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第61話 敵がスキだらけだったら迷わず突っ込んでいく酔っぱらいオヤジ


「さぁてさて……そんじゃ、早速始めるッスか」


 フメルタは両手に持った拳銃を器用にクルリクルリと回している。


 殺気は全くといっていいほど感じねえが、そこがコイツの恐ろしいところだ。


 一周目でも『なにコイツ、補欠? 配下の誰かが法事で来られなくなったの?』と完全に油断していた俺は、この男に苦戦を強いられることとなった。


「迂闊に突っ込むなよお前ら。あの飄々とした立ち振舞いもアイツの作戦のうちだ。ナメてかかるとあの銃で風穴開けら」



「先手必勝!! メリカチョーーーーップ!!」



「バカかお前は お前はバカか バカバカお前 バカお前」



 忠告をガン無視し、右手を振り上げて猪突猛進していくメリカを、俺は見事な都々逸(どどいつ)を唱えながら全力で引き止める。


「迂闊に突っ込むなって言っただろ!! 鼓膜勘当(かんどう)したのかテメエ!!」


「だってあの人スキだらけだったし……」


「スキだらけなのはテメエのクソダサチョップだろうが!! 強敵との戦いだってのに酔っぱらいオヤジみてえな新技編み出してんじゃねえよ!!」


 さっそく仲間が一人欠けるとこだった。


 勘弁してくれよ……お前のボケを捌きながら戦える相手じゃねえっての。


「……そういや、王都のど真ん中だってのにやけに静かッスね。昨日は人がわんさか居たッスけど……国民の皆さんは一体どこへ?」


 フメルタは頭をボリボリ掻きながら、ヒトっ子一人いない町並みをボンヤリと見渡す。


「……さあな。タケノコ狩りにでも行ったんじゃねえの?」


 魔王の幹部が攻めてくるとあっちゃ、被害は間違いなく甚大になる。


 昨日の夜、セクリの父さん……バッシャル国王に頼んで、国民は全員、シルベラ城の敷地内に避難させておいた。


 変態王子やニャンピョン門番など、危険人物は多いが……他よりは安全なはずだ。


 何故かソクリさんだけ避難できてなかったけど。


 てかそもそもシルベラ国民なのかなあの人。絶対ユニークな戸籍してると思うんだけど。


 とにかく、これで街中だろうとどこだろうと、遠慮なく戦えるってもんだ。


「……まっ、どうでもいいッスけど。国民の皆さんがどこに居ようと、アンタら含めて全滅すんのは変わらないッスから」


「大した自信じゃねえかイケメン野郎。先に言っとくが、俺はお前ら魔王幹部の弱点を含めたあらゆる情報が頭に入ってんだぜ。何人攻めて来ようと……」


「あ~っと……やっぱ勇者さん、致命的な勘違いをしちゃってるッスね」


「もういいってそういうハッタリ。ぜんぜん怖くないから」



「ハッタリなんかじゃないッスよ。アンタ……ここに攻めてくるのが『魔王サマと幹部(オレ)たちだけ』だって、本気でそう思ってんスか?」



 フメルタの言葉の意味が分からない。


「ヒトの話はちゃんと聞かなきゃダメッスよ。魔王サマは昨晩『魔王軍の全勢力を以てシルベラ国に侵攻する』と言ってたッス」

 

 魔王の城まで普通に行きゃどのくらいかかるか、一度辿り着いた俺が一番よく知ってる。


 少なくともこのシルベラ国を出発してから一年はかかっていたはずだ。


 俺が魔王に時間を戻され、シルベラ国に飛ばされてからは、まだ一週間も経っていない。


 常識的に考えて、この短期間でここまで来ることができる敵は、高度な転移魔法を使える者……すなわち、魔王とその配下たちしかいない。


 これが俺の考えだった。


 そしてそれに対して、一切の疑いを持っていなかった。


「その顔、ホントに分かってないんスか? 甘いッスねぇ……こっちには天才マッドサイエンティストのアタラポルトさんがいるんスよ? ほら、アレを見てくださいッス」


 フメルタが呆れた様子で遠くの空を指差す。


 何もなかったそこに、突如とんでもなく巨大な紫色の魔法陣が出現した。


 全身をゾクリと冷たいものが駆け巡る。



「色んな意味でイカれちまってるあのお方にとっちゃ、この世界に星の数ほど存在する魔物を一斉にここに召喚するなんて、朝飯前なんスよ」



 遥か上空に浮かぶ魔法陣が怪しく光り輝いたかと思うと、何やら黒い物体がバラバラと、雨のように無数に降り注いでくる。


「おおおおお、おに、おっ、おにに、おにーしゃん……ままままま、ましゃ、まさか……」


 メリカがアゴと膝と肩と両腕と頭をガクガクさせながら俺にしがみついてくる。出来損ないのマッサージチェアみたいですげえ気持ち悪い。


 この振動少女が言おうとしていることは恐らく間違っていない。



「アレが……全部魔物だってのか…………!?」



 あの場所は、ハーピーと戦った草原のあたりだ。


 ここからそう離れちゃいねえ。


 あの数が、もうすぐこの町に押し寄せてくるのか……!?


