気が遠くなる。
「どうやらアタラポルトさんは、アンタらを徹底的に叩き潰したいらしいッスねぇ……恐らくヒューサ=テレットが何らかの手段である程度は頭数を減らしてくるってことも見越して、オレらの想像を遥かに超えるような数の魔物をかき集めたんスねぇ。おそろしやおそろしや」
あのクソ科学者が……!!
「さてさて、この先魔王さんやオレたち幹部との戦いが控えてるってのに、こんな所で体力を消耗しちゃっていいんスかねぇ? もし良かったらオレが今すぐ魔王城まで連れてってあげて、あの魔物軍団との戦い、丸ごとスキップさせてあげるッスよ? ただそうした場合、この国は国民もろとも彼らによってメチャクチャに……」
「行くぞテメエらああああああああ!!!!」
ヨシハルくんの号令で、俺たちは一斉に魔物の群れに突っ込んでいく。
すかさず剣を引き抜き、先頭にいたゴブリンを一刀両断すると、フメルタが大きく溜め息をつく。
「おバカッスねぇ……せっかくかわいそうなアンタたちに塩を送ってやろうと思ったのに」
「悪いな……高血圧なもんで塩分控えてんだわ」
剣を薙ぎ払い、付着したゴブリンの血液を振り落とす。
「確かにこの国にはロクでもねえバカしかいねえが…………急にやって来て右も左も分からなかった俺を『二度も』迎え入れてくれた、大事な場所だ。俺をこんなどうしようもねえ仲間達と出会わせてくれた、大事な場所だ。見捨てていけるわけねえだろ…………クソキザ野郎が!!」
「ヒュウ、かっけえッスね。ちゃんと勇者っぽいこと言えるじゃないッスか。ただ、威勢がいいのは結構ッスけど……すぐに後悔することになるッスよ」
フメルタの言葉には耳を貸さず、俺たちはバラバラに散らばり、魔物達をバッタバッタと薙ぎ倒していく。
「怯むなテメエら!! 一匹一匹の戦闘力は大したことねえ!! こんな雑魚、俺たちの敵じゃねえぞ!!」
「わかってるよ! 絶対おにーさんよりたくさん倒してやるんだから!! いっくぞー! メリカ目潰し!! メリカ金的蹴り!! メリカ髪引っ張り!!」
格闘技における反則技ばっかり使うな。魔法使え魔法。
「ウチはジレゴに会うまで死ぬわけにはいかねえんですよ……そこをどきやがれ雑魚ども!!」
「すぐ迎えにいきますジレゴさん……『フレイム』!!」
クムンとヒューサさんも、フメルタからジレゴさんの情報をいち早く聞き出すため、次々と魔物を葬り去っていく。
「マモノ スゴイ カズデス ダケド キョウリョクシテ ゼタイニ カチマショ ブラザー」
「まだいたのか変態女装野郎っっ!! とりあえず私にそっくりなその服早く脱ぎなさいよ!!」
ダブルセクリも息ぴったりだ。
てか早く家帰れよソクリナーチョ=スルベラン。
六人の力で、魔物の数がみるみる減っていく。
いける……これなら……!!
「キャアアアアアアアアア!!!」
遠くから甲高い悲鳴が聞こえた。
この声、まさか……。
「ふぅ、良かった。これで魔王さんに怒られなくて済むッスね。敵戦力のうちの一人……しかも『裏切り者』を始末できたわけッスから」
フメルタの言葉で、嫌な予感が確信に変わった。
その銃口が向けられた先には……火だるまになった仲間の…………アルラウネの姿。
「メッ…………メノージャ!!!」