「いち、にい、さん……やめましょう、ウトウトしてきました。参ったな……完全にウチらの息の根、止めに来てやがるじゃないですか」


「無茶苦茶じゃない……あんな数、どうすればいいのよ……」


「確かに、アタラポルト様ならやりかねないですわね……どんな手を使ってでも獲物を徹底的に排除なさる、あの方なら……」


 クムンたちが冷や汗を流しながら、魔法陣から際限なく放たれる魔物を、ただ呆然と見つめている。


 この人数で、あの魔物の群れを倒せってか……骨が折れそうだ。


 先ほどまで晴れていた空が、みるみるうちに分厚い雲に覆われていく。


 俺たちをとことん見下した様子で、フメルタはニヤリと口元を歪ませ、大きく両手を広げてみせた。


 

「あはっ……そんじゃ改めて、スタートしまスかぁ…………一方的な蹂躙ゲームを」



 フメルタがそう言い放つと同時に、遠くの方で爆音が轟いた。



「なっ……なんスか今のバカデカい音は……!?」


 見ると、魔物が召喚されている草原の方から、灰色の煙が天高く立ち上っていく。



「良かった……無事に発動したようですね」



 全員が発言主の方に顔を向ける。


「ヒューサ……さん?」


「ふふ……敵の情報が頭に入っているのはキミだけじゃないんですよ、ヨシハルくん」


 ヒューサさんは赤色の長い髪をかき上げ、妖艶な笑みを浮かべる。いつもの『うへへ』笑いじゃねえ……!


「用意周到なアタラポルトのことです。戦局を有利にしてワタシたちを徹底的に叩き潰そうと、大量の魔物を召喚することは分かっていました。だから事前に仕掛けておいたんですよ……魔物が踏むと大爆発を起こす地雷型魔法を、あの草原の至るところにね」


「ヒューサ=テレット……アンタの仕業ッスか……!! どうしてアタラポルトさんがあんな離れたところに魔物を召喚すると分かったんスか!?」


「キミの言う通り、アタラポルトは頭のネジが外れた、超がつくほどの変人ですからね」


 ヒューサさんも負けてないけど……。


「この王都内ではなく、あえて遠くの方で魔物が放たれていく様子を見せることで、ワタシたちの焦りと恐怖を煽り、更に精神的に追い詰めようとした……あの女の考えはそんなところでしょう」


 この人、そこまで読んで……。


「だからワタシは、昨晩ヨシハルくんたちが眠った後、あの草原だけでなく、この町の周辺のありとあらゆる箇所に、同様の地雷型魔法を張り巡らせておいたのです。普通の魔法よりも威力は落ちますが、あの程度の魔物たちではひとたまりもないでしょうね」


「すっっっごいよ母さん!! これで雑魚魔物は心配いらないね!! ハァ~ヨイヨイ!!」


「小躍りするのはまだ早いですよメリカちゃん。なにせあの量です……全滅したとは考えにくい。一部の魔物はいずれこちらに辿り着くでしょう。まあ、そちらのフメルタさんの顔を見る限り……敵側の戦力を大幅に減らせて、少なからず打撃は与えられたみたいですがね」


 ヒューサさんの言う通り、フメルタは珍しく余裕のない様子で俺たちを見据えている。


「はぁ~あ……相変わらず食えないお人ッスねぇ……。こっちはこんなに頑張ってるんスから、少しくらいビビってくれてもいいじゃないッスか。昔のアンタの方が、まだ感情豊かで好感持てたッスよ」


「申し訳ありませんが、パイオツのない敵からの好意など一切受け付けておりませんので」


 この人のこういうところ安心かつ心配。


「ありゃりゃ、そいつは残念ッス。でもこんなことしたらアタラポルトさんめっちゃ怒るッスよ~?『ボクの貴重な実験材料(魔物たち)を粉々にしやがって!!』……ってね」



「ワタシもあの女には深い怒りを抱いていますから、お互い様でしょう。さてと……残念ながら一方的な蹂躙ゲームとやらは中止になってしまいましたが…………次はどういったゲームで遊びたいのですか、幹部殿?」



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